RINGO
2025-02-17 23:19:32
1101文字
Public 境界の灯
 

境界の灯9

貴方の人外はどこから?私は頭から

「隊長、こちらにいらっしゃったんですね。お電話です。」
 職員から電話の呼び出しを受け、ロウェルは立ち上がった。
「少し待っててくれ」
 そう言い残して事務所へ向かうロウェルの背中を見送る。
 窓口の受付時間も過ぎて、人の気配もしなくなった待合スペースはエリオットの心を一層不安にさせた。

 気を逸らそうと、カップに残ったコーヒーを飲み干そうとした瞬間、突然、酷い耳鳴りに襲われた。
……っ!!」
 弾みでカップからコーヒーが少し零れる。
 まるで、古いラジオをチューニングが狂ったように、雑音が波打ち耳を突き刺す。
 次第に酔ったような気持ち悪さを感じ、身を屈め、目を閉じて額を押さえる。

 耳鳴りがやっと収まったと思った刹那、頭の中に声が響いた。
……エリオット?』
 ノイズ交じりの低く、良く通る声が頭の中全体を震わせるように広がる。
 自分のものではないこの声に、心当たりは一つしかない。

『聞こえてるか?』
 ノイズが消え、はっきりとした声を聞いた瞬間、エリオットは目を見開いた。
 「ひっ……」と喉が詰まり、息がうまく吸えない。
……その様子じゃ、聞こえてるみたいだな?』
 声はあざ笑うような調子で語り掛けてくる。
『いちいちお前の喉を使うのも面倒くさいからな、少し弄ったぞ?』
 その言葉にエリオットは息を呑んだ。
 喉に触れても朝のように勝手に動いていない。
 耳を塞いでも笑い声が消えない。
(これは外からの音じゃない……
 頭の奥で声が響いていた。
(この声は……僕の頭から??)
 知らない所で弄られてしまった何かを知りたくて「何を?」と問い返そうにも、笑い声がそれを遮った。
……それにしてもエリオット、お前、俺に朝言っていただろう?自分の事を話すつもりはないってよ』
 ケラケラと笑う声が、エリオットの意識の内側に響く。

『だけど、お前は俺を探ってる。なぁ?』

 その一言で、エリオットの背筋に寒気が走った。
 鳥肌が立ち、全身から血の気が引いていくのが分かった。
 
『これは不平等だよな?』
……そっ、それはどういう意味だ?」
 ぎこちない声で問いかけるが、頭の中のモフモフは愉しげに笑うだけだ。
『いや?覚えておけよって事だよ』
 エリオットは呼吸が荒くなる。
 恐ろしさで震える体を押さえる様に腕を回し、蹲った。
 ぎゅっと目を閉じる。
 やがて――声は頭から次第に消えていった。

 しかし、静寂の中でもエリオットは気づいてしまった。
 モフモフは確かにここにいる。

――逃げ場がない。
 
 声を遮る事も聞こえないふりもできない。