あむ🧶
2025-02-14 09:08:23
1598文字
Public 小説・小ネタ
 

チョコをわたしたい補助監督の話

意を決してチョコを渡したいモブ補助監督と五条のすったもんだ。

 廊下を颯爽と歩く大男の姿が、事務室の扉からちらりと見えた。
 
「ほらほら、早く声掛けなよ。忙しい人なんだからすぐに行っちゃうよ?」

 隣で一緒にお昼ごはんを食べている同僚が、肘で私の脇腹を小突いてくる。

「ええ!? そんな急に……。まだ心の準備が……

 私はそう言ってお弁当箱に目を落とす。

「そんな事言わない! 年に一度のこのイベントに乗っからないでいつ乗るのよ! 今でしょ!」

「だって……。いつもあんな素敵な人が側にいるのに、私なんかがこう言う事するのって、きっと迷惑でしょ?」

「そんな事言って、昨日散々迷ってそのチョコレート買ったんでしょ?」

「いや、まあ、そうなんだけど……

そう言いつつ、机の隅に置いているチョコレートの紙袋を見つめる。昨日デパートで3時間悩みに悩んで買ったものだ。

「はい! ウジウジクヨクヨやめよ! 」
 
 同僚は私の背中をバンバンと叩いてくる。
 
「スパッと素直な気持ちを伝える! やってやらない後悔より、やって大成功よ!」

……ちょっと、楽しんでるでしょ。なんで今、令和ロマンがでてくんのよ……

「まあまあ! 細かい事は言いっこなし! で? どうするの?」
 
……どうしよう。嫌な顔されるかもだけど、ただ、好きだって気持ちを伝えたい。それだけで私は満足だもん」

「いやいや、そこは貪欲にいかないと! しっかり告白して、返事を貰う! ワンチャン、上手くいったらラッキーじゃない!」

「その性格、ほんと羨ましいわ……。けど、ありがと。ちょっと勇気出たわ。私、行ってくる!」

 私は紙袋を持って、事務室を飛び出した。

「あのっ……!」

 廊下を一人歩く男に声を掛けると、男は足を止めて、くるりとこちらを振り返った。黒づくめの服装に白髪の真黒なアイマスクをつけた大柄な男。呪術界では知らない者はいない、特級術師・五条悟だ。

「あの……今日バレンタインなんで……これ……

 そう言って私は、男の前におずおずと紙袋を差し出す。五条悟は、私の顔と紙袋を交互に見て、ああ、と声を漏らす。今日はバレンタイン。意中の相手にチョコレートを渡す日だ。五条悟は、頭をガシガシと掻きながら、彼にしては珍しく少し申し訳なさそうに口を開く。

「あー、ごめん。バレンタインだよね? 気持ちは嬉しいんだけどさ、僕、好きな人が――
「これ! 庵さんに渡していただけますか?」

……へ?」

「あのっ、五条さんが庵さんと同僚として親しくされてるとお聞きして、不躾なお願いなんですが……。このチョコレート、庵さんにお渡し頂けないでしょうか」

……へ? チョコを歌姫に?」

「はい。明日五条さん京都とお聞きしたので……。あっ、庵さんが甘いものが苦手とお聞きしたので、これ、甘さ控えめのお酒に合うチョコなんです。問題ありますかね……?」

 やっぱりチョコよりお酒にすれば良かったかな。不安気に五条悟を見ると、口をあんぐりと開けたまま動かない。はっと思い出したように頭を振り、念を押すように口を開いた。

「もう一度確認するけど、それ、僕へのチョコじゃなくて、歌姫に渡すチョコなんだよね?」

……? はい。最初からそうお伝えしていますが」

 五条悟は、腹の奥から深い深い溜息を吐き、さっきよりも乱暴に頭を掻きむしり、右手をずいっと差し出した。

……貸して」

……! ありがとうございます!!」

 翌日の京都校。ぶすくれた五条が、歌姫にチョコレートを渡すのかと思いきや、歌姫の目の前で包装を開け、チョコレートを食べる姿が目撃されたとか。
 
 (後で経緯を聞いてバチキレされる五条)

 バレンタイン、五条より歌姫の方が数を貰っているかも。というツイを見て妄想しました
 歌姫に密かに憧れる女子補助監督は、いる。