rkrn黒点

焦る尊と焦ることをしなくなった高の、互いに抱える矛盾の話
雑の火傷がほぼ回復した辺りの時系列、看病に携われなかった気持ちの整理を高がどうつけたのだろうと考えた結果の産物
cp無しとしてますが、雑高の人間が書いてます

 火傷がまだじゅうぶんに回復されていない小頭のお体を支えるための、上背を手に入れたい。
 皆よりもたくさん体力をつけ、どんな仕事も雑務もこなせるようになりたい。
 早く、大人になりたい。
 そうした焦りを、兄には見抜かれていた──正しくは先輩、と言うべきか。
「では看病の日々がなければ違ったと思うか?」
「いえ……
「だろうな。お前はこの三年を誇っていいし、現に誇っているだろ」
 高坂さんはそう私に小さな声で言う。私は「はい」と言ったあとになにを話すべきかわからず黙り、膝の上の手を見つめた。拳を握る。指先が震えないよう、隠すためだ。
 きつい日差しが障子を通して部屋を照らす。タソガレドキの長い夏だ。太陽はギラギラと燃え、鍛錬の声がここまで響いた。今日はいっそう激しい鍛錬が行われるのだという。隊の底上げのためだ。目のまえにいる高坂さんも、私に構っている暇などなく忙しいはずだ。けれど彼は私をじっと見据えたまま、切れ長の目をそらそうとはしない。太陽光で影になった瞳の奥には、涼しい風が吹いていそうなのに、熱がこもっているのを私は知っている。
「忘れるな」
 高坂さんはもう一度、厳しい目で言った。
「誰のためにも、道は開かれている。けれど、誰もがその道を行けるわけではない」
 唇を噛む白い歯が、日差しを浴びて浮き彫りになって、余計に噛む力の強さを誇張しているように見える。
「皆がしたくてもできなかったことを、お前がきちんとしていたんだ。鍛錬不足を嘆くことはない」
「でも、皆より出遅れてしまったことに変わりありません」
「いいか」
 叩きつけるように、私は言葉を遮られた。厳しく──そしてその厳しさの中に咲くうつくしさを称えた目で、もう一度私に告げる。
「お前は今から、あのときの私がやってきたことを積み上げられる。でも、あのときのお前だからできたことは、私にはもうできないんだ」
 こんなにはっきりとぶつけられるとは思わず、狼狽した私に高坂さんはふっと緊張を解いた。張り巡らされた蜘蛛の糸が、一つかけ違えてぷっつりと垂れ下がったようだった。
……過ぎた日が、お前にはもどかしく、私には羨ましいなんてな」
 そう言うとゆっくり膝を立て、高坂さんは地に足をつけた。この人は、こんなに大きな人であっただろうかと、見上げて思う。背が伸びた。骨格ができあがっている。日の当たっている方の顔つきは険しく、当たっていない方は柔和に見えた。こうして心の矛盾を抱きかかえ、伸びた背と育った体を目一杯使い、一つ一つを踏みしめながら歩いてきたのだ。太陽がまぶしい。思わず、顔を伏せかけた。
「羨ましいが、すまない。今お前にぶつけてすっきりしてしまってる」
……はい」
「甘えだ、私の」
 そうして彼の口から初めて、子どものような「ごめん」が聞こえた。私は弾けるように顔を上げ、目が光で眩みそうになっても、高坂さんの表情を焼きつけた。
 厳しい瞳に戻り、しかし口元には笑みが宿る。
「今日から鍛錬は過酷だぞ」
 ついてこられるか? と聞かれ、私はふたたびぎゅっと拳を握った。今度は冷たさなど微塵も感じない、高坂さんの兄としての温かみを感じる。
「はい」
 私は口を引き結び、威勢良く返事をした。高坂さんは声の大きな弟を、「うるさいやつだ」と笑った。