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氷
2024-07-21 13:19:24
3580文字
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(くりつる/R-18)原稿晒し兼0721ネタ
0721の日なのに新しいの書けそうにないよ〜!そうだ!原稿のそう言う感じの部分を晒そう!というわけで、八月新刊予定の冒頭から3,500字ぐらい晒します。
――
とんと休みがない。
とある本丸の大倶利伽羅は、審神者達にとって夏の恒例である夏の連隊戦に出ずっぱりだった。戦場で使われることについて文句はない。あるわけがない。むしろ誉だ。彼が修行の旅を終えてから既に季節はぐるっと一周しており、積み重ねた強さは周りの男士にも審神者にも頼りにされていた。練度の頭打ちまで未だ長い道のりだが、大倶利伽羅にとって望むところだった。虹色の夜光貝だっていくらでも集めてやろう。
だが、戦さ場を最前線で駆け抜けられる誇らしさと、休みがないことからの疲労感はまた別である。疲労困憊にでも陥れば、あの紫色だか桃色だかなんとも表現し難い摩訶不思議な薬を飲むことになるのだろう。そこには至らずに済んでいる。体のためにせめてもと出来る限り早めに布団に潜り込むので、恋刃である鶴丸との逢瀬はすっかり遠のいていた。
鶴丸も大倶利伽羅より先に極めていて、腕っぷしの立つ一員として近頃は異去へ出陣する日が多い。大倶利伽羅と同じ広光作の脇差が無事に顕現してから月日が流れている。しかし、宝物の欠片がどうしても喉から手が出るほど欲しい、手許にあったらあっただけいいと砂漠で宝石を探すように必死な形相をした審神者により、鶴丸が率いる一部隊は周回を繰り返していた。
部屋も違うわけだし(大倶利伽羅が馴れ合わないと公言しているから、というよりこの本丸は全員一人部屋を宛てがわれている)、一日の終わりに顔だけ見られるという好機もない。少なくとも此度の催しが終了し、水鉄砲の刀装に別れを告げる頃にならねば鶴丸とは触れ合えないだろう。
この日も、うだるような暑さの中海辺での戦闘を終え大倶利伽羅達の部隊が本丸に帰還した。共に出陣した千子村正は「こうも暑いと脱ぎたくなりマス」と零していたが、彼の脱ぎたがりは特段気候とは関係ない。大倶利伽羅の足取りは自然と風呂場へ向かった。潮風で軋んだ髪の毛や、汗と返り血でぐっしょりと汚れた衣服が気掛かりだったのだ。本丸に所属している男士全員が共有する大浴場にあの白い鳥が居ないか思わず見渡してしまったが、どうやら不在だった。まだ出陣先なのか、あるいは厨の手伝いにでも駆り出されているのか
――
今の大倶利伽羅には見当がつかない。
洗面器を使う音やシャワーがさあっと流れる音は響いているが、やけに大浴場が静かに思えた。多分、隣に鶴丸が居ないからだろう、と大倶利伽羅は予想した。隣に居れば伽羅坊、伽羅坊とにこやかに呼びかけてくる状況に慣れてしまった。一度意識してしまうと、鶴丸の透き通るような美しさが頭から離れない。自室に戻って一旦仮眠しようと寝転がったが、時間が無為に過ぎてゆく。想像の上の鶴丸は段々と表情をとろけさせ、終いには大倶利伽羅に跨って自ら衣服を脱ぎ始めた。
「くそっ
……
」
身を起こして股ぐらを見遣ると、しっかりと男根が形を持っている。悪態を吐いたのは鶴丸にではなく、浅ましくて正直な自分自身に対してだった。抜いておくか、と仕方なくジャージのパンツと下履きに手を掛ける。最後に彼を抱いたのは何週間前だったか。戦闘時の血肉が湧き躍る高揚で紛れていたのか、自己処理をしようとするのも久方ぶりだ。熱源は上を向き、先走りもわずかに流れていた。
「鶴丸
……
」
愛おしい連れ合いの名前を舌の上で転がす。上に乗っかる鶴丸の絵面は大倶利伽羅の願望というか妄想に近かったが、今度は実際にあった出来事を脳裏に甦らせることにした。
数ヶ月遡り、啓蟄の景趣で春の訪れを感じ始めた頃だ。夜の帷も降りた亥の刻、鶴丸の部屋で向かい合って互いのくちびるを貪り合っていた。舌を絡ませ、鶴丸の上くちびるを甘噛みすると、くぅ、と弱ったような声を漏らす。美酒も目ではないほどに甘い。咥内はじっくり味わいながら、褐色の手が鶴丸の寝巻きに伸ばされた。襟元をはだけさせる。晒された肩口は微かに赤らんでいる。舌先をあやすように優しく吸えば、肩が少し跳ねた。
「ふ、ぁ
……
伽羅坊
……
」
もっと、と言いたげに目を細めたのでそれに応えようとしたら、部屋の扉が音を立てた。情事には不似合いな固い音だった。開かれた隙間から鶴丸国永が立っているのが見える。彼はこの本丸二振目の鶴丸だ。大倶利伽羅は口付けを解くと、二振目の鶴丸に向かって威嚇するように視線を投げた。適当な用事があって訪れただけだろうが、大倶利伽羅に身を委ねて弱みも全て晒した恋刃を、他の刀に目撃されるのはいい気がしない。短く謝罪を口にすると、彼は脱兎の如くその場を去った。開けっ放しにされた扉を再び閉じ、大倶利伽羅と鶴丸はまたふたりきりの世界に戻る。寸の間離れてしまった申し訳なさを伝えるように、鶴丸の咥内を一層丁寧になぞった。歯の形一つ一つまで覚え込むような動きだ。
「っ、なあ、さっき誰か居たか?」
大倶利伽羅より夜目が効かないからか、鶴丸は垣間見の正体に思い至らなかったようだった。
「
……
二振目のあんただ」
隠すことでもないので正直に伝える。鶴丸の口だけではなく、細い首筋や鎖骨の窪みにも口付けてゆく。少々骨張った体を鶴丸自身は「柔らかくないだろ」とぼやくが、単なる柔らかさを求めて付き合っているわけではない。鶴丸の肉体だからこそ、余す所なく食べ尽くしたいのだ。
「俺に用だったのかね。あいつには俺がもう失ったピュアっていうのか、そういう何かを感じるぜ」
「あんたに純粋な時分などあったのか」
「うるせえやい」
大倶利伽羅の高い鼻梁に鶴丸が噛み付いた。冗談への仕返しなのだろうけれど、キスのさなかなので愛撫にしか感じられない。翌朝に噛み痕が残るかもしれないが、まあいいかと思えた。鶴丸の悪戯なくちびるは、そのまま大倶利伽羅のそれに重ねられた。
「んん」
猫が戯れるように何度かキスをしてすぐに離れる。
「で、伽羅坊は可愛い雛鳥を追い返しちまったわけだ。見せつければよかったのに」
ぐ、と鶴丸が腰を押し付けてきた。互いの股ぐらには同じモノがあって、それは既に熱を宿している。鶴丸の吐息が湿度を帯びたように重たくなった。連れ合いが欲しい、と言葉がなくとも雄弁に伝える人の身は時折手に負えない。しかし、鶴丸とまなざしや息遣いや手のひらの熱だけで通じ合うのは長年の付き合いを肌で再実感できて、悪くない。
「他の奴に見られて感じるんだな。知らなかった」
「
……
さあな。試してみるかい。もう一度、二振目の俺を呼んで来ようか」
「その必要はない」
泡沫のような余計な考えなど浮かばないぐらい、溺れさせてみせる。
それから、鶴丸の瑞々しい玉の肌にしきりに触れ、くまなくくちびるを寄せ、奥の奥まで堪能した。なるべく鮮明に思い出しながら、大倶利伽羅は自らの屹立を片手で扱く。
「っ、はっ
……
」
彼と正反対の色合いをした細長い指に触られる方がずっと悦い。しかし致し方ない。あの夜は、身に纏っていた布を全て脱いでから鶴丸が大倶利伽羅の分も一緒に性器を扱いてくれた。
「こういうのを兜合わせとか、呼ぶのはっ
……
。どことなく勇ましい感じがする
……
よな」
「はっ、あ、今そんな話をする必要はない、だろう
……
っ」
おざなりな回答になってしまう。雑談に応じる余裕も塵となって飛んでゆきそうなのだ。同じモノ
――
ではあるものの、太さも色も異なっているふたり分のそれを上下に擦る光景は過剰なほど厭らしい。待てを命じられた飼い犬のように大倶利伽羅は熱い息を零した。
「ん、気持ちいいなあ? 伽羅坊」
鶴丸が何かの食べ頃を待つかのように、れる、と自身のくちびるをひと舐めした。口許の桜色が艶を増す。性器の裏筋がくっつき合う。白い指にどちらのものか曖昧な先走りが蜜のように絡む。どのように触れば気持ちいいのか、男の体を得た刀同士だから理解し切っていた。くちゅ、という水音が鼓膜を震わせる。鶴丸の顔は熟れた果実のように赤く染まっていた。
「ああ
……
。っ、ふ
……
もっと、してくれ」
「っん
……
。よし、一緒にいこうな」
鶴丸は手の動きを早めつつ、甘い声色で大倶利伽羅の名前を呼び続ける。そしてほぼ同時に互いの熱が登り詰めて──。
「く、ぅッ
……
」
肩がぶるりと震えて、大倶利伽羅は己の手のひらに限度なく白濁を吐き出した。しばらくご無沙汰だからだろう、心なしかどろりとしている。早く鶴丸に触れたいという欲が染み付いたかのようだった。部屋に置かれているちり紙で残滓を拭き取りながら、虚しさが胸の裡に広がる。
自ら腕に抱いた男の熱を忘れるはずはないが、ひとりで焦がれるぐらい赦されたい。せめて夢で逢えたら、とまで考えが行き着く。しかし、これではまるで京に都が在りし折に詠まれた歌の一葉ではないかと大倶利伽羅は苦笑した。
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