スズ
2025-02-16 18:44:14
6232文字
Public あつおさ
 

そんなに顔に出てますか!?

ムスビィホーム戦で会う人みんな侑の顔見るなり「今日おに宮きてる日か」と言うので「そんなわかりやすい!?」てなる侑と、赤葦に「顔を見ればわかります」と言われ慌てる治の話

◇リクエストいただいたお題からのお話その1



 ご機嫌だな!と、まず関係者用の会場出入り口で、ばったり出くわした木っくんに先手を打たれた。
 さすがやなぁと隠す気もなく答えたら。
「だって顔に書いてあるし! あ、そっか。今日はミャーサムのお店が来る日か! あとで赤葦に俺の分も買っといてって送っとこー」
 と、こっちが何も言うまでもなく、すべてをズバリと当ててきて、流石に「そんなわかりやすいんか……?」とぼやきながらロッカールームに真っ直ぐ向かう。
 ロッカールームで着替えながら、臣くんに「俺ってそんなわかりやすい?」と尋ねると、少しだけ俺の顔を覗き込んで、それから。
「ああ。今日はおにぎり宮が来る日か」
 とだけ言って、さっさと支度を終わらせて、最後にマスクを変えるとロッカールームを先に出て行った。
 いやいやいや、待て待て待て。
 そんな俺、顔に書いてありますぅ⁉︎
 って、後ろをぐりんっと振り向いて、修吾さんに思わず聞いたら。
「あー。おまえはコートの外に出ると、途端にわかりやすいよな」
 言いながら笑ってユニフォームに首を通して、その隣で着替えてたシオンさんが。
「コートの中じゃ、あんなに読ませないセッティングするくせになあ」
 なんてありがたくも付け足してくれた。

(そんなに? でも今日は、むしろ気ぃ引き締めてきたつもりなのに?)

 バチンッと両手で思わず、頬を叩く。
 あまりこういうことをするタイプではないから、周りも「おっ?」とこちらを見たけど、見ただけですぐに視線は散った。集中力を高めてるんだろうとか、そんな感じで解釈してくれたらしい。まあ、でもあながちハズレでもないしな。
 だって今朝方に「めっちゃカッコよくキメてこいや」って送り出してくれた片割れに、このままじゃ示しがつかんやんか。集中せんと。

 そう。何を隠そう、今日の俺は自宅からでなく、おにぎり宮から出勤してきたのだ。
 昨日は久しぶりに(と言っても一週間と三日ぶりとかだから、これを角名あたりに言ったらまた双子ネタにでもされるに決まってる)おにぎり宮に夕飯食いに行けて、でもどうしても離れがたくて、そのまま帰りたくなくて泊まらせてもらった。
 翌日は公式戦でホームでの試合。もちろんそれは頭にあったし、おにぎり宮の店主をやってる俺の双子の片割れ自身も、おにぎり宮を公式戦の会場に出店するし、店は開けないけどそんな遅くもできんってもちろんわかってた。けど、でも。
「シたかったぁ……、サム成分、充電したかったぁ……。でも俺明日はスタメンやし、サムが見にくるしぃ〜」
「いやお前を見に行くわけやないわ。メインは仕事で、お前はついでや」
「わーっとるわ! そこは空気を読めッ! うううう……、でもサムにバチバチにカッコええあつむくんを見てほしいから我慢するぅ……
 て、同じ布団に入ってくっついて、抱っこしあったままグダグダ言ってたら。
……まあ、ようはお前が消耗しなけりゃええんよな?」
 とかなんとか言って、なんと!なんと治が自分から乗っかって、全部してくれたわけです。
 テメェは絶対に腰動かすなよ?って、ドス効かせて言われてハイ!と答えたから、言われた通り最後まで動かすの我慢した俺を、世界は褒め称えてくれていいと思う。もうそれくらい上乗っかってくれる治の絶景ったら、なかった。ほんまに。はぁ〜思い出しただけでため息でる。写真撮っときゃよかった。
 そんでその一回だけに収めて、二人で抱き合って眠って。朝、治のまだ少し起ききってないぽやんとした声に、「あつむ、おはよう」って起こしてもらえて。朝から胸いっぱいで。
 ああ、俺はほんまに恵まれとる。
 大事で大事でしゃあない奴が、今日もこうして一緒におってくれる。
 お互い色々あるけど、まあそれもオモロいやんって笑って、隣を歩いてくれる。
 なんて、ぼんやり布団でしてたら「お前の好きなモンばっかに朝飯してやったから、今日は気張りや」と、昨日俺と繋がって喘いでたその口で今日はしっかり俺のメンタルを整えてくれるばかりか、体の調子まで整えてくれる。
 こんなん、もう今日は完璧やろ。
 絶対にサービスエースぼったくったる。
 そういう気持ちで気合い十分で来たわけやけども。

 ロッカールームを出て、修吾さんとシオンさんらと一緒に会場のコートに出て、先に端っこでストレッチして体解してる組と合流する。
 翔陽くんと臣くんの間あたりに座って、俺もストレッチせなと座って脚を開いて伸ばしながら観客席に視線を向けると、ちょうどギリギリ、おにぎり宮の出店が見えた。もう治はせっせと商いを始めてて、人だかりがちょっと出来てて姿はうまく見えない。
 ぐーっと横に体を倒して、前鋸筋をゆっくり伸ばしながら、じっと観察し続けてるとちょうど客の途切れ目が生まれて、店主の姿がようやく見えた。
 ふうっと、一息ついてるだろう表情。タッパもあって、体格もよくて、ただのおにぎり屋の店主にしてはスタイルもいい。遠くから見るからこそ、客観的に見える。
 いい男やなと思う。普通にオンナが放っておけんのもわかる。指輪とかチラチラ確認されてんの、店でもよお見るし。今日だって、おにぎり目当てに紛れて店主目当ても沢山いるに決まってる。

 ああ、でもそのエグいイイ男。
 俺に抱かれてんねん。俺が抱いてんねん。
 そんで、そいつの愛情独り占めしてるのは俺やねん。

 そう思ったら、よし、頑張ろ。負ける気せえへんてなって。
 でももしかして今また俺、わかりやすく惚けてるツラしてるかもって、隣の翔陽くんに「俺って、そんなわかりやすい?」て試しに聞いてみる。そしたら。
「わかりやすい? ……あー! 今日って、おに宮きてます⁉ うわぁ〜買いに行けばよかった〜!」
「いや、それやねん! なんで⁉ 俺の顔みるなり『へー、おに宮来てんねんなー』て言うけど、そんな浮かれヅラしとる⁉」
「え? 浮かれヅラ? ぜんぜんしてませんけど」
「はい⁈」
「でも侑さん、わかりやすいです! 治さん見に来てるって日は、めっちゃくちゃ気合い入って、やる気もみなぎって集中してる顔してるんで。今日めちゃくちゃ調子いいだろうなーって、多分みんな、わかります!」
 と、こうだ。
 ぽかんと開いた口を、すぐに閉じて。そんでひとりでクツクツ笑うのを噛み殺せずにいたら、近くでグネグネと手首のストレッチしてた臣くんから「うわ」とか露骨な声を出されてしまったけど、いやほんと申し訳ない。俺もこれはちょっとキモいなと思うねんけど。

 でもしゃあないやんか。
 俺、わかりやすいらしいし。
 そんで、アイツはやっぱり俺をいい方向にしか向かせん。ほんま最高や。

 そう思ったら、どうしたって嬉しくて、ご機嫌にならずにはおれんもん。こんなん。
 溢れる笑みをどうにか噛み殺しきって、またチラッとおにぎり宮の出店を見たら、治と視線が合ったような気がしたから、ニンマリと不敵に笑ってみせる。
 そしたら、フッと笑って返してくれた気がした。すぐにお客さんの対応しだしたからわからんけど。

「さぁて。飛雄くんのサーブランキング、今日でぶち抜いたるで」

 そうぼやいて身体を起こして立ち上がったら、おうやってやれ!ぶち抜いてやってください!と周りが鼓舞してくれた。
 今日はほんま、いい試合できそうな気ぃしてきたわ。こうなったら俺のカッコイイとこ、これでもかとアイツに見せたらな。


◇◇◇


 本日も我が店は盛況。
 というのも、この場所での盛況っぷりに関しては、俺の店の実力ってだけじゃないことくらいはわかってる。そこまで俺も驕ってない。
 ここはバレーボールのプロリーグ、MSBYブラックジャッカルのホーム会場。今日のブラックジャッカルの試合はここでやるから、いわゆるホーム戦だ。その主力メンバーに、俺の双子の兄弟がいる。そんでこの店は、その主力選手の双子がやってる店、という知名度で広まってるのは悔しいが否めない。
 でも、そういう入り口はむしろなんでもよくて。とにかく食べてもらって、そんなん関係なしに「次もあったら食べよう」とか「お店近いから行ってみよう」とかそんな風に思ってもらえたら120%で俺の勝ちってなもんで。
 そろそろ選手も出てくるかな、と思うと手はバイトくんと一緒に素早く動かしながらも、ついチラッとコートを見てしまう。昨日はちょっと奮発しすぎた気もしなくもないけど、逆にあれだけ奮発してやったんだから、今日はその分、働いていい試合せんと二週間はお預けやなとひっそりオレの心の中で決まる。
 というのも昨日は本来なら何もしないつもりだったし、侑もホントはそのつもりだった。スポーツ選手ってのは競技や個人差もあるらしいけど、競技前にスるシないってのはパッキリとどっちかって人のが多いらしい。ちなみに俺の双子の片割れで、これからこの会場でホームゲームをするプロのバレーボール選手で、そんで俺が誰にも譲れられへん唯一でもある宮侑はというと、基本はシない方の人間だった。
 ただし昨日、俺らは一週間と三日ぶりの感動の再会(笑うとこやで)を果たしたもんだから、侑がもうずっとうにゃうにゃと「したかったぁ〜」「いっぱいサムにケツでよしよしって甘やかしてもらお思ってたんにぃ〜」とかフツーにオッサンくさくてアウトなこと言うて、布団で寝付かずグズっていて。俺にとっても感動の再会に変わりはないもんだから、ついそのアウトでしかないグズりが、うにゃうにゃと可愛く聞こえてしまったというわけだ。
 ほんま、俺はアイツに甘いなぁって自分でも思うけど。でもそこは侑の唯一として、腕の見せ所やんな?と変に燃えてしまった結果、侑には少しも動かないようにさせて、俺が上に乗って腰を振ってやったのだった。一回こっきり。本人が動いてないなら抜いたのと一緒やろってなもんで。
 それもちゃんと一回で済まして、いちゃいちゃと身体を絡ませながら体温を溶け合わせてきちんと寝付いて。しっかり睡眠を取った朝、俺は侑の身体と、侑のメンタルのことだけを考えて朝ごはんをこさえて食わせた。
 いつだって、うまいをなんべんも言いながら俺の飯を食べる侑は、見てるだけでこっちも腹が満たされる気がするくらい愛しい。
 綺麗に平らげた侑は、あっという間に俺の手から出ていった。とびきり元気よく、高らかに。

 そうやって愛情尽くして手に塩かけて、今日の宮侑を送り出したのは、他でもないこの俺だ。
 だから俺は、誰よりも知ってる。
 今朝のツムの面構えみたら、わかるに決まってる。
 今日のアイツは、すこぶる好調に仕上がってんねん。ちょっとやそっとじゃ、そのサーブ、捌けんで?

「今日も盛況ですね」
「おおきに、……って、赤葦くんやん。まいど!いつものヤツでええの?」
「はい。いつものヤツと、木兎さんのいつものヤツも」
「あはは! おおきに! いつもふたりしてよく食べてくれて気持ちええわ。ぼっくんの応援?」
「はい。こっちへの出張をちょうど週末に組めたんで、ついでに」
「ははっ、どっちがついでかわからんなぁ」
「一応は仕事のついでってことで、ひとつ。……ああ、でも今日は木兎さんより、宮選手の方が活躍しそうかも」
「およ?」
 ビニール袋にいつものおにぎり六つと、木っくんのいつものおにぎり四つを入れて(赤葦くんはここで全部食べるわけやなくて、何個かは持ち帰って次の飯にもしてくれてるらしい)赤葦くんに手渡しながら、はて?と首を傾げる。
 たしかに侑は今日とってもすこぶる、文句無しに活躍してくれるとは思うけども。
 でも木っくん贔屓の(そらそうや、自分がいっちゃん青春ド真ん中でしてたバレーで、いっちゃんトスあげてた大エースやし)赤葦くんの口からそんなセリフが出てくるとは思わず、まだ侑もコートに出てきてないのに状態がいいって何でわかるんやろ?とか思ってるうちに、他の選手と一緒にうちのも出てきたのが、視界の端に入ってきた。
 赤葦くんが渡してくれるお代を受け取って、手を除菌しながら、チラ見してるといつもの賑やかメンバーとストレッチしとる。
「なんで、そう思ったん? アイツが調子よさそうって。外で会うた?」
「いえ。今日の宮選手は、いま初見です。でもわかりますよ、おにぎり宮の店長さんの顔みたら」
「顔? 俺の? アイツやなくて?」
「宮選手が調子いい日は、大体、おに宮店長の顔に書いてありますんで。〝今日のうちのは、かましたりますよ〟て」
 ふふっ、と黒縁眼鏡の奥が、ちょっと面白そうに笑う。
 そんで俺はまったく想定してなかったことを言われたのと、バイトくんが接客捌いてくれてるのをいいことに「……そんな顔に出てる? 俺」と思わずそのまんま聞き返してしまった。

 だって顔に出てるって。
 アイツと昨日することして、朝、目一杯愛情込めて世話して送り出してやったその余韻で浮かれてんのが顔に出てたんなら、なんやめっちゃ恥ずいやんか。
 しかも赤葦くんの言い振りやと、今日だけやないって感じやし。

「そんな間抜けなツラしてるつもりはなかったんやけど……
「え? ぜんぜん、マヌケなツラとかじゃなくて。たぶんですけど、……高校で現役のとき、試合前は同じような表情してたのかなって。そういう、まるでこれから一緒に戦うみたいな表情を店長さんがしてる日の宮選手、とびきりいいプレーしてることが多いです。体感ですけど」
 さらっと、そんなこと言って残して「それじゃ、また店舗の方にも木兎さんと伺います。東京出店いつでもお待ちしてます」と客席に消えていった赤葦くんの後ろ姿をぼんやり見つめて。
 いやほんま、公式戦で直接当たったことは結局なかったけど、赤葦くんは赤葦くんでおそろしいほどよく見えてるセッターだったんだろうとヒヤッとする。対戦してたら厄介な相手だったわ、絶対。
 でも。アイツを気持ち目一杯で送り出して気張った俺のツラが、アイツと一緒に気合い入ってるツラって言われたなら、そらそうやわと納得しかなかった。
 チラッとまたコート見たら、ストレッチを終えようとしてる侑とたしかに目が合って、そしたらめちゃくちゃ不敵な笑みを浮かべてきた。
 その向かうところ敵なしな面構えが、あまりに気持ち良くてふっと頬を綻ばせた次の瞬間にはお客さんが来て、侑のリアクションは見れんかった。でもたぶん目が合ったことには気がついてたし、俺がご機嫌に笑ったのもわかってくれたと思う。

 最高にカッコええ面構えしとるあの男は、俺の、俺だけのもの。
 そして今朝方、他でもない俺の手がこの最高の面構えさせた上で、この戦場に送り出した。

 そう思うと堪らなくて込み上げてくるものに、自然と顔が引き締まる。
 きっと今日の宮侑は、本日の主役くらいはサクッと掻っ攫ってくるに違いない。そう確信するからこそ、俺は俺でいまは自分の目一杯で、目の前の商いという勝負に集中し直す。
 しっかり仕事してくるだろう片割れに恥じないように。こちらだって今日もしっかり盛況やったわと、ドヤ顔で言い返してやらなあかんから。



いただいたリクエストはこちらでした!