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望月 鏡翠
2025-02-19 17:04:03
1033文字
Public
日課
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#1635 「葱」「生地屋」「口笛」
#毎日最低800文字のSSを書く/三題噺
キッチンから出汁の匂いが立ち上がる。
内装は洋風なのに、でてくる食事は和食が多いことに、彼はよく首を傾げていた。この部屋を整えたのは前任だ。だからその趣味が反映されている。私が作ったら、昭和の趣が残る日本家屋になったのだろうか。それはそれで見てみたかったから、今の建物に飽きたら考えてみることにしよう。
少なくとも今は、この西洋のお城のような住居を気に入っていた。
本当にお城に住んだら、新しい設備を設置する余地がないとか諸々の問題があるのかもしれないけど、そんなこともない。ここは毎日適温で過ごしやすい。
四季を感じられない生活は寂しいのかと思ったけど、気のせいだった。温度が安定していると、心も安定している。唯一の心配は、孤独であることと娯楽が存在しないこと。
しかしそれも彼がやってきてくれたことで解決した。話し相手が存在するというのは、良いものだ。しかも、話題に事欠かない。扉の向こうに出ていく度に、彼は目新しい冒険の話を持って帰ってきてくれた。
事実は小説より奇なりというけれど、小説なら飽き飽きするような展開も、実際に起こったと思うと面白さが増す。
持ち帰ってくる思い出の品は一週間もするとボロボロになって消えてしまうのだが、その時間感覚もちょうどいい。あとにしようと思っていると消えてしまうから、本でもなんでも早めに手をつけることができる。
図書館の本の返却期限みたいだ。
「新しいキルト、いいね。柄が陽気で」
「いいでしょう、葱柄。食卓にピッタリで」
生地屋が端材を安く売ってくれたのだ。家の中でできる趣味を色々開拓している。人と共有する趣味は減ってしまったけれど、一人でできる趣味には集中できる。今はキルティングにハマっている。ちょっと前は陶芸もやっていたんだけど、竈門の用意が面倒だからやめてしまった。
それに今日の食事にもあっている。卵をふわふわに仕上げた親子丼。上に薬味をいい感じに散らした。これは絶対に美味しい。
いただきますと、日本風の挨拶をして食べ始めようとしたところで、口笛の音がする。
きっと彼を呼んでいるのだろう。
野暮に思うが仕方がない。向こうはきっと世界の危機か何かが起こっているのだろう。
「早めに帰っていらっしゃい。温め直すと、せっかくふわふわの卵が固くなってしまうから」
「わかりました」
扉の向こうに消えていく。今回の思い出はなんだろう。
魔王の首とかではないと嬉しいのだけど。
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