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かいえ
2025-02-19 00:17:33
4483文字
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【サン武】思春期の春千夜君とオレの話
2024/6/22 武道受け最終回軸Webオンリー『リベンジの結末を君たちと』展示作品に、900文字加筆し誤字脱字を修正したもの
武道が好きなのに素直になれない最終代理軸幼馴染サン武
4,480文字
マイキー君と一緒にタイムリープした世界線で、オレは東京卍會の創設メンバーになっていた。
というのも、オレは小学生のマイキー君とマブダチのような位置付けで、マイキー君の幼馴染である春千夜君とその妹の千壽、親友の場地君と一虎君やパーちん君とも当然交流する事になり、そのままの流れで東京卍會創設メンバーになったのだ。
創設メンバーには、ドラケン君やその弟分である三ツ谷君以外に、春千夜君と稀咲鉄太も加入させることにした。それこそが、マイキー君の求める未来への第一歩になると、マイキー君もオレも信じて疑わなかったからだ。
そうして、東京卍會でオレに与えられた役職は、総長代理というとんでもないものだった。メンバーの中で最年少のオレが、年上の他のメンバーを差し置いて、総長代理なるなんてとんでもないことだと思った。副長はナンバー2という立ち位置になるが、総長代理というのは総長と変わらない権力と発言力を持ち、いざという時は総長の代わりを務めるという、副総長より上の役職になるからだ。このオレが、ドラケン君の上になるなんて、どう考えてもおかしなことで、そんな重要な役職に就くのは無理があると蒼ざめた。せめて、他の役職にしてもらおうとしたのだけれど、マイキー君は断固として譲らなかったし、メンバーの誰も反対しなかったこともあり、創設メンバーの中で鉄太と並んでケンカの弱いオレが、総長代理を襲名することになってしまった。鉄太はオレと違って頭脳明晰であり、参謀としての突出した手腕が、ケンカの弱さをカバーしていたから良いが、戦力にもならず、ただのバカであるオレは、肩身が狭い思いをするしかなかった。
そういう訳で、集会の片隅で「なんであの人が総長代理なワケ?」みたいなコソコソ話は、割と良く話されていて、歩いていれば自然と耳に入ってきたりする。
今夜の集会でもそうで、まだ入ったばかりの隊員同志が、オレをちらちらと見ながら、そんな話をしているのが聞こえてきたのだ。
そういった時のオレの対処方法は決まっていて、何を言われていたとしても無視することにしていた。
オレガケンカに弱いのは本当のことだし、隊員がそう思うのも仕方がないことだと思うからだ。言いたいヤツには、言わせておけばよい。それが、オレの方針だった。どんなふうに思われようが、どうでも良かったというのもある。オレが気にしなくてはいけなのは、皆が幸せになる為にはどうすれば良いかというだけなのだと考えていた。
けれども、創設メンバーはオレとは真逆の対応をした。そんな影口を叩いた隊員を見つけた日には、もれなく鉄拳制裁を加えたのだ。そんなことをされたら、東京卍會内で余計に浮いてしまうというのに、創設メンバーは全員聞く耳を持たないという体で、ボコボコにしてしまうから困ったものだった。止めても、オレの面子に関わる問題なのだから、制裁を加えるのは当たり前だと、皆が口を揃えて言うので手に負えない。オレに対して過保護過ぎるのが悩みの種だった。
その創設メンバーの中でも、一番激しく制裁を加えるのが、今こちらに凄い勢いで向かって来ている春千夜君だ。春千夜君は黒いマスクで顔を半分隠していたから表情は分からないけれど、眉間に寄せた深い縦皴と、人を殺しかねない鋭い眼光を放っていたから、一目で怒っていることが分かってしまう。どうやら、オレに対する影口が春千夜君の耳にも届いてしまったようだ。春千夜君はオレの場所からかなり離れたところに立っていたので、そんなに遠くにいてよく聞こえたなと、オレは空恐ろしくなる。
「今、総長代理のことをバカにしたヤツ、出て来いっ!」
春千夜君はオレの前まで来ると大声で叫んだ。案の定、春千夜君は、オレの影口を叩いた隊員たちに制裁を加える気満々である。
普段は無駄口を叩かない物静かな春千夜君の出す大声は、そこに居た隊員たちをビビらすには十分だった。
出て来いなどとわざわざ言わなくても、春千夜君だったら、誰が言ったかくらいは目星はついているだろうにと思う。春千夜君は、敢えてそういう言い方をして、自分から出てくるように仕向けているのだ。質が悪いというか、意地が悪いというか、ともかくオレは呆れた。
影口を叩いた隊員たちが、凄い剣幕の春千夜君にビビって、固まったまま立ち尽くしているのが目に入った。
春千夜君が見た目の美しさの割に恐ろしく強くて、敵対した相手に容赦が無いのは東京卍會において周知の事実だ。そんな人間が激怒しているのに、その前に一歩踏み出すということが、どれほどのストレスになるかなんて、考えなくても分かるというものだ。
「春千夜君、もういいよ!」
オレは春千夜君の肘の辺りの布を掴んでそう言った。けれども、振り返ってオレを見た春千夜君は「ハァ? 何がもういいだ! おまえが侮辱されたんだぞ! 東京卍會の総長代理がコケにされて黙っていられるのかよ?」と、オレにも怒鳴ってくる始末で、全く怒りを収める気はないようだ。
「えー、でも、オレがケンカが弱いのは本当のことだからさ」
「おまえがそんな態度だから、下っ端に舐められるんだって! おまえはもっと怒れよ!」
宥めたつもりが火に油を注いでしまったようで、春千夜君はもっと恐ろしい形相になってオレを睨み返してくる。オレは困ってしまい、どうしようと考えているうちに、春千夜君の視線は影口を叩いた隊員たちにまっすぐ向かっていた。そして、いつも持ち歩いている日本刀を鞘から引き抜こうとしたから、オレはびっくりして必死で春千夜君の両手首を掴んで止めた。
けれども、春千夜君は全体的にほっそりして見えるけれど、力はオレより何倍も強いのだ。普通に手首を掴んでいても、簡単に振り払われそうになる。オレは仕方なく、思いっきり春千夜君に抱き着く事にした。はっきり言って、かなり子供っぽい止め方だと言う自覚はある。けれども、それ以外に春千夜君を止める手段が浮かばなかったのだから仕方がない。春千夜君が全く動けなくなるように両腕と両足でしっかりとしがみついた。それはもう必死だったのだ。その姿は、傍から見たらユーカリの木に抱き着いているコアラみたいになっていたと思う。すごく恥ずかしかったけれど、春千夜君の動きを封じる為なのだからと、恥ずかしさを我慢した。
「てめぇ、何してんだよ!」
春千夜君の声は、ものすごく呆れていた。当然だと思う。オレだって自分のしていることに呆れている。
「だって、こうでもしないと、春千夜君はあの人のことを切っちゃうよね? それはダメだから! 集会での流血騒ぎは禁止ですから!」
オレは春千夜君に抱き着いたまま背後を振り返り、蒼ざめて震えている隊員たちに逃げるように目配せをした。隊員たちはその意図を直ぐに理解して、脱兎の如く逃げて行った。そのまま退会しないとよいのだけれどと思いながら、隊員たちの姿が神社の境内から見えなくなるまで、オレは春千夜君に必死にしがみついた。
「オイ、もう降りろ」
「え?」
「もう、あいつらはいねぇし」
「あ、そっか。良かった~」
確かに、隊員の姿は全く見えなかったし、春千夜君はもう抵抗もしていなかった。
「良かったじゃねぇって。まったく、おまえは
……
」
春千夜君の口調はもう怒っていなかった。眉間の皴が無くなり、薄い水色の綺麗な瞳も明らかに柔らかくなっている。口元はマスクで覆われて見えないけれど、もしかしたら笑っているかもしれないと思えるくらい、先程の鬼の形相に比べると柔和になっていた。心なしか目の縁が赤く染まっているようにも見えて、オレはドキリとした。春千夜君は昔はよく熱を出していたのだけれど、その時と同じ顔色をしている気がしたのだ。最近は熱を出すこともなくなっていたけれど、ここ最近の寒さで風邪を引いたのかもしれない。
「春千夜君、ちょっと」
頭を下げるように、ちょいちょいと手を上下に振った。春千夜君は不満そうにしながらも、素直に頭を下げてくれたから、オレは目の前の位置にきた春千夜君の両頬を挟むと、自分の額と春千夜君の額をぴったりとくっつけた。潔癖症の春千夜君が声にならない悲鳴を上げた。離れようとする素振りも見せたので「じっとして」と、宥めて熱を計ることに集中する。熱が無いのを確認して額を離すと、目の前の春千夜君の顔はさっきよりも更に赤くなっていたから驚いてしまった。額に感じた体温は確かに平熱だったというのに。
「春千夜君、顔が真っ赤だよ? 熱はない筈のにどうしてだろう?」
「ッセ」
春千夜君は頭を上げると、オレに顔が見えないようにそっぽを向いた。
「春千夜君、最近、反抗期だよね」
「何が反抗期だ! おまえがっ!」
くわっと目を見開き、オレを見下ろしてきた春千夜君と目が合う。
「オレが?」
「
…
」
「オレが何かしたの、春千夜君?」
春千夜君の宝石のような水色の瞳が揺れていた。まさかオレの言葉に動揺しているのだろうかと驚く。でも、何に動揺しているのか見当もつかない。
「
…
してねぇし
…
」
春千夜君はぎこちなくオレから目を逸らすと、小さい声でそう言った。結局、春千夜君の言いたいことは分からず終いだ。けれども、今はそんなことを追及している場合ではなかった。熱があるかもしれないのだ。
「もう家に帰った方がよくない? もしかしたら風邪の引き始めかもしれないし。そうだ、千壽はどこだっけ? 千壽ーー!!」
オレが名前を呼ぶと、千壽が「タケミチどうした?」と近寄って来た。
「春千夜君の様子が変なんだよ。風邪を引いたのかもしれないから、今から家に帰そうと思うんだけど、千壽が付き添ってやってよ」
オレの言葉に千壽は「ん?」という顔をした。それから「あー
…
。それは、ムリだ」と言った。
「なんで?」
「あ、自分、今夜はエマんちで女子会する約束してんだよ」
「そうなんだ」
「だから、タケミチが春兄をうちに送って行ってくんない? で、そのままうちに泊まってよ。武臣兄ちゃんも今夜は帰って来ないんだよね。春兄だけじゃ心配だからさ。な? いいよな?」
千壽の瞳は必死だった。余程、エマと女子会をしたいらしい。
「分かった。じゃあ、オレが泊まりに行くしかないか」
オレがそう言うと、千壽は二ッと笑って親指を立てた。でもその視線はオレの頭上にあって目が合わない。オレじゃなくて、オレの背後にしているようだと思って振り向くと、すぐそばに立っていた春千夜君が、さっと右手を隠すのが見えた。
「タケミチ、春兄を頼んだぞ!」
千壽はそう言いながら、オレの前から立ち去って行った。残されたオレは、春千夜君を帰るように説得しようと背後を振り返ると、春千夜君は「じゃあ、帰るか」と、すんなり帰ることに同意していた。
集会命の春千夜君は素直に帰るなんてと驚いたけれど、素直に帰ると言っているのだから、オレは黙って春千夜君の家に付き添ったのだった。
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