紅子
2013-12-14 17:21:36
1181文字
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冬児くん小ネタふたつ


ついったにぽした冬児くんちょっと加筆修正してぽい。
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 人待ち顔で街頭に立つ。
 それは今、春虎と待ち合わせをしている冬児の行動としては当然のものだ。だが、この街で――この場所でそれをするというのは、冬児にとってはまた別の意味を持っていた。それに気付き、なんとも言えない感情が胸の内で湧き上がる。少なくとも好んで思い出したい事柄ではない。
……やなこと思い出しちまった」
 溜め息混じりにポケットを弄り、手に当たった物を取り出す。だがその携帯の重さもまた冬児自身は想定していなかったもので、再三戸惑った。あの頃はポケットを弄れば、出てきたのは携帯ではなく煙草だった。
 陰陽塾に通うため、東京に戻ると決めたときにあの頃のことを思い出さなかったとはいわない。けれどこうしてあの頃のように独りで街頭になど立っていると、やはり思い出というのは強烈に甦ってしまうものなのだ。
 もし、今この手に煙草があったなら、俺はそれを口にしただろうか。考えてみて、けれど答えは出なかった。思い出と共に口の中に広がった苦味に顔を顰める。
 そろそろ春虎も現れる頃だろう。そうすればこんな馬鹿な考えなど、消えてなくなるに違いない。そう期待して、時間を見ようと開いた携帯が手の中で振動した。
 差出人は、現在絶賛遅刻中の春虎その人。内容は――確認して、冬児はいよいよ途方にくれた。
 自分を現在に連れ出してくれるはずだったあいつは、来られなくなったのだという。


「煙草って中毒になるんだろ? たまには吸いたくなったりしないのか?」
 駅近くの喫煙所。もちろん通り過ぎただけだが、冬児の視線がチラリと動いたのを春虎は見逃さなかったらしい。相変わらず妙なところで聡いやつだ。
「言わなかったか? 俺は煙草は吸わない主義だ」
「いや、でも……
 春虎はまだ何か言いたそうにしていたが、それ以上言及はしてこない。冬児の視線に肩を竦め、再び目的地に向かって歩き出す。
 春虎は、冬児がかつて喫煙者だったことを知っている。元ヤンの冬児は煙草以外にも大抵のことはやらかしていたし、今でも酒は止めていない。その中で何故煙草だけを今はキッパリ断っているのか、春虎には理解できないのだろう。
 煙草を吸わないのは、それ以外のものも欲しくなるからだ。冬児は、春虎がそれ以上何も聞いてこなくてよかった、と思った。口の中に広がる苦味はあの頃の冬児からしてみれば性欲の味そのもので、キスの後にベタつく唇が自分を現世に繋ぎ止めていた。
 もし、酒と同じように煙草の味も覚えようなどと春虎が言い出したなら、冬児はそれを殴ってでも止めようと決める。綺麗なだけが取り柄のようなこの男があいつらと同じように肺を黒くしてしまったら、それこそこの世の終わりだ、と。