かにやけんせつ
2025-02-16 01:22:44
2553文字
Public 魔法少女特務機関 Main Story
 

魔法少女特務機関 Fragment.003

#2023/7/13
#Hanasaki_Mikoto
#Aoi_Cyan

 がらら……ぱたん、と、引き戸の閉まる音がした。
 適性検査から手術まで一通りの仕事を終えたところ。そろそろ休息を取らないと周囲に怒られる頃合いだが、しかし博士はまだやりたいことがあった。

「博士、お疲れ様です」
「ありがとう。ちょうどさっきコンビニでアイスを買ってきたんだ、食べるかい?」
「あっ、パリパリチョコ!ありがとうございます、いただきます!」

 博士が会いに行った部屋の主は、嬉しそうにパリパリチョコと書かれたアイスを受け取る。この部屋の主は天宮あまみや希望のぞみ、特務機関彩坂支部の職員の一人である。ただ、彼はその中でも特殊な立場であった。それを証明するかのように、病衣にカーディガン姿の彼は、淡褐色の液体の点滴を受けている。

「アイスおいしー……それで、用事ってアイスだけじゃないですよね。隣の……
「そ、隣の。気配で分かるだろうけど一応、君には言っておかないとと思って」

 アイスを食べながらも言う希望に、博士は頷く。博士の答えに希望は、ふーむ、と考える素振りを見せる。そして、希望はもう一口アイスをかじると、小さなため息をついた。

……本当に、あれでよかったんですかね?」
「しょうがないさ、お二人の意向だから……私もあまり素直に頷きたくはなかったけれど。……できることといえばせめて、恨まれることになったらその恨みは全部私が受けることかな」

 そう言いつつ自分もいちごアイスを食べる博士に、こら、と希望は声を上げる。博士が希望の顔を見ると、食べ終わったアイスの棒片手に少し頬を膨らませていた。

「そういうのよくないですよ!博士のことだから全部『私の独断で~』とか言おうと思ってるでしょ。昔っからの悪いクセですよ、それ。せめて本当のこと言えって言われたら本当のこと言う。そっちのほうが正しいって、僕は思いますよ」
……すまない。君の言うことも、もっともだ。ただ……こればっかりは簡単に答えの出るものじゃない。……考える時間が必要そうだ」
……そうですね。でも、くれぐれも全部私の責任、とか言うのはなしですよ!『特務機関の大人』は博士だけじゃないんですから。……困ったら相談してくださいね、僕にでも他の皆にでも」

 そう言って微笑みかける希望に、博士は静かに頷く。そして、自分の分のアイスも食べ終えるとゴミをゴミ箱に捨てて、それから仕事に戻るために希望の部屋を出ていった。



 詩杏が目を覚ますと、そこは真っ白な部屋であった。思い返し、そしてここは特務機関彩坂いろどりざか支部、そこにある病室のような部屋であることを思い出す。そういえば昨晩は熱中症で体調を悪くしていたが、それがまるで嘘だったみたいに身体の調子が良い。そして、身体の中にふわふわとした何かがある、と詩杏は感じる。

「おや、目覚めたかい」
「おはようございます。えーと……博士」
「そう、博士だよ。おはよう、詩杏ちゃん」

 そう声をかけてくれた博士は、どうやらベッドのそばで詩杏のことを見守っていたらしい。その博士が下着や靴下を持ってきてくれていたことで、そういえば昨晩は風呂にも入っていなかった、と詩杏は思い出す。

「機関の案内もしないとだけど、その前にお風呂入ってすっきりしたいでしょ。バスルームがあるから、先に案内するよ」
「助かります。汗べとべとだったのに、昨晩は濡れタオルで拭いただけになっちゃいましたし」

 詩杏がそう答えると、じゃあ行こうか、と博士がここより下、5階にあるバスルームまで案内してくれる。まだ朝早いようで、人の気配はあまり感じられなかった。バスルームは一人ずつ入れるシャワーブースとゆったりした大浴場があり、そして朝早いからか大浴場には今は誰もいなかった。

「そういえば昨日着ていた制服は洗ってもらっておいたから、ここに置いておくね。今日も学校でしょ?」
「お。ありがとうございますー」

 大浴場の脱衣所でロッカーに下着や制服、スマホを置くと、博士は「ごゆっくり、私はさっきの部屋で待ってるからね」と去っていく。それを見送って詩杏は、借りていた寝衣を脱いで入浴することにした。

……ふうん」

 寝衣を脱ぎ、そして脱衣所にある鏡に目をやると、胸の真ん中──心臓の真上だろうか、そこに六角形の機械が埋め込まれていた。それをよく見ると、枠とそこにはめ込まれた六角形の何か、というふうに見える。確か博士は、これを「ソケット」と呼ぶもので、見た目は目立ちそうだが魔法でいくらでも誤魔化せるから気にすることはない──なんて説明していたか。そんなことを考えながら、詩杏は鏡から目を離し、浴場内へ入っていった。



 詩杏が入浴を終えて先程の部屋に戻ると、博士は何やら作業をしていたようで、部屋の片隅にあった机にノートパソコンやタブレット端末を広げていた。が、詩杏が入ってきたことに気づくと、すぐに作業の手を止めてそれらを片付ける。

「おかえり、詩杏ちゃん。何か困ったことはなかったかい」
「いえ、何も。いいお湯でした」

 博士の前で立ち止まった拍子に、詩杏のミルクティー色の髪がさらりと揺れる。と、その詩杏のお腹からぐぅと音が鳴った。時計を見れば7時、街が通学通勤する人々で賑わい始める頃合い。そりゃあお腹も空くかぁ、と詩杏が思っていると、博士が片付けたノートパソコンやタブレット端末を抱えて立ち上がった。

「詩杏ちゃん、せっかくだから今日は朝ご飯も食べていって。朝食ついでに、他の魔法少女の子達も紹介するよ」

 ちょうど美雲さんが作ってくれている頃合いだから、と博士は笑いかける。詩杏としても、せっかくなら早く空腹を満たしたい。朝食を抜く友人も何人かいるが、詩杏はちゃんと朝食を食べたいタイプであった。

「それじゃ、朝ご飯もいただきます」
「分かった。みんな4階に集まっている頃合いだと思うから、一緒に行こうか」

 こっちだよ、と博士は詩杏を朝食会場へと案内する。まだ朝ながらすでに窓の外はぎらぎらと暑そうな光を放っていたが、機関のビルの中は涼しく居心地の良い空間であった。その涼しさを享受しながら、詩杏と博士はエレベーターに乗り込んだ。