地平線から昇る朝日がゆっくりと世界から夜の帳を開いていく。空を照らしていく朝焼けの鮮やかさに目を細めつつ、視界の先で波打ち際を戯れるように漂う愛しいひとに重岳は声をかけた。
「ドクター、そろそろ引き上げるとしよう」
早朝に海辺に赴く者がいないとも限らないからなと言えば、振り向いてこちらに近づいてくれるのが嬉しい。ひんやりとしたかさに手を伸ばし、やわりと撫でるとためらうようにレースのような口腕を震わせ触手がそっと手に触れた。
ーーー君が触れてくれるのは嬉しいけれど、無理はしないでいい。
昔の私とは違うからと諦念に満ちた声を理解した瞬間、重岳はドクターを抱き寄せてかさに口付けた。逃げようとする体を尾で包んでしまえば体に無数の触手と口腕がなだれた。
「貴公さえよければ、かさの奥にある口に触れるのもやぶさかではないのだがな。前にも言っただろう、人の形であるというだけで貴公を好いているわけではないのだと」
人を成すのは器にのみ非ずだ、ドクター。私は貴公の器に満たされたものこそ愛おしい。
たとえ重岳の器と同じ形をした手でなくとも、美しい光彩を持った瞳を失おうとも、宿る魂の色は注がれる深い思いは同じだっただろう。本来ならば涙を流さぬ眼点から透明で温かな雫が溢れ、かさの縁に沿って流れては重岳を濡らす。
ーーーありがとう。私も、どんな姿になっても君が愛おしい。
触手が背に回り、口腕が尾にからめられた。顔をかさに寄せれば、おずおずと内側に招くように開かれるからとぽりと重岳は水面に潜るようにかさの中へ入る。ひやりとした不思議な空間の中で慎ましく閉じる口に唇を寄せた。かつてのような形でも熱さでもないが、愛しいひとが受け入れてくれた事には変わらない。
「ーーーああ、心地よいな。ドクター」
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