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いまち
2025-02-17 23:33:20
13526文字
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雛鳥の朝仕事
ラブコメっぽいことをさせておいた。
沼でバカの量のタニシをタライいっぱいに持ち帰ってばあちゃんに料理してもらった。って身内の話が面白すぎたのでネタにしました()
うつらうつらと目が覚めてくるのを感じる。もう少し寝ていたいようなけだるさにぼうっとしていると、慣れたベッドとは違う感触に気が付いて、そういえば。と、寝る前の状況を思い出した。
リリアさんの昔のことを気にしながら調合していたら、どういうわけかその昔のリリアさんのところに来てしまった、らしい。実感はないし、なんとも信じがたい状況だけど、困ったことに夢でも幻でもない現実のようだった。
リリアさんの歳から数えると今私がいるのは400年くらい前の茨の谷ってことになる。この時代では茨の谷は人間とたいへんな争いをしている真っ最中。もちろんそんな時代に私の家なんてない。なんなら、状況を思えば今からお家を借りたりして居場所を作る、なんてのも無理そう。だから、リリアさんに頼み込んで、ケガのお手当てとかお料理とかする代わりにここの隊に混ぜてもらえることになったんだっけ。
だから、ここに居続けるためにもさっさと起きて朝ごはんの用意をしないといけない。それに、いつまでもこんな固いところで寝てたんじゃ身体にもよくないもんね。
(あれ?)
考えていて違和感を覚えた。ゆうべ寝る時に焚き火の近くで横になっていたはずだ。岩の多い川の近くでありながら、まだマシだろうと思える柔らかそうな草の上にいたはず。なのに、今横になっているここに草らしい感触もなければ匂いもしない。なんなら、身体の上に毛布かなにかがかかっている感じすらある。
どう考えても寝ていた場所じゃない。そんな状態に気付いて寝たままでいられるわけもなく目蓋を開くと、髪の毛の一部を赤く染めた黒い髪が目について、ついで、つややかな髪に囲まれたちょっぴり子供っぽい寝顔が目の前にあった。
「
……
うぇ?」
目だけで辺りを見回すとどうやらここはテントの中で、私はリリアさんと同じ毛布を被って眠っていた、らしい。私のすぐ隣で眠っているらしいリリアさんは身体を丸めながら寝息を立てている。夢見がよくないのか、寝顔とは思えない険しい顔をしていた。
この状況がなんなのかってそのまま考えれば、私はリリアさんのテントで、リリアさんの隣で、リリアさんといっしょの毛布を使って寝ている。
……
ってことになるのかな?
そうは思うもどうしてこうなっているのか分からないし、あまりに予想外な事態なもので現実感がまるでない。かぶってる毛布の感触やテントの床越しに感じる地面の固さを思えば、現実なんだろうなとは思うけど、なんというか実感がない。
今の状況を確認するにはまずは起きて辺りを見てみるべきとは思う。けど、このまま身体を起こせばリリアさんまで起こしてしまいそう。せっかく眠っているのに起こすのはよくないかも。それに、はしたないかもだけど、もう少しこうしていたいとも思ってしまい、そのままリリアさんの寝顔を眺めた。
この国の妖精さんらしい雪のように白くてすべすべしたお肌も、伏せられてもしっかり影が落ちる長い睫も、つんと形よく尖った鼻も、小造りなわりに大きな口も、私の見知っているリリアさんそのものだ。とてもじゃないけど400年も前の姿とは思えない。
けども、ゆうべから見た表情はといえば、私の知るリリアさんとまるで違う。険のある冷たい目にはぞっとさせられて、笑顔なんてまるでない。今だって眠っているのにおっかない感じで顔をしかめている。
「
……
」
人と妖精の間の争いがあって、その前線で戦っていれば、こんな顔にもなっちゃうのかも。争いの経験がない私でもなんとなく想像できた。
自分の身だって危ないのに、マレフィシアさまやマレウスさんのお母さま、それに茨の谷に住むひとたちを守るため戦ってたんだもん。あまり考えたくないけど、苦しい道を選ばなきゃいけないこともあったかもしれない。でも、右大将さまともなれば、弱音なんて吐けるわけもないから全部飲みこんで決めていかなきゃいけない。楽なことなんてあるわけがない中を生きていれば、そりゃあ厳しくも冷たくもなるってものなのかも。
そんなリリアさんが私の知る朗らかなひとになるまで、一体どれほどのことがあったんだろ? やっぱり、マレウスさんのお母さんとか、いない人にされた奥さんの影響なのかな? かたくななリリアさんの心を解いて、大嫌いなはずの人間であるシルバーさんを育てるまでになるんだもん。私には想像もできないようなことがあったんだろうなってつい思ってしまった。
そこまでひとを変えるのも大変なことだけど、それよりも、リリアさんがそれを受け入れたことに、すごーくもやもやしてしまった。リリアさんって柔軟なようでも意外と頑固なとこがあるんだもん。そんなリリアさんを変えちゃって、リリアさん自身もそれを許してるんだから、羨ましくも妬ましいって思っちゃって、頭の奥がチリチリ焼かれたように痛んだ気がした。
もやもやしながら見つめていると、ふいにリリアさんが目を覚ました。
「あ
……
」
薄く開いた赤い瞳についつい目が釘付けになってしまう。深い色味は細い瞳孔の形も相まって宝石のよう。近くで見るといかにキレイなのかよく分かる
――
ぼうっとそんなことを考えていると、急に背中に冷たいものが走った。遅れて、リリアさんに睨まれているのに気付いてゾッとした。
そうだ、そもそも私は外で寝てたはずなのに、なんでリリアさんの隣にいるんだろ。なにがどうなってこんなことになってるのか分からないけど、それはきっとリリアさんも一緒だ。リリアさんからすればアヤシイ人間が自分のテントに勝手に入って、その上毛布まで使ってるってことになる。どう考えてもいい気はしない。それどころか寝込みを襲おうとか、悪巧みをしてると思われても不思議じゃない。
もちろん、私にそんなつもりはない。まぁ、リリアさんの側にいられて嬉しいな。とか、リリアさんの寝顔を近くで見られてドキドキするな。とか、うっすら感じられる体温がとっても心地いいな。とか、そんなささやかな下心はあるけど、誓ってリリアさんを害そうとか、右大将さまの持ち物にイタズラや細工をしようとかそんな悪だくみはしていない。そもそも、ここに来た覚えもないんだもん。
「あ、と、ごめんな
――
」
なにはともあれ、今はとにかくリリアさんから離れて、悪いことを考えてたわけじゃないって言っておかないとだ。そう思って起きようとした。
「みぎゃっ!?」
「っつ」
途端、髪を引っ張られた感覚がして、枕
……
代わりに敷いたはずのエプロンとは違う、硬いなにかに倒れ込んだ。
「えぶっ!?」
髪を引っ張られた気はしたけど、引っ掛かるような物は見当たらないから、テントの下の石に躓いたとかかな? 薄っすらそんなことを考えながら顔を上げると、ぱっちり開いた赤い瞳と目が合った。見るからに怒っているようではある、けど
――
「ってぇな! ぁンだテメェ!?」
「ぴゃーーーーーっ!?」
くっつきそうなくらい顔が近い。このままキスでもできちゃうんじゃないかって思える距離感だ。リリアさんの怒りっぷりよりそっちに驚いてしまった。驚きだか怖さだかときめきだか分からないけど、身体の中で跳ねまわってるんじゃないかってくらい心臓が踊り狂っている。ただでさえよく分からない状況なのに、こんなことになって、頭の中はぐちゃぐちゃになってしまった。
いや、とにもかくにもまずはどかなきゃだ。なんせ、転んだ先はリリアさんのお腹の上。仰向けのリリアさんの上に私が腹ばいになってる状態だ。
子供の頃なんかはこうやってパパやママに乗ったりはしたけど、リリアさんはどっちでもなければ私だって子供じゃない。乗っていい道理なんてない。だから慌てて身を捩ってどこうとした
……
けど、また引っ張られた感覚がして、そのままリリアさんのお腹の上に思いっきり転んでしまった。
「あぐっ!?」
「やかましい! ちったァ大人しくしてろ!」
「ぁい
……
」
「ったく
……
」
けど、そこはさすが右大将さまなのか、私が思いっきり倒れ込んでも不機嫌そうに怒っただけで、痛そうとか、重そうにしてる感じはない。むしろ鎧に縫い付けてある細かな魔法石が食い込んだ分、私の方が痛い思いをしてるのかも。こんなとこで転んだ私が全面的に悪いんだけど。
というか、寝ている間も鎧って着けたままなんだ。まぁ、右大将さまとなると、お休み中でも不測の事態に備えなきゃとかってのがあるのかな? 不思議に思いつつ納得していると、慌ただしい足音が近付いてきた。
「リリア様! どうされましたか!!」
「なんでもねぇ! ガキがスッ転んだだけだ、テメェは持ち場に戻れ!」
「はッ!」
無駄に騒いじゃったせいで見張りの妖精さんも来てしまったらしい。誰か、までは分からないけど、妖精さんの言葉で喋ってたからバウルさんではなさそう。
足音が遠ざかっていくのを聞きながら、さっき言われた通りリリアさんの胸の上で俯きながらじっとしていた。なんせ、顔を上げようものならまた至近距離で見つめ合うことになっちゃうんだもの。とてもじゃないけど心臓がもたない。
「
……
おい、降りろ」
「あ、はい」
視界の隅で魔法石らしい光が瞬いたと思ったら、リリアさんは鬱陶しそうな顔で言ってきた。ちょっぴり名残惜しい気はするものの、さっきみたいに転ばないようゆっくり降りた。引っ張られた感じはなかったから、さっきのは慌ててたからヘンな転び方をしちゃったとかそんなのかな? そんな感じはしなかったと思うけど。
そんなことはいいとして、休んでるところにこんな大騒ぎをしちゃうなんて、本当に悪いことをしてしまった。落ち込む気持ちに引きずられながら、リリアさんの隣に腰を下ろした。
「その、お休みの邪魔をしてごめんなさい
……
」
「んっとだよ。ほら、起きたんならとっとと出てけ」
謝ってはみたものの、リリアさんは寝転がったまま私に背中を向けて、追い払うように手をひらひら振った。
「はい
……
その、お邪魔しました」
声をかけたものの、リリアさんからは返事も反応もなにもない。これ以上私の相手をする気はないってことなんだろう。分っていたこととはいえ、しょんぼりした気になりつつテントを出た。
できることなら、どうしてお外で寝ていたはずの私がここにいたのかって聞きたいところではある。私を見た時のリリアさんに驚いた様子はなかったから、私がここにいるのは分かってたのかも。気になるけど、これ以上騒ぐわけにもいかないから、時間があるときにでも聞いてみようかな。
もし、万が一、リリアさんが私のことを気に入って連れて来たんだったら
――
なんて、夢を見そうになったけど、リリアさんの態度を思えばまずないことだ。あのリリアさんの態度は完全に邪魔もの扱いのそれだ。
「
……
うー」
勝手に期待しておいて、ないって考え直してヘコむなんて、我ながらなに考えてるんだろ。そんな浮かれてる場合じゃないのに。妄想なんてしてないで、ここにいさせてもらうためにもやるべきことをやらないとだ。気を取り直して、まずは顔を洗おうと川辺へ向かった。
朝日に照らされているからか、川を流れる水は目が痛いくらい眩しい。ゆうべは暗くて近くに川があることしか分からなかったけど、流れと川辺の岩の大きさからして、今私たちがいるのは川の上流から中流の間かな?
流れは急だけど生き物はいるらしく、早い流れの中にちょこちょこお魚が泳いでいるのが見える。ゆうべもらったお魚もこの子たちなのかな、なんて思いながら、手がかじかみそうな冷たいお水で顔を洗って、ついでに服も魔法で洗っておいた。
気を失う前に咄嗟に掴んだ杖だけど、ちゃんとここに持ってきていたらしい。喚び出してみればいつも通りに私の手元に現れた。ついでに埋め込んでいた魔法石も無事。これには本当にほっとした。魔法が使えれば着替えの心配はいらないし、不自由はぐっと減るものね。
魔法を使えて、それとちゃんと杖を持っていてよかったとしみじみ思いつつ、杖をしまって空を見上げた。日の高さと空気のひんやり具合からするに、いつもよりお寝坊したくらいの時間かな?
ゆうべバウルさんからは「お昼に出発するからその前にお食事を用意するように」って言われていたから、すぐにでも取り掛かった方がいいかも。とはいえ、さすがに道具もなしにできるわけがないから、見張りのひとにどんな調理道具があるのか聞くことにした。
失礼がないように身支度を整えて、緊張する気持ちを落ち着かせてから、バウルさんが座っていたところに向かった。
ゆうべよりいくぶんか小さくなった焚火の側には、イノシシのようなお面をしたひとが座っていた。どことなくぼうっとしているようだから、さっきリリアさんの様子を見に来たのとは違うひとなのかな。
「おはようございます」
眠たそうにしてるから驚かさないようにそうっと声をかけると、見張りの人は小さく身体をびくつかせて、慌てた様子できょろきょろ辺りを見回した。そして私を見とめると、首を傾げながらこっちに向き直ってきた。
「あのぅ、お食事の用意をしたいんですけど、お料理道具ってありますか?」
「
……
」
聞くと、その人は傍らに置いてあった木箱をよこしてきた。中には少し刃が欠けた包丁と大きさの違うお鍋が三つ、お料理用の杓子、それとお皿なんかの食器が詰められている。私によこしたってことは使っていいんだよね。そう思って受け取った。
「ありがとうございます。お借りしますね」
「
……
」
お礼を言うと、イノシシのひとは鍋に黄色い石を放り込んで草むらを指さした。何かしらの意図があるんだろうけど、何も言わないものだからさっぱり分からない。
一言も声を上げないあたり、よっぽど人間と口をききたくないのかなって気がしてしまった。今の茨の谷の状況を考えれば、人間である私が良く思われないのはしょうがないと思う。だからっていじけてる場合でもない。信頼してもらえるよう働かないといけないはず。しょげそうになった気持ちを持ち直して、少しでも良く思ってもらえるよう、イノシシのひとに笑ってみせた。
「その、少しでも喜んでもらえるように頑張りますね」
けども、その人は何を言うでもなく焚火に目を戻した。そんな態度をとられる気がしていたとはいえちょっと寂しい。ともあれ、道具があるならあとは作るだけだ。気を持ち直して木箱を担ぎ上げた。
見張りとお休みの邪魔にならないように焚火とテントから距離をとって、けど、見張りのひとの目線の先に来るところまで箱を運んでから。なにから手を付けたものか考えた。
ゆうべのバウルさんの話だと食材はあまりないそうだから、まずは食材を集めた方がいいのかも。集めた物を入れるためのカゴなりほしいとこだけど、そんな贅沢なものはなさそうだから、このお鍋と木箱を使えばいいかな? だったらどれを使おうかと木箱の中に目を向けた。
「うわぁ
……
」
そうは思ったものの、木箱もお鍋もちゃんとお手入れしてないのか、どれもこれもあまりキレイな感じがしない。これなら使う前に洗った方がいいかも。とはいえ、ここには食器洗い用のハギレもスポンジもないから、まとめて魔法で洗えばいいかな? そのためにも確認がてら中身を出そうとして、さっき投げ込まれた石が目に付いた。
「あ」
曇った水晶かと思ったその石はよく見ると岩塩だった。ずい分と大きな塊で私の握りこぶしくらいはある。材料どころか調味料すらまともにないこの状況にはすごくありがたい。お鍋に入れてきたってことは、くれたと思っていいんだよね、きっと。
「あの! コレ、ありがとうございます!」
振り向いてイノシシのひとに声をかけると、そのひとは小さく手を上げて返してくれた。口でこそ何も言わないけど返事をくれるってことは、ものすごーく嫌われてるんじゃない、って思っていいのかな? そんな気がしてなんとなく嬉しくなったところで、もらった岩塩をなくさないようスカートのポケットに入れてからお料理道具を洗った。
魔法で洗った道具をこれまた魔法でキレイにした箱にまとめて、さっき示された草むらにきた。わざわざここを指したのなら何かしらの意味があると思うんだけど、いかんせん無口なひとのようだからその意図はまるで分からない。
聞いちゃえばいいんだろうけど、疲れてるみたいなのに無駄に声をかけるのは悪い気もする。ここの人たちの役に立ちたいけど、お邪魔になるつもりもない。だからちょっと考えた。
思いつかないなりに考えて、なんとなく出た結論としては、ここでお料理しなさいってことなのかな。って、そんな気がした。
でも、それはちょっと難しいかも。川から離れてるからお水を持ってくるのは骨だし、ずい分と草も生えてるから、ちょっと火を焚いただけでも火事になりそう。
洗い物のことも考えれば川辺でお料理をしたいけど、そうお願いしてもいいかな? ワガママを言うなー、とかって怒られたりしないかな。やたらと背の高い草の葉っぱを摘みながら考えて、なんとはなしに葉っぱをこねていると、いい匂いがすることに気付いた。
「ん?」
もしかしてと思ってよく見てみれば、この葉っぱもそこらに生えてるものも、食べられる野草や香草だった。もしかして、あの人は食材はここから持ってけ、って教えてくれたのかも?
聞いてみようと手近な香草を摘んで、もう一度、イノシシのお面の人の元に向かった。そのひとは近付いてきた私に何を言うでもなく、座ったまま見上げてきた。
「あの。もしかして、食べられるのがあるって教えてくれたんですか?」
摘んだ香草を差し出して聞いてみればそのひとは小さく頷いた。
「ありがとうございます。あと、お願いなんですが、川の方でお料理したいんですけど、いいですか?」
咎められないかとおそるおそる聞いてみると、そのひとはなんでもないような様子でもう一度頷いた。
「ありがとうございます! 食材を集めたら、すぐお料理しますね!」
改めてイノシシのひとにお礼を言ってから、草むらから摘んだ野草と香草、それとお料理道具が入った木箱を持って川辺に向かった。
嫌われてるのかと思ったけど、聞いたらちゃんと答えてくれるあたり、私が思ったほど嫌われてないのかもしれない。そのわりには一言も話さなかったけど、それだって極端に無口なだけなのかもって思える。なんとなく気が軽くなったところで、お料理支度に取りかかった。
まずはその辺の石でかまどを組んで、大きなお鍋にお湯を沸かしておくことにした。何を作るにしても、たっぷりのお湯があれば困ることはないもんね。
「んーっと
……
」
あとは食材を集めないとだけど、この辺だとなにがあるかな? さすがに葉っぱと塩だけじゃお食事にはならない。近衛隊のひとたちならたくさん動いたりする分いっぱい食べるだろうから、満足してもらうためにもお肉やお魚なんかはしっかり用意しておきたい。バウルさんなんかはセベクくんのおじいさんだし、セベクくんより身体もおっきいから、うーんと作り甲斐がありそう。
それならどこで食材を集めるかだ。ここにはさっきの草むらのほかに目の前の川と、川向こうにそれなりの広さであろう森が見える。なら、お魚を採るか森でお肉を探すかだ。
森からはあまり動物の気配を感じないからお肉が手に入るかは分からない。その点、川にはお魚がいるのは見て取れる。ただ、川の流れはなかなかに早いから魔法でも釣りでもうまく捕れる気はしないかも。釣り、苦手だし。
それならどうしたものかとちょっとだけ考えた。生き物の気配は感じなくともウサギとか鳥とか、それこそ、昨日見たネズミとかの小動物なら息をひそめているだけでいるかもしれない。それにお肉が手に入らなくても、森であれば調味料に使える木の実や根菜なんかも手に入るかもしれない。探してみる価値は十分ありそう。お肉が手に入らなかったらどうにかして川のお魚を採ればいいものね。
「よし、っと」
そうと決め、採取カゴ代わりに空にした木箱を持って森に入ってみることにした。
森の中では意外とたくさんの食材が手に入った。お肉は見つからなかったけど、山菜にキノコに木の実、それと沼でたくさんのタニシが手に入った。特にタニシはすごい。誰も獲ってなかったからか見たことがないくらいおっきい。これだけ大きいなら食べでもたっぷりだろうから、十分お肉代わりになりそう。
十分かなって思えるくらい集めたところで、お鍋を用意していた川辺に戻る。テントの方では他のひとたちも起き始めたようだから、急いでお料理した方がよさそう。
「
……
あれぇ?」
火にかけていたお鍋のお水はすっかり沸いてあつあつの湯気を上げている。けど、なにもしてなかったお鍋ふたつには覚えのないお魚が詰め込まれていた。見た感じでは川から上げたばかりのようで、窮屈そうにお鍋の中でおしくらまんじゅうをしていた。
わざわざこんなところに入れてるってことは誰かが用意してくれたのかな? 見たところ怪しい源素の気配はないから、罠ってこともなさそう。安全なものならイイかな。と、ありがたくいただくことにして、集めた食材とお魚とでさっそくお料理を始めた。
洗浄魔法で食材をキレイにして、火の魔法を使いながらひたすら集めた食材でひたすらお料理を作った。普段のお料理ではこんなに魔法を使わないからちょっと疲れるかも。けど、これからはやってかなきゃだから慣れてかないといけない。
慣れないながらに食材を切って、焼いたお魚から出た油をかき集めて炒め物をして、風魔法で砕いた木の実と岩塩で味付けをした。どれもこれもクセの強い食材なものだから、なかなか味が馴染んでくれなくてちょっと焦っちゃう。
何も言われないけど時間は大丈夫かな? テントの方を見ると、リリアさん含め他のひとたちはみんな起きたようだった。テントを片付けながらリリアさんのお話を聞いているみたい。
日も高くなってきたから急いだ方がいいかも。スープのお鍋に火を足して、出す用意を始めた。できることなら木苺なんかでソースも作りたかったけど、間に合いそうにないから諦めよう。
出来あがったのはお魚の香草焼とタニシと山の幸の炒め物、山菜の茎の炒め物、タニシでお出汁をとったお魚と香草のスープ。岩塩と香草、それと木の実で味付けはできたけど、たぶんパッとしない味なんだろうなって想像がつく。それと、少ない油で作ったからか炒め物もちょっと微妙な感じかも。
調味料もだけど、油もどうにか手に入れたいところ。せめて瓶があれば木の実や生き物からとって集めることができるんだけどな。とはいえ、ないものねだりをしても仕方ない。早く配らないとだ。
「お待たせしましたぁ! お食事です!」
お料理はお鍋で作ったものはお鍋ごと運んで、香草焼は大きなお皿に盛り付けて好きに取ってもらうようにした。運んだものをそれぞれお皿とボウルに盛り付けて
……
テーブルはないから、それぞれ手渡しだったり、なんとなく置けそうなところに置いてお料理を配った。
本当は麦とか小麦粉とか穀物があれば、もっと腹持ちのいいお食事にできたんだけど、今はないから諦めるしかない。集落とかを見つけたら分けてもらえるか聞いてみようかな。そんなことをうっすら考えているうちにお料理を配り終えた。
「これで全部です。お口に合うといいんですけど」
けど、誰も口を付けようとしない。
誰もかれも、私のお料理を見て困ったように口元を歪めるだけだ。怪しい人間が作ったものだから食べたくないって思われたのかな? それとも、お野菜ばかりだからイヤって思われてるのかな? 一応、臭う食材は加熱と香草と洗浄魔法で極力臭い消しはしたんだけど、イヤな匂いがしちゃってるのかもしれない。
イヤがられているのであれば無理に食べろなんて言えない。バウルさんなんかはものすごく険しい顔をしているものだから怖すぎて声をかけていいのかもわからない。
そんな中、口を開いたのはリリアさんだった。探るような、おっかない目をしている。
「おいガキ」
「あ、はい」
……
もしかして、使っちゃいけない食材とかあったのかな? そうだとしたら、知らなかったとはいえとんでもないことをしちゃったかも。ヒヤヒヤしながら答えるとリリアさんはお皿を持ち上げて、じぃっと私を睨みつけた。
「食材なんざ渡してねぇだろ。どうやって作った」
「へっ?」
あまりにもおっかない顔をするものだから、何を言われるのかと思ったらこんなことだった。
「えっと
……
」
ものすごいお叱りじゃなかったことに拍子抜けしつつ、けども責められなかったことにほっとして正直に答えた。今朝獲ったばかりの山菜と香草、タニシと誰かが用意してくれたらしいお魚、それと味付けにはもらった岩塩と森で採ってきた木の実を使った、と。正体不明のお魚についてはリリアさんが顔をしかめたけど、すぐに二人の兵士さんが手を挙げて、自分たちが用意したものだと告白した。
「何も食えないのでは困りますので」
「そうかよ」
「えと、お魚にヘンなものとかが混ざってないのはちゃんと確認してます」
「
……
ふぅん?」
お魚の中に怪しい物が混ざっていないのは分かってたから気にしなかった。けど、怪しまれたりするのなら、誰かが用意したのかって聞くくらいはした方がよかったのかも。時間がなかったからとはいえ、うかつだったのかもしれない。
次同じようなことがあったらそうしよ。ひっそり決めてリリアさんを見ると、少しだけ考えるような顔をしてお料理それぞれを一口ずつ口にした。
ゆっくり噛んで
――
まぁ、硬い山菜も多いし、タニシもコリコリをちょっと通り越してる食感だからよく噛まないと食べづらいんだけど
――
味わってくれてるのかな? じっと目を閉じた。
心なしか空気がぴりぴりしている気がする。バウルさんも他のひとたちもリリアさんの様子を伺っているようだった。なんとなく、ナイトレイブンカレッジのマスターシェフでお料理を採点される時の緊張感に似てるなって思い出してしまった。
時間にしたらほんの数秒ののち、リリアさんの喉がこくっと鳴った。ようやく飲み込んだらしい。リリアさんってこんなにゆっくりお食事をする人だったっけ? なんとなく妙な感じを覚えていると、リリアさんは私に笑いかけた。といっても、見慣れた親しみのあるものじゃない。冷たいうす笑いだ。
「
……
妙な混ぜ物はしてねぇみたいだな?」
「混ぜ物? ですか?」
「はっ!」
混ぜ物もなにも調味料なんてもらったお塩とその辺の木の実しかないんだから、混ぜられるものなんてほとんどない。言わんとする意味が分からないでいると、リリアさんはちらっとバカにするような目を私に向けて、ほかの人たちに声を掛けた。
「おい、テメェら! メシだ。とっとと食っちまえ!」
「はっ!」
リリアさんの号令で他のひとたちもそれぞれに食べ始めた。バウルさんだけは少しばかりためらうような素振りを見せたものの、渋々といった様子でお魚の香草焼きを口にした。
どうだろ。お口に合うかなぁ? 普段のお料理ならマレウスさんやリリアさんから美味しいって言ってもらえてるから、妖精族のひとたちの口に合うものではあるらしい。けど、今ここにいる、趣味も好みもわからない人たちに用意したのは道具も調味料も足りない上、食材の処理も十分ではないあり合わせだ。
できるだけ美味しく食べてもらえるよう工夫したつもりだけど、受け入れてもらえるかはまた別。ここで喜ばれるかどうかで今後の身の振り方が決まると思うと、胃袋をぎゅっと握り締められたような心地がする。
「えと、失礼しますね。おかわりはお鍋にあるので、よかったら食べてください」
反応は気になるけど、今はお荷物にならないようにしないとだ。楽しいお食事の間に人間が側にいたら落ち着かないだろうから、離れた方がよさそう。現にリリアさんとバウルさんは顔をしかめてるんだもの。
川辺に戻って自分用に焼いておいたお魚に塩を振って、山菜だけの炒め物をさっさと食べた。
「うーん
……
」
味は
……
物足りないけど、マズくはないと思う。けど、普段の自分のお料理と比べたらいまふたつくらい足りない。お料理ができるって大口を叩いた手前、こんなのしか作れないんじゃ受けれ入れてもらえるのか不安になってしまう。
それでも、少しでもリリアさんたちの口に合ってくれますように。お祈りしながらリリアさんたちの様子を見ると、なんというか、普通だった。別段マズそうにしてもなければ、やたらと美味しそうにしている感じもない。そんな様子を見れば少なくとも、食べるに値する出来ではあるらしい。
少しだけほっとした。けど、ちょっと悔しい。次はもっと美味しいものを作りたいかも。そのためにはもっと調味料や油になるような材料を集めないとだ。そんなことを考えながらぼうっと眺めていると、ふいにリリアさんと目が合った。
瞬間、ぴりっとした痺れが耳をくすぐった。けどもそれは一瞬のことで、リリアさんはすぐつまらなさそうな顔で私から目を背けただけだった。
リリアさんからすれば、私は敵かもしれない怪しい人間でしかない。分かってはいるものの、リリアさんからあんな目を向けられたことなんてないものだから、なんともやるせない気分にさせられる。
(
……
お片付けしちゃお)
ぐずぐずしてる暇なんてない。これからのためにも、リリアさんたちが出発する前に使えそうな食材を集めておかないとだもんね。それに、争いもあるそうだから、いつなにがあっても対応できるようにばくだんやおくすりの準備もしないとだ。
「よし」
まずはかまどを崩して、炭と生ゴミを源素に還す。それから使った道具を魔法で洗って箱に戻した。あらかた片付けが終わったところで、ユニーク魔法で魔力を回復させるお薬を作って一気に飲んだ。なんせ、お料理にこんなに魔法を使ったことなんてないんだもん。さすがに疲れたし、これから何が起こるか分からないから回復しておこう。いざという時に魔力切れなんて起こしたら元も子もないものね。
残りのお皿とかを片付けるのは向こうのお食事が終わってからでいいかな。日の高さからすればお昼までまだ時間がありそうだから、それまでさっきの森で食材を集めようかな。洗った片手鍋を持って森へ向かった。
日が高くなってきたからか、森の中はさっきと比べて生き物の気配を感じられた。鳥でもうろついているのか鳴き声は聞こえないものの、羽ばたくような音がどこからともかく聞こえてくる。もう少し早く鳥たちに気付いていれば、もっとイイお料理を用意できたのに。ってちょっとばかり思いつつ、目に付いた木の実を採っては片手鍋に放り込んだ。
油をたっぷり含んだ木の実を見る度に瓶があればなぁ。なんて、ないものねだりをしながら、調味料に使えそうな実をどんどん集めた。
「
……
んー?」
色々な木の実がとれたのはいいものの、集めているうちに違和感を覚えてきた。集めた実の中には明らかにこの地域にあるはずのないものまである気がする。
まさかと思って目の前の木をよぅく見た。実と種が香辛料としてよく使われるってことで有名な植物だ。暖かい地域で栽培されていて、熱砂の国から黎明の国の南部に分布してるんじゃなかったかな? とてもじゃないけど、こんなところに生えているものではない。
となると、銀のフクロウの人たちが種を持ち込んだとか、靴とかにくっついて来た種がここで育っちゃったのかな? 辺りに同じような木がないあたり、この一本だけがここの環境に適応して生き残ったのかも。
「
……
」
元々大きな木ではないから、この木も私の胸くらいまでの高さしかない。けど、幹の太さを思えばここまで育つのに決して短くない時間を要したのは見て取れた。遠くから来て、得意じゃない気候の中でこんなになるまで育つのにどれくらいかかったんだろ。
植物の生命力の強さにほれぼれしそうなところではある。けどそれ以上に、持ち込まれたであろう種がここまで育つほど、人間の国の侵攻が続いてるんだと思えて、やるせない気持ちになってしまった。
「
……
。ごめんね」
植物に罪はない。分かってはいるものの、私にはどうしてもこの木の存在が許せそうになかった。だから、採れるだけの実を採って、残った木は跡形も残らないよう源素へ還した。
「よし」
これだけあればお料理だけじゃなく、気付け薬も作れるかも。採った実は大事にいただいてほかにも使えそうなものがないか探し回った。
見つけて持っていけそうなのは木の実にキノコに香草。そのくらいだった。食べられるようなものはほかにもあったけど、かさ張る物もばかりだったから持っていけそうなのはこれくらいだ。キノコと香草を風魔法で乾燥させたところでお鍋はいっぱいになってしまった。
今回の採取はこれくらいにしておこうかな。採取に時間をかけてお片付けができませんでした。じゃ話にならないもんね。
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