望月 鏡翠
2025-02-15 23:17:02
946文字
Public 日課
 

#1628 「瓜」「まじない」「明かり」

#毎日最低800文字のSSを書く/三題噺

 昼間の暑さがいつまでも抜けていかない夏の日、先生が井戸水でよく冷やした瓜を出してくれた。里はどこも乾いているのに、ここはいつまでも緑があって、水もよく冷えていた。
 仕事があるとはいえ、家にいるよりもよほど心地よく過ごすことができる環境だったので、時間が許す限りそこで過ごすようにしていた。
 食事も世話になっていたから、貧しい家からすればそうしておいた方が都合が良かったのだろう。黄色い皮をして、白い身をした見慣れぬ瓜は、包丁を入れた途端に、石の上にぽたぽたと果汁が落ちた。
 それを目にした途端に、口の中に涎が滲んだ。子供というのは際限なく遊び回る上に、いくら食べてもお腹が空くものだから、夕食のあとでも平気でおやつを食べられた。
 家で食べたら兄弟も家族もいるから、口に入るのは八分の一がせいぜいだろう。それを贅沢に半分も食べられた。夢のようだった。大人になったらやろうと思っていたことの一つが、もう叶ってしまった。
 ワタの部分が特に甘く、果肉の部分は喉の渇きを癒してくれた。種があっても気にならなかった。口の周りを汚しながら食べていると、先生は手拭いを二人の間において、隣でもう少しお行儀がよく綺麗に瓜を食べ始めた。
 匙を使って瓜を食べる人を、初めて見た。初めて見たけれど確かにあの食べ方だと汁をこぼさずに最後まで綺麗に食べられそうだ。
 齧り付いたときにこぼしてしまう果汁が勿体無い。貴重な甘みなのだ。
 先生の食べ方を見ていると、人がものを食べるところをじっと見つめるのは失礼ですよといい、そっと口から種を取り出してお皿の上に戻した。
 話題を逸らすように、先生は種を使った占いを教えてあげましょうかと言って、明かりを持ってきた。あくまで民間で信じられているおまじないの類なので、あまり信憑性はないのですが、辻占としては手軽に行うことができてちょうどいいですよ。
 先生はそう言って、種を器に入れて洗う。水を捨てたとき、器の底に残った形を見るのだという。茶葉でも同じことをやる地域があると教えてくれたのだが、茶葉は急須の中にあるもので、どうやったらそれの形を見ることができるのか、よくわからなかった。
 お茶や茶器の種類が違うのですよ、と先生は笑いながら教えてくれた。