ゆきと
2025-02-18 17:56:13
3711文字
Public DQ3(その他)
 

little magic

いがたろさんから頂いたルフェの絵をみておもいついたもの。頂いた日は勇者クンの誕生日ということにしました。はぴば。
ちょっと無理やり落としたのでアレなんですけど…

 ぱち、と大きな音を立てて焚き木が爆ぜる。
 ルフェは視線を上げて、揺れる炎に目を細めた。弱い風に揺れる炎は、かけられた鍋を熱するのと同じ強さで顔を照らしてくる。久しぶりの感触だった。こうして焚き火と木の葉の音、煮立ったスープの香りを感じるのはいつぶりだろう。船を手に入れてからは海路での移動が多く、夜も船室で過ごすことばかりで、今日のような森での野営には懐かしさすら感じる。出会ったあの日は昨日のように鮮明なのだけれど。
 もう一度炎が爆ぜる。その音を最後に、木の葉の音も聞こえなくなった。頃合いだろうか。ルフェは荷物から今日の道具を取り出すと、武器の手入れに集中している勇者へと近寄った。
「ねぇアルス、ちょっと練習につきあってくれない?」
「練習?」
 顔を上げたアルスは、軽く首を傾げながら応じた。そう練習、と笑顔ともに告げて、今日の道具であるピンクと白の帽子を差し出す。
「これ見て」
「おまえの昔の帽子?」
「中に何もないよね」
 訝しげに受け取って瞬きひとつ、彼は合点がいったようにつぶやいた。
「ああ、手品の練習か」
「そうそう、ちゃんと見破ってよ。好きなだけ検分して」
 頷くと、帽子を裏返してみたり先端の玉をにぎってみたり、と彼なりに怪しいと思う場所を確認する。ひとしきり触ったあと、わずかに眉をひそめて帽子を差し出した。
「何もない、と、思う」
「確認ありがとう。振っても何もでてきません、ご覧の通りただの帽子です」
 受け取ったルフェは笑顔を深めると、帽子を持ち上げて大きく振ってみせた。アルスは注意深く動きを追うものの、はらはらと舞うのはほこりのようなものだけだ。だが意味のない動きをするとは思えない。ルフェに帽子を返したのは失策のような気がした。
「えーと、おれが持ってていいか?」
「もちろん。疑い深くて結構。なんたってただの帽子だからね」
 戻ってきた帽子を、アルスはもう一度観察した。どこからどうみてもただのとんがり帽子だ。
「でもね、俺から目をそらさないほうがいいと思うよ?」
 からかいまじりのルフェの声音に、弾かれたようにアルスが顔を上げると、目の前にはルフェの整った指先があった。どういう意味かと問う前に、指が小気味良い音を鳴らす。
 パチッ、という音と同時に、アルスの目の前で小さな星が飛び散った。間髪いれずにぱちぱちと弾ける音が周囲から聞こえて、その刺激に自分がずいぶんと視野が狭まっていたことを自覚する。慌てて周囲に意識を向けると、今度はクラッカーの音とともにあたり一面を色とりどりの星やバルーンの幻影が埋め尽くした。
「正真正銘ただの帽子でした〜、本命は俺!それっ、ハッピーバースデー!」
 掛け声とともにもう一度クラッカーと幻影が弾けて、音の源が背後に有ったことを知る。視線の先で、クラッカーを手にリドが悪戯じみた笑みを浮かべていた。
「おめでとー!」
 スープの調理に集中していたはずのレナーテもいつのまにかこちらを見ていて、リドと声を揃えて祝福を口にする。完全にその意識がなく、不意打ちを受けたアルスは、しばらく呆けた後ええと、と言葉をひねり出した。
……ありがとう。今のは……?」
≪幻影魔法≫マヌーサのアレンジみたいなもの、かな」
 そういってルフェは微笑む。クラッカーの音に紛れて吐息に混ぜて唱えた呪文は、うまくごまかせていたらしい。厳密に言うとマヌーサではないのだが、基本的な原理は同じなので補足はしないことにした。
 魔法、と繰り返して呟くアルスに、リドが鼻を鳴らす。
「全部魔法じゃないけどな、音はオレが手伝ったし。ったく、めんどくさいもの調達させやがって」
「今はスープのベーコンを多めにするくらいしか出来ないけど、次の大きな街に着いたらパーティしましょ! 私たちが出会って1年のお祝いでもあるもの」
 言いながら、レナーテはスープを取り分けていく。木製の軽い食器にベーコンと豆のスープを注いで、スパイスを振りかけて仕上げたものを最初にアルスに差し出した。礼を言って受け取る様子を眺めながら、ルフェは一応軽口を叩いておくことにする。
「ねーさんは飲みたいだけでしょ」
「ルーちゃんには付き合ってもらうわよ」
「よろこんで」
 同じようにスープを受け取りながら応える。4人全員に配膳されるのを待って、レナーテの祈りの言葉を復唱してからスープに口をつけた。
 強めのスパイスの香りが鼻を抜けていく。おそらく食欲を誘うだろう。ベーコン増量にした甲斐があってか、肉の旨味と塩味がよく出ていた。少し濃い気もするが、久しぶりの徒歩で疲れた体に染みるのではないかと思う。実際、リドはすごい勢いですすっている。
 その横で、本日の主役は好物のはずのスープに手を付けず、その水面を見つめていた。
1年か」
 静かな言葉からは、感情が読めない。ならば今日の空気は軽い方がよかろうと考えながら、ルフェは相槌を打った。
「1年だよ。早いよね。身長、少年に追いつかれそうじゃん」
っ、いわないでくれ」
「このスピードだとひやひやするねえ」
「抜くぞー。見てろルフェ、お前も抜くからな」
「どうぞどうぞ」
「少しは嫌がれよ!」
「はいはい、落ち着いて」
 レナーテはリドをなだめつつ、焚火にかけていた干し肉を少年に手渡した。素直に受け取った少年は肉に食らいつきながら、だが依然として膨れ面でルフェに視線を向けている。リドは盗賊としてどうかと思うほどに情動の表現がわかりやすい。どっかの誰かさんに見習ってほしいよねとルフェは内心でつぶやく。
そういえば、皆はいつ生まれたんだ?」
 その誰かさんは、珍しいことを口にした。ルフェと同じくあまり他人に寄る辺を求めない彼は、積極的に歩み寄る言動が少ない。良い傾向かもしれないと感じつつ、ルフェはひとまず動向を見守ることにした。
「6月3日よ」
「4月の半ばって聞いてる。お祝いは15日にしてもらってた」
「日付はわからないのか?」
「毎日暦を見る余裕がある生活じゃなかったからな、ルフェは?」
 リドは過去の事情をあっけらかんと告げると、ルフェに矛先を向けた。用意していた答えをすぐに返す。 
「11月ってことしか覚えてないかな〜、俺、親元離れたの早かったからね」
「あら、お祝いをいつしたら良いか困るわね」
「毎日祝ってくれてもいいよ?」
 追及を避ける彼女なりの配慮に感謝の意をこめながら口角をあげて返すと、横からリドが乗ってきた。
「11月になったら毎日靴に小石いれてやるよ」
「毎日呪うのはやめてほしいなあ」
「お望み通り毎日プレゼントしてやるって言ってんだろ」

……
「ん?どしたの?」
いや、結構遠いなと思って」
 アルスの言葉に、答えあぐねてルフェは息を飲み込んだ。短絡的な返しも、軽率な約束も、ただの同調も、そのどれもが違うと直感が告げていた。
 この1年を早いと評した自分と、それより短い期間を遠いと感じた彼。あの日に懐かしさを感じつつもやはり昨日のようで、ルフェにとってこの1年はこれまでの人生の中で一番早い日々だった。しかし勇者にとっては違うのだろう。険しい戦いの日々を苦しく感じていたのかもしれない。あるいは、11月を迎える頃には旅が終わって別れているという示唆かもしれない。横たわる感覚の差はいつだって渡りきれぬものだろうが、それでも彼我に思いを馳せることは許されるはずだと、ルフェはアルスの視線を追って空を見上げる。その方角にネクロゴンドがあることは偶然だろうと片付けて、勇者の横顔に視線を戻す。一瞬の思慮の末に出てきた言葉は。
「そんなに俺の誕生日が待ち遠しい?」
 ずいぶんと軽薄なものであったけれど。
「お礼はちゃんとしておきたい」
「律儀だなあ、きみは」
「おまえみたいな魔法は使えないから、面白いことはできないけど」
「大丈夫大丈夫、期待してない。ゆっくり考えてよ」
 バブルスライムを掴みとるより手ごたえがないとばかり思っていたが、一応これまでの努力は響いているらしい。「ああ、そうする」と短く答えてスープを呷るアルスに合わせて、ルフェも食器を傾けた。スパイスの刺激がちりちりと舌をやく。干し肉も珍しい香草を添えて焼かれていたし、誕生日ということで相当食材を奮発したのだろう。
「アルスー、手伝ったオレには?」
「何を買うのか考えとく」
「じゃあ主役さん、もう一杯プレゼントはいかがかしら?」
「ありがとう。今日のごはん、すごく美味しい」
「これが私の魔法だから。はい、どうぞ」
 彼らのやりとりをみながら、こういうところずるいよね、と無自覚の魔法使いに内心でごちる。相手が望む報酬を的確に把握しているからだ。それなら自分にも差し出してくれたらよいのにと思わなくもないが、同時にそれではつまらないと思う。自分が彼に向けているまなざしが、魔法なんかで片付けられたら面白くないではないか。
 ルフェは最後の一口を含むと、口内で転がした豆を丁寧にすりつぶして飲み下した。