輝き、来たる

ある訪問者がパパラチア博士の元を訪れる話です。

 研究所の呼び鈴がしつこいくらいに鳴った。読みかけのレポートを乱雑に積まれた書類の上に積み上げ、急ぎ足で玄関へと向かう。後ろで何かが崩れ落ちる嫌な音がしたが、けたたましく鳴るインターホンをどうにかするのが先決だ。足元ではしゃぐ小さいポケモン達を避けながら蹴躓きつつ扉を開けると、自分と目元が似ている初老の男がにこにこと立っていた。
「やぁ。久し振り、パーチ!」
 パーチことポケモン研究者のパパラチアが男を見て数秒固まる。ドアノブを握る手に力が込もり、少しずつ目を見開く。言いたいことはあるのだが頭が上手く回らず、口はトサキントのようにぱくぱくしているだけ。それでも震える指で男を指し、今しがた降ってきた言葉が口を突いて飛び出してきた。
「パ、パパぁッ!?」

 コウギョク・アース博士。コランダ地方では著名なポケモン研究者として知られている彼は、パパラチア・アースの実父でもある。その父がひょっこり戻ってきた。何の連絡も無しに。実はこの父、研究に没頭するあまり突発的にフィールドワークという名の放浪旅に出ていってしまう悪癖がある。半年はざら、酷いと一年以上も帰らない。挙句に連絡は良くて三ヶ月に一度あるかないかぐらいという奔放さだ。これで何度母の怒号が飛んだことか。思い出すだけでパパラチアは顳顬に痛みを覚える。
「今回は長かったね。何年振り?」
 応客間のソファーにどっかりと腰掛けた父に紅茶を出しながらパパラチアが呆れたように言うと、コウギョクは笑顔で「三年だな!」と答えてくれた。この研究所に母が来ていなくてよかった、と心中で思う。
「あのねぇパパ、何回も言うけどたまには連絡してよね。私は慣れちゃったし似たような研究スタイルだから分かるけど、ママはそうじゃないんだからね」
 娘の説教にコウギョクはバツが悪そうな顔で紅茶の入ったカップに口を付ける。怒ってはいるもの、自分好みの砂糖多めの味付けにしてくれている辺り、家族であることを忘れないでいてくれたのだろうと微笑みながらカップを傾ける。
「いや、その、悪かった。ママにもお前にも迷惑ばかりかけていると思うよ……。けどお陰ですごい発見ができたんだ」
 すごい発見、と聞くと興味が湧いてくる。これも研究者としての性か。言いかけた文句を呑み込み、自分もソファーに腰をかける。
「で、何を発見したの?」
 コウギョクがケースに入った小さな石ころを懐から取り出してそっとテーブルに置くのを見たパパラチアは、あっと声を上げた。
「この石……ううん、結晶は……!」
「何処で採れたと思う?」
 コウギョクは石の隣に黒い球体を置いた。透明になっている中央の空洞部分には隣にある石が鈍く輝いている。これらが何なのか、パパラチアは知っている。
「パルデアじゃないの?」
「違うんだなぁこれが」
「え、じゃあキタカミ?あそこも似たような結晶があるって聞いたけど……
「それも違う」
「じゃあ何処……
 言いかけてハッとした。頭の中で過去の情報が駆け巡り、点と点を線で結ぶように素早く仮説を組み立てた傍から同じ研究者である父に投げかける。
「近年、コランダ地方に未知のエネルギー反応が検出されることが増えてきたの。それはメガシンカ、Zパワー、ガラル粒子のどれにも当てはまらず、観測と調査を重ねてエネルギーの波長を辿った」
 始まりはコランダ地方の某所で、光るポケモンが発見され始めたことがきっかけだった。まるで全身に結晶をまとっているかのような眩さだったという。それを皮切りに結晶を纏うポケモンが各地で増え始め、遂にはコランダ地方の至る場所の地表から結晶の柱が生えてくるようになったという報告が増えてきた。
「そのエネルギーは結晶柱も含めリーグ協会を先頭に現在も調査中だけど、パルデアやキタカミなどで検出されたものと同じだということは判明した。そのエネルギーの名は……

『テラスタル』

 パパラチアとコウギョクの声が重なった。その通りだ、と言わんばかりに大きく頷く父の顔を見て、パパラチアは目の前の結晶と交互に見る。
 他地方でしか発現しなかった未知のエネルギーが、このコランダ地方でも発見されつつある。しかもこの近年急速にその発見数は増えている。恐らくこの結晶もそこで採取されたものに違いない。これは異常事態だ、とパパラチアは僅かに身震いした。
「ねぇパパ。コランダで一体何が起きているの?」
 娘の問いに、父親は研究者の顔で答える。
「分からない。だが、コランダの地に『何か』がいるのかは分かる」
 テラスタルエネルギーは未だ解明されていない部分も多く、触れれば生き物や機械を活性化させる特性を有しているが、一般人が触れるにはあまりにも危険で強大なエネルギーを秘めているのも事実だ。
 そのエネルギーの発生源が何かはまだ分かっていない。が、コランダ地方各地で次々と発見されている結晶柱や光をまとうポケモンによって事故などが生じてしまった場合の対処法が必要になってくる。それを正しく扱い、未知のエネルギーと向き合う人間が必要になってくる。そしてそれを見極める機関も、正しい知識を教える場も。
「パーチ。私はね、今オメナアカデミーの校長をしているんだ」
「知ってる、この間ニュースでやってたから」
「何だ、驚かそうと思ったのに」
「インタビュー受けた時点でサプライズじゃないのよ、パパ」
 パパラチアの冷ややかなツッコミにコウギョクがからからと笑った。
「そうそう……このテラスタルオーブはね、リーグ協会から派遣されたルヴィニ君が結晶柱の中で採取してきたクリスタルをギャラルホルン・エンタープライズ……つまりサフィロ君の会社の出資で研究、加工してパルデア地方と同じテラスタルオーブを作ることに成功してね。リーグ協会を通じて各ジムリーダー、四天王、プレシャスリーダー、コンテストマスターの人達に試験的に渡して、コランダでもポケモンのテラスタルができるか検証依頼をしているところだ」
「それは初耳なんだけど」
「私が口止めしてたからねぇ」
「パパずるい」
 頬を膨らますパパラチアを見てコウギョクはまたからからと笑う。
「今日持ってきたこれはパーチの分だ」
「あれ、そうなの?」
「研究に必要だろう?」
「まぁね。それよりその話をするってことは、私もその話に混ぜてくれるんでしょうね?」
「勿論だとも我が娘よ」
 コウギョクはにっこり笑ってパパラチアを見る。
「今は優秀なトレーナーやアカデミーで特殊な授業を受けた一部の生徒にしかオーブを渡すことができない状態だが、ゆくゆくはテラスタルを使ったポケモンバトルを普通に見られるような光景が広まったり、テラスタルエネルギーを利用した研究や事業が出てくるだろうね」
「その為には、私達がこの力をもっと深く理解することから始まる……そう言うことね」
「そう言うこと。さぁて、これからもっと忙しくなるぞぉ」
 コウギョクはソファーから立ち上がって伸びをする横で、パパラチアは渡されたオーブを見つめる。まずは自分を除け者にした幼馴染二人をどう問い詰めてやろうかと静かに思考し始めながら、今は思いを馳せていたエリアゼロの一部に触れられたことを素直に喜んだ。

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※お知らせ※

テラスタルエネルギーやその結晶がコランダ地方でも確認されるようになった為、テラスタルの使用、テラスタルオーブの所持等が2025/04/16(水) 0:00より解禁されます。詳細は公式HPでお知らせ致します。