月見
2025-02-15 17:13:43
2122文字
Public 晋りょ
 

【晋りょ】ちょこれいときす

さかりょ受ワンドロお題「チョコレート」より
媚薬入りチョコたべちゃった二人の話



 やらかした。
 高杉の心境はそれだった。背筋につ、と冷たい汗が一筋伝い、口端が引き攣る。
 さすがに不味いかもしれない。
 そう、眼下に広がる光景に思うと言うのに、嗚呼と生唾を呑み込む。
 冷たい汗を背に感じる以上に腰がぞくりと粟立ち熱を籠らせ、顰められた紅い瞳には確かな昂ぶりの灯が揺れていた。はぁ、と吐いた息は熱く、白いはずの頬は薄っすらと赤みがさしている。
 そんな高杉の舌先に残る濃厚な甘さと、ほろ苦さ。鼻孔を擽るやはり甘く、その奥に密かに横たわる花のような芳しさの源は傍らに置かれ封の解かれた菓子包みであり、くったりと横たわり蕩け震えている坂本龍馬、その人でも、あった。

「ん、ぁ、たかすぎ、さ……――――
 ふら、と力の抜けた白い手が爪の先を淡く色付かせて伸ばされる。抗うために、はたまた縋るためにか。
 コク、と改めて高杉の喉が鳴った。かつて見慣れた黒い着物は腕が伸ばされた拍子に袂がずり落ち、しなやかな二の腕までを晒す。袷もこうして畳の上に崩れ落ちるまでにすっかりと開けており、今にもツンと色づいているであろう胸の花が見えそうだった。
 震える手をしかと握りしめ、高杉はもう片方の手で傍らを探る。そう、菓子包みの中身を、だ。
……ああ、もっと欲しいんだろう? 分かっているとも」
 細い指先がかさりと音を立てて包みから小さなか塊を一つ、摘み上げる。甘い、甘く芳しい、チョコレートだ。
「ぇ、ふ、ぁ……?」
 とろりと潤んだ黒灰の眼差しが頼りなく垂れ下がり、真っ赤に上気した頬で囁かな困惑の吐息を零す。そんな龍馬の手を握る片手をそっと解き、畳と背の間に差し込んで状態を抱き起こしてやった。
「もうこの際だからな、二人で甘ったるく可笑しくなるものまあ、良いんじゃないか?」
 遅ればせながらのバレンタインデーという奴だ。高杉は上擦り掠れた声で明後日に宣いながら、摘み上げたチョコレートを己の口に放り込む。
 途端、広がる滑らかで上品な甘さと、溶けて割れたそれから溢れる舌を焼くような華やかさ芳しさの、酒精。
「んぅっ、む、ぅ、ぁんっ」
 口内に満ちて、まだ形も中から零れた酒も保つまま、高杉は抱き起こした龍馬の薄く開いた唇に齧り付く。ぐち、じゅぷ、と室内に満ちる水音は、合わさった唇から舌から、龍馬の口腔に蕩けたチョコレートが流し込まれた証左だった。
「ふ、ぅぅ、んんッ、んぁ、ぉ」
 チョコレートが、中に詰め込まれた酒が、それらが溶け込んだ唾液が、絡まり縺れ合う舌と共に互いの口の中に広がり染み渡っていく。鼻先に感じる華やぐような甘い香りがまた一段、濃くなった。
 高杉はジンと痺れる頭の芯に眦を歪めながら、一気に全身を駆け巡る熱と理性を焼いて骨を蕩かす甘さに身を任せる。心臓が煮えるようだった。
「んく、ちゅ、ふぁ、ぁ、はぅ、ぁ」
 ちゅぱ、くちゅ、ぴちゃり、と淫らで品を欠いた音が淫を湛えた吐息と共にどちらからともなく溢れて止まらない。
 いつしか高杉の身体は龍馬を抱き起こし支えるのではなく、再び畳に沈めて覆いかぶさり布地を、素肌を擦り合うように掻き抱いていた。
「んんぅッ! あむ、ぅ、ふ、ぐっ、んぁっ」
 ぐずぐずに溶けた息継ぎの合間に上がる声は幾らか抗議の、抵抗の欠片が混在してもいたが、それも高杉の舌が煮えそうに熱い龍馬の口内を舐る度に、投げ出された両足の間に割入らせた膝が兆し始めている股座を押し上げ嬲る度、一瞬にしてただただ官能に跳ねるだけになるのだからなんて堪らないのだろう。
 いつしか両者の身にまとう衣ははだけ落ち、じっとりと情欲の汗に湿り始めた肌をすり合わせ絡み合うだけの有様になって。
 高杉はそんな中で包みに残るチョコレートの最後の一つを再び、龍馬と口付けながら互いの舌先で溶かし割り飲み干す。
 広がる花の、酒精の香りに最後の理性を溶け込ませながら、「あとでどう言い訳するかな」という野暮な懸念も手放した。


 事の発端であるバレンタインデータのお祭り騒ぎに乗るより期間限定で探偵事務所など開いてあくせく働いた挙句に高杉へのチョコレートを失念していた龍馬と、それを見越していつつふてくされていた高杉に声をかけて「マスターはんへの余りやさかい。ほな、あとでお二人でごゆっくりぃ」などと妖しくわらって菓子包みを渡してきた鬼と、そんな鬼が寄越したチョコレートの効能を解析で分かっていながら龍馬に食べさせた高杉。
 あるがままに話せば、責められるのは間違いなく高杉なのだろう。少しばかり美味しい目を見られれば、と、どうせ超常の力を身に着けた龍には大して効果は無いのだろうし、と。それはそれとして一日遅れでも甘い時間は過ごして良いだろうと紅閻魔に頼みこみ宿を一室ひと晩貸切って。
 そんな、それなりの下心とそれ故に甘くなった見積もりの果てが、今だ。長く伸びた紅糸のような髪が乱れて広がる黒髪に降り注ぎ、重なり合う。
 二人揃ってチョコレートよりもぐずぐずとどろどろにとけて混ざり合うような欲と熱と甘さとに溺れながら、高杉は既にくちりと濡れて奥へと誘う龍馬の胎の内へと指を沈めていった。