水晶氷山
2025-02-20 00:03:56
1431文字
Public おやさい鬼9先生作品
 

思い出のスパイスチョコ(はらまこ?)

バレンタインに間に合わなかった話です
原さんと真さんとスパイスチョコレートの話
※同居ルート
※CPか友情か微妙 書いてて自分でもわからなくなった

「僕もこの前知ったばかりなんだけど、スパイス入りのチョコっていうのがあるみたい」
「どうせシナモンとかカルダモンとかだろ?」
「それがね、唐辛子が入ってるのもあったんだ」
……合うのか? 唐辛子にチョコって」
「物珍しさで買ってみたんだけどおいしかったよ」
「嘘つけ」

 口ではそう言いつつも、心の中で原は真の話に興味を引かれていた。
 この聡明な親友は自分の知らないことをよく知っている。彼と過ごすだけで自分の世界も広がるような気がするほどに。
 だからそんな奇妙に聞こえるチョコレートも実在するのだろう。まあもし嘘だったとしても真に騙されるのなら別に構わないのだが。

「本当だよ」
「実物を見てみないと信じられねーな」
「実は持ってきてるんだ」
「マジか!?」

 真は鞄から取り出したチョコレートの箱を原へ見せるように差し出す。

「原くんが甘いの苦手なのは知ってるけど……もしかしたら気に入るかもしれないって思ってね。良かったら1口だけでも食べてみないかい? 無理にとは言わないけど」
「いや、せっかくだし食うよ。ありがとな」

 結論を言えば、もう少し甘さは控えめの方が好みだった。
 それでもチョコレートと唐辛子の食べ合わせは意外とアリなことを知って、原の世界はまた真のおかげで広がった。機会があればもっと自分の口に合うものを探してみてもいいかもしれないし、なんだったら自分で作ってみてもいいかもしれない。そう思える程度には悪くなかった。
 それに何よりチョコを貰えたことが――もっと言えば、真から何かを貰えたことが原にはとても嬉しかった。




 あれから時は流れ、2人が一緒に暮らすようになって。
 チョコレートの芳しい香りに誘われ真がキッチンに足を運ぶと、原がエプロン一枚で何やら作っていた。
 ゴムベラを手にボウルの中身を混ぜている。
 ……よく見ると傍らにはスパイスの瓶も並んでいた。

「珍しいね、原くんがお菓子作りなんて」
「まあな。スパイスチョコってやつ? それ作ってんだ」
「よく知ってるね」
「昔お前が教えてくれたんだよ」
「そうだっけ、覚えてないな……思い出せなくてすまないね」
……

 真の脳はあの頃と比べて傷付き衰えている。
 実際のところ真がそれを思い出せないことが本当に後遺症に起因するものなのか、単に日々を重ねる中での自然で健全な忘却かは定かではない。
 しかし己の傷を不意に直視することになってしまった真の悲しみは、心の準備ができていなかったぶん深い。

……まあ、昔のことだし忘れててもしょうがねえって」
……そうだね」

 それを察して、原はその悲しみを慰めるように言葉をかけた。
 そのくらいならしてやれる。真がつらいときにそれを打ち明けられる存在でいることなら、その苦しみを受け止められる存在でいることなら――いつでも頼れる存在でいてやることならできる。

「これ出来上がったらマコトにも1つやるよ」
「いいの? ありがとう、嬉しいよ」

 先程の悲しみが晴れたかのように真の表情に喜色が滲む。
 その微笑みを見て、今度は自分が与える番だと、安らぎを、拠り所を、希望を、これからも彼に与え続けようと――原は改めてそう思ったのだった。

「楽しみにしててくれよな」

 原お手製の甘さ控えめスパイスチョコは今年も完璧な仕上がり。
 情に満ちた贈り物は、もちろん一番の親友にも届くだろう。