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かいえ
2025-02-18 22:18:15
8242文字
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【半+ドラ×武】映画鑑賞の夜
去年の7月に実写映画を観た後に書いた「Home sweet home !」(
https://privatter.me/page/67b300a18348d
) の続編
8,240文字
モブ視点です
2023年11月に行った新体験展の黒板で、ドラケンのところに貼られていた山岸メモに「週に1回半間とタイマンをはっている」と書かれていて、半間とドラケンが最後の世界線でも(武道を取り合って)戦いを継続している事実(妄想です)を知り、半武ドラが再燃して妄想しまくった挙句書き散らして、2月にXに掲載したものを誤字脱字を修正して加筆したもの
「ここ?」
職場の同僚の花垣君に誘われて彼の自宅に来たオレは、思っていたのとは違うグレードの高そうなマンションに驚いていた。
目の前にあるのはオートロックつきの高級そうなマンションの玄関で、とても新宿歌舞伎町みたいな場末のレンタルビデオ屋のバイト代で支払えるレベルのマンションで無いのは一目瞭然だったからだ。
お金持ちとか、お金持ちとか、お金持ちしか住めない物件にしか見えなくて、オレは呆然と立ち尽くしていた。
「そうですよ」
それなのに、花垣君はさらりと肯定してみせたから、オレとしては唖然とするしかない。もしかして、どこかの金持ちの息子とか言うの? と、オートロックの玄関を開けている花垣君の背中を驚愕して見つめるしかない。
オレは自分の人を見る目に絶大の信頼を置いていた。だから、このマンションはオレの知っている花垣君の人となりからはかなり逸脱していて、驚きというより怖さを感じ始めていた。
同僚としての花垣君を信頼していたから、疑う事なく彼の自宅までほいほい着いてきたのだけれど、このマンションを前にすると裏切られたような、騙されたような、彼に着いて行ってはいけないのかもしれないという、人間が本能として持っている危機感が騒めいた。
このまま花垣君の自宅に行くのではなく、用事を思い出したと引き返した方が良いのではないかという、強迫概念めいたものが、オレの服の襟を引っ張って止めようとしているみたいだった。
花垣君がそんなことをするとは思ってもいなかったけれど、例えば、ねずみ講とか、宗教の勧誘だとか、そういった類のものを勧められるのではないかと危惧してしまったのだ。
それくらい、このマンションは花垣君に不似合いだった。
普通の稼ぎでは絶対住めないのだから、他に収入があると思うのが、成人を過ぎた大人の感覚なのだと思う。
然しながら、花垣君と一緒に働いた数年が、その変な予感みたいなものを打ち消そうとしていて、ここで帰ったら花垣君は悲しむのではないかと囁いてくる。結局、危機感より自分の目を信じて帰らなかったオレは、それでも動揺はしていたみたいで、マンションの玄関なのに、ガラスの自動ドアを抜ける時に「お邪魔します」と、思わず口走って、花垣君に大笑いされたのだった。
「思ったより広い部屋に住んでいるんだね」
平静を装って花垣君に言った。花垣君の自宅は外観から想像がついたが、やはり想像より遥かに広く、そして洗練された物件だ。益々一般人には高嶺の花な物件にしか見えない。
「実は三人でシェアしているんで」
「へぇ
…
シェアかぁ。そうだよね」
そうだよねなんて頷きながら、それでも、三人でシェアしたって払える額ではないだろうとオレは思っていた。少し落ち着いたのは、部屋の中にオレを待ち構えているような怖い人間が居なかったからだ。後から入って来るという算段かもしれないのだけれど。
花垣君を疑いたい訳では無かったけれど、この世の中にはひどい人間もいっぱいて、或る程度自衛出来ない人間は何もかも搾取されてしまうのだから仕方がない。下手をすれば財産どころか命だった危ういのだ。このマンションがあるのは東京23区内、しかも、土地代の高い渋谷で、この広さとグレードの高さなのだから、警戒レベルも上がるというものなのだ。
「あ、好きな場所に座っててよ」
花垣君はリビングにオレを残してシャワーを浴びに行ってしまった。部屋着に早く着替えたいとのことだった。オレは広いリビングのソファに、そっと腰を掛けた。リビングも広いけれどソファも広くて、どうにも落ち着かない。
3人でシェアしているという話だったから部屋が広いのは分かるけれど、リビングに置いてある家具や家電までが高級そうなのは、どうやって理由付けたしたら良いのか分からない。
同居人がお金持ちとか?
それなら、かなり現実的な理由である気がして、勝手にそれで納得することにした。
部屋の中はとても静かで、余計に落ち着かない。テレビでもつけていってもらえば良かったと思っても後の祭りだ。仕方がないので、リビングの隅々まで見回しているしかない。そして、見れば見る程、どう考えても花垣君のイメージと結びつかなくて、先程無理やり納得したというのに、またむくむくと猜疑心が沸いてきてくる。
それにしても、この立派なリビングの座り心地の良いソファに座っていると、あまりにも自分の存在が浮いている気がして、お尻が落ち着かなくなってくる。オレは根っからの貧乏性なのだ。例え、この先成功したとしても、こんな部屋に住んでいる自分は想像がつかなかった。やはりどう考えたって、この自宅は普段の花垣君からはミリも想像もできない。何しろ、花垣君ときたら、お昼休みは大抵コンビニ弁当か、インスタント食品を食べているのだ。身に着けている服だって量販店の安物だったから、オレと同じくらいの生活レベルだと勝手に思い込んでいた。だから、花垣君が住んでいる家は、多分、古い木造のアパートで1Kで、座るとこのないゴミ部屋みたいな、緊張することもない部屋に住んでいる筈だと思っていた。
「お待たせ~」
花垣君は木製のトレイに、飲み物とつまみを載せて戻って来た。服は着替えて半袖短パンの部屋着に着替えている。シャワーを浴びた後に髪を乾かしていないみたいで、毛先から雫がぽたぽたと落ちて、高級そうな床やじゅうたんに水のシミを付けていた。花垣君は首にフェイスタオルを巻いたままで、見た感じかなり庶民っぽいさを出していた。その恰好の花垣君なら、オレが想像したボロアパートの住人にぴったり当てはまる気がした。
そんなことを思われているとは絶対思っていないだろう花垣君は、オレの前にオードブルらしきものを置いた。これもまた驚きしかなかった。
家で映画鑑賞をしながら飲もうと誘われた時は、コンビニで買った缶チューハイとつまみを食べながらするのだと、信じて疑わなかったからだ。けれども、この家に来る途中で花垣君がコンビニに立ち寄らなかったので、一体どうするつもりなのだろうと疑問には思っていたのだけれど、まさか飲み物もつまみも用意されているとは思わず、今夜はどこまでも予想外の出来事だらけだった。
花垣君はオレの前に缶ビールを置いた。その缶ビールは良く冷えていて、随分前から冷蔵庫に入っていたものだと直ぐ分かる。花垣君の生活レベルがビールを買い置きできるくらいなのだと実感させられて、改めて同じくらいの生活レベルだと思っていた自分がバカみたいに思えてくる。オレの目は、もしかすると節穴なのかもしれない。
花垣君は全て置き終わると、オレの横に座った。思ったより近い距離に腰を下ろした花垣君からは、お風呂上がりの匂いがしてドキリとする。甘い果実の香りに混ざるツンとした香料の香りが鼻腔を擽った。それは、普段嗅ぐ事の無い異国の香りだ。
「これ花垣君が作ったの?」
改めて、目の前に置かれたつまみをまじまじと見ながら尋ねた。スクエア型の白い皿の上には、スティック状にした生野菜とディップ。生ハムとサラミが載っていた。外国映画で主人公が彼女と食べていそうなものばかりで目を見張る。
「そうだけど」
「こんなお洒落なつまみを花垣君が作るなんて
……
」
仕事中の花垣君からは全く想像がつかなかった。後半の感想はもちろん声に出してはいない。本人を前にしてあまりにも失礼な感想だからだ。
「なんだよ。これくらい作れるって」
花垣君がふくれっ面で答える。
「だって、お昼はいつも買って来たものを食べてるよね? 手作り弁当を一度も持って来ていないんだから、料理ができると思わないだろ?」
ビデオレンタル屋の奥の従業員用の休憩室で、花垣君はいつもカップ麺を啜っているイメージがあった。手作りの弁当を食べている事は一度だってなかったから、自炊は出来ないのだと思っていた。男の一人暮らしなんて。大体そんなものだから普通の話だ。
「それは、朝はぎりぎりまで寝ていたいからだよ」
「そうなんだ」
「それに、これ、全然難しくないし。野菜を棒状に切るだけだから。で、実はこのディップは同居人が作り置きしてたやつを拝借したんだ」
「料理上手な同居人なんだね」
「うん」
花垣君に勧められ一口食べてみたら、あまりにも美味しいので、今度は、同居人は男ではないのかもしれないと思ってしまった。そこまでオレの予想に反していたら、何か立ち直れない気がした。
「もしかして同居人って女の人?」
っていうか、同居人が女性なら同棲かもしれない。それもオレの予想を遥かに超えていた。オレの見立てでは、花垣君は童貞で彼女は居ないことになっているのだ。だって、一度も恋人の話が出たことがない。
「え? 違うよ、男だよ、二人とも」
「へぇ
…
男三人にしては綺麗な部屋だね」
花垣君の返事にオレはホッとしてしまっていた。貴重な童貞仲間を失いたくなかったのかもしれない。
「そうだね。二人とも綺麗好きかも」
「花垣君は違うの?」
「オレは
…
一人で住んでいたらきっと汚部屋の住人になると思う」
まるで実際そうなったことがあるような口ぶりだった。けれども、そう聞いてオレは何だかちょっとホッとしていた。花垣君のイメージと言っては怒られるかもだけれど、こんな綺麗な部屋ではない汚部屋にいる花垣君なら、オレの知っている花垣君のイメージと相違がないと思ったのだ。
「今日は同居人は居ないの?」
「うん。二人共仕事で今夜は帰ってこないんだ。だから誘ったんだよ。映画好きの奴と、一度オールで映画鑑賞をしてみたかったんだよね」
花垣君は年齢より幼い笑みを浮かべてそう言った。どうやら花垣君の同居人は映画鑑賞の趣味はないようだ。オレは花垣君の映画好き枠に入れて貰えて光栄だと思って笑みを返した。
「ビールで良かった?」
「うん」
花垣君から「はい」と手渡された缶ビールは見た目通り良く冷えていた。プルトップを開けそのまま飲み口に口をつけて喉に流し込む。このアルコールが喉から胃に勢いよく流れ込む瞬間は、いつも仕事から解放されたという気持ちになる。
花垣君が作ったつまみを食べながら、店から借りて来たDVD鑑賞会が始まった。
花垣君は本当に映画が好きみたいで、黙ってじっと画面を見続けている。その横顔は仕事中に見た事がないくらい真剣なものだったから、今夜は花垣君の別の一面を沢山見られる日だなとオレは感慨深く思った。
一本目の映画を観終わって、お互いの感想を言い合った。今まで仕事中の暇な時間に、ちょこちょこと観た映画のことを話したことはあったが、こんな風に一つの映画についてじっくり語り合ったことは無かった。
花垣君は主にカメラワークや演出について話し、オレは俳優の演技やストーリーについて話した。
そして、オレはあることに気がついた。
オレがいつか映画の仕事に携わりたいと思っているように、花垣君もそう思っているのだと。
そして、花垣君がなりたいのは映画監督に違いないと思った。本人に自覚があるかどうかは分からなかったが、花垣君はずっと自分だったらこうやって撮影するという目線で話していたのだ。
「すげぇ楽しい」
しばらくして、花垣君はそう言った。オレとの会話をそこまで楽しんでくれて、凄く嬉しくなった。ただ、花垣君はビールを飲み過ぎているみたいだった。何故なら、花垣君の身体は芯が無くなった軟体動物のようになって、ぐにゃぐにゃしていたし、先ほどからオレの方にしなだれかかってきていて、今はオレの肩に頭を預けているのだ。髪はもうそんなに濡れてはいなかったが、それでもオレの右肩をしっとりさせるくらいの影響はあった。
しばらくは催した尿意を我慢していたのだが、どんどん重くなってくる花垣君の頭を感じて、これはもう寝てしまうコースだろうと結論付けた。実際その通りで、酔っぱらった花垣君をぐいっと押し戻すと、花垣君は座った状態のまま反対側に倒れていってしまった。そして、腰かけたまま、上半身はソファに預け、捻ったような状態でうとうとしていた。オレの膀胱は限界だったので、ひとまずトイレに行き、その後、お開きにするかどうかは、用を足してから考える事にした。
そうしてトイレを借りたオレは、廊下に出た瞬間、背中に殺気を感じてビクっと身体を震わせた。
「おまえ、ダレ?」
知らない男の声で背後から声を掛けられて、誰かいるのだと「ひっ!」と悲鳴を上げてしまった。恐る恐る振り返り見たオレの背後に立つ人物は、とても背が高い男だった。2メーター近くあるのではないかと推測できる。そいつは、背筋がゾクリとする怖そうな笑みを浮かべていて、何故か「殺される」と直感的に思ってしまった。
「あ
…
オレは花垣君の同僚です」
「へぇ
…
同僚? その同僚がなんで、オレんちに居るの?」
この人、花垣君の同居人なんだと、オレは意外に思い目を見開いていた。同居人じゃなかったら不法侵入者になるのだけれど、その時はそう思ったくらいガラの悪い男に見えた。それどころか、花垣君の友達とは思えない悪のオーラをその男は纏っている。映画の登場人物だとしたら、絶対悪役で間違いないそんな人相と雰囲気を醸し出していた。
「DVD鑑賞をしておりました!」
オレは恐怖から背筋を伸ばして叫んでいた。
「ナニ、おたく自衛隊の人?」
そう言ってククッと笑った同居人は、それでも目は笑っていなかった。やっぱり殺される気がして身構えていたのだけれど、同居人の興味はもうオレでは無くなっていた。オレの横を通り抜けて同居人はリビングに向かって行ったのだ。まっすぐにソファで寝ている花垣君の方に向かう足取りに迷いは無かった。同居人なんだからこの家の間取りが分かっているのは当たり前なのだけれど、まだ本当に同居人なのか納得できていなかった。
「タケミチ」
同居人は花垣君の下の名前で呼んだ。随分親しそうだ。
「んー」
「なに、酔っぱらってんだよ」
「あー半間君? おかえりー」
呂律の回らない舌っ足らずな声は幼稚で、まるで男に甘えているような印象を受ける。オレがリビングの扉の辺りで立ち尽くしていると、半間と呼ばれた同居人は花垣君を軽々と横抱きした。いわゆるお姫様抱っこと呼ばれているやつである。そして、オレを無視してそのまま別の扉から出て行ってしまった。更に奥の方で扉が閉まる音がして、辺りは急に静かになった。
花垣君はどこに連れて行かれたのだろうかと心配になって、二人が出て行った扉までそっと近付くと、話し声が聞こえてきて立ち止まった。
「こんな姿、他の男に見せてるんじゃねぇよ」
それは長身の半間という男の声だった。
「ごめんなさい」
謝っている弱々しい花垣君の声も聴こえてドキリとする。
良く分からないけれど、半間という男は怒っていて、花垣君は謝らされているのだ。
不穏な空気に、これは助けに行かないといけないのか? と、オレは恐ろしさでドキドキしていた。半間という男は関わってはいけない人だと、自分の中でアラートが鳴っていたからだ。半間からは絶対堅気の人間ではないと断言できる禍々しさが滲み出ていた。だから、本当にあんな恐ろしい男と花垣君が同居しているのだろうかと疑いたくなる。けれども、半間と言う男は花垣君のことをタケミチと呼んだし、花垣君も半間君と呼んだのだから、同居人で間違いないのだ。
「あっ
…
」
急に花垣君の艶っぽい声が聞こえてオレは固まった。
「やっ
…
はん
…
ま
…
くん
…
だ
…
め
…
」
「こんな格好でオトコ連れ込んだ罰は受けねぇとな」
「ひっ
…
」
「オレの留守中にこんなことするなんてな。裏切りかよ」
「ちがっ
…
映画を
…
」
オレは完全に固まっていた。
これって、アレしてる? アレだよアレ? つまり、その、花垣君が同居人とセックスしてるとか言う?
いや、待て。これは、そう見せかけてのマッサージというオチかもしれない。勘違いしたオレが慌てて扉を開けたら、花垣君は半間と言う男にマッサージをして貰っているだけで、オレが赤っ恥をかくやつ!
絶対そうだ! 騙されてはいけない。しかし、なんていやらしい声を出すんだ、花垣君! とオレは思ってしまった。
「ッセ。分かってないみたいだから、分からせてやるって言ってんだよ」
「あっ、あっ、やぁ
…
そんなとこ舐めないで
…
ひぃん
…
」
分からせてやる? そんなとこ舐めないで?
マッサージに分からせることなんかあったっけ?
マッサージで舐めることなんてあったっけ?
オレは段々宇宙猫になっていった。
その間にも「まって」という花垣君の切なげな声と「待てぇねぇよ」という悪役が言いそうなセリフが聞こえてくる。
あ、もしかしてエロビデオ見てるんじゃ? と閃いた時、オレは肩を叩かれて飛び上がった。
「おまえ、誰? オレらの寝室の前で何してんの?」
そこに居たのは、半間君に負けず劣らず背の高い辮髪の男だった。髪型も凄かったが、側頭部に彫られているドラゴンの入れ墨も凄かった。眼差しは半間よりもマシだったが、それでも睨むだけで相手がビビりそうなくらいの眼力は持っている。正直言えば、もう一目散に、このマンションから逃げ出したかった。
「あ、同僚のものです
…
花垣君とDVDを観ていたら、花垣君が途中で寝てしまいまして。そこに半間君という人が帰宅してですね、花垣君をこの部屋に連れて行ってしまいまして
…
オレはどうしたら良いものか分からず途方に暮れているところです
…
」
オレはオタクのように早口でしゃべり終えた。もう一刻も早くここでは無い所に行きたいと切に願っていた。
「ああ
…
」
オレのたどたどしい説明で、ドラゴンの入れ墨をしている男は納得してくれたようだった。
「花垣のことは心配しなくて大丈夫だから。オレは同居人の龍宮寺だ。タケミチがいつもお世話になっているんだよな」
「あ
…
はい
…
あっ、いいえ」
「どっちだよ」
そう言って笑う龍宮寺は男らしく、見た目の厳つさより性根の真っ直ぐな人に思えてた。一先ず、そんな人がもう一人の同居人だと知れて、オレはホッとしてしまっていた。
「あっ! はんまくんっ! そんな
…
ムリだからぁ」
再び、花垣君の切なげな声が聞こえ、今度は半間の声の代わりにパンパンという肉と肉がぶつかるような乾いた音が聞こえてきたから。オレも龍宮寺さんも固まった。
「あ
…
あ
…
あ
…
あん
…
んんっ
…
」
重い沈黙が二人の間に流れている間も、花垣君の声は聞こえっぱなしで、これはもうアレの時の声としか思えなくて、非常に気まずい思いをすることになった。龍宮寺さんは「はぁ
…
」と頭を抱えていた。それから「悪いけど、今夜は帰ってもらえる?」と、オレにお願いしてきたから「あ、はい」と、オレは即座に承諾した。
その時見た龍宮寺さんの瞳に、先程までなかった情欲が見えて、オレは見てはいけないものを見た気になった。何も言わずソファに戻り、自分の荷物を持って、そのままそそくさと玄関に向かった。
一応「お邪魔しました」と、廊下の奥に向かって声を掛けたが、龍宮寺さんからの返答はなかった。きっと、あの部屋に入って行ったのだと思って、ドキドキが止まらなくなった。
オレは急いで玄関を出た。背後で自動で施錠する音が聴こえてドキリとする。
これから先に花垣君の身に起きることを考えて、オレの脳内には職場の成人向けのタイトルがいくつも浮かんできていた。
きっと、今夜の花垣君は寝かしてもらえないだろう。明日の朝は仕事に行くぎりぎりまで寝ていたくなるくらい、あの二人に愛されちゃうんだと考えて、動悸がもっと激しくなるのを止められなかった。
明日職場で会った時、オレは花垣君に対してどんな顔をすれば良いのだろうかと、考えながら駅までの道を歩くことにした。
今夜の映画鑑賞で、実際に見た映画は1本だけだったけれど、先ほどまでの信じられない体験は、まるで映画の中の登場人物になったみたいではないかと思った。
そうして、オレの役は主人公の職場の同僚という名前のないモブだった。
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