今日の仕事は、廃墟で起こった幽霊騒ぎの調査だった。大きな火事のあと立て直すことができなかったホテルである。死者も出して犠牲者の遺族から裁判を起こされ、多額の借金を抱えていた。
最終的にオーナーはこのホテルの廃墟で自殺した……という部分は実は噂を繋ぎ合わせた創作であり、彼は自分の仕事とホテルを手放して、夜逃げ同然に消えたものの、まだ生きている。
生きているなら犠牲者の遺族に対して責任を果たせと詰め寄ってもよかったのだが、こちとらただの雇われの身だ。そこまで殺生なことはしなくても良いだろう。
火事の犠牲者に知り合いがいたわけでもなければ、遺族に捕まえてくれと依頼されたわけでもない。ホテルのオーナーに恨みがあるわけでもない。
ただ調査の一環で、幽霊の噂が本物かどうかわかればいいだけだ。
さて、ではこのホテルに出るという幽霊は一体誰だろう。
夜になると街灯の暗い明かりに照らされて、割れた窓の向こう側にぶらぶらとしている人間が見えるというのである。火事で死んだという犠牲者か。あれば首を吊っているのはおかしい。
目撃者の証言は、どう見ても首吊りをみたときのそれである。
行って確かめてみる他ない。
夜間。いかにもという時間になってから、廃墟に足を踏み入れた。臆病な助手は外で待っている。建物の外観を見て、もしぶらぶらとする人影が見えたら、その部屋を連絡する手筈になっている。
建物の中は黒い。暗いのもあるが、焼けこげているからだ。焦げ臭さが未だに漂っているような錯覚すら覚えるが、ここが燃えたのはもう十年も前だ。風雨にさらされて流石に残っていないだろう。
チカと腕時計の液晶に通知がポップアップする。
302号室。
助手からの連絡だ。走る。階段を駆け上がる。
302号室。窓から助手に懐中電灯を振って見せる。向こうからも応答がある。どう見えたかは後にして、ひとまず部屋全体を照らしてみる。
「幽霊の体重は何キロくらいなんだろうね」
埃の積もった地面には、くっきりと足跡が刻まれていた。幽霊の履いていた靴がここからわかるかもしれない。
古い足跡も新しい足跡も混ざっていて、何往復も部屋の中央から入り口を往復している。
どうやら、幽霊騒ぎの背後には生きた人間がいるらしい。
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