ちゃび
2025-02-16 17:25:45
3245文字
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自機ヒカセンと一般人・レヴナンツトール編

レヴナンツトールの娼婦視点。全年齢です。
時系列はアルテマウェポン撃破直後、クリスタルブレイブ結成前。

レヴナンツトールは、冒険者の聖地である。

「冒険者お断り!」の看板はない。料理や酒だって嫌な顔されず気持ちよくおかわりできるし、うっかり近隣から魔物をつれてきてしまっても、手練れの冒険者達によって──魔物の数にもよるが──まあ、なんとかなる。

ともかく、例えるならば海に浮かぶ島、リムサ・ロミンサが船を迎えては見送るように、この街もまた、冒険者が訪れては旅立っていく陸の港。
そういう場所には「私たち」の仕事があるものだ。

さて、冒険者が求めるものとは?
富、武勇、名声、それと……女?
全て馴染みの客から聞いた話で、誰もがそれを求めるものかは分からない。

──まして、冒険者の肩書を持ちながら英雄と呼ばれる男の好みなど、どう探ればいいものか。
富も武勇も名声も、既に足りているのなら確かに残るは女だが、それを理想にする人間ならばレヴナンツトールではなく、ウルダハの高級娼婦を買うのが道理だ。

いっそ、そうしてくれた方が良かった。
ウルダハのカネの前であれば、いくら帝国からエオルゼアを護った英雄であれ商売知らずの成金冒険者などせいぜい付加価値のついたカモだろうが、ここはレヴナンツトール。多くの冒険者にとって、エオルゼアの英雄という人は憧れで、目標で、夢なのだ。

そんな存在にうちの店が粗相をしたとあらば、どうなるか。
ある噂もない噂も瞬く間に広がり評判はガタ落ち、お先真っ暗、モードゥナからは撤退だ……、との支配人の嘆きは流石に悲観的すぎる気もするが、確実に客足は遠のくだろう。
改めて深呼吸をして呼吸を整えたところで、部屋の扉から案内人のノック音が響く。

「どうぞ」

自分自身でも分かるほど、声に固さが滲む。
生娘でもあるまいし、ああ、支配人があんなに脅すから。息を吸って、吐いて、静かにもう一度吸って、出迎える。

「こんばんは。カトレアです。素敵な夜にしましょうね」
「よ、よろしく、お願いします。えっと……、俺は、オミロー・フワフワです」

こちらの緊張など些末事に感じられるほどたどたどしく、もじもじとした様子のエレゼン族の青年を見て気が抜けてしまった。
この様子であればウルダハではなくうちの店を選んだのも頷ける。敷居の高い本場へ行く前に、まずはホームで慣らせと仲間に言われでもしたのだろう。

こういった場所は初めてか、と聞くわけにもいかないので、気を遣わないようにとだけ伝える。
武人の多くは武勇伝を語りたがるが、壮絶な経験から話したがらない者もいるし、彼の口から出てこないうちは触れない方が無難だ。
と、いうわけで、この街には慣れたかだとか、今つまんでいるオレンジやグレープはリムサ・ロミンサから仕入れているが、輸送が難しいのでここではなかなか貴重だとか、当たり障りのない話題を提供しては彼が「うん」とか「おー」だの反応する会話を繰り返す。そのうち肩の力もほぐれてきたのか、彼から口を開いた。

「そういえば、カトレアさんはウルダハのミューさんって知ってますか。踊り子の」
「踊り子のミューって……、ミコッテ族の女性ですか?」

踊り子のミューといえば、自分がウルダハの店で働いていた時の友人だ。
彼女ははじめから踊り子志望で、娼館で培った人脈をうまく使って見事踊り子としてデビューした努力家だった。その後も、たまに会っては話をしたものだ。
「ああ、そう。そのミューさん。俺、ミューさんの依頼でここに来ました」

*

つまりは、こういう話だ。

カトレアがウルダハの店を辞めてからというもの、二人は連絡を取れず、すっかり疎遠になってしまった。
会いに行くのは金も時間も相当かかる。この距離間で個人の手紙を届けるのもそう簡単ではない。
そのことはカトレアがウルダハを離れる時に互いに納得していたし、実際に離れた後も、忙しい日々の中で彼女も頑張っているだろう、と思うだけで満足していた。

だが、最近、ミューに結婚の話が持ち上がった。
結婚をするなら踊り子は引退するのが彼女の所属する組合の習わしだ。
そして相手の家に入れば、いよいよ遠くへ出かけることは出来なくなる。
昔のようにもう一度、カトレアと会って話がしたい。
けれど、友人は今もレヴナンツトールにいるのだろうか。
大金をはたいてなんとか現地に着いたとしても、目当ての人がいないのでは意味がない。
そこで知り合いに相談したところ、紹介された冒険者がエオルゼアの英雄だったというわけだ。

「事情はわかりました。では、こうしてご指名いただかずとも私がこの店にいることは突き止められたのですよね。何故このようなお手間を……。」

対象の居場所の調査であれば、名前や素性が分かった時点で、金をかけて店を利用せずとも依頼を完了できたのではないか。
そう問われた英雄は、三日月形にカットされたオレンジの一片一片を興味深そうに眺めては口に運んでいた。
事情を説明し終え、すっかり気が抜けた様子で淡々と答える。

「人違いだったら大変だし、直接確認したかったです。仲介してくれた人は俺がお世話になってる人だから失敗したくなかったし。あと、その人が、カトレアさんが働いている娼館によっては自由に出歩けないかもって教えてくれたから、俺が客になっておけば後から都合がいいかなって思いました」

調査ついでに遊んで必要経費として計上でもするのかしら、などと考えていたが、想像よりずっと合理的な理由が語られ舌を巻いた。
この店は幸い外出には寛容だが、万が一、外出に難色を示す店だったとしても、支配人のあの怯えようでは英雄に要請されれば断れないだろう。

「冒険者って魔物や暴漢を倒すばかりじゃないのね」

と、私が漏らすと、

「こういう依頼も多いです。霊災で離ればなれになった人を探すとか」

と、グレープを皮ごと口に放り込む。
皮は剥くものだと伝えて恥をかかせるのも悪いので、その様子を黙って見つめながら、はたと違和感に気づく。

「それにしても依頼で来られたのなら、部屋に入ってすぐ仰ってくだされば良かったのに。その……とても緊張されていたでしょう。言いにくかったのですか?」

そう、最初は誰が見ても分かるほどの赤面や落ち着きのない様子だったのだ。
「そういう行為」をする予定でもないのに、ここまでの人探しが出来る者が緊張というのもおかしな話だろう。

改めて彼の顔を眺めようと顔を向けると、傷のある顔を再び真っ赤にさせていた。
しまった。失言だったか。

「ごめんなさい。出過ぎたことを──」
「だ、だって、君が、すごい服を、着てるから……
「え?」

すごい服……
今日のドレスはゆとりのあるナイトドレスで、あまり身体のラインが出ないデザインのものだ。
露出があるといえば大きく開いた胸元と、少し透け感のある柔らかな生地が思い当たるが、初めての顔合わせで好みが分からなかったため、やはり控え目だ。

「俺、その、馴染みの店以外にこういう店に来たことなくて……。いつもの店は、そのまま、外も歩けるドレスだから、君が、ね、寝間着で……ビックリした」
「まあ!」

寝間着姿そのものに驚いたとは。
この人は本当に最初から、依頼の話をするためだけに娼館へ訪れ、いかにも寝ますよといった女が出てきて驚いたのだ。

「ごめんなさいね。朝までのご指名だったから、つい寝るところまでご希望だと思ったの」

とはいえ代金はもらっているし、彼にはこの部屋のベッドを使ってもらって、自分は私室へ下がろうか。
こんなに初心な青年に添い寝させるのは忍びない。

「え。寝ないの?」

え?

「俺も、寝るんだと思ってた」
「寝るって……、その、共寝するってことですよ?」
「うん」

うん?

……出迎えが寝間着で緊張しただけで、することはしていいってこと、ですか?」
「うん」


……ナイトドレスで正解だったじゃない。