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かのまる
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ずるい男
伊剣ワンドロワンライ「憐れみ」から、加筆修正を行いました。
原作軸です。
こちらは全年齢作品、セイバーは性別不詳です。
原作に沿って「彼」呼びです。
ただし女物の着物を着たり、イオリが脳内で嫁扱い(仮)してます。
カヤちゃん、オトタチバナちゃんが出ます。
(ほんのわずかなオトタケ要素あり)
ただ伊剣が江戸でデートして無自覚イチャコラしてるだけの話です。
全年齢は不慣れですが、他の作品の箸休め的な感じで読んでいただけると幸いです。
セイバーのおねだりはいつも唐突だった
「イオリ」
いつもより若干高い甘えを含んだ声。
「わたし、口付けがしたい気分だなぁ」
ほら、やはりそうきたか。伊織は黙って、自身の唇をセイバーの唇にそっと押し当てる。
そのまま何度か角度を変えて、ふにふにと柔らかい唇をただ戯れのように合わせるだけ。
艶めいた雰囲気は微塵も感じられない。
伊織が少しかがみ、セイバーは背伸びをする。セイバーは着崩れるほど衿をキツく引っ張るので、できたら座っている時にしてほしいと、毎回伊織は思っていた。
セイバーは満足したらしく、唇を離した。
頬がうっすらと赤く染まり、長い睫毛を瞬かせる。
「ふふ、やはり恋人同士の口付けとはなんというか、こう
…
良きものだ。うんうん」
伊織は暫くの沈黙の後に口を開く。
「待て
……
セイバー。一体いつ俺たちは恋仲になったんだ?」
「
……
は?」
その瞬間、薄氷がぱりんと割れたようにセイバーの纏う魔力が揺らぐ。
「だって、何度も口付けしたし、いつもきみだって乗り気で
……
恋人じゃなければ普通は口付けしないだろ?」
「それは口付けを求められたからだ。おまえがそれを求めるなら俺は与えるだけだ」
銭と違い減るものではないしな、とはさすがの伊織も口には出さなかった。
「そも一度も恋人になったという話は出てきてないだろう。はっきり云うぞ。おまえの勘違いだ」
すでにセイバーは真っ赤な顔で、癇癪を起こしかけているのは火を見るより明らかだった。
「う、うぅ
……
私だけがのぼせ上がって!!バカみたいだ!滑稽だ、憐れだと思い付き合ってたのか
……
うわあぁっん!!!」
そのまま畳に突っ伏して泣き出してしまった。しゃくりあげ、肩を震わせ嗚咽を漏らす姿は確かに『憐れ』ではあった。
伊織は現在まで身内以外に愛情を抱くことはなかった。
何とか他者に愛を向けようと努力してみた時期もあったが、毎回それは徒労に終わった。
セイバーに対しては、友愛や親愛、確かにまるできょうだいのような温かい感情を抱くことがあった。
だが、それだけだった。
しかしセイバーから求められ口付けに応じることで、彼の中ではどうやら恋仲ということになってたらしい。
悪気はなかったとはいえ酷なことをしてしまった。
伊織は困り果て、さめざめと泣くセイバーの横に立ち尽くす。次にかけるべき言の葉の最適解を探して脳を必死に動かした。
「セイバー?悪かったよ、俺が水を差すような余計なことを言ってしまったな。なぁ?」
堅苦しい言の葉を避け、肩をさすればむくりとセイバーが顔を上げる。目も鼻も真っ赤で、短時間でかなりの涙を流したのだろう。
「イオリッ」
胸ぐらを掴まれ、今度は衿の縫い目がブチブチと音を立ててほどけた。
また桜色の唇が押し当てられた。問題はその後だ。
濡れた舌が伊織の唇を這う。急かすように合わせた唇を突くから仕方なく少しだけ開くと、するりとごく自然に舌が侵入してきた。
成程、そのつもりならとその舌を絡め取ってしまう。先手必勝だ。
セイバーの身体が驚いたように跳ねた。伊織は丸い後頭部に手を当てて、さらに唇を深く重ねる。
開いた口内に、舌を押し戻して、表面を軽く撫でる。
舌下をくすぐれば、ん、と鼻から息が抜ける。
一度唇を離して息継ぎをし、また角度を変えて狭い口内をゆるゆると探っていく。セイバーは伊織の身体を押し戻そうとするが、その腕に力はない。
溜まった唾液を音を立てて啜り、飲み込む。
再び舌を愛撫すれば、縋るように伊織の舌を追いかけて、不器用に己が舌を擦り付けた。
どれだけ時間が経ったのか。流石に息苦しくなり、口を離すと、また目尻に涙を浮かべたセイバーが口もとを拭っていた。
「先に仕掛けたのはそちらだろう」
「ふ、ふんだ!素知らぬ顔してなんてスケベな男なんだ!!最低だ!スケコマシだ!!」
「恋人なんだろう。これくらい当然かと思ったが」
セイバーが胸の前で拳を握ったまま固まり、目を丸くしている。
「だって、さっき違うって云っ
……
」
「セイバー、俺を好きでいてくれるなら
……
俺もおまえを好きになろう」
セイバーはうさぎのような赤い目を見開いて、喜びと驚きが混ざった複雑な表情をしている。
これは最適解ではなかったのか。
どうやらやってしまったらしい。セイバー相手だと何故か自分は調子が狂う。
伊織はかりかりと頭を掻く。
しかし、不思議とセイバーなら、未だ知らぬ感情を教えてくれるかもしれない。そうも思った。
何はともあれ名目上セイバーの『恋人』になった伊織は、とにかくセイバーをひたすら観察することにする。
相手をよく観察し理解することは、きっと好意を抱くきっかけとなるのだろうと伊織は考えたのだ。
細い体で信じられない量の米をとても良い顔で食べるのだから、作る側としても気持ちよく、また微笑ましい。
気がつけば食べかけの食事を持ったまま、セイバーがジト目でこちらを見ている。
「そんなにジロジロ見られると私とて食べ辛いぞ。あと、イオリはいつもより楽しそうに見える」
「そうか?」
伊織は自分の頬を揉んでみた。特にいつもと変わらないはずだ。
「疾く食べぬと冷めてしまうぞ。それとも私におかずを譲ってくれるのか!?」
「何故そうなるんだ。やらんぞ」
「ちぇー、イオリのけち!!」
そんないつもの他愛もないやりとりに、伊織は幾らか胸の中が温かい気持ちになるのだった。
助之進の依頼を終えて、何となしに町をぶらついてると、セイバーが「あれは何だ!!」と勢いよく走り出してしまった。
「こら、セイバー!待て、止まれ!」
そんな呼びかけが意味をなさないことはわかっていても、一応伊織は毎回声を掛けていた。
セイバーは器用に町人を避けながら、お目当ての店の前にぽつんと立っている。
「お、おおー。すごい、まるで奇術のようだ!早く来いイオリ!!」
セイバーの目の前には飴細工の店。金魚やうさぎなど様々な動物の形をした雨が並んでいる。
店主は黙々と飴を伸ばし、冷え固まる前に握り鋏でを猫を作り上げている。
セイバーの琥珀色の瞳は、まるで水面の白波のようにきらきらと輝いている。
「私、この飴が欲しいぞ」
「ダメだ」
「先ほどゼニが入ったではないか!私だって一役も二役も買ったが!?」
ぷくと頬を膨らませてこちらを睨んでくる。
伊織はじわじわと往来の好奇の目が集まってくるのを感じた。
このままでは飴を買ってもらえず童のように駄々をこねる嫁と、飴すら買ってやれぬ甲斐性なしの旦那
……
という妙な噂が立つかもしれない。
「わかった、わかった。おまえも頑張ってくれたから買ってやる
……
でも飴の形は俺が選びたい」
「やったぁ!!って、ほむ?」
突然の伊織の提案にセイバーはきょとんと首を傾げるのだった。
陽が落ち始めた街道を伊織とセイバーは家路を急いでいた。飴屋で騒いで時間を食い過ぎてしまったからだ。
「イオリ、良かったのか?鶴とかじゃなくて。頼めばもっと華やかなものも作ってくれただろうに」
「あぁ、俺はこれがおまえに似合いだと。俺があげたいと思った。それだけだよ」
「ふうん」
「恋人だから、たまには贈り物も良いだろう」
今日は夕陽が特に眩しいから、俯いたセイバーの顔もいつもより赤みが増している気がした。
その手には優雅に羽ばたく白鳥の形の飴が握られていた。
「セイバー、ちょっと」
「ん
……
?んっ!」
腰を屈めて、柔らかい唇に口付ける。
ただセイバーを見ていたら、そうしたくなったのだ。
伊織からセイバーに口付けをしたのは初めてのことだった。
「〜〜〜!!!!」
沸騰したように真っ赤になったセイバーは、口元を押さえて猛烈な勢いで浅草方面に走り去ってしまった。
「そんなに驚いたのか
……
」
慣れないことはするもんじゃないなと、少しだけ落ち込んだ伊織は唇を指でなぞる。まだ柔い感触が残っている気がした。
恋人とはつまるところどういうものか。
伊織は最近密かに悩んでいた。
身銭を切ってこっそり恋愛指南書を購入したものだが、やれ気の利いた文を送り合え、やれ身だしなみを整えろなどとすでに同居している身ではあまり意味のない手法ばかりだった。
セイバーには黙ってはいるが、かつて伊織は恋愛の真似事をしたことがある。自分に近づいてきた相手と男女問わず何度か親密な関係になろうとした。
……
したのだが、毎度「伊織さんはこちらを見てくれない」とすぐ振られてしまっていた。
相手は別れる時必ず泣いていたのだから、悪いことをしたとは思っている。
セイバーからはモテると揶揄われたことがあるが、とんでもない。むしろモテない方の部類だろう。
伊織が一番気になっていることはセイバーは口付けのその先の行為を理解しているか否かということだった。
時折口付けを、たまに口吸いをすればセイバーは満たされた笑顔を見せる。
……
その先を知りたい。だが、無理強いをして嫌われたり、また泣かせることはしたくない。
伊織はただセイバーをより深く理解したいだけだと、心の中で苦しい言い訳をする。
かつて奥方がいたのだから知識はあるはずだ。
しかし口に出して聞くのはいまさら気恥ずかしいし、奥方のことについてはさすがに憚られた。
「イオリ、イオリー、今夜のオミオツケの具は?」
「あぁ
……
今日は。どうしようか、決めてなかった」
「珍しいな、大丈夫か。どこか調子が悪いのか?」
頁の進まない本をぼんやり眺めていた伊織が振り返ると、「えいっ」とセイバーが飛び付いてきた。
霊体化して気配を消して近づいてきたらしい。
抱き止めると、そのまま力を込めて抱きしめられる。
「んふふ、こうしてな、抱きしめると元気になるらしいぞ」
「そうなのか。初めて聞いたが」
「私が今考えたからな」
伊織もセイバーの身体に腕を回す。鮮やかに剣を振るう後ろ姿は力強いが、手の平に感じる背中は猫のようにしなやかでほっそりとしていた。
「恋人っぽいか?」
「俺に聞かないでくれ。わからん」
セイバーの重みや温もりが心地よく、また妙にこそばゆい。
自然と唇が触れる。口付けはすぐ深いものになり、かすかな水音とあえかな呼吸音だけが響く。
成程これは十分セイバーの云う所の『恋人』らしい行為なのではと伊織は思った。
ある日カヤが大きな風呂敷包みを持って、伊織の長屋に尋ねてきた。
「に
……
兄上!セイバーさんいる?」
「カヤか。朝早くからどうしたんだ。セイバーならいるぞ」
「ちょっと兄上は外に出てて!!鍛錬でもして待っててね」
長屋から閉め出された伊織はカヤの云う通り、素振りや型の調整を行う。
ややあって、カヤが長屋から出てきてその後ろに隠れるようにセイバーが立っていた。
セイバーは青緑色に山吹色の帯を締めた小袖を纏い、髪を後ろで結い上げている。
「ね、可愛いでしょ!セイバーさん、着物着たことないみたいだから私のを貸してあげたんだ。髪型もお揃いなんだよ」
よく見ると結った長い髪が右から左に垂れ、藍鉄色の紐が結んであった。
「イオリ
……
。どうだろうか?」
はにかみつつ、しかしどこか困った表情で、伊織を上目遣いで見上げてくる。
「あ
……
似合ってるぞ」
あまりの衝撃、いや破壊力に上手く言の葉が出てこず、なんとも気が利かない台詞を吐いてしまった。
「もー、それだけ?兄ちゃんてば
……
相変わらずなんだから」
「しかし、セイバーに着物を着せてどうするんだ。催し物でもあるのか」
「
……
ここまでくると妹でもちょっと呆れちゃう。たまにはおめかししたセイバーさんと出かけてみたらって云ってるの!」
カヤが腰に手を当てて、伊織を軽く睨む。
セイバーは俯いていてその表情は窺えない。
「カヤ、気遣いをありがとう。セイバー、せっかく着飾ってもらってのだから今日は一緒に出かけようか」
ぱっとセイバーが顔を上げる。よく見るとうっすら化粧をしているらしく、頬と唇がいつもより色づいていた。
「うん、うん!いざキモノでエドを征かん!」
「セイバーさん、足を広げちゃダメですからね〜」
時は少し戻り、長屋内にて。
「カヤ、私はこのような気遣いは無用だ。いつもの衣でいいから
……
」
「何云ってるんですか!花も恥じらうお年頃ですよ。たまにはおめかししましょ」
カヤはセイバーを励ましつつも、手を止めず手際よく着物を着付けていく。
「だが、しかし
……
イオリがどう思うか?」
ふっと、穏やかな海のような優しい魔力が広がる。
「ふふ、大丈夫。あの人なら綺麗だって云ってくれるよ」
「オトタチバナ!?きみも、知って
……
」
「大切な人が増えるって、あたしすごく素敵なことだと思うんだ。だからね、この子の中から応援していたの」
「
……
きみは、優しいな」
「あなたの妻ですから!なんてね。お互いあともう一歩踏み出せばきっと想いが伝わるはずだよ。頑張って」
「ありがとう、オトタチバナ」
セイバーが涙を堪えてると、カヤからぽんと背中を叩かれる。
「はい、お着物は終わり!次はお化粧と
……
どうしたんですか?目が少し赤いですよ」
カヤが心配そうにセイバーを覗きこむ。
「何でもないんだ。ありがとう。続きを頼む」
セイバーはカヤに向けて精一杯の笑顔を作った。
お出かけと云われたものの、慣れない着物を着たセイバーはいつものような覇気がない。
「カヤが急にすまないな。驚いただろう」
「い、いや!!カヤの着物を借りてむしろ申し訳ないと云うか
……
私には勿体無いくらいだ」
「そうか。その色、とてもおまえによく似合っている。髪型も新鮮で印象が変わるな。その、急に着物で出てきたからな。恋人なのに気の利いた言の葉も云えず情けない」
セイバーは目を丸くして、頬をさらに赤く染めた。
「ありがとう。き、今日はゆっくり歩いてほしい。私も走ったりしないから」
着物の袖の端をセイバーが掴むと、伊織は優しく指を解いてしっかりと手を繋ぎ直す。
「こちらの方が歩きやすかろう」
その横顔にわずかな照れを見てとったセイバーはいつもの調子を取り戻したように、ぴんと背筋を張る。
「よし、今日はうまいものをたくさん食べるぞ!」
「今日『も』だろう。セイバーは花より団子だな
……
」
伊織は張り切るセイバーを見て自然と笑みがこぼれた。
「ぅ、腹が苦しい〜」
いつもの調子で食べ歩いた結果、当然しっかりと巻かれた帯で腹を圧迫されてセイバーは眉をしかめて唸っている。
「キモノは大変だ。走れぬし、腹も苦しい。だがそれでもエドの女子は着飾り活き活きとして、元気を貰えるようだ」
「今日のおまえは随分とお淑やかだったから、あちこちで揶揄われてしまったな」
「なっ、イオリまで〜!」
実際雹が降るだの槍が降るだの散々な冷やかされっぷりだったが、同時に愛らしい、別嬪だと誉め殺しにあい、あちこちの店でおまけをしてもらったので結果セイバーは大満足だった。
楽しかった一日の思い出に浸っていると、セイバーは急に足に違和感を覚えた。
「少し待ってくれ。イオリ
……
足が
……
」
伊織が立ち止まるとセイバーが屈んで足先を押さえて、痛みに堪える表情を浮かべている。
「草履は不慣れだから鼻緒で足を痛めてしまったのかもな」
慣れてない草履であれだけ歩き回って、気が緩んで痛みが出てきてしまったのかもしれない。
「履き物だけ元の物に戻せないか?」
伊織も屈んで視線を合わせると、ふるふると哀しげな顔でセイバーは首を振る。
「それはいやだ。カヤがせっかく用意してくれたのだ」
「ふむ、ならば
……
。失礼する」
右手を脇下に、左手を膝裏に回してセイバーを抱え上げる。
「ふえ、えっ!?え、え!!」
「前におまえは俺を俵抱きしたが、小袖はそうもいかんからな」
セイバーは体勢を崩さないように、急いで伊織の首に腕を回した。伊織はごく当たり前のことをしてるつもりらしく、涼しい顔をしている。
「私は流石に恥ずかしいのだが
……
」
「だが、足が痛いのだろう。なるべく人が少ないところを通るようにする」
「落っことしたら、今度は放り投げるからな!」
抱き上げたセイバーは想像以上に軽く、いつものゆったりした白妙の衣ではない分、体の線が思いの外よくわかった。
「
……
今日のおまえは、とても綺麗だったぞ」
伊織はいつも通りの表情を崩さぬよう意識した。
セイバーは何も云わず、伊織に身体を預けるように胸に顔を寄せた。
さすがに何度もカヤに小笠原邸を往復させる訳にはいかず、着物は後日返却することになっていた。
一応セイバーは着物の脱ぎ方も教えてもらっていたらしく、部屋の隅で衣擦れの音が聞こえる。
長屋は狭い。伊織は反対方向を向き、着替えを目に入れないようにしていたが、音はどうしても耳に入ってきてしまう。
「イオリ!疾く来てくれ。紐が絡まってしまった」
不器用で着物を扱ったことのないセイバーのことだから、このような事態は予測できていたものの
…
。
伊織は仕方なくセイバーの元に向かう。
確かに紐が絡まったしわくちゃの襦袢で濡れた子犬のような目で見つめてくる。
どうかそのような薄衣で、俺を見ないでくれ
……
。
伊織は深呼吸して、平時の表情を整える。
「暴れるな。落ち着いて解けば大丈夫だから、な」
そう、ここは恋人として年長者としても、落ち着いた振る舞いを見せなければ。
薄衣に心乱されるなど修行が足りないぞ宮本伊織。
するすると難なく紐は解け、後は腰を縛る紐のみになった。そこでようやくセイバーは自分の無防備な格好に気がついたようで驚き赤面した。
「
……
!!!
……
手間をかけた。イオリ」
「いや、大したことでは」
痛いほどの気まずい沈黙が訪れる。
先に口火を切ったのはセイバーだった。
「い、い、イオリは私の恋人だよなぁ?」
「ああ
……
そのつもりだ」
「こ、恋人が薄着で目の前に立っていたらどう思う?」
「それは困る。とても。まず目のやり場に困る。きっと良からぬ気持ちが湧いてしまう」
「ではこれはどうだ?」
セイバーが真正面から伊織の胸に飛び込んだ。
薄い布越しに、華奢な身体がぴったりと密着する。
「そうだな、勘違いしてしまうだろう。恋人が、もっと深い関係を望んでるなどと
……
」
「勘違いではなかったら?」
伊織はセイバーをきつくその胸に縫い止める。
「とても嬉しくて、きっと舞い上がってしまうだろうよ」
ようやく己の素直な気持ちに気が付く。口付けを許したあの時からずっと心惹かれていた。
変な意地を張らずに言の葉にすれば良かったのだ。
「おまえが好きだよ、セイバー」
「ようやくか。素直じゃないんだから、イオリは」
「面目ない。どうか
今宵
・・
俺に挽回する機会をくれ」
「っ〜
…
!!そういうところがっ!
ずるい
・・・
んだぞ!」
『ずるい』
……
確かにそれは恋を知らなかった伊織には似合いの言の葉だった。
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