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まきわ
2025-02-19 23:16:59
3120文字
Public
クロリン
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自覚的な恋慕
Ⅱ軸と創後の先輩視点のクロリンです
かつて学院時代に撮ってしまった消せない写真の話
別にあげている『無自覚のやきもち』がリィンくん視点で対になる話になってます
前線からパンタグリュエルの一室に戻ったクロウは乱暴にソファに腰を下ろしてほとんど手癖のようにARCUSを開いた。
何があるわけでもない、クロチルダはこういう常識的な通信手段で連絡してこないし、戦線の幹部達は何もないのを部屋に戻る前に確認してある。
だから誰からも連絡など来ていようはずがない。
「
………
」
少し前までは、やたらとこれを使って誰かしらと連絡をとっていた気がするのに。
感傷に胸を支配されかけてクロウは首を振った。
閉じて、少しでも休もうとした時写真データが一件だけ残っているのに気付いた。
「なんだ
…
?」
確か学院を出る時に未練など残さないよう消したはず、そう思ってファイルを開いて後悔した。
残されていたのはあどけないほど安らかに眠るリィンの寝顔を写した写真。
「くそ
……
」
悪態をつきながらずるずるとソファの背もたれをずりおちる。
そうしながらも写真からは目が離せないでいた。
学院潜入時代、夜抜け出して戦線のメンバーと密会するのを夜遊びと誤魔化していた。
幸い誰も真実に気付くことはなかったし、苦言を呈しても本気で止めようとする学友はいなかった。
…
あの時の彼も本気で止めようとしたというよりはただの駄々のように見えた。
泣きそうな顔で本当に行くのか、と問われて動けなくなった。
結局その日は外出を取り止める羽目になって、彼に付き合うことにしたが日付も変わらない内にリィンは寝落ちてしまった。
その時戯れに撮ったのがこの写真だった。
寝てしまった後改めて外出してもよかったが、結局日付が変わる頃までただリィンの寝顔を見て過ごしてしまった。
その時誓ったのだ、学院を本当に出ていく時は絶対にリィンとは顔を合わせないように全力の注意を傾けると。
もし顔を合わせて、行くのかと問われたら自分がどうなるのか予想ができなかった。
それほどまでにリィンに心を寄せている自分が信じられなかった。
「
………
」
もう彼は敵でしかない。
二度と道を共にすることはきっとない。
そう思って削除のボタンへ指を伸ばした。
「
………
」
どうしてもそれを押してしまうことができない。
この寝顔だけは、自分に許してやりたいと思ってしまう。
(この気持ちは
…
捨てられねぇのか
…
)
あの日学院に全部捨ててきたと思っていたが、結局この気持ちだけは魂に刻まれたように捨てられなかった。
諦めてボタンから指を離して端末を額に当ててため息をつく。
「クロウ」
「うお?!」
突然部屋に転位でクロチルダが現れてクロウは跳ねるようにソファから身を起こした。
「あのな
…
部屋に転位で入るなっつったろうが」
「あらそうかしら。
…
カイエン公がお呼びよ」
目線で部屋の外を示されてクロウは大きくため息をついた。
「戻ったばっかだぞ。少しは休ませろっての
…
」
「これが終わったら進言してあげるわ。
…
何かあったの?」
彼女は聡く、クロウの様子の違いを察したようだ。
クロウは立ち上がって首を振る。
「いや。行くぜ」
「
…
そう」
この魔女は気付いていても踏み込んでほしくないところは察してそれ以上は踏み込んでこない。
なんだかんだで似た者同士なのだろうし、それに助けられてもいる。
クロウはもう一度端末に表示した写真に目を落とし、瞳に刻むようにしてから閉じた。
数年後。
旅からリーヴスへ一時帰省する列車の中でクロウは一通のメールを受け取った。
「はっ?ヴィータ
…
?あいつ今何やってんだ
…
つーかなんでオレに」
ぼやきながらメールを開いてみると短い本文に画像ファイルの添付があるようだった。
『前の端末に残っていたから返しておくわ』
前の端末というのは学院生時代から内戦まで使っていたもののことだろう。
不死者となった後は次世代規格となっていたので持ち替えたのだ。
一体なんだと警戒しつつファイルを開く。
「う、ぐ
……
」
表示されたのは今では彼の恋人でもあるリィンの寝顔。
撮った経緯もしっかり覚えている。
苦虫を噛み潰したような顔をしながらクロウは安心しきったリィンの寝顔を見つめた。
(
…
さすがに、盗撮みてーなもんだし消すべきだよなぁ)
かつては消すことができなかった。
けれど今なら寝顔は見放題なのだし、消すのに問題はない気がする。
そう思って削除のボタンに指を乗せたものの、やはり消すことができない。
これはこれで、なんというか別の魅力があるのだ。
(もう二度と手を伸ばせねぇから消せなかったあの頃とは、別の意味で消せねぇよなぁ
…
)
ため息をついて、クロウは一旦保留にすることにしてファイルに保護をかけた。
「リィンー」
迎えに来てくれたリィンと合流し、クロウがリーヴスに持った家に戻った後、クロウは改めて端末に保存された寝顔写真を見ながらクロウのために台所に立ってくれているリィンの背中に声をかけた。
振り向いて首を傾げるリィンに視線を移してにや、と笑う。
「寝顔の写真撮らして」
「は?!いやに決まってるだろ!」
「だよなあ。ならやっぱこれは消せねぇよなあ
…
」
その呟きにリィンは眉を上げてから、手を拭いてクロウの傍に来る。
「これってなんだ。まさか撮ったんじゃ
…
」
「ほれ」
恋人のものとはいえ隠し持っておくのもなんだろう。
クロウは端末をリィンに向けて見せてやる。
「これっ
…
学院にいた頃じゃないか
…
!いつ
……
あ」
思い当たったということはリィンもあの時の事を覚えていたようだ。
といってもリィンは学院でのクロウとの思い出を一つも零さず覚えているらしいのでさもあらんというところだが。
「ほんとに撮ってたのか
…
」
「寝たら撮るっつったろ?
…
消せなかったんだが、隠し撮りだしな。今のお前のを撮らせてくれるなら消すのもやぶさかじゃねぇかなぁと思ってよ」
どうだ?と端末を振ってみせる。
リィンは何か考え込むように端末を見つめている。
「
…
なんで消せなかったんだ?」
「
…
聞くかそれ。お前との思い出をオレが消せるわけねぇだろ」
実際の心情はもっと複雑なものだが、説明せずともきっと伝わるだろう。
リィンはその答えに目を瞠り、そしてふわりと微笑んだ。
「
…
なら、その写真は見逃してあげよう。
…
ただし利子に追加させてもらうぞ?」
悪戯っぽく首を傾げるリィンにクロウは降参の意味を込めて両手を上げて見せた。
「仰せのままに。
…
今の寝顔は?」
「それはだめだ」
ぴしゃりと言われてクロウは首をすくめた。
キッチンに戻るべく身を翻してから、リィンは首だけで振り返った。
「
…
撮りたいなら、こっそり撮ってくれ」
呟くような密かな声に目を瞠る。
耳が少し赤くなっているから聞き間違いではないだろう。
「お前はほんと、オレに甘いよな」
「クロウに言われたくない!」
反論に笑いながらクロウはもう一度写真に目を落とした。
せっかく暗黙のとはいえ了解をもらったが、きっと撮ることはないだろう。
あの時はいずれ手を放さなければならなかったから写真に残したかった。
けれど今はいつでも、いつまででも見つめていることができるのだから。
必ずリィンの傍に戻るという意味もこめて、寝顔の写真はこれきりにしておこう。
クロウはそんなことを想いながら写真にそっと口付けた。
「あっ」
すると台所に立っていたリィンが声をあげた。
見るとこちらを見て拗ねたような顔をしている。
「
……
なんでそっちにするんだ」
その言葉にクロウは思わず吹き出した。
「ったく、自分にやきもち妬いてんなよ」
言いながら立ち上がって、まだ拗ねた顔をしているリィンの唇に口付けた。
本当に永遠に彼には敵わないと想いながら。
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