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2025-02-19 11:43:03
4296文字
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ウルデプ小話「ボーナスタイムの攻略法」

付き合ってる二人が一緒に朝食摂って出掛けるまでの話

とある冬の日。時刻は午前九時。
ウェイドは洗濯乾燥機が稼働を終えるまでソファで一息着いていた。

ローテーブルにミックスナッツを雑に出し、手にはホットココアの入ったマグカップ。ゆらゆらと立ち上る湯気にふぅ、と息を吹きかけると湯気は一人きりの部屋に消えていった。

なぜ一人きりかというと、以前より同居しているアルテアと昨年からここに住むよう招き入れたローラが、同じく昨年からウェイドが飼い始めた犬のメリー・パピンズを連れて今日は珍しく暖かいからと近くの公園に散歩に出掛けたからだ。

ちなみに公園での散歩を済ませたらローラはメリーを連れて学園へ、アルテアはご近所さん達とのお茶会へとそれぞれ向かうのだという。二人の帰宅は夜だ。
寸刻前まで朝食の食パンは何枚焼くのか、牛乳がもう少しで無くなりそうだとか、日々の会話が飛び交っていた部屋が今ではすっかり静かになり、脱衣所の乾燥機の稼働音が聴こえてくるのみだ。


「牛乳、洗剤、トイレットペーパーメリーのごはんとおやつ
ウェイドは脳内で日用品の買い物のリストアップをしては口ずさむと、メモに留めるためスウェットのポケットに入れたスマホに手を伸ばす。同じタイミングでドアの開閉音が耳に入る。その瞬間ウェイドの瞳が、ヒーローの登場を待ちかねていた子供のように揺らめく。
ローラより先に招き入れたもう一人の住人、ウェイドが別の世界から連れてきたヒーロー、ウルヴァリンことローガンが起きてきたのだ。

ウェイドとローガンは以前、共に世界を救った。行動を共にするうち、互いに相棒以上の感情を抱えた中で去っていくローガンにウェイドから持ちかけた同居生活は、二人の関係を変えるのに十分だった。
相棒から恋人になったからといって、打診される仕事の量は変わらない。それどころか、お喋りと無口の凸凹コンビとしてデッドプールとウルヴァリンの名は知れ渡り、二人でチームを組んで臨む任務を任されることが確実に増えていった。

仕事をこなす中、二人きりで過ごす時間と言えば、アルとローラが寝静まった深夜に酒を酌み交わしたり、任務を片付けてからウェイドのケイブに立ち寄るか、ホテルに直行するかがほとんどなのだが昨日、二人にしか頼めない。と、急遽TVAからの任務を丸一日請け負った。
ローガンはと言うと、とにかく敵の数が多くその殆どを引き受け、当然疲労もウェイドの倍積み重なった。帰宅後は食事も摂らずシャワーを浴びるとベッドに倒れ込み、泥のように眠り今に至る。
ウェイドも似たような状態でいつもより遅い時間に起きていた。

今の生活に不満はないが、住み慣れた部屋で朝から晩までローガンと過ごしてみたい。でもアルもローラもメリーも無下にしたくない。
ウェイドの小さな願いは小さな悩みでもあった。
しかし朝起きるとその願いが叶えられる条件が全て揃った状態でウェイドの目の前に降ってきた。 

ウェイドは少し助走を付けてソファから立ち上がるとローガンの元へと歩み寄る。
「おはよローガン。よく寝られた?」
「帰ってシャワーを浴びた途中から記憶が無い。」
「あは。ちゃんと自分のベッド行ってから電池切れたから安心しなよ。歯磨きもしてねって言ったらちゃんと歯磨きもしてた。」
「昨日の俺はお利口さんだったようだな。」
ローガンはそう言うと背中を伸ばしてから辺りを見回す。
「お前一人か?」
「二人は少し前にメリー連れて公園に散歩行ったよ。ローラはその後メリー連れて学園で、アルはご近所さん達とお茶会。二人とも帰りは夜だってさ。」
「そうか。」
短く返事をしたローガンはウェイドの持つマグカップに視線を向けた。
「ココアだけどローたんも飲む?あー、寝起きだし昨日食べないで寝たからコーヒー淹れて何か食べる?」
ウェイドはローガンの視線に気付くと流れるように朝食のお伺いを立てた。
こいつは本当によく気が付く。起きたばかりの自分に世話を焼く姿がいじらしい。そんなことを考えながらローガンはある事を思い付く。

「いや、もらおうか。」
「ココアなら、」
ローガンは言いながらウェイドとの距離を詰めると持っていたマグカップを自分の手に収め、言葉を発するウェイドの口を自分の唇を以て塞いだ。
急に言葉を遮られ、んっ。とウェイドの口から小さく声が漏れる。唇を離す瞬間にウェイドの唇をちろりと軽く舐めてやると、舌先に唇がぴくりと動く感触が伝わった。
「甘いな。」
満足気な笑みを浮かべたローガンは短く呟くと、マグカップをウェイドに戻し水を飲みに大股でキッチンへと向かう。
程なくして後ろからローガンを小走りで追う足音が聞こえたかと思うと、ウェイドはローガンの尻を軽く叩いて背後から腰に腕を回すと背中にぴたりと身を寄せた。
「俺しか居ないの知って浮かれてるな?お寝坊クズリめ
「そのお寝坊野郎に隙を突かれるとはおしゃべりな傭兵も形無しだな、ウェイド?」
「クソッ!俺も正直浮かれてるから否定できない
ウェイドはするりとローガンの腰に回していた腕を解いて向き合うと、次はローガンの肩に腕を回して互いの呼吸が分かる程の距離を取る。
「ローラとアルが出掛けるって知って、二人で久々に食事できると思って俺、ローガンが起きるまで待ってたんだ。」
「起きてこなかったら?」
「んー、枕元で優しくモーニングコール?」
「寝直すか。」
「おい。」
ローガンの二度寝発言は勿論冗談なのだが真面目な顔で言うものだからウェイドは思わずローガンの鼻を摘んだ。
「俺が思うに、今日は天からご褒美が降ってきたんだと思うんだ。昨日の俺達は丸一日任務。そんで今日はアルもローラも朝からほぼ一日お出掛け。天から“ごゆっくり”って声が聞こえる。」
「神様からの思し召しってか?」
ウェイドはローガンの鼻を今度は人差し指でトンと軽く小突く。
「こういう時くらいは素直に信じたほうがいい。んで、まずは一緒にごはん食べたいんだけど
それにと続けたウェイドは己の腰、というか尻に添えられたローガンの手をピシャリと叩いた。
「俺の尻触っても腹は膨れないぞスケベジジイ。」
「“ごゆっくり”しないのか?」
ローガンは小首をかしげて物欲しげにウェイドを見遣る。
「その顔やめろ!俺の、恋人とモーニングを食べたいっていうお願いを無下にするつもりか?」
ウェイドは両手でローガンの顔をやんわりと挟むと頬を軽くつねる。ローガンは、どこまでもいじらしい恋人を今すぐこの場で可愛がってやりたくて堪らなくなったが、これ以上ふざけると家から締め出されてしまいそうだと見切りをつける。
「ウェイド、悪かった。浮かれすぎたな。俺が食事の用意をする。」
そう言うとローガンはウェイドの顔に手を伸ばして、滑らかとは言えないがウェイドをウェイドたらしめる凹凸のある頬を優しく撫でると額に一つ、キスを落とした。脱衣所から乾燥機のブザーが鳴ると、それを合図にするかのようにローガンは冷蔵庫、ウェイドは脱衣所へと向かった。

洗濯物を片付けて食事が出来上がるまでの間、ウェイドはスマホを取り出し途中になっていた買い出しのメモをキッチンからの調理音と時折聞こえるローガンの鼻歌を聞きながら、再びまとめ始める。

間もなくテーブルの上に朝食が並ぶ。ベーコンエッグ、トースト、オレンジジュース。きつね色に焼かれたトーストの香りが食欲をそそる。
「ローガンの作るベーコンエッグ、俺好きだ。」
ウェイドは待ってましたと言うように料理を見つめる。ローガンが以前、気落ちしたウェイドに振る舞ったところ甚く気に入り好物となっていた。
ローガンもウェイドの向かいの席に着いて遅めの朝食が始まった。
「何回か真似して作ってみても上手くいかないんだよね。何かヤバいもの入れてる?」
愛情だな。」
そう言うとローガンは大きく口を開けて、程よく焼目のついたベーコンを口の中に放り込んだ。
「今日は本当に口が良く回るねクズリちゃん。俺の専売特許取る気?」
ウェイドはつま先でローガンの脛をつつくとつつき返された。
「なんだ、照れたか?」
「照れてない。」
「耳が赤い。」
「うっさい。」
事実、耳の縁を赤く染めたウェイドはオレンジジュースを一気に飲み干すと、ふっと吹き出して目尻を下げた。
「ティーンみたいにはしゃいでさ、正直今めちゃくちゃ楽しい。」
ウェイドが両足をゆらゆらと揺らしながら呟くと、ローガンも返事の代わりに目尻の皺を一層深くしてウェイドを見つめる。
「あのさローガン。つかぬことをお聞きするけど今日のご予定は?」
「予定は未定だな。」
「来た!じゃあ食べ終わったら一緒に買い出し行こう。足りないもの買い足してスナックとアイスも買って、帰ったらそれをつまみながらサブスク三昧!あ、ちゃんとイチャイチャもするから安心しなダーリン。」
ウェイドは一息にまくし立てると、TVAの奴らに連絡入れよと呟きながらスマホを素早く操作した。何かを決断してからのウェイドの行動は倍速再生のように忙しない。ローガンはその緩急が、ある種のスパイスのようだと感じながら朝食を食べ進めた。
ウェイドも手早くTVAに連絡を入れ終わると朝食の残りを食べ終え、二人で食器を片付けて外に出掛ける準備を始める。

ローガンは厚手のコート、ウェイドはダウンジャケットを着てウェイドが先に玄関まで向かうと後ろをついてきたローガンに手を差し出した。
「折角だから手なんか繋いじゃう?」
無言でウェイドの手を見つめると、ローガンは指を絡めて隣に立つ。
「おっ、熱烈だねローたん。いいね、やってやろうじゃないの。」
ウェイドは互いの指をより深く絡める。
アダマンチウムの骨はローガンの体温を常に奪う。身体の末端も例外ではない。対してウェイドの身体はヒーリングファクターにより常時癌細胞と健康な細胞が消滅と再生を繰り返している影響で、常人よりも体温が高い。
隙間なく繋いだウェイドの手が、冷えたローガンの手をゆっくりと温めていく。
ローガンの手が十分に温まった事を確認するとウェイドは繋いだ手を前後に振ってみせてからドアノブに手を掛ける。
「俺達のボーナスタイムはこれからだ!」
威勢良くドアを開けてウェイドは高らかに宣言した。
「なんだそれは。」
隣でローガンが呆れ笑いをこぼす。時折吹く冬の枯れた風が、浮かれる二人には心地が良かった。

時刻は午前十時半。
短いけれど贅沢な、二人のボーナスタイムが始まった。