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望月 鏡翠
2025-02-17 00:14:05
1037文字
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日課
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#1633 「嵐」「隠す」「テーブル」
#毎日最低800文字のSSを書く/三題噺
嵐が来る。
空は青く、雲白く、太陽は麗らかに大地を照らしている。しかし、一番年若い彼の発言を疑うものは誰もいなかった。彼は運命に愛されている。物心ついたときから、その身には神が宿っていた。
無垢な言葉は度々現実となった。万が一、不穏なことを呟かれて、それを民草に聞かれては不安を覚えるだろうと、普段は街から離れたところで過ごさせている。
その彼が、嵐が来ると言ったのであればきっと来るのだろう。
だから私たちは、備えを始めた。
街に触れを出し、家具を固定し、家畜を避難させる。堤防が崩れかけている場所がないか見て周り、水が上がってきそうな地域からは人を避難させる。
嵐がくるのだということがわかっていれば、やることはいくらでもある。
大人が忙しそうにする後ろで、まだ子供の彼は何が起こっているのかわからず、自分の遊び場である小さな庭を手入れしていた。
「ほら、嵐が来るのなら風で飛んでしまいますよ」
テーブルの上のままごとの道具を、飛んでいかないように片付ける。
「ここに置いておいたらダメなの」
「駄目ですよ。嵐がとっていってしまいます。ちゃんと隠しておかないと」
あまり会話をしないからか、彼は歳の割に言動が幼いままだ。私はそれを残酷なことだと思うが、必要なことだとも思う。
しかし、彼がもっと流暢に言葉を話し、明確に世界のことを理解して雄弁に語ることができたのなら、襲い来る災いの種類をより正確に知ることができるはずなのではないだろうか。
神官は神は無垢を愛しているのだという。つまり、彼が知恵をつけて我々と同じ知恵を身につけ、無垢でなくなってしまったら、もう予言の力を授かることはないのだというのだ。知恵をつけることで神から疎まれるのなら、一体我々はどうして知恵をつけて生活することを覚えてしまったのだろう。
私の疑問は口に出してはならないものだ。
大切なおもちゃを持って、家の中に避難してきた少年を見て考える。
ふと、彼は顔を上げた。その目は不思議ととても大人びて見えた。
「大丈夫」
妙に確信がある言葉。
「神の言葉を授かる僕が、お前の心や世の通りを知らないわけがないでしょう。本当は全部よくわかっているよ」
普段の予言の言葉より、よほど神がかりの神秘を感じる物言いだった。
「一体、きみは」
「大切なものは隠しておかないと。嵐がやってくるのだからね」
嵐が来る。その嵐が一体なんであるのかを、彼はまだ口にしていない。
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