かにやけんせつ
2025-02-19 01:15:45
2671文字
Public 魔法少女特務機関 Main Story
 

魔法少女特務機関 Fragment.004

#2023/7/13
#Suzuran
#Aoi_Cyan


 深夜遅い時間の特務機関、彩坂支部。
 そのどこかにある部屋に、一人の少女がいた。薄青の病衣に白いパーカーを羽織った彼女は、名をすずらんと言う。もう何時間も前に部屋の電気を消しているのに眠れないようで、すずらんはずっと透明なケースをつけたスマホを弄り続けていた。

「あれ、もう4時……これはいっそ、寝るの諦めたほうがいいかなー……?」

 そう呟きながら、もぞ、とすずらんは潜り込んでいた布団から這い出て室内のデスクに向き合う。そして、デスクに備え付けの本棚から一冊の本を取り出した。

「よし、朝まで本読も!眠れない夜は読書に限る!」

 桜の押し花の栞を挟んでいた本を開くと、そのページからすずらんは本の続きを読み始める。朝が来たら楽しいことあるといいな、と思いながら読書をしているうち、ゆっくりと夜が明けていくのであった。



 結局眠れないまま、スマホの目覚ましアラームが鳴ってしまった。そういえば寝ようとする前、朝になったら休憩室に集まってみんなでご飯、と連絡があったのをすずらんは思い出す。それなら病衣姿ではいけない、と、すずらんは着替えることにした。

「んー、このワンピースでいいかな?」

 すずらんが出してきたのは、ナチュラルな質感の綿素材のワンピース。それを着てくるりと回れば、柔らかなスカートの布が舞う。その上にパーカーを羽織って、そのポケットにスマホを入れると、すずらんは部屋を出てエレベーターに乗り込む。そしてエレベーターを降りれば、廊下を歩いて目的の部屋へ向かった。

「みんな、おはよー!」
「おはよう、すずらんちゃん!」
……おはよ」

 すずらんが部屋に入ると、すでに来ているのはどうやら二人のようであった。元気に挨拶してくれた少年はいかづちとう、特務機関の魔法少女や職員にいつも食事を用意してくれる職員、美雲の息子。そして気だるげに返事をした小柄な女性は木乃きのみどり、素性不明な上基本的に冷たい言動が多いが、その実人一倍人のことが好きな人でもあった。

「すずらんちゃん聞いた?今日から新しい人来るんだって!」
「博士が言ってたねー。今は一人でも戦力が欲しい状況なのも確かだし、きっとそういうことだよ」

 灯の言葉にすずらんがそう返事するのも無理はない。なにせ、今の特務機関彩坂支部所属人員でまともに戦えるのは灯だけなのだ。すずらんは訳ありですぐ戦場に出ることは難しく、翠は回復に特化しすぎて攻撃能力を持たない。灯は現状唯一の攻撃能力なのだ。

「でも、今日からわたしも戦闘に参加していいって博士言ってたから!だからその新しい人も一緒ならきっと楽になるよっ」
「そうね。……くれぐれも私の手間を増やすようなこと、しないでね」

 翠がそう面倒くさそうにため息をつくが、灯はその横顔をニコニコ見つめている。灯は、翠のそういった冷たさの奥にある意図を知っているのだ。そんな灯の表情を見て、すずらんもそういうことなんだ、と少しにこりとする。すると、がちゃ、と部屋の扉が開く音がした。見れば、博士と……その隣に、すずらん達には見覚えのない茶髪碧眼の少女が立っていた。

「おはよう、三人ともお待たせ。例の新人ちゃん、連れてきたよ」



「蒼井詩杏です。どうぞよろしくお願いしますー」

 空いている席につくと、詩杏はそう軽く頭を下げる。そして、流れで待っていた三人も自己紹介をすることに。最初に口を開いたのは、金髪に金と青のオッドアイの少年だった。

「ぼくは雷灯っていうんだ。ママにはもう会ったかな?」
「雷といえば美雲さんかな?ご飯の人」
「そう、ご飯の人!……でも自分のご飯おろそかにする人でもあるんだよねー……。このあとご飯持ってきてくれるはずだから、そしたら捕まえて一緒にご飯食べよう。そうしないとママご飯食べてくれないからさ」

 まったくもー、とため息をつく灯に、隣にいる一見詩杏より幼く見える、しかし大人らしい女性は頷く。翡翠色の髪をふたつに結び、青い瞳を持つ彼女は灯に続いて自己紹介をしてくれた。

「私は木乃翠。呼び方は好きにすればいい。……怪我した時治すのは私の仕事だけど……くれぐれも、私の仕事を作ったりしないように」
「あはは、厳しいこと言ってるように見えるでしょ?翠さんはみんなに怪我してほしくないだけだから、怖くないよ!」
「つまり怪我すんなってことかぁ。ま、善処しまーす」

 詩杏の適当な返事に、翠は早速呆れたようにため息をつく。その様子を見て灯は、「すずらんちゃんもだよ」ともう一人の少女に声をかける。ショートの白い髪に、青い瞳の少女は、そうだね、と灯に答えてから最後に自己紹介をしてくれた。

「わたしはすずらんって言うの。よろしくね、詩杏ちゃん」
「んー、すずらんちゃんかぁ。高校生に見えるけど、見覚えのない顔だなぁ。よその学校の子……?」

 すずらんの顔をまじまじと見て、それから詩杏はそう言って首を傾げる。えっと、とすずらんがちょっぴり困った顔をすると、博士が助け舟を出した。

「すずらんちゃんは訳あって引っ越してきたばかりでね、まだ学校の転入手続きなんかが済んでいないんだ。でも、転入予定の学校は彩坂学園だから、詩杏ちゃんが通ってるのと同じところだよ」
「そうそう!あ、ちなみにぼくも彩坂学園生だよ。まだ中学生だから、学校では詩杏さんの後輩になるのかな?」

 ほう、確かに灯くんは見覚えがあるような、と詩杏が呟いた時、また部屋の扉ががちゃりと音を立てる。そちらを見るより先に、彼女の元気な声が上がった。

「みんな~!朝ご飯ができたわよ!」
「ママ!今日もちゃーんと一緒にご飯食べてもらうからねーっ!!」

 美雲のニコニコした顔に、灯は駆け寄っていく。そしてその手から持ってきた食事を全て取り上げて翠やすずらんにパスすると、がっしと美雲の腕を引っ掴んだ。

「ちょ、ちょっと!?確かに持ってきたのはここが最後だけど、片付けがあるのに~!」
「ママは働きすぎなの!!ご飯食べてくれるまで逃がしません!!」

 ……これっていつものことなのかな、と思って詩杏が翠の方を見ると、翠はいつの間にか部屋の扉を塞いでいた。続いてすずらんの方を見ると、美雲を座らせるための椅子を用意している。そして博士は、諦めたほうがいい、と頷いていた。この慣れ具合、どうやらいつもこんな感じらしい。そんなこんなで、賑やかな朝食の時間が幕を開けるのであった。