kokera14
2025-02-15 12:53:47
7648文字
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第4話・訃報

シェキナティアが盗み聞いた言葉は、余りにも受け入れがたく。

……シェキナとケルビムが、死んだ」
 
 静かに発せられた言葉は、部屋に木霊することなく消え行った。その言葉を聞く女性、レディ・スカーはただ眉を顰める。
 夜の闇に静まり返る一室は、時計の刻む音のみが響き、酷い息苦しささえ感じた。
 少なからず、この国では珍しく美しい銀色の髪をぼろぼろにした男性、レヴァイは特に言葉を続けることなくレディ・スカーを見つめていた。
 
……で、それを『信じろ』って言うんだね?」
「あぁ」
「証拠は?あいつらが死んだって確定するものはあるのかい?」
……これだ」
 
 そう言って取りだしたのは、折れた剣と弦の切れた弓。どちらも上等なもので使い手の技量も相応のものと見て取れる。そしてなにより、この2つの武器に見覚えがあった。
 
……あいつらのだね」
「あぁ」
「他に証拠は?」
「俺が見た」
「あんた一人の目撃証言、それだけ?」
「あぁ」
 
 レディ・スカーが問い詰めながら睨みつけるも、返すその眼差しは、まるで彼の持つ槍のように鋭く、穿たれるような錯覚がする程真っ直ぐであった。
 それに押し負けたとでも言う代わりに、彼女は深く息を吐いて、顰めた眉間を弛める。
 
……分かったよ、『信じる』さ。あんたの言うことだからね」
「あぁ」
 
 淡々とした男女の会話。それは誰が聞くともなく夜に溶け入る。
 ただ、小さく軋む扉の音もまた、誰が聞くともなく消えていった。
 
━━━━━━━━━━━━━━━
 
 穏やかな朝日に鳥のさえずり、目覚めを促すものとしては最高のものだろう。
 しかし、自分の心はとてもじゃないが穏やかではなかった。
 考えてもみて欲しい、隣のベッドに好いて……敬愛して止まない人がいて心落ち着けるものだろうか、いや、出来ない。
 だが、これから起こす行動は既に決まっている。今完全に目覚めた頭でシュミレートするのは、物音を立てずに支度をし、姫様を穏やかに起こして差し上げることだ。これくらい出来てこそ姫様の従者、ひいては騎士と言えるだろう、さぁ動き出そう……
 
……カイルス、起きたの?」
「はっはい!お、おはようございます姫様……
 
 計画が全て水に流れようとも折れはしない……せめて凛々しくあろうと顔に力を入れるが、ふと、姫様を見るとどうにも顔色がよろしくない。おまけに何だか目が赤いようだが、よく眠れなかったのだろうか?
 それを問おうと口を開きかけたその時。
 
「ティア、カイルス!起きてるなら下に降りてきな!」
 
 早朝にもかかわらず張りのある声が届いた。その声に従い、自分と姫様はベッドから降りるのだった。
 
 下の階、店へと降りれば、そこには開店準備をしているのであろうレディ・スカー殿、そしてカウンターに座している昨日の男性、確かレヴァイ殿と言ったか。
 あの珍しい髪の色は忘れられない、が、今日はどことなく違うようだ?最後に見た時は、服と同様煤にまみれて、不揃いな毛先と焼けたようにボロボロだった髪型は、見違えるほど整えられていた。
 
 と、そんなレヴァイ殿を注視してしまっていた傍らで腕を引かれる感覚に呼び戻される。その主は、姫様だった。
 
「どうかなさったのですか?」
「あのねカイルス、聞いて欲しいんですの……
 
 何やら声を潜めて語りかける様子に、真剣さが伝わる。レディ殿、レヴァイ殿を見遣り、2人の意識がこちらに向いていないことを確認した上で、姫様は驚くべきことを口にした。
 
「わたくし、城に帰ります」
「なっ!?」
「お父様とお母様に会いたい、今すぐにでも……
 
 切実な声と共にそう訴える姫様。ケルビム様とシェキナ様のことを心配に思うのは分かる、だが王都はきっと、まだ混乱の中にあるだろう。危険なことに変わりない。
 
「しかし姫様……
「大丈夫、私一人で行きますわ」
「そっそれではもっと危険です……!せめて自分が」
 
 ついて行く、そう口に出そうとした時、背後に気配を感じて振り返れば、そこにはあのレヴァイ殿がいつの間にか佇んでいた。
 
 そして驚く暇もなく、レヴァイ殿は姫様の腕を乱暴に掴み、間髪入れず近くにあったソファ席へ放り投げたのだ。
 
「レヴァイ殿、一体何を!?」
……お前が戻ったところで、出来ることなど何も無い」
 
 重く低い声に見下ろすその目は、相手を萎縮させるには十分すぎた。
 
「せいぜい道中、魔物に食われて終わる」
 
 その言葉に、自分は言い返そうとしたが振り返ったレヴァイ殿の一睨みで声が出なくなってしまう。
 
「狼程度、相手に出来ないなら何も守れやしない」
「レヴァイ!」
 
 自分の目を見て、吐き捨てるように言われたそれは、ずっと感じているものだった。
 そうだ、姫様を守りきれなかった自分がついて行ったところで、また守れないかもしれない。レヴァイ殿が言ったことは正しい、残酷なまでの事実であり、だ守りたいと思うだけでは、何もかもが足りないんだ。
 
 好き放題に言った後、外へ出ていったレヴァイ殿を見やることはなく、ただ突きつけられた現実に項垂れる。
 
……ひとまずはうちに居るといいさ、部屋だって使っていいよ」
「レディ殿……感謝する」
「ところで、一体どうしたんだい?何を揉めたのさ」
 
 自分と同様に項垂れていた姫様に、レディ殿が優しく問いかけた。そして、うわ言のように呟く。
 
……お父様とお母様が、死んだと」
……やっぱり、あんたはあいつらの娘か。まぁ気づいてたけどさ」
 
 ……どういうことだ?自分は、なにか聞き違えたのだろうか。ケルビム様とシェキナ様が、死んだ?
 まさか、あのお二人はどちらも武勇に優れた方々だ、簡単に負ける事など有り得ない。
 
「あたしも報告を受けただけだが、証拠があるんじゃあね……
 
 カウンター下に潜り、布に包んだ物を取り出したかと思えば、広げられたそれを見て息を飲みこむ。
 無惨にも赤い刀身の折れた剣、弦が切れてしまった美しい曲線を描いた弓……炎の精の加護を受けた剣『フレイムタン』、同じく風の精の加護を受けた弓『シルフィード』どちらもそれぞれ両名が使っていた武器だ。
 
「そんな……
 
 これ以上に証拠と言えるものがあるだろうか、いや、無い……
 レディ殿が何故、姫様のことを知っていたのかなど聞きたいことは山ほどあるが、もう自分は言葉を紡げなかった。何を言おうにも信じられないだの、嘘だの、陳腐で無意味で子供の駄々のような台詞になることは明白だ。
 そして、自分は気づく。姫様が前日と続いて目を赤くさせ、オリーブグリーンの美しい瞳に影がさしていた理由を。
 
 自分は、何をしていた?彼女が悲しみにくれる中、なにかして差し上げられたか?否、ただ疲れ果て眠っていただけ。
 何が従者だ、何が騎士だ。自分が傍にいる資格などない、あぁ、ただただ己に腹が立つ。
 
……あら?」
 
 ふと、姫様がキョロキョロと辺りを見回し出した。その様子、前にも自分には聞こえない音が聞こえると言っていたが……
 
「ティア?」
「ごめんなさい、何だか声が聞こえた気がして……
「あぁ、そろそろ『開ける』時間だったね」
 
 何やら、外が騒がしいことに自分も気づいた。しかしレディ殿が向かったのは出口の扉ではなく、反対側の扉だ。
 
 その扉の向こう、そこは店より広い空間の室内だった。先程の声は、この部屋に入ってきた装備を纏った人々の声か。
 
「レディ!店を開けるの忘れてたんじゃねぇの!」
「今開けようとしてたさ、依頼の受注ならもうちょっと待っておくれ」
 
 少し意地の悪く話す大剣を持った男は、ひょいと眉を上げ外を見やった。
 
「はいよ〜。ところで今、外でレヴァイとすれ違ったけど随分様子が違ったじゃねぇの?あの頭、レディが?横の髪も切り忘れたんじゃ……
「おやぁ、あたしのセンスが悪いって?あぁ、今度報酬の勘定も忘れちまいそうだ」
「ちっ違うって!い、いいセンスじゃねぇの!」
 
 キレを良く返すところ悪いのだが、状況が全く追いつかない。会話からして、随分仲が良さげだというのは分かるが、報酬とは……
 
「ん?あぁ、言ってなかったね……ようこそ『冒険者ギルド』アルカー支部へ。カイルス、ティア、あんた達の事はギルドマスターである、あたしが責任を持って保護するよ」
 
 『冒険者ギルド』、そう言ったのか?
 未来の見えない恐怖で全てに嫌われてしまったと諦めかけていたが、あぁ、運命には見放されていなかったみたいだ!途端に食いついた自分を見るレディ・スカー、ギルドマスター殿の冷たい目を気にする暇は全く無く。先程の絶望に包まれた気分は何処へやら、僅かに見えた光明に縋った。
 
━━━━━━━━━━━━━━━
 
……謎の『黒い竜』討伐および民の救出部隊編成の依頼、か」
「王都が襲撃されたことは、国全体の危機だ。この場合、冒険者ギルドが動くだろう?」
 
 あの逃げる道中考えていた冒険者ギルドへの救援、それがこんな形で叶うとは思っていなかったが、何はともあれマスターに直談判出来るという幸運に感謝しつつ反応を伺う。しかし、先に言ったようにこの国の緊急事態だ、動かないなんて選択をされるとは思っていない。
 一つの心配と言えば、自分が子供であることだろう。この救援要請を子供の戯言と一蹴されたら、成すすべはない……
 
……出してみるかい?」
「良いのか?」
「手続きをするからちょっと待ってな」
 
 杞憂だったようだ。そう言い残し、部屋の奥へと姿を消したレディ殿を見送り、自分はすぐに姫様の元へ。討伐部隊が編成されれば、きっとすぐにでも事件は解決されるだろう、そうなれば彼女にも笑顔が戻って……
 
……何を根拠に」
 
 そう易々と日常に戻れると思ったか、愛しい人を失った愛しい人の悲しみは、自分が思うよりもずっと重く、辛く、苦しいはずだ。それなのに自分は一体何が出来る?言葉をかけてやれるのか?悲しみを和らげて差し上げられるような言葉を。
 
 否だ。
 
 今の自分にそんな言葉は出てこない。分からないんだ、そばに居ることすら許されるのかも……
 
 と、部屋の奥から戻ったレディ殿。その手にはエプロンらしき布があり、ぐるりと広間を見渡した後、自分を見てニッと口角を上げた。
 
「人が集まるまで時間がかかるからね。カイルス!ティア!あんた達には手伝ってもらうよ」
「手伝う?」
「カイルス、あんたタフそうだし、ウェイターやりな。エールの数を数え間違えるんじゃないよ」
 
 エプロンを投げ渡したかと思えば、何を突然……。給仕などやったことが無いと言えば、「働かざる者食うべからず」と返され、口を噤むほかなかった。そうしている間にも注文の呼び声が上がり始め、渡されたエプロンを身につけ、小走りに客である冒険者の席へ急ぐ。
 
「お?見かけねぇ顔じゃねぇの、新入りか?」
「えっと、しばらくこのギルドに世話になる者、です。マスターの手伝いをさせてもらっています」
「お〜そうかそうか、じゃ、エール3つな」
 
 エール3つ、と……同時に渡された用紙にメモをし、カウンターへ。単調ではあるが、エールが思った以上の重さであるため中々体力を消耗する。しかし日々、騎士になるため鍛えた自分にはどうということも無かった。
 客足も少ないこともあり、昼前には注文も減って、テーブルを拭く作業が多くなった。そんな折、レディ殿から声がかかる。
 
「お疲れ、どうだった?」
「給仕も体力を使うのだな。勉強になった」
「そうかい。ところであんた、料理は出来るかい?」
「?、人並みには?」
「お、そりゃ丁度いい。2人前作ってくれるかい、材料なら好きに使っていいから」
 
 またしても無茶ぶりを……しかし、出会って間もない人間をこんなにも自由にさせて、警戒しないのだろうか?
 それを見越したかのように、彼女はいたずらな笑みを浮かべて指をクルクル回す。周りを見ろということか。
 なるほど、ここにいる冒険者は皆、彼女を慕っている。言わばアウェーな状況に仇を成すことをすれば、勝ち目などありはしない。
 やむなく(元より逆らう気は無いが)彼女の指示に従い厨房へ立ち入る。ざっと見ても調理器具は一通り揃っていて、どれもよく使い込まれていた。レディ殿がいつも使っているのだろうか?などといらぬ妄想をしつつ、少なめな食材を物色した。
 
 暫しの時間を有し、出来上がったのは素朴なスープ。枝豆と塩漬けの豚肉があったためそれを使用し、ローリエなどで味付けを。これだけでは足りないかと思い、ライ麦のパンもつけた。ふむ、味見もしたし、人に出せる代物と言えよう。
 
「レディ殿、出来上がった!」
「お、それじゃあ、あのテーブルに持って行っておくれ」
 
 そう言って指さしたのは、煤に汚れたネグリジェから空色のワンピースに着替えた姫様が座るテーブルだった。おかしいな、そうなるとこの料理を姫様に食べさせるという事になるのだが見間違い聞き違いだろうか?
 
「さっさと持って行きな。それあんたも食べていいから」
「まっ、待ってくれレディ殿!こ、これをティア様に!?」
「そうさ」
「いや、しかし……!」
 
 湯気の立つスープを乗せたトレイを持ったまま、まごつく自分を見つつ、再びレディ殿はニヤリと笑い言う。
 
「好きなら言葉以外でもアプローチしてみるもんさ」
「すっ!?」
 
 ガタガタとスープをこぼしかけるも、それすら愉快そうに眺めるレディ殿は本当に意地悪だ……。そんな後押しがあり、ギクシャクとしながらもゆっくり運ぶ先には、俯いた姫様が大人しくテーブルに着いていた。
 一呼吸、声を出すための準備をし、その名を呼ぶ。
 
「姫様、よろしいですか?」
「カイルス……まぁ、いい匂いですわ」
 
 目の赤みは若干引いたものの、まだ影の差す顔は本調子とは言えなさそうだ。
 テーブルに作った料理を並べ、自分も正面に座る。少し前ならとてもじゃないが、畏れ多くも出来なかったことだ。外に聞こえてしまいそうなほど高鳴る胸の鼓動をおさえつけ、目をぱちぱちと瞬かせる姫様を見やる。
 
……これ、もしかしてカイルスが?」
「はい……いつもの食事に比べれば、とてもお出しできないような物ですが……
 
 こんな事件が起こる前までは、もっと豪華な食事が出来ていたことだろう。現に姫様は、物珍しそうにスープを見つめている。
 そしてスプーンを手に取り、一口含む。飲み込むまでの動作が永遠のようにも感じられ、緊張のあまり注視してしまう。
 反応を伺っていると、ぱっと目が見開かれた。
 
「美味しいですわ!」
「ほ、本当ですか!?……よかった」
 
 次々とスープを頬張る姿に、心の底からホッとした。世辞、なんてこともあるかもしれないが、今は何より表情の明るくなったお姿を見れたこと、それが一番嬉しく感じた。
 
 一滴残らず飲み干された器を見ながら僅かな達成感に浸りつつ、一心地ついた様子の姫様をちらりと見れば、綺麗なオリーブグリーンの瞳がこちらを見ていた。思わず逸らせば、小さな含み笑いが。
 
「姫様……?自分の顔に何か……
「ふふ……ごめんなさい、なんでもないんですの」
 
 自分がなぜ笑われているのか、或いは自分ではなく別のことに笑っているのかは分からなかったが、彼女の表情から僅かでも陰りが消えたなら、これ以上に嬉しいことは無い。
 やっと、彼女に安らぎを与えられただろうか。こんな事でしか、こんな事しかできない自分はつくづく役立たずだ。しかしそれも、この冒険者ギルドに居ればもっといい護衛がつけられ、おそらく自分はお払い箱となる。その方がきっと彼女のためでもあるはず、そう思いながら食器を片付けようとした時、不意に声が届く。
 
「ねぇカイルス、お城に行くにはどうしたらいいかしら」
「へ?」
 
 思わず間の抜けた声が出るがそれを気にせず、小声で、しかし真剣に言うティア様に目を見開いてみればさらにこそこそと続けた。
 
「お父様とお母様の事を聞いて、驚いてしまったけれど、わたくしはまだ信じていませんわ」
「信じていない、というと?」
「お父様とお母様は、きっと生きている、だからわたくしも諦めませんの。それで、ずっとお城に行く方法を考えていたのだけれど、何も思いつかなくて……
 
 首をかしげ、どうしたものかと瞼を伏せる。
 
 自分は、何を勘違いしていたのだろうか。彼女は、こんなにも前を向いていたのだ、目の前の絶望に恐怖することなく、諦めることなく……
 姫様はずっと強い人だ、自分と歳は変わらないのにこんなにも気丈に振る舞える。心は不安で仕方ないだろうに。
 それと比べると、ますます自分の未熟さが浮き彫りになっていくのが分かった。そばにいては、きっと足枷になるだけなのだと項垂れる。
 
「姫様は、お強いですね」
「つよい?そんなことないわ。でも、カイルスがいてくれるから」
 
 思わず、顔をあげれば彼女もまた優しさを湛えた微笑みで自分を見ていた。
 それは、かつて日常にあったもので、日常が崩れた今はもう見れないと思っていたもの。高揚していく胸を押さえつけ、続く彼女の言葉を聞いた。
 
「カイルスが一緒にいてくれたから、森にいても怖くなかったのですわ」
「し、しかし自分は、危うく守り損ねそうになりました……
「でも今、わたくしはここにいる、あなたもここにいる」
「自分は何も出来ませんでした……貴女の悲しみを、すぐに和らげることすら」
「とても美味しい食事でしたわ、こうして一緒にいてくれるだけで安心出来るの……それに」
 
 一言一言が、絡みついた鎖を解すようで、徐々に軽くなっていく。そして……
 
「貴方はわたくしの『騎士』、守ってくれるのでしょう?」
 
 瞬間、視界は開け、全てが鮮明にうつる。胸を締め付け、それでいて不快感の無いこの感情を表す言葉を自分はまだ知らない。
 ただ、それに伴い溢れようとする涙を隠すため顔を逸らすと、慌てだした彼女の姿が視界の隅に入る。
 
「か、カイルス?どうしたんですの、どこか痛い?」
……いえ、あなたには敵わないなと思って」
「?」
 
 自分がやるべき事、それがやっと見えた気がした。彼女の往く道すじは険しいものとなるだろう、その近くで支え、共に歩む、彼女が笑顔でいられるように。
 その決意を新たに、自分もまた涙をぬぐい笑顔を見せたのだった。