shika
2025-02-19 15:09:36
7744文字
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You might, I don't, and we never let go of.

流リョ未満→流リョ

『人じゃなきゃ出来ルリョに』に参加したかったのですが間に合わず供養です...
とても素敵な企画の開催をありがとうございました!

無自覚の流が自覚を持つまでの過程の話。
少しだけファンタジー要素が含まれます
インハイ後から渡米後の想像を含みます。
強めにモブの描写があります。

バスケも英語も🇺🇸も詳しくない人が書いています...薄目で流していただけますと幸いです...

『 You might (fly.) 』

 「あいつを見てると時々、羽でも生えてるんじゃないかと思うときがあるのよね」

 二月、大寒波到来だとかの影響で特段体育館が冷えこんだその日。既に部活が終わって自主練をするメンバーが残っているだけの体育館で、シュート練習の合間に一息ついているとパス出しを頼んでいた彩子先輩がポツンと呟いた。目線の先を辿ると宮城先輩がドリブルからレイアップの流れを繰り返し黙々とこなしている。
 いつもギリギリまで残る俺と一番最後に体育館を出る宮城先輩は、必然的に自主練の時間も一番長い。部活中はどうしても全体を見て進めていく方に比重がかかるため、自分に集中するための時間を部活後の自主練で補っていて、大体は苦手なフリースロー克服のためのシューティングや俺を含めた残ったメンバーの誰かとワンオンやツーメンに取り組んでいた。得意なレイアップを繰り返すのは息抜きの一環だということは、ここ数ヶ月でなんとなく分かった宮城先輩のルーティーンだった。

「・・・羽、すか」
「そう。レイアップはなるべく力を抜くことがコツってミニバスでも最初に習うけど・・・跳ぶときなんか、フェイクかけるにしても相手側も跳ぶタイミングって分かるでしょ」
「まぁ」
「空中での身の躱し方とか跳び方とか?躱すにしてもジャンプするにしても、背中や脚に力が入っていないように見える時があるのよね」

 彩子先輩がほら、と軽く指を指す。ドリブル、跳ぶ、ボールがリムを滑ってスウィッシュ、転がったボールを手にとってまたドリブル、と繰り返すその人のレイアップは、確かに少し特徴があった。
 最初に指摘された身の躱し方については元からというわけではなく、試合や日々の練習を経て少しずつ変化していた。決して滞空時間が長い訳ではないが、宮城先輩が持つバランス感覚と上背がないことが利点となり成し得る技のように思う。無理に躱そうとするとバランスを崩してゴールに入ることなく無得点で終わるか、下手すれば着地で大怪我だが、あの人は相手のブロックが見えると僅かに軌道を変えるように身体をひねり、その場合でも高確率でゴールに入れ、軽やかに着地する。ではジャンプについてはどうかと言えば、確かに「跳ぶ」というより「飛ぶ」の感覚に近いように見えた。どあほうのジャンプが動物並みの脚力と身体能力を活かした「跳ぶ」だとして、宮城先輩の「飛ぶ」はジャンプに踏み込む時の力強さがあまり感じられず、ふわっとしている。

「溜めが短くなるしあれもあいつの武器だけど・・・羽なのか何なのか、なんだか支えられて浮遊してるみたい」

 支えられて浮遊。あぁ、羽と言われるよりはそっちの方がしっくりくるなと、ダンクの練習なんかの時にアシストで身体を支えてもらったりするNBA選手を思い出した。そして同時にそれがやけに頭に残ることに違和感を覚えた。支えられて──────何に?誰に?ありもしない例え話を考えている自分にまた違和感が生まれる。・・・・・・なんだこれ。訳がわからん。
 それから彩子先輩に再開の声をかけられるまでずっとその繰り返しを見ていたが、宮城先輩がこちらの視線に気づくことはなかった。




『 I don't (have other way.) 』

 少しずつ日中の陽気が戻ってきた三月、冬の間は外の寒さに限界を感じて致し方なく騒がしい教室で昼飯を食っていたが、その日は小春日和だと朝の天気予報が告げていて、四限の体育が終わってから着替えてすぐに屋上に向かった。とにかく食ったら静かな場所ですぐにでも寝たかった。寝る子は育つ。まだまだ伸びるはず。できれば二メートル超えしたい。空腹と眠さと欲の狭間でグラつく頭で屋上への階段を登って入り口のドアを開けると、その先に大の字に人が倒れていた。顔の上には何かの本がのっている─────デジャヴ。

「キャプテン?」

 返事は期待せずにそっと近づくと案の定その人だった。割と気配に敏感な人なのに俺が近づいても起き上がる様子はなく、安定したリズムで腹が上下に動いていた。横にはペットボトルの重みで抑えられた白いビニール袋が置かれていて、中に見覚えのあるラベルが透けて見え、それはこの人が最近よく食べている購買のパンが入っていた袋らしかった。俺だって四限が終わってすぐ来たのに、食うの早くねーか、この人。
 夏のインハイ後に新キャプテンに就任したばかりの宮城先輩は時に赤城先輩の上をいくのではと思われる鬼キャプテンぶりを発揮し、体育館や体育館脇の水道にはその度に屍のように倒れる部員が続出した。どうせ寝るならと授業をサボって屋上に行って、鬼上司のなんちゃらとかいう本を顔にのせて昼寝する姿を見かけたのはちょうどその頃だったと思う。他にも部誌や何かのノートを難しそうな顔で書いていたり、屍化している部員に対し慣れないフォローとアドバイスに徹したり、時に安田先輩や彩子先輩と相談しながら自分のキャプテン像を確立するのに試行錯誤していた。就任して半年も経つ頃にはそんな光景も転がる屍の数もだんだん減ってきて、それはこの人にキャプテン業が馴染んで体制が整ってきていることと、部員が体力技術共に向上してきていることの証でもあった。後輩にキャプテンと呼ばれてどことなくぎこちない態度で返事をしていたのが、今ではその表情に柔らかさが滲む。肩の変な力が抜けたのか、部活後に部室で帰る準備をしている間の会話やコミュニケーションに限らず、戦術やフォーメーションについて話している時でさえ随分と気を許しているなと感じることもあるくらいだった。
 「鬼の休息」ならぬ「天使の休息」。・・・いや天使には程遠いか、と顔を覆う本の表紙をちらっと見れば昨日発売の月バスだった。ピクリとも動かず、屋上の扉を開けるときの重たく軋む音にも俺の気配にも気付かないくらい爆睡しているらしかったが、なんとなく足音をなるべくたてないように離れようとしたら一瞬撫でるような風が通っていったことによってペットボトルの下のビニール袋が音を立て、拍子に指先が少しだけ反応したのが視界に入った。

「・・・・・・・・・・・・んー・・・」

 寝起きの微睡んだ声と共に仰向けに寝ていた身体が横を向いて月バスが落ちる。・・・あれだけ爆睡していたのになぜこんな囁かな音で起きるのか。顔を覆っていた物がなくなって真上にある真昼の太陽に晒され、眉間にしわが寄って目がぎゅっと顰めらた。その後パチパチと数回瞬きをしてこの人の特徴的なくっきりとした二重瞼がようやくゆっくりと上がり、その奥の透き通る茶色に自分が映ったように見えた。

「・・・ぉわ、流川?なにしてんの、お前」
「飯食いに来たら先輩が寝てた」
「あ、そーなんだ・・・・・・今日天気いいもんな・・・」

 まだ寝ぼけているのか、反応がどうもポヤポヤしていた。寝そべっていた身体を怠そうに起こして掌で目を擦りながら、でかい欠伸。口元は隠さない。随分と気を許しているっていうのはこういう姿だ。先輩が起きたから離れようとしたのをやめて近くに座ると、やはりポヤポヤした顔で俺を見て「飯今から?」と聞いた。

「そうすけど・・・先輩食うの早くねーすか」
「二年の教室のが屋上ちけーからな。一人のがいいだろ?俺もう食ったし、お前にここ譲るわ」

 俺が騒がれることに嫌気がさしてここに逃げ込んできたと思ったのか、気を遣われたらしかった。立ち上がった先輩がうー、と伸びて、太陽に向かって伸ばされた手の先の色彩が消えた。この人を見上げることは早々ないからなかなか新鮮なアングルだと思ったが、言うとブチギレられることが容易く想像できたのでその感想は心に留めて持ってきた弁当を広げる。じゃあまた部活でな、五限ちゃんと出ろよ、と釘を刺され、ペットボトルとビニール袋を持った先輩がこちらに背を向けた直後だった。強い風が下から吹き上がり、短く改造された学ランと中に着ている白いシャツが勢いよくめくれ上がるさまに目を奪われる。

『なんだか支えられて浮遊してるみたい』

 冷えた体育館、彩子先輩の指先、鮮やかなドリブル捌き、飛ぶ、汗が滴る髪の毛、空気を含んだ練習着が揺れて───────────、

「だめ」
「ぅおっ!?・・・えっ?」

 反射で伸ばした右手は先輩の腕を掴んでいて、掴まれた先輩は目を大きく開けて俺を見ていたし、その瞳の中には同じように目を大きく開けた俺がいた。咄嗟のことに内心、自分自身が一番驚いていた。
 ──────連れて行かれると思った。何でそんな馬鹿げたことを思ったのか分からない。前もそうだった。
 『羽』?『支えられて』──────何に?誰に?

「流川?何だよ、どうした?」

 支離滅裂な思考が頭の中を濁流の如く流れ、混乱していた。だけど脳が処理しきれずに溢れていく何かがこの手を離すなと司令を出している気がした。それがなんなのか理解できるはずもなく、この情況をどうすればいいのかも分からず、半ばヤケクソで掴んでいる右手を自分の方へ強く引いた。急に引っ張られた勢いで体勢を崩した俺よりも小さな身体を左手で受け止め、え?え?と疑問符を浮かべる先輩を力づくで隣に座らせる。

「おい、流川?寝ぼけてんの?顔こえーよ。どっか具合悪い?」

 寝ぼけてんのはさっきのアンタだと口から出ようとした言葉は、先輩が保健室連れてくか?と心配そうに俺を覗き込む姿を前に喉元に戻って消失した。人の機微に敏く面倒見がいいこの人は目の前の出来事を表面上だけで捉えない。もっと深いところを観察して分析していくようにじっと俺の様子を見る。タイムラグで幾分冷静になり、ふー、と吐いた息が思ったより深くなったのを具合が悪いと受け取ったのか、眉尻が下がって本格的に心配されだしたことを察知した。

「寝ぼけてねーし具合悪くもねーす。保健室は行かねー。飯食ったらその月バス借りていいすか。俺も見たい」
「え、あぁ、それはいいけど・・・ふはっ!お前そんなに一気に喋れんの?初めて聞いたわ」

 俺だってこんな一気に話したのいつぶりかも分からないすけど。なんならこんなイライラモヤモヤしてんのは多分生まれて初めてっすけど、と目の前のこの人にぶつけたかった。いつもなら叱られそうな態度にも怒るわけでも揶揄うわけでもなく、片方の眉毛だけを器用に釣り上げ、目尻を下げて笑う先輩にどこかホッとしている自分も理解できない。最近、癇癪のように起こるこの「訳の分からない」に頻繁に振り回されている事実が余計に腹立たしかった。なのに先輩があまりにもあどけない顔で笑うから毒気を抜かれる。月バスは読んだら返してとだけ言えば教室に戻ることもできたのに、宮城先輩は俺の隣に座ったまま俺が食べ終わるのを待って、バスケットボールの神様なんて言われているレジェンドのことやこの間の練習試合の感想や課題を心地よいテンポでずっと話していた。
 この人はただのバスケ馬鹿で、日々やたら一生懸命に人のことばかり考えてる人で、そんで俺のバスケにはこの人のパスが必要だから。手を掴むことしかできないから、この手が届かないところへ連れて行かないで。
 昨日も読んだ月バスを先輩と一緒に読みながらどこの何かも誰かも分からないものにそんなことを思っていた。これ以上新たに不毛な疑問が浮かぶ前に思考をシャットダウンする。とにかくずっと繋ぎ止めておけばいいだけだ。考えても分からないものは考えるだけ無駄、と結論づけた。そんなことで何故か心地良く感じるこの時間を邪魔したくなかった。風はもう、凪いでいた。




『 And we never let go of (each other.) 』

「────かえ?」

 控えめにドアが開く音と共に小さく呼ばれた自分の名前に深く沈んでいた意識が浮上していく。ぺたぺたとこちらに近づいてくる足音、次いでブラックコーヒーと・・・もう一つ、カフェラテの匂い、家の前のストリートに来るフードトラックに並ぶシナモンロールの匂い。ミサに行く家族と子どもの声、散歩してる犬の鳴き声。かえ、と俺を呼ぶその人の声。寝室に隣接しているリビングの窓が開いているのか、入ってくる風が家の内外の情報と、少しの間一人だったこの家にもう一人の家主が帰ってきたことを伝えるようにゆっくりと流れた。ベッドの縁に座ったその人の腕を布団の中から伸ばした右手で掴んで、そのまま引きずり込む。うわっ、と聞こえた声の割には実際はそこまで驚いていないな、と思った。そういう事を声一つで瞬時に判断できるくらいには長く一緒にいて理解し合えているという自負がある。

「くーるーしーいー」
「おかえり」
「・・・ただいま」

 腕の中に閉じ込めたリョータさんが俺の背中をあやすようにタップした。昔に比べて厚くなった身体からほのかに香る香水が、微睡んでいた意識を現実に呼び戻す。首筋に顔を寄せるとくすぐってぇ、と髪を梳いてくる指の体温が、この人の存在を刻んでいくようだった。

「昼過ぎ頃になるかと思った」
「その予定だったんだけどフライト早まった上に珍しくすぐ解散になった」

 お互いホームでの試合とアウェーでの試合が噛み合わずおよそニ週間ぶりにこの家で一緒に過ごす、たった一日だけ重なったオフ。まぁこういうことはこの職業を選んでいる限りザラにあるし、前までは所属チームがアメリカの端と端に別れていて会うことすらままならなかったから、今の環境にはある程度満足しているし、感謝している。

「起きれる?カフェラテ煎れたけど」
「起きる」
「帰り道にシナモンロール買ってきた」

 背中に回されていた手が自分の手に重なってやんわりと引かれ、ようやく起き上がった。意識はもう覚醒していたが、まだ眠いですのフリをして先を歩いていく背中にひっつけば、「カエチャーン、しっかり歩いてくださーい。歩きづらいでーす」とクスクス笑って、随分と柔らかく抵抗感が感じられない文句で返ってきた。これは俺が甘えてくるのを受け入れて且つ喜んでいる時の声。

「今日も空港から拘束コースかと」
「ジジイが駄々こねなかったから。今日アビーの誕生日なんだって」

 ジジイと皮肉って呼ぶ所属チームのベテラン選手をこの人が本当はものすごく尊敬していることも、そのベテランに愛されていることも周知のことだった。大体リョータさんの試合後、もしくはアウェー戦を終えてホームタウンに着いてから即食事に連れて行かれ、結局帰宅まで2時間前後かかるのがいつものパターンだ。ちなみに正しくは“DD″で、ジジイ呼びの発端はリョータさんが移籍直後のウェルカムパーティーを兼ねた食事会にて、飲まされ食わされの末に限界を向かえて「DD! I can't eat or drink anymore! I'm gonna go home!!Right!?」と言い放った“DD″の部分を、酔っ払った別の選手が「“ZI-ZI″?Yah I know that means “an old man″ in Japanese!」と自信満々に聞き間違え、リョータさんと何故か言われた本人が爆笑するほど気に入ってチーム内に浸透したと聞いた。以来、くだけた場やふざけ合ってる時の定番らしい。アビーというのは彼の五人の子どものうち昨年生まれたばかりの末の女の子で、その子が今日一歳の誕生日を迎えるという。家族愛が強いアメリカ人の中でも特段家族思いで有名な選手だったから、あぁ今日は一刻も早く家族が待つ家に帰りたかったんだなと、いつもより少し甘く感じるカフェラテを飲みながら思った。

「今日出かける?」
「買い物は・・・冷蔵庫空だよな、行かなきゃか。そのくらいじゃね」
「それ、午後でもいい?食ったら寝よ」
「どんだけ寝るの、お前」

 ふふ、と片方の眉毛だけを器用に釣り上げ、目尻を下げて笑うその顔は今も変わらない。でも今はもうそこに不安感はなく、モヤモヤすることもイライラすることもない。長く離れて暮らしてきたから、この人がここにいることを実感するための安心材料みたいなものに思っている。同じ時間を共有しながら大きくなっていったその感情を徐々に知り、理解して受け入れ、そこからはバスケと同じくらい大事に抱えてきた。それは俺にとってバスケと同じくらい揺るがない自信があるということを意味し、あの頃とは違った形でただ穏やかに二人の間に存在している。

「随分懐かしい夢見た」
「うん?いい夢だった?」
「・・・今となっては」
「ふは、なんだそれ」

 今となっては、アンタのことが分かるから。
 海を見て遠い場所を探していること、苺のショートケーキを見かけると立ち止まること、オフの日の夜にブランケットにぐるぐる包まれて映画を観るのが好きなこと、酒に強いくせにたまに酔ったフリして甘えてくること、その甘え方があまりにも不器用すぎること。それから、自分が疲れているときに無意識に俺のカフェラテをミルク多めに煎れること。
 まだまだあるけど、つまりはこの人がそういう姿を俺に見せることを許容していて、そういう瞬間に表情が陰るようなことがあっても隣に自分がいることに意味があるのだ。寄り添うだけが必要なときもあれば、強めに手を引かないといけないときもたまにある。

「人間でよかったと思った」

 あなたも、俺も。

「んん?なにそれ」

 寄り添うにも引っ張るにも、バスケをするにも。

 この家で一緒に暮らし始めて、もうすぐ一年になる。家具を選ぶために立ち寄った店でリョータさんが気に入って買ったアカシアのダイニングテーブルの上には、数枚の宮城家の家族写真が飾られている。リョータさんの実家に飾られているものと同じ写真だ。以前帰国した際に彼の母が渡してくれたもので、照れくさそうに受け取ってからすぐにクリアファイルに入れ、折り曲がらないように慎重にスーツケースに閉まっていた。その姿を愛おしそうに見つめた彼の妹が「楓くん、リョーちゃんをよろしくね」と俺にだけ聞こえるくらいの小さな声で呟いた。いつも明朗な彼女が兄にそっと手向けた大きくて優しい愛情だった。帰宅後、「良かったらなんだけど、写真飾っていい?」と遠慮がちに言ってきたあの日も、今日と同じようにコーヒーとカフェラテの匂いが漂っていた。
 リョータさんが遠征でこの家にいない時、その写真の前でリョータさんの試合を見ていることを多分この人は知らない。持ち前のバランス感覚を活かして空中で身体を自由に操り、タイミングが掴みにくいあの磨きがかったレイアップが画面に映し出される度に、あぁ得意なやつが出ましたね、と近況報告していることは、俺と、俺が会ったことのない写真の中の二人だけが知っている。
 寝室の窓から入った風が、腕の中で眠るその人の癖毛を静かに揺らした。