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うずめび
2024-12-19 23:39:48
5746文字
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ウル博
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海底にて
ウル博で互いに傍にいたい二人の話。ぬるいですがR18なのでこちらに。いつもどおりゆるふわでいちゃいちゃしてます。
海底にて
触れられている場所から伝わり、流れ行くこの人の血流の音を聞くたびにいつも思うことがある。
(まるで水の中で響く音のようだ)
ドクターに潜水や水泳の心得や経験はないが、時折気まぐれに浴槽に顔ごと沈めたときの感覚にも似て。ごぼごぼと酸素を水面に吐き出すただ中で、心臓が送り出す血液が奏でる不思議な音。体の中には海があると言ったものがいたが、それを聞いて納得したことを覚えている。
(
―――
もっともこの人には本当に体の中に海があるのだけれど)
アビサルハンター計画の立案者であり、最初の被験者。種族の存続のために自らを実験台にした人の体には、正しく海が存在している。生命の揺り篭のようなあたたかなそれではなく、宿主を侵食しやがて飲み込む不気味な海が。
誰もが忌避するそれを受け入れては、ただ一人深海の中で泳ぎ続けている人に惹かれたのは、はたして何度めの秘密裏に行われている邂逅の時であったのか。
「
―――
随分と他所事に集中しているな」
何を考えているとベッドで横になるドクターを覆い被さるようにして見つめる赤い瞳は冷ややかな雰囲気を漂わせている。一見怖さを感じるものの、その実心配されているのだと理解したのはそう遠い話ではなかった。
鋭い目付きは些細な異変を見逃さないようにするもので、問いかける声は存外素直な疑問な発露であるのだと気づくまでに随分と時間がかかったが、気づいてさえしまえば不器用に心を傾けられているのだからくすぐったい。
「君の事を考えていたから他所事ではないよ」
けれど、せっかく君が触れてくれているのに考え事をするのは良くなかった。すまない、ウルピアヌス。
そっと手を晒されている傷跡のある頬に伸ばして一つ撫でると目付きが僅かながらも緩やかにほどけていくのが嬉しい。そのまま口付けを乞えば静かに唇が重ねられる。
エーギルの種族故か、あるいはウルピアヌスの生来のものかは不明だがこの人の体温は低くて触れる手口付けも、いつも最初はひやりとしている。それがドクター自身の体温と入り交じっては徐々にぬるくなり、最後には温かくなるのが好きだった。まるで冷たい海にいる人を温められているようで。
今もゆるゆるとぬるくなりつつある体温を感じながら呼吸を食まれて、ドクターはあえかな吐息を漏らす。ウルピアヌスよりもずっと早く温まってしまう体を過酷な戦闘と鍛練で分厚くなった手が触れていく。
口付けの合間に脱がせられ晒された胸元に主張しつつある胸元のそれを擦り合わせるように触れられ、確かな快感に小さく身を震わせた。
「んっ、ウルピアヌス」
先を願う声色にああと頷かれて手が胸元から下肢に向かう。脱がしやすいようにそっと腰を浮かせれば下着ごと服を脱がされる。これから与えられるものを期待してかとろりと透明な糸を引いてしまっているのを見られてしまって、思わず俯いた。
「顔を隠すな」
ただでさえいつも隠しているのにここでも隠すつもりかといわれるものだから、君だっていつも隠しているだろうと反射的に言い返しては顔が上がる。皮肉混じりながらも微かに笑われて、また呼吸を食むものだから、この人はまったくもって本当に。
何かを言い返せたらと思うのに体に触れる手が胸元を過ぎて下肢に行くものだから、言葉は波に浚われるようになくなってしまう。見つめる赤い瞳に頷けば、さらりと熱に触れられた。先端から溢れるものの滑りを借りて大きな手が緩やかに熱を擦る。
戦闘では自らの身長程に巨大な錨を操る手は今に限っては暴虐さの欠片もない。学者であり、優れた作曲家の才能もある人だから、元よりこの優しい手こそが素なのかもしれなかった。海を宿すことなく、学者兼作曲家として暮らす未来もあったのだろうか。そうであったならと思いながらも、きっとそうであったなら今のような関係ではなかっただろうとも思う。
―――
どうあれドクターとウルピアヌスは深い海で繋がっているから。
そんなことをドクターが熱に浮かされるまま考えるさなかもじりじりと熱は追いたてられていく。快感からシーツを蹴ってずり上がろうとする体を体格差をもって押さえ込まれてしまうから、逃げ場のない熱が体の奥に籠ってしまって吐き出すように目じりからは涙が落ちた。
「っつ
……
もう、」
前の熱に触れる手はとうに熱くて、重なる唇も熱い。確かに感じる愛しい人の熱にこそ感じてしまってぞくぞくと背筋に快感が走る。熱を吐き出したい事は元より、中が先を期待するように震えるのを自覚した瞬間に爪先が耐えるように丸まった。縋るものが欲しくて咄嗟に手を伸ばせば抱き止めてくれるのが嬉しい。
「
―――
ドクター」
低い声で促すように呼ばれればもう駄目で、ひときわ強く先端を擦られると共に熱を吐き出した。声なき声とともに余韻で震える体を落ち着かせるように背を撫で、目じりから落ちる涙を唇で掬われる。
息を整えながらも大丈夫だと伝えるために背を撫で返せば、額に口付けを落としてウルピアヌスが体を離した。黒く着こんだ服を脱げば逞しくも傷だらけの体が晒された。
手術台、あるいは被験体。そう医療部のオペレーターから称された体は傷がついていない場所を探す方が難しい。切傷、貫通創、刺創、咬傷
……
ありとあらゆる種類の傷を繰り返し治してきた体は人によっては恐ろしく、痛ましいものなのだろう。
戦闘による負傷や鉱石病の患者を日々見ているドクターでさえ、最初は目を瞬かせたものだ。けれどもそれは痛ましさからではなく、この人が歩んできた道の過酷さとそれでも生き抜いてきた事実に対する感嘆だったのだと思う。何より海に近いくせ、それに抗い続けた証だったから。
服を落とし、戻ってきたウルピアヌスの体に触れる。肩や腕、胸元に無数にある傷をなぞっていれば呆れたようなため息が聞こえる。
「寝屋だというのに相変わらず触診のように触れるな、お前は。最近は戦闘も小競り合いもなかった。心配は無用だ」
だから新しい傷はないのだと告げる声にドクターは頷いた。以前に負傷をしたままウルピアヌスがロドスに秘密裏に訪れた際、ドクターが大層動揺した姿を晒してしまってからというもの、情事の際に傷がないか見るのは二人の間ですっかり習慣になってしまっていた。
無駄を嫌う人だからやめるように言われるかと思っていたのに、続いている意味を思えば愛しさが募る。もっとも観察しているのはドクターだけではないのだが。
「以前の傷は塞がったか。指揮官が前線に出て怪我をするとは、お前の戦争設計はどうなっている」
以前に会ったときに狙撃兵の弓がかすめた傷がついていた場所を見てウルピアヌスが呟く。誤魔化すように曖昧に微笑めば、まあいいと傷跡を一つ撫でる手付きは優しい。
「どうしても無理を通すときは俺を呼べ。望む結果を見せてやろう」
返事をする前に覆い被さられて口付けをされるものだからドクターも背に腕を回して受け入れる。唇を食まれるままに下肢に手を伸ばされ、後ろに触れられた。前から溢れる熱をまとい、ゆっくりと指が中へ入っていく。
待ちわびていた中はもっとと言いたげに奥へと誘おうとして指を締め付けてしまうものだから、息を吐いて体の力を抜こうと試みる。それを察したのか、唇を離してやわやわと手が頬を撫でる感触がする。
「ん
……
」
穏やかな体温に体の力が抜けて、それを見てかゆっくりと指が奥へ進んでいく。浅いところから少しづつ割り開いて、繰り返し確かめるようにして中を押す。体格差や力の差を考えれば傷つけないように、苦しくないようにという意図は明確で、だからこそ少し焦れったくもある。
「ウルピアヌス
……
」
「そう急くな」
冷ややかに聞こえながらも常にはない熱さをはらむ声になおさらに体温が上がる。増やされた指に中にあるものを押されて身動げば、ウルピアヌスの熱と自身の熱が擦れてぐちゅりと水音を立てるのが艶かしい。
意図しない接触に眉間に悩ましく皺を寄せている人を見てしまえば、余計に我慢が出来なくてそろそろと押し付けた腰を揺らした。
―――
この人の熱が欲しい。
「っ、お願いだから」
これをと乞う声に小さな舌打ちが返るとともに中を探る指が抜けた。腰に手が添えられ、中に入れられるものは愛しい人の熱。
「っ、あぁ
……
!やっときみと」
「
……
まったくお前は」
続く言葉を深いため息に変えて仕方ないとでも言いたげな顔をするものだから、背に回していた両手を頬に添えて添えるだけの口づけを落とした。しらしらと頬を撫でると口づけを返されるのが嬉しい。
「背中に手を回せ」
動くぞと声をかけられ、背中に手を回すとともに穏やかな律動が始まった。指で触れられたところを擦られ、それよりも深くへと入っていく熱を受け入れる。
手で体を引き寄せれば呼吸を食まれて、距離が縮まって触れたところからは鼓動とともに血流の音が聞こえた。中を埋める熱の水音も相まってドクターはいつも思う。
(
―――
ああ、まるで海のようだ)
とぽりと暗闇の海の中へ沈んで。一人きりでは心細いが、傍らには不可思議な鳴き声をあげる鯨がいる。鳴き声が異なるが故に仲間から遠く離れて、けれども誰よりも群れの事を考えて海溝深くへ潜っていく。お前なら海溝の深さを知ってるだろうと深淵へ誘うから、傍らで泳ぐ人間はきっと自分で。ああ、けれど。
(私は君と一緒にどこまで行けるのかな)
人は鯨ほどに深くは潜れない。かつては行けただろうと手を差しのべられど、その方法は忘れてしまった。思い出せれば共に行けるだろうが、思い出せなければきっと深海の圧力に負けて崩れる運命であるのだろう。それに鯨とて、繰り返し深淵に潜ったせいで体は既にぼろぼろで。
共に深くに潜って緩やかに海面へ浮かび上がる時間や術は残されているのだろうか。それとも二人して深海の底でマリンスノーとして重なり、海中で漂うか否か。いずれにしろ。
(私は君の傍にいたい)
一人きりで泳いで行ってしまう人の傍にいたい。僅かなりとも冷たい深海で冷えた身体をあたためられたなら。その冷たさを作った原因の一人が言うにはあまりにも身勝手だったとしても。
ぽたぽたと感情かあるいは快楽からか漏れた雫を指先でぬぐわれる。泣くなとでも言いたげな瞳に大丈夫だと声を返した。
「んん、っ
……
もっと、おくに」
溺れないようにとでもいうように息つぎのように深く口づけられるまま奥を乞う。すっかり中は愛しい人の熱と形に慣らされて、貪欲にウルピアヌスを抱き締める。凍える深海の中でも確かな熱が欲しかった。
すがり付く中で魚のヒレにも似た髪どめに触れれば、ウルピアヌスが自ら髪を解いた。美しい銀糸が視界を囲って、思わず綺麗だと呟いた瞬間に奥深くを割り開かれる。
「っつ
……
!」
ぐぷりと腹の奥から音が鳴り、中が震えてより強く熱を締め付けた。互いの間で擦れていた熱が爆ぜて白いものが肌を濡らす。快感から降りられないままに中を熱が擦りあげて、一番深い場所に触れる。熱く、掠れた吐息を耳に注ぎ込むようにウルピアヌスが囁いた。
「はっ
……
ドクター、」
強く抱きよせられるがままに奥に熱を注がれてドクターは声なき声をあげた。中を満たされるがままに確かにこの人もあたたかくなったのだという事実に安堵して。ゆうるりと混じり会う体温にとろとろと眠気がやって来て、起きなければならないのに、どうにもそれは抗い固くて。
「ウルピアヌス
……
」
「眠れ」
不器用に優しい掌が目元を覆ってしまうからドクターは逆らわずに目を閉じた。意識を失う寸前に聞こえたおやすみという声ははたして事実だったのかどうか。答えは隣にいる鯨だけが知っているのだろう。
接触したきっかけが義務感であれば、体に触れるまでの距離になったきっかけははたして何であったのか。
ウルピアヌスにとって当初ドクターとは先史文明の生き残りであり、同胞たちの命運を左右する情報を握る存在であること以外何者でもなかった。会う必要も、話す必要もあるがそれ以上に深入りするつもりもなく。
けれども定期連絡や作戦に参加して傍で過ごすうちにそれはゆっくりと変わってしまった。ある意味で似た立場にシンパシーもあれば、他者には無理をするなと言うくせに、自分は無理を重ねる姿に苛立ちと放っておけなさを覚えた時には既に手遅れだったのだろう。
―――
情報源をただの優しく脆弱な人間だと思うなど。
様々な記録や記憶に残るドクターは冷静な学者であり、そこに人格は存在しなかった。ただ傍にいるドクターはあまりにも人らしく預言者や救世主の名で呼ばれるには似つかわしくなくて。
今も目の下に隈を作りながらとろとろとあどけなく眠る姿に誰が預言者や救世主を見るだろう。
「いったいどれが本当のお前だろうな」
記憶を思い出せば目の前にいる人は消えるのだろうか。わからない。失われた記憶に求めるところがあれど、今傍にいる人がいなくなるのは確かに惜しいと思った。
「ウルピアヌス
……
?」
何かあるのかと起きようとする人をウルピアヌスはあやすように撫でる。それで安心したのかまた眠り始めた姿を見ながらウルピアヌスは思う。
(傍にいたいと言うなら好きにするといい)
残された時間はそう長くないのだろう。元より体内にシーボーンを受けいれた時点で末路など決まっている。僅かに残された時間をどう使うかこそが重要で、その時間をドクターのために割く事に異論はなかった。その程度には既に情を抱いてしまった。
―――
そうでなければ体などに触れはしない。
やれやれとため息をついてウルピアヌスも薄暗い寝室で目を閉じた。夜には群れの動きも停滞する、明け方には立つが今暫くは共にいても構わないだろう。
つかの間の眠りにウルピアヌスは身を任せた。光の遠い深海の底、鯨の横には脆弱で愛しい人間が共に眠っている。
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