Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
tsugaruringo
2025-02-17 22:11:30
3814文字
Public
Clear cache
(桂主♀)黄泉を契し哀れ(那美編)
片割れと夫婦関係の主(那美ネキ)と彼女に片想いする桂さんで、こういう話が描きたいな、というメモのようなもの。
話は江尻宿のあたりです。もっと前後も補完していきたいお。
坂本龍馬が浪士組に入っているという噂は当然耳にしていた。そして彼に付き添う形で「彼女」も在籍していることを。
だが、いざ江尻で清河や近藤ら隊士と親しく話しこむ那美を見て、激しい感情の渦が沸き起こったのを否定できなかった。彼女に再会できたことで蘇った思慕の念と、彼女を取り囲む男たちへの鋭利な羨望。まばゆい光は、後ろで落ちる黒々した影をまとって桂の堅牢な理性を揺るがしていく。
「坂本君」
桂の呼びかけに、先ほどから隣で落ち着かない様子だった坂本がびくっと肩を震わせる。
「形はどうあれ、君と那美くんが無事で良かったよ」
「お
…
おん
…
わしも桂さん達に会えて安心したぜよ」
想定外の内容に、坂本は肩透かしをくらったように間の抜けた返事をする。
おそらくだが、坂本は私の心理に勘づいている、と桂は推測していた。倒幕派の味方かそうでないか、という次元の話ではない。坂本は以前から私の前で那美と話す時は、彼の持ち味である「人懐こさ」を極力抑えているように見えた。当然それは桂にとっては好都合であるが、同時に弱みを握られたような居心地の悪さもある。
「彼女はやはり向こうでも慕われているようだね」
「そ、そうじゃな、こっちでもみんなの姉さんみたいになっちょる」
「ふぅん、さすがだ
…
」
質問の意図がつかめない気持ちの悪さに耐えきれないのか、坂本はますます目を泳がせたのち、ごまかすように思わず大声を出す。
「よっしゃ!これで全員そろったき、どうにかしてこの先を突破するぜよ!」
***
倒幕派の長州藩と、幕府側の浪士組が共同戦線を組むという異例の作戦によって、江尻の入口を阻むならず者を退けることに成功した記念に、急きょ祝宴が開かれることとなった。
しかし桂及び長州藩にとってこの場は手放しで酒を楽しむだけではない。坂本と、彼と共に行動する女浪人こと那美をどうにか倒幕派に再度引き入れるきっかけ作りとして、高杉・久坂らも巻き込んだ作戦の一環だ。
2人の戦力の大きさは全員が知るところで、彼らが幕府側に回ってしまうことの恐ろしさ、逆に味方になってくれた場合の心強さは計り知れない。それに、また彼女と口実抜きで直接話せる機会が得られるという、桂の個人的な下心も忍んでいた。
作戦の相談を受けた高杉は「あんたの腕の見せ所ってやつだな」と意味深な笑みを浮かべて桂の肩を叩く。坂本はともかく、高杉に察されてしまうのはもう半ば諦めがついている。桂は仕方なさそうにため息をついて、会場に向かった。
***
「ご清聴ありがとう!」
宴席の中心で一節舞い終えた桂は、上機嫌で周囲に拍手を求めると歓声があがった。作戦を遂行するために意識はできるだけ保つ飲み方をしていたとはいえ、ほのかな酔いで心がいつも以上に躍る。そして、酔っぱらいの行いとなれば、浪士組の大将と思われる近藤と、その隣に座る那美の間に割り込んで座っても文句は言われないというものだ。
へらへらと笑いながら彼女の顔を覗き込むと、相変わらず子供を見守るような静かで穏やかな微笑みをたたえている。酒が入っているためか、顔にはわずかに紅が差していて心なしか艶やかにも見えた。
「よし、次は俺の番だな」
桂の舞いに当てられたのか、近藤がすぐさますっくと立ち上がり伊藤ともみ合いながらも一芸を披露する。厄介な近藤がいなくなり、注目も彼に向けられたのを好機に、桂は那美に耳打ちした。
「後で2人で少し話したいのだけど、良いかな」
「
…
ええ」
目を見開きながらも、彼女は頷いた。
***
宴も解散となり続々と隊士や藩士が満足げに帰路につく中、那美は隊士や龍馬に口利きをして宿内に残っていた。片付けのために部屋を追い出されてしまったため、廊下でよその部屋から漏れ聞こえる笑い声に耳を傾ける。
「ああ、待っててくれたのかい?」
曲がり角から、桂が据わった目で顔を出す。
「相変わらずたくさん飲んじゃったのね」
那美は彼の様子を見てくすくす笑う。正直なところ、大方の作戦が成功した達成感で誘惑に勝てず桂は酒を追加で入れてしまっていた。
「楽しくってね、つい
…
」
やや怪しい足取りで那美の前まで歩き、気つけのために両手で顔を叩く。
「わざわざ待たせておいてなんだが、たいした話ではないんだ」
小首を傾げて桂の言葉を待つ。
「あれから、鬼の手の侍は見つかったのかい?」
「
…
」
那美は言葉を詰まらせた。
「鬼の手の侍」というのは、彼女が10年以上前にはぐれてしまった相棒のような男だ。もっと言えば「夫婦」のような、お互いを深く愛した存在であり、彼女たちが育った里では「片割れ」等と呼ばれている。かつて横浜にいた時は、桂ら長州にも協力の見返りとして彼の追跡を頼んでいたが、これといってめぼしい情報はないまま長州とも疎遠になってしまっていた。
最後に会ったのは、数年前に久坂らと異人館を襲撃した時___なぜかイギリス側で那美と敵対する形での再会だった。
「お前にもいずれわかる」
不愛想ながらも優しげな瞳を持っていた夫は、数年離れた間にすっかり厳しいものとなり、那美を突き放すような口ぶりはまるで別人だった。
それでも那美は、彼と話す機会を求めていた。彼の考えを理解し、正しいと思えば誰よりも味方になり、間違っていると感じたら全力で止める。それが妻である自分ができることだから。
「
…
いいえ、長州は何か掴んだというの?」
桂に誘われた瞬間から、彼女は彼の目的をなんとなく想定していた。おそらく、今後の活動を有利に進めるために自分や龍馬を長州側に引き戻すつもりであり、そのためなら自分が食いつきそうな材料もちらつかせてくると。
「君は、その侍のことを夫のような存在と言っていたね」
桂は那美の質問に答えず、努めて焦点を合わせた目で見つめる。
「それは今も変わらないかな」
どのような意味だろうか。質問の意味を考えているうちに、桂は続けた。
「
…
早いもので、君と知り合ってから5年は経っていると思う。かつては一緒だったかもしれないが、月日が経てばおそらくそれぞれが預かり知らないところで縁を作って、それに影響されて変わっていっているはずだ
…
現に君がね」
那美は戸惑ったように頷く。
「ええ、確かに色んな人と出会えて良かったと思ってるわ」
「それは、彼にも言えると考えたことはあるかい」
どきり、と左胸の奥が鈍い音で揺れる。
最初はアメリカ、今度はイギリスと手を組んでいた片割れの彼。彼が日ノ本にとどまらない、西洋諸国の人間たちと多く関わっているのは想像に難くない。自分よりも、もっと広大で、もっと自由な世界を見ているのだろうか。そうなった時に、彼は私のことを____
「急に、何言ってるの」
考えたくもない1つの最悪な可能性を振り払うように、那美は強気に返事をした。しかし桂は彼女の動揺を逃すまいとするかの如く手を緩めない。
「おかしいと感じているんだ。彼が本当に、君が思うような男だとしたら、何も告げず、接触もせずここまで時間を使うだろうか?」
「彼は
…
」
「じゃあなんのために?」
息が浅くなり、背中から頭にかけて悪寒が走る。彼女の大きな柔らかくなんでも包み込む心は、襲い来る不安におびえて硬直していく。
「そんなの、夫婦とは」
パァン!
心を守るかのように、とても不釣り合いな針が掌となって突き出た。下を見れば、急に平手打ちをされてあっけにとられる桂の姿。
依頼以外で相手に手を上げてしまった罪悪感が湧かなくなるほど、那美は怒りの感情に飲み込まれそうだった。
「彼の
…
あの人を、知ったような口聞かないで!」
「
…
」
「わざわざ私を侮辱しに来たの?!私と、彼を!どうして!桂くんたちを裏切ったから?」
「そ、ういうわけでは」
桂はいまだかつて見たことのない彼女の姿に面食らっているのか、目を不自然に瞬かせながら左頬を抑えている。
「私が彼なら、君を大事に思っているならこんなことはしない、と
…
」
鼻奥が痛み出すのをこらえるように、那美は手で顔を覆って男の横をよたよと通り過ぎる。
「本当に、酷い。こんなに酷い人だと思わなかった」
「那美、すまな___」
慌てて桂が手を伸ばそうとしても、彼女はもう一寸先だった。
「さようなら。高杉くんや久坂くん達にも、よろしく伝えて」
***
1人になっても、桂はしばらく歩き出すことができない。
ああ、惨敗だ。長州にとっても、自分にとっても。
「それは、彼にも言えると考えたことはあるかい」
ここまでは順調だった。彼女が動揺するところを狙っていたのは変わらない。
『彼がもし異人や幕府と関わりがあるのなら、そして君の話を聞く限りなぜか敵対しているようなら、かえって彼の敵である私たちと行動した方が出会いやすいのではないか』
そう言えば良かった。そもそも、そう言う段取りだった。
なのに、那美が珍しく動揺する姿に、酒の力も混ざって
…
いや、彼女なら受け止めてくれるという甘えが、私の口を狂わせたのだ。
「桂さん、遅いから迎えに来ましたよ」
聞きなれた高杉の声が背後から聞こえ、力なく首をもたげる。
「結果は
…
聞くまでもなさそうだな。とりあえず、無事で良かった」
高杉は何も言わず、赤い痕が残る桂の横顔をただ険しい顔見つめていた。
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内