口説き文句にまで憎しみが滲む。我ながら余裕がないと指をさされても仕方のない振る舞いだったが、スケレットはどうにか顔に笑みを張り付けて隣のスツールに腰掛けた。カウンターの内側にいるスタッフは慣れた様子で酒の用意を進めている。そう、何を言わずとも好きなウイスキーが出てくるくらい、ここは馴染みの店なのだ。
普段、トルレ・シャフの構成員として活動するときはガスマスクで行動している。それは組織が儀式めいた時代遅れの〈Great World Emperor〉精神に基づくからであるが、素顔の印象を伏せる変装の役目も兼ねていた。だから、スケレットはある程度自由勝手に女遊びができている。素顔をスケレットのものとして知る人間は、組織の限られた立場にあるものか、あるいはガスマスクを剥がすほどスケレットに迫ってきた相手くらいなものだ。
うつらうつらと舟を漕ぐ頭がピタリと止まり、それからゆるりと隣を見上げた。重そうなまぶたは半開きで、痛いほど直線的な眼差しは頼りなくテーブルの上に落ちている。俯きがちで気が付かなかったが、片手に握るグラスはすっかり空だ。――誰がどう見ても泥酔している。文句と嫌みをぶつけてやろうと意気込んでいたスケレットは当惑し、チラリとカウンターの内側へ視線を向けた。寡黙な店主は肩をすくめるのみで何も答えない。