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溶けかけ。
2025-02-15 23:54:15
3915文字
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ほぼ日刊
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きみのためにできること
フリが(性的に)酷い目に合うお話。
気持ち悪いモブが出てきます。
ぞわり、という肌が粟立つ感覚にフリーナは辺りを見回した。
「気のせい
……
だよね
……
」
目を皿にしてあちこちに向けるも視線の先には人はおろか猫一匹見当たらなかった。
「帰ろう
……
」
フリーナは紙袋を抱える腕に力を籠める。体の向きを変え、振り向かずに走り出した。
走っていくフリーナを一人の男がじっと見つめていた。男は先ほどまで彼女が立っていた石畳の上に立つと下を向く。白い石畳には青みのある銀糸が絡まっていた。
「
……
」
にんまりと口角を上げた男はフリーナの髪をピンセットで摘み上げると瓶の中に納める。瓶の中には既に束といっていい程の量の髪が詰め込まれていた。
「フリーナ様
……
」
男は瓶の蓋を開けると瓶口を鼻に近づけると不遠慮に肺に彼女の香りを取り込む。彼の股間のものは既にぱんぱんに張り詰め、その存在を大きく主張していた。
走り去るフリーナを思い出す。いつもは強気に吊り上げられた青い色違いの双眸は恐怖によって不安げに垂れ、小刻みに震える体を押し隠して気丈に振る舞う姿はひどくいじらしい。
もし、と男は目を閉じて場面を思い浮かべる。
特別に作らせたよく鞣した革の手錠はきっと彼女に似合うだろう。白いシーツの上でサファイアよりも美しい何ものにも代えがたい宝石のような瞳に浮かぶ雫は甘いのだろうか、それとも他の数多の人間と同じようにしょっぱいのだろうか?
まあ、どちらでも構わない。
男は隠しきれない愉悦を口の端にのせて、ポケットの中の手錠に触れる。
早く、早く、夜が来ないだろうか──男は太陽が輝く空を睨んだ。
「だ、誰
……
!?」
「フリーナ様。すいませんが少しだけ眠っていて下さいね」
素早く拘束されたフリーナは甘い香りのするハンカチを押しつけられて、意識が遠のいていく。やがて、全身の力が抜けて重さを増した彼女を男はベッドへと転がして手錠で繋いだ。
想像し続けてきた光景に思わず喉を鳴らした。
「きっとあなたは清らかな声で鳴いてくれるのでしょうね」
男はうっとりとした表情で眠っているフリーナの頬に指を這わせる。
折角なら彼女が起きるのを待つことにしよう。
「あぁ
……
おはようございます、フリーナ様」
目を覚ましたフリーナが男の声を聞いて身動いだ。ガシャン、という金属が擦れる音が大きく響いた。
「──キミは誰? 何が目的なんだ?」
フリーナはパニックを起こしそうになる頭を必死に動かす。視線を男から逸らさないようにしながらも、見える範囲で情報を探る。
(ここは
……
僕の部屋の間取りに似てるみたいだ
……
。この人のことは知らないけど、最近の視線の原因が彼ならば説明がつく。鍵は
……
閉め忘れた
……
? いいや、僕はきちんと戸締まりをしたはずだ。なら、合鍵だろうか? そういえば、大家さんがスペアキーが足りないと行っていた日があった。もしかして
……
)
「どうかしましたか?」
男の手がフリーナの耳に触れる。愛撫をされるかのような手付きに怖気が走った。
「
……
僕の質問に答えろ!」
フリーナは努めて気丈に振る舞う。ここで弱さを見せればつけ込まれることなど容易に想像が出来た。
「言わずとも分かるはずです。賢く美しい貴女様なら
……
」
夢見る瞳で男はフリーナを見つめる。逃げなければ、と本能が警鐘を鳴らすも逃げる術など思い浮かばずに悔しさに唇を噛む。
(せめて、神の目があれば
……
!)
男の体越しに見えるテーブルの上で輝く神の目に視線を送る。男はそんなフリーナの心情など露ほども考えず彼女の上に覆いかぶさった。
「ひっ
……
」
「嗚呼
……
恐怖に震える貴女を何度想像したことでしょう
……
。ですが、やはり、本物には敵いませんね」
男の手がフリーナの太ももを擦る。嫌悪感が迫り上がってきた。
「そんな顔をしないで下さい。すぐに好くなりますよ」
男は毒々しいショッキングピンクの液体が入った小瓶を開けると口に含んだ。
「!?」
目にも止まらぬ早さで男はフリーナに口づけると口内の液体を彼女に送り込む。
手足を拘束され、拒むことも出来ずに飲み込んだ彼女に男は恍惚とした表情を浮かべた。
「全部飲めましたね」
えらいえらい、と小さな子どもにするように男はフリーナの頭を撫でる。
今飲ませたのは即効性の媚薬であった。
「身体が熱いでしょう?」
荒い息を吐いてこちらを睨みつけてくる彼女の腰に手を沿わせれば華奢な体が大袈裟なくらい跳ねた。男は予想どおりの反応に内心でほくそ笑む。
「さわ
……
るな
……
!」
涙で瞳を濡らしたフリーナは魅力的だった。恐らく、男なら誰であっても彼女を抱きたいと思うだろう。
「そんなことを言って
……
身体は正直みたいですけど」
ささやかな胸を鷲掴み、乱暴に揉めば彼女は甘い母音を零した。
「まるで、初夜みたいですね」
今夜のフリーナの格好を見て、男は興奮したように言葉を紡ぐ。白いシュミーズドレスは汚れを知らない花嫁のようだ。
そういえば、と男はフリーナの胸の先端に吸い付きながら以前聞いた話を思い出す。
花嫁の白は「あなたの色に染まります」という意味を含んでいたはずだ。ならば、今の彼女は紛うことなき自分の花嫁なのだろう。これから彼女を自分の色に染め上げるのだから。
「今夜は素敵な夜になりますね、フリーナ様」
男の瞳に映る自分の姿は恐怖に満ちていた。
「フリーナ殿!」
ヌヴィレットが僕の名を呼ぶ声が聞こえた。
彼の汚れを知らない美しい姿を霞む視界に捉えながら、ぼんやりと霧がかかったかのような頭で必死に考える。
触らないでくれ──キミを汚したくないから。
見ないでくれ──こんな穢れた姿の僕を。
「
……
、
……
」
「なん
……
」
ヌヴィレットが尖った耳をフリーナに近づける。
「こ
……
ろして
……
」
ヌヴィレットの瞳が驚きに見開かれる。頬が痩けて、深い隈の刻まれた顔が優しい笑みを浮かべた。
「君は
……
フリーナ! ──誰か、シグウィン殿を呼んできてくれ!」
フリーナの瞳が閉じられる。ヌヴィレットの号令で特巡隊の隊員たちやマレショーセ・ファントムの面々が慌ただしく動き出した。
フリーナの状態ははっきり言って最悪だった。
栄養失調に脱水症状、何よりも慢性的に使われていたらしい媚薬による中毒状態。あと数日遅ければ中毒死をしていたとしても不思議ではない、というのが彼女を診察したシグウィンの見解だ。
「まずは体に溜まっている毒を排出するしかないわね。しばらくの間は自力で起き上がることも出来ないから、みんなの力を借りることになると思うの」
シグウィンの言葉にその場にいた全員が頷く。フリーナを誘拐した男は自身の欲のために薬を使うことを厭わなかったのだ。
「でも、なんでこんなになるまで
……
」
ナヴィアがフリーナのカルテに目を通して顔を顰める。その瞳には男への嫌悪がありありと見て取れた。
「反応がいいからだと、そう
……
言っていた
……
」
ヌヴィレットの言葉にナヴィアが立ち上がる。
「だから!? だからってフリーナをこんなになるまで放っておいたの!?」
「ナヴィア落ち着」
バインダーを床に叩きつけたナヴィアをクロリンデが宥める。
「これが落ち着いてられる!? フリーナはあんな男に何もかもを踏み躙られたのよ!?」
「それはそうだが
……
。だが、今ここで怒りに身を任せても意味はないだろう? 私たちに出来るのはシグウィンさんの指示のもと、フリーナ様をサポートすることだけだ」
クロリンデの返答にナヴィアが俯く。そして、「ごめんなさい。話を続けましょう」と震えた声で言うとクロリンデに支えられながら椅子に座りなおす。シグウィンは全員を一瞥したあと頷くとカルテに目を落とした。
「それで、これからの方針なのだけど
……
まず、フリーナさんのお部屋は医務室とは別の所に用意をするつもりよ。それは既に公爵に許可を取ってあるわ」
シグウィンが横目でリオセスリに視線を送る。彼は頷くと後を引き継いだ。
「フリーナ様が要塞内にいる、という話が漏れないように情報統制を敷くつもりではいるが、それも完璧とは言い難い。悪気はなくともうっかり、ってのも考えられるからな。そこで、信用に足りうる女性の看守を何人か選定しておいた。勿論、腕も立つ。交代でフリーナ様の部屋の警備をしてもらう手はずになっている。そのための人員の手配も検討中だ」
「ありがとう、公爵。ウチもなるべくフリーナさんの側にいるつもりなのよ」
「すまない、二人とも」
ヌヴィレットが項垂れる。二人は顔を見合わせた後、ふっと笑いあった。
「謝ることはないんじゃないか?」
「謝らなくていいのよ」
「だが
……
」
「そもそも、フリーナ様は看護師長じゃなければ見られない状態だ。なら、ヌヴィレットさんの判断は正しい」
「公爵の言うとおりよ。ウチの仕事は弱ってる人を助けること。そのためならなんだってするのよ」
「ヌヴィレット。こういうときは『ありがとう』って言うんだよ。──きっと、フリーナならこう言うんじゃないかな?」
静かに話を聞いていた旅人が徐ろに口を開いた。昏昏と眠り続ける友人ならば、きっと彼に言葉の一つでもかけたのではないかと思ったからだ。
ヌヴィレットにも旅人の意図は伝わったらしい。彼は込み上げてくるものを飲み込むと「ありがとう」と感謝の言葉を口にした。
その様子を他の者たちは慈愛に満ちた目で見つめていた。ぱんっと小さな手が大きな音を立てる。
「さあ、みんな。まだまだ話すことは沢山あるのよ。話を続けるわね」
シグウィンの声に全員は耳を澄ませる。
作戦会議は朝まで続いた。
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