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hatahata
2025-02-15 08:00:33
5528文字
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「今回は俺悪くないだろ!?」
フォロワーAが言ってた「瀕死の初期真を庇いながら相手に絶対零度の視線向ける九」ってやつにフォロワーBが言ってた「撃たれかけた九を庇った後ぶっ倒れる初期真」を少しだけ混ぜたもの。伝われ……!
しくじったな、とその辺の木に凭れながらぼんやりと考える。
真下悟という男はこれでも刑事なので、現在抱えてる案件についての捜査中に事件現場から離れたところに何か引っかかるものが無いか見回っていただけなのだが、不意にゾクッ!と背筋が震えて振り向けば何やら金属バットだのスタンガンだの物騒な物を携えた集団が此方に忍びよろうとしていたものだから。当然連れていた巡査に「応援呼べ!」と叫んだのだが、敢え無く真っ先にそいつが殴り飛ばされ叶わなかった。
いやぁまさか現実でハイエースされるとは思ってなかったぜ。
人目が無い夜とはいえここでやらかすのはまずかろうと被り慣れた猫が鳴くので極々一般的な、まぁ避けるなり殴る蹴るなり正当防衛(?)の範疇で抵抗していたのだが、流石にこの状況下の一対多数は真下でも無理だった。背後から羽交い締めにされ複数人で抑え込まれ大きく開いた車の腹の中へ詰め込まれてしまえばそれはもうあっという間に何処かの山奥だ。
「いやー、AVの撮影じゃなくて良かった
……
。俺、こう見えて身持ちが固いんだぜ?」
いや良くないが。ちっとも良くはないのだが。AV通り越してスナッフフィルムになる予感しかしない。
敢えて軽口を叩きながら夜闇の中でも解る程ゴロゴロと転がる肉塊達に向け、真下は肩を竦めてみせる。
車内に引きずり込まれた際に男共が零していた会話の端々から察するに、ちょっと前に検挙したチンピラだかヤクザだかの舎弟?下っ端?が報復に来たらしい。正直ちっとも覚えがない。自分が日々どれだけ国と国民を守る為(笑)に奔走していると思っているのか。
しかしまぁ、つまりテンプレのようにボコボコに痛めつけられた挙句殺されて山に埋められるのだと察するに余りある。なので目的地に到着し車から出される際に、真下の身を抱えようとした男に頭突きで隙を作り、支えきれず地面に落とされた勢いで手近の奴の足を払い、ついでにシャツの袖に仕込んであった剃刀で車内にいた時からコツコツ拘束を切っていた為漸く逃げ出した訳なのだが。
当然逃げたのだから追ってくる雑魚共を黙らせる必要があった、しかし一応自分が誘拐されたことはあの巡査から伝わっているだろうから殺してはまずい。なので程々に手加減をしなければならず、加えて車に詰められた時点で早漏共が拳や踏みつけ、更には煙草の先までくれやがったせいでイマイチ動きが鈍かった。あと単純に一人で相手するには数が多い。
「
……
ア゙ー
……
寒いなクソ」
動き回って汗をかいたせいでもあり、殴られ蹴られ切り付けられてそれなりに血を失ったせいでもある。ぺろり口端から舐め取った雫は鉄の味。
右腕を掴まれて咄嗟に握ったのが最近お気に入りの一振であったことが幸いした。取り出しやすい位置に仕舞っておいた刃は使い易くて手に馴染む。しかしそれも今は血脂に塗れ鈍だ、早く帰って手入れがしたい。
ただでさえズキズキと頭や身体のあちこちが痛いのに、気温と失血で冷えて指先まで痛み始めた。しかし動けない。割れた額から流れる赤と、霞み始めた視界の白ばかりが目に入り、今残党に見付かったら詰みだななんて考えつつコートのポケットから煙草とライターを取り出す。右腕は先程から力が入らず感覚も無いので残る左手で取り出した一本を咥え、ライターを点ける。折れてはないといいが。風除けの手を添えられない為なかなか上手くいかない点火にフィルターを噛み潰し、それでも漸く灯る光に僅かな暖かさを感じる。気休め程度だが煙草が鎮痛作用を齎してくれる筈、煙を深々と肺に満たした時
……
ザク、と地を踏む足音が真下の耳に届いた。
「
……
一服すら許されねェのかよクソッ
……
」
火を点けたばかりの煙草を惜しみつつ、するり袖から別のナイフを滑らせる。さて、ずっしりと重い脚を一つ殴り相手の喉笛カッ捌いてやろうと──
「俺に刃を向けるか」
どちゃっ。
──耳に届いた声に咄嗟にブレーキをかけたせいで足が縺れ盛大にすっ転んだ。顔面で大地を感じ、固まりかけていた血がまた垂れ落ちるのを感じる。
「ふっ
……
無様
……
」
「なん、きさ、貴様
……
ッ!?」
顔を上げれば、僅かな月明かりの中でも真下を見下す姿。この血と呻きに満ちた場に最もそぐわないきれいな男。
九条正宗が、真下を悠々と見下し嘲笑っている。
「
…………
エ何何何何だよ何故貴様がここにいる?もしかして俺に会いたくて探し回ったのか?貴様が?こんなところまで?それで俺を見つけてくれたと?明日の天気は雨霰槍蛙爆撃か?もしかして発信機とか付けられてる俺?愛じゃん?俺も愛してるぞ九条病める時も健やかなる時も地獄の底でも一緒に歩んでくれというか今世の幕を俺の手で引かせてくれ」
「黙れ」
「イ゙ッッッてぇ!」
容赦なく背中を踏まれた。有難う御座いますご褒美です。いやすまん嘘ついた普通にめちゃくちゃ痛いから今は勘弁してほしい。
「
……
で、はァ、真面目に何故、貴様が、こんなところにいるんだ
……
?」
相手が九条なのもあるが無理に抵抗して抜け出す程の気力はなく、ちょっと息苦しいがこのアングルから見上げる九条も大変良いものだなんてぼやけた思考で考えつつ真下は問い掛ける。真下が拉致された路地は九条館とは程遠いし、見て回っていた限り人目もなかった筈だ。偶然九条があの場にいて、真下が連れて行かれるのを見て追ってきたとは考えにくい。
しかし九条は真下の質問には答えず、じぃと奥の暗がりを睨み付けている。部屋の何もない隅を見ている猫みたいな仕草だがその表情は硬く、警戒や嫌悪を顕に呼吸すら抑えているようだ。何か、良くないものがいる。そう察して真下もずるずる九条の足の下から這い出れば、木々の間から黒い影がひとつ、金槌を手にした、今度こそ奴等の残党が此方へ向かってくるのが見える。
「丁度いい。貸せ」
「!?おい、九条それは
……
ッ」
徐に、靴底から抜け出すのに難儀している真下の手からナイフをするりと抜き取り、九条が真下の前に立つ。嘘だろ立ち向かう気かよ!?
「待っ、貴様、何して」
「一人くらいなら俺でも何とかなる」
精一杯腕を伸ばし、九条のズボンの裾を掴む。彼方から来るのは殺意を持った男だ、何とかはなっても無事でとは限らない。そういうことを九条にさせるつもりは、少なくとも今の真下にはないのだ。
「そうじゃない、何でッ、
……
ァあ、ほっとけよ、あんな小物さ、貴様が
……
貴様、が、相手していいもの
……
じゃ」
「五月蠅い。それを決めるのは俺だ」
「
……
あれは俺の獲物だ、なァ九条、っふ、
……
ン゙、横取りは、お行儀が悪いんじゃ、ない、か
……
?」
「口だけはよく回るな」
「頼むって、ゲホッ、こう見えて俺、自分のもの、他人
……
に使われるの、嫌いなんだ。な、イイコ
……
イイコだから、それ返せ、俺の、ッグ、俺
……
」
「黙れ!」
あくまで静かな声音に反しダン!と真下の左手すれすれに長い脚が持ち上がり勢いよく下ろされた。危うく手を踏み砕かれかけたのもそうだが、滅多に聞けない九条の大声に思わず怯んでしまう。今まで何度しつこく口説いても勝手に九条館へ押し掛けても九条に関わりある人間を殺しても、何もかもどうでもいいみたいな態度で鬱陶しげに眉間に皺を寄せるだけ、底なしの瞳は冷え冷えと凍っていたのに。今真下を睨む──睨む時点でだいぶ珍しい──その目は苛立たし気に燃えている。
「
……
おまえの言葉など聞く価値もない。次俺に意見をしたらこのナイフはおまえの股間の汚物代わりになるだろうな」
「エ怖
……
」
俺チンコの代わりにナイフぶら下げんの
……
?
流石に男として当然の恐怖を突きつけられて真下の口からは反論が出てこなかった。真下が黙り込んだのを見て、九条は怒りの炎を消し空気すら凍る程の冷たさでハンマー男を見遣る。九条の怒号に気圧されたのか案外大人しく突っ立っていたそいつは、視線を投げられハッとしたように呆けていた表情を引き締め何かしら罵倒の言葉を吐いているようだが、九条にとって「五月蠅いな
……
」以外の何物でもない。
「ゲホッ
……
な~ァ九条、なァ、何故、俺を庇う?いつも、死ねとか、消えろ
……
とか、言うだろ。今が絶好のチャンスだとは思わんか?」
「おまえの言うことは聞かない」
「いい歳して我儘言うなってお坊ちゃん
……
な、一人くらいならって、貴様には無理だ、解ってんだろ。やめとけ、って。俺ではなく、
……
貴様が死ぬぞ?ン゙、さっさと逃げろって、俺は、」
「意見するなと言っただろう。これはおまえの為なんかじゃない。俺が、あの粗大ゴミを気に食わないからだ」
「
……
ヴ~
……
」
視線を交わさぬまま一種の二人の世界で会話する様子に焦れたのか、男がガァガァと喚きながら此方へと駆け出す。まぁ最低でも相打ちくらいにはなるだろうと握るナイフを中段に構え、真っ向から見据える
……
さて大見得を切ったはいいがどちらに避けて、どう振ればいいのやら。チンピラ相手など経験がないので判断がつかないが、一発くらいなら。そう考えつつ、ナイフを握り直す。
……
と、男が金槌を頭上へ高く振り上げるのを目視した途端。
「駄ァ目」
ガッ、と強く襟首を掴まれる。突然のことで反応が出来ず引かれるがままぐらりとバランスを崩す、たたらを踏んだ足が何かに引っ掛けられ、転倒する
……
!と察し咄嗟に衝撃に備えぎゅうと固くした身が、何か温かい
……
いやむしろ熱くて柔らかい何かにぼすっと受け止められる。その壁の正体に気付き顔を上げようとしたが強く頭を抱き込まれ叶わない。
「ばか、何しッ」
ビシュン!
───鼻を擽る硝煙と煙草、それらでも塗り潰せない鉄錆が埋もれたシャツから香る。
抱え込まれた頭の遥か後ろで、どさりと何か質量のあるものが倒れた音がする。
眼球だけで上を見上げれば、眼鏡のフレームから外れるぼやけた視界で、それでもにたりと牙を見せつけて笑う顔。
「ました」
「アンタの手はきれいじゃないと」
そう言って目尻を緩める、真下の身体がぐらり、ぐわんと揺れ力無く横に倒れ伏す。勿論真下の腕に囲われていた九条を巻き添えにして。ゴトン、と土に重い落下音が響く。
「は、ははっ
……
あーぁ、殺しちまった」
「何をしている!死にたいのか!」
「怒るなよォ」
当然九条は即座に身を起こし、真下の胸倉を掴んだ。それでも真下はへらへらと笑みを絶やさず降参とばかりに手を挙げてみせるものだから、九条の眉間はどんどんキツく寄せられていく。
口ばかり元気よく回っていたが、実際のところ這い蹲ったまま動けない程には重傷なのだ、真下は。額から流れ落ちた血が入っているのを差し引いても目の焦点が微妙に合わず、着古してやや色落ちしているとはいえ黒いスーツやコートをあちらこちら染める程の出血量は常人ならば既に気絶していてもおかしくない。それでもこいつは軽口を叩き九条を追い払おうとしていた。
更には
……
九条が殴られそうになったその瞬間、ぬらりと立ち上がり、銃を抜いた。消音器がついている為くぐもった銃声はそれでも命を奪う号令、ハンマー男は空いた風穴から血を流し二人の数歩先で倒れている。
「
…………
おまえ、銃も使うんだな」
「淑女の嗜みですわよ♡」
「ハ?」
「すまん。
……
あんまり好きじゃないんだけどな。音するし、血肉の感触がしない」
アンタ
五月蝿いの
・・・・・
嫌いだろ。コートの袖で顔を拭いながら真下が溜息のようにそうぼやく。袖もそこそこ血濡れだった為いたずらに汚れを広げるだけの行動に小さく舌打ちする姿に、九条も釣られて深い溜息を吐いた。
◆
「くじょー
……
」
「五月蝿い」
「
……
暫く待てば歩けるぞ?本当だって。俺は貴様にだけは嘘をつかない。好いた相手にはいつだって真摯でいたい気持ちくらい俺にもある。それに危ないからな、貴様がすっ転んで膝でも擦り剥いたら俺は罪悪感で首を括っちまうよ」
「その言葉が既に嘘だろうが
……
」
ざくり、どしり。二人分の体重を支える足が地面を踏み締める。無理を通しいよいよ足が立たなくなった真下を背負った九条がふらつきながら山を下る道中、置いて行け行かないの問答が二人きりのけもの道に流れていた。
「人ひとりくらいなら、俺にだって背負える」
「そこじゃない。山道を男ひとりおんぶって歩くのは危ないって話」
「
……
。」
平行線でしかないのが解っているのか、疲れて口を開きたくないのか、単に真下の相手をしたくないのか九条が黙り込んでしまう。恐らく全部。
逃走防止か不意にネクタイを抜き取られたかと思えば手首を戒められた時にはものすごく驚いた。しかもその隙にちゃきちゃき背負われてしまい、そこまでするか!?の驚きが重なったせいで逃げそびれて今に至る。いやまぁ首を絞めるなり腕を上げて抜き去るなりやりようはあるが、気が緩んだせいで一時忘れていた痛みや疲労が押し寄せてきていて、180cmの高さから地面に落とされるのはちょっと嫌だなという気持ちがある為真下も大人しくせざるを得ないのだ。
とっくに成人を迎えた身は人の背に負われるなんて久しく、加えてそれをしているのがいつだって妹以外の人間を徹底的に避けているような九条。流石の殺人鬼も、好いた相手には弱い。
「あぁ
……
そうだ、真下」
「ン」
疲労と失血と他人の体温に霞む思考を何とか繋ぎ止めていると、黙りを決め込んでいた九条がふと何かを思い出したかのように微かに首を回し真下を見る。
「今の内に魔羅との別れを済ませておけよ」
「オイ待て嘘だろさっきのやつ本気だったのか!?」
END.
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