ぐるさん
2025-02-16 00:26:08
3146文字
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2.15ふみりかワンドロ 【花言葉】

ふみりかワンドロライ(@ fmrk_1draw)さんの2025.2.15お題をお借りしました。

「はい、理解。これあげる」

 ある日の昼下がり、ふらりと私の部屋を訪れたふみやさんがそう告げた。

「これは……花束ですか?」
「うん」

 ふみやさんが私に手渡したのは、白を基調にした小さな花束。綺麗だとは思うが、ある疑問がよぎる。

「あの、言いにくいのですが、今日って何かありました……?」
「いや、特に無いよ」

 一瞬、自分だけが何か大事なことを見落としていたのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。それでは何故、ふみやさんはこのような事を?

「何か、出先で見かけて綺麗だと思ったからさ」
「えっ!?」

 ふみやさんはまるで私の心の内を読んだかのように話し始めるから、驚いて大きな声が出てしまった。

「俺が花を綺麗だって思うの、そんなに以外?」
「え、あ、いや、そういう訳ではなくて……その、あんまり急だったので驚いてしまったというか、今日何かあったかと焦ってしまったというか……
「確かに。俺も理解から急に花束渡されたら、そう思うかも」
「でしょう!」
「でも、こういう日があってもいいんじゃない?」
「こういう日、とは?」
「何でもない日に花を送る日。ほら、なんて言うか、恋人っぽい、みたいな?」

 ふみやさんは淡々としているけど、薄く頬を紅潮させながら微笑む。その照れたような、それでいて嬉しそうな表情につられて、こちらも自然と笑みが零れる。

「ふふっ。そう言われると、確かにそうかもしれないですね」
「でしょ?」
「改めてありがとうございます、ふみやさん。大事に飾らせて頂きますね!」
「うん。そうしてくれると俺も嬉しい」

◇◇

 時は流れて夜。私は自室で日課の日記帳を広げる。机の上には、昼にふみやさんに頂いた花束を生けた花瓶が置いてある。

「ふふっ」

 花々を見ると、自然と笑みが零れてしまう。白を基調としたそれは、華やかだがこの部屋によく馴染んでいて、それだけふみやさんは私の好みを熟知しているという事実に何だか胸が弾んでしまう。

 特に、ゼラニウムと言っていただろうか?ふみやさんが特に気に入ったという白い花は、私も一番のお気に入りだ。白い花と言えば百合や胡蝶蘭のイメージだったが、このような花もあるとは初めて知った。

 そうだ!せっかくだから明日、私もふみやさんに花束を買いに……

 ダッ!ダッ!ダッ!

 私が明日の計画を立てていると、廊下から激しい足音が聞こえる。こんな夜更けに廊下を走る愚か者は誰だ!注意のために部屋を出ようとすると、それよりも早くドアが開く。

「理解!」 
「ふみやさん!?ノックも無しに急に入るなんてぶつかったら危ないでしょう!それに、廊下はもっと静かに——
「悪い、今それどころじゃない。昼間渡した花束ってどこにある?」
「はぁ?」
「あ、あった。ちょっと借りる」

 ふみやさんは私の話を無視して、机上の花瓶を勝手に掴む。

「ちょ、ちょっと!一体どうしたんですかふみやさん!というかソレどうするつもりですか?」
「捨てる」
「捨てる!?」

 一体何を言ってるんだこの人は!?昼間あんなに嬉しそうに渡してくれたのは何!?

「いやいやいやちょっと待ちなさい!」
「待たない」
「待て!そもそも一度人に渡した物を許可なく回収しようとするな!」
「いや、それは……
「理由があるなら言え!今ここで!」

 ふみやさんから花瓶を奪取してその瞳をジッと見つめると、普段は吸い込まれそうな紫色も、今日ばかりはあちこちに視線を彷徨わせて狼狽えている。

 ふみやさんは結局そのままひとしきり狼狽え、悩み、迷った後、苦々しい表情で口を開いた。

「花言葉が……
「花言葉?」
「ゼラニウムの花言葉が、『真の友情』みたいで……
「それが?良い言葉じゃないですか?」
「それに、白いゼラニウムになると、『偽り』『優柔不断』『貴方の愛を信じない』になるらしくて……
「それはちょっと嫌ですけど……貴方まさかそんな理由で捨てようとしてたんですか!?花には何の罪も無いのに!?」
「うっ、いや、あの、それは……

 珍しく首まで真っ赤にしながら歯切れの悪い言葉を繰り返すのを見るに、割と本気で捨てようとしていたらしい。

 正直ふみやさんがこういう事を気にする人だとは思っていなかったので、少々驚いてしまう。

「でも、だって、嫌じゃん」

 俯きながら、ぽつぽつとふみやさんは話す。

「せっかく綺麗だと思って、お前にも見せたいと思って買ってきた花が、不吉な意味を持ってるなんて」
「それは……
「それに、恋人同士なのに『真の友情』とか、友達に戻りたいみたいで、それも、嫌」
「それはちょっと邪推というか、曲解しすぎでは?」
「そうかもしれないけど、でも俺は嫌だと思ったし、理解が少しでもそう勘違いしたら悲しい。だから捨てる」
「気持ちは分かりましたけど、いくら何でもそこまでしなくても……
「じゃあ、その理由は?」
「理由?」
「理解が捨てたくない理由。俺が捨てちゃいけない理由。だって理解が最初に言っただろ?理由があるなら言えって」

 拗ねるような口調で尋ねるふみやさんは、何だか年相応の子供みたいでちょっと可愛い。

 だけどその表情は真剣そのもので、本気で私を気遣ってくれた結果の言動なのもよく分かる。分かるからこそ、言わなければならない。

「ならばお答えします。ふみやさんが花束を捨ててはいけない理由を。ちなみに大きく分けて二つあります」
「うん」
「一つ目は、単に私が気にしてないからです」

 ふみやさんが、あかさらまに納得できないという表情を浮かべる。

「気にしてないっていう証拠は?俺を止める為に嘘ついてない?」

「私が嘘なんてつく訳ないでしょう。証拠に関しましては、この花の花言葉を知らなかった、調べるという発想がなかったからですね」
「本当に?」
「えぇ、本当です。ふみやさんに教えてもらうまでは」

 疑惑の目で見つめるふみやさんをしっかり見つめ返すと、流石に信じてくれたようで少し引き下がる。

「それじゃあ、二つ目の理由は?」
「二つ目は、ふみやさんにお花を頂いた事が、とっても嬉しかったからです」

 私の言葉に、ふみやさんは大きく目を見開く。

「ふみやさんが何処かで見つけた綺麗な物を、私にも見せたいと思ってくれたその気持ちが、私は本当に嬉しかった」
「!」
「そんな嬉しい気持ちを与えてくれたふみやさん自身の手で、その象徴とも言える花が捨てられてしまうのは、私には耐えられない。だから、どうか考え直して下さい。ふみやさん」
……理解」

 不意に、ふみやさんが私をふわりと抱きしめる。

「えぇっ!?ちょっ、ふみやさん!?」
「ごめん、理解」
「ふみやさん?」
「勝手に花捨てようとして、ごめん」

 ふみやさんは、申し訳なさそうに私の首元に顔を埋める。

「怒ってないから大丈夫ですよ。……しいて言えば、最初に理由を言って欲しかった位ですかね?」
「悪い……ていうか恥っず……何か俺、めちゃくちゃ空回りしてたかも……
「別にそこまで悲観する事ないと思いますけど……
「よし、決めた」

 急にガバッと顔を上げたふみやさんは私の両肩を掴んでこちらを見つめる。

「な、何をですか?」
「この花は捨てない。でも、このままだと俺がモヤモヤするから、リベンジさせて」
「リベンジ?」
「うん。今度はちゃんと意味を調べてプレゼントするから、もう一回受け取って欲しい」

 ——数日後、九十九本の薔薇と共にふみやさんが私の部屋を訪れた話は、また別の所で。