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kokera14
2025-02-15 12:32:56
4263文字
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第1話・竜無き国
竜とヒトの王。魔法息づく世界。
ずっと昔、私もあなたも生まれる前の時代。世界は終わりを迎えようとしていました。
これを救ったのは、世界を守る『調停者』、その一柱。
世界の崩壊を防ぐため、己の分身である『竜』を十体創り出し、十の国の王と契約したのです。加護と祈りを互いの対価として
……
━━━━━━━━━━━━━━━
母はいつも、眠る前にお話を聞かせてくれた。それは神話であったり、冒険譚であったり、多様なもので毎日飽きることが無かった。
この日も『守護竜』の成り立ちを聞き、胸躍らせながらベッドに寝転んでいた。このマルクト王国にも居るという『守護竜』、わたくしはその姿を見たことは無い、しかし王族である限りいずれ会えるだろうという言葉を素直に信じている。
───わたくしは、城の外へ出ることを許されていなかった。全ての生物にあるという『エーテル』が不安定で、激しい運動をすれば身体にも影響が出かねないから、ということらしい。
そんなわたくしが寂しくないようにと、父と母は本棚いっぱいの書物から、興味を引くような物語を聞かせてくれた。中でも『竜騎士』様のお話は、父と母も熱が入りやすいようで、面白可笑しく、身振り手振りに語り「彼は空を飛ぶように戦える」「あいつの体は鋼の如く頑丈で、傷が付くことなど無い」とまるで友人の事のよう。流石に大袈裟だと疑ってしまったけれど。
夜も更け、月や星の輝きは厚い雲に覆われてしまったが、わたくしはまだ目が冴えてしまっている。母にもっとお話を聞かせて欲しいと強請る(ねだる)も、明日の儀式に備えなければならないとやんわり断られてしまった。顔をむくませると、額を撫ぜられ、優しい声で「おやすみ、シェキナティア」と名を呼んだ。わたくしは母の声がいっとう好きだった。
仕方なく寝入ろうとベッドに潜り込むも、違和感に眠りを妨げられ起き上がってしまう。物語へのときめきとは違う、胸がざわつく、どうしようもない不安感だ。
ネグリジェ姿のまま、少し冷えた廊下を忍び足で進む。目的地は、父と母の寝室。
扉の前でノックすることを躊躇っていると、カチャリとゆっくりドアノブが動いた。
「あら、どうしたのティア」
「ごめんなさい、お母様
……
何だか怖いんですの」
「
……
いらっしゃい」
優しく促され寝室に入れば、穏やかなランプの明かりに照らされた父の姿が。起こしてしまっただろうかと後ろめたくしていると、払拭するように朗らかな声で問いかけられた。
「どうしたんだ、ティア」
「あなた、それが何だか怖いって
……
」
「怖い?」
「はい
……
『声』が聞こえるんですの」
胸の内の不安の正体、それはどこからとも無く聞こえてくる『声』のせい。
まるで子供が泣いているようで、助けを求めているようで、それから伝わる悲しみに苦しくなるほど
……
。
わたくしももう13、いえ、明日で14になるというのに、こんな事を言えば笑われてしまう
……
そう思っていたのに。
「
……
そうか、今夜は一緒に寝ようか?」
「いいんですの?」
柔らかく微笑んで頷く父も、わたくしは好きだった。
3人で眠るには少しばかり狭いベッドだけど、一人でいるよりずっと安心できて、『声』も気にならなくなった。二人分の温かさに微睡み始めた頃、ふと父と母の声が聞こえた。
「
……
明日の儀式について、ルティーヤ殿と相談せねばな」
「
……
コールクリスタルで通信する?」
「今日はいいさ、明日の早朝にでも俺から連絡しよう」
「分かったわ
……
そういえば、『彼』もう王都に着いたって」
「おぉ、そうか。なら、ティアに会わせてやれるな
……
『あいつ』コールクリスタル持っていたっけ?」
「ふふ、『シルヴェストル(風精霊)』が教えてくれたわ」
「シェキナの『精霊』は聞き分けがいいなぁ
……
羨ましい限りだ」
「ケルビムのは自由で伸び伸びとしていていいと思うわよ?」
「自由すぎるのも困りものなんだよ
……
」
クスクスと小さく話し合う二人の会話はそれきり途絶えてしまった。というのも、きっとわたくしが途中で眠りかけていたからだろう。
幸せな日々、これがずっと続けばいい。いつだってそう願っていました。
わたくしだけではない、きっと誰だって明日の幸福を願い眠っていたことでしょう。
けれどそれは、たとえ小さく何気ない願いであったとしても、叶わないのだと知る。
やがて響く轟音に、その現実を突きつけられた。
「な
……
!?」
「きゃあ!」
騎士を束ねるラッパでも、ドラムでもないそれ(音)は、まるで聞いたことが無く、思わず耳を塞いだ。続けざまに城が大きく揺れるそれは地震のように長くはなく、何かぶつけられているような振動だった。
驚きのあまり母にしがみついていると、寝室の扉が酷く乱暴に開け放たれ、銀の甲冑に赤い外套を纏った男と、簡易的な鎧を身につけた少年が血相を変えて入ってきた。
「ケルビム!無事か?」
「陛下、姫様!」
「ヘルヴィム騎士団長、カイルスくん、一体何が起こっているのだ?」
「突然、巨大な魔物が現れて城が攻撃されている
……
他にも何体か似たような姿の魔物を確認した」
「何だと
……
!?」
グルル
……
と何か物音が通路から聞こえ、それに反応した父と母は咄嗟にそれぞれ、剣と弓を手に持ち部屋を飛び出す。
部屋を出れば一層増して騒がしさが耳に届いて、振動も止まることはなく、この異常事態を知るには事足りた。
しかし、それをさらに知らしめるように通路を塞ぐものがあった。その姿はまるで、本の挿絵で見たような黒い『竜』の体躯、それはグルグルと唸り赤く濡れた口腔を開く。
「グルァァァッ!」
「下がれ!
……
来い、『サラマンダー(火精霊)』!」
その声に呼応する様に、赤い炎が父を包み込む。その直後にクスクスと笑い声が響き、現れたのは炎を纏う小さなトカゲ。父の周りを楽しげにクルクルと回るも黒い竜の存在に気づけば、不快げな声を上げた。
「ゲェッ!なぁにアレ、気持ち悪いっ!」
「オレにも分からん!だが今は炎を貸してくれ」
「生意気だなぁ。あとで極上の炭火をおくれよ」
「分かった分かった、いくらでも用意してやるから早くしてくれ!」
少し気の抜けるような会話はあったもののサラマンダーは、約束だぞ!と念押しし尾っぽの炎をバチバチと盛らせた。
そして、父の構える剣に炎が集約し始める。
「魔炎・撹拌『フラム・スティリング』!」
踏み込み、熱の刃の渦が黒い竜を切り裂けばその傷口が炎に包まれた。強い火の魔力にあてられ、その熱気に思わず目を細める。
だが、その力を持ってしても黒い竜が倒れることはなかった。悲鳴のような鳴き声を上げはしたものの、すぐにまたこちらを睨みつけ、ジリジリと近寄ってくる。
「く
……
シェキナ、2人を連れて逃げるんだ」
「そんな
……
!」
「守るべき王に先を越されるたぁ『騎士』の名折れだな
……
当然、俺も残るぜ」
「あぁ、助かる」
「それなら私も
……
」
「いいから行け!グズグズするな!」
口答えすることも許さず、父の一喝が響いた。母も、それ以上口にすることはなく、わたくしとカイルスを連れて走り出す。ただその手はとても強く握られていて、その感情がヒシヒシと伝わり胸が締め付けられる。
通路の端、何も無い壁を押せば、突如として階段が現れた。緊急用の避難通路、これで王都の外まで出ることが出来る、逃げられるのだとホッと胸を撫で下ろした、
しかし、そこへ入ろうとした時、再びあの唸り声が。振り向けばあの黒い竜が巨躯を揺らし、牙をむき出しにした口を唾液に光らせてにじり寄ってくるではないか。
まさか追いついてきてしまったのかとも思ったけれど、あの炎の傷が無いところを見ると別の個体のよう。
「
……
ティア、これを」
そう言って母は、自分の首にいつも掛けていたネックレス、クリスタルのペンデュラムを取り外し、わたくしの首へ付けた。
「いい?これは貴女を導き、守る物、絶対無くしちゃ駄目よ?」
「でも、お母様、これはお母様の宝物でしょう?」
「私達の宝は、貴方よ。私の涙、シェキナティア
……
どうか生き延びて」
大好きな優しい声、けれどその顔は、とても悲しみに溢れていて。
と、母に体を押され浮遊感が身を包んだ。危うく落下しかけたところをカイルスが受け止めてくれ、顔を上げれば、構えた弓と体に風が集いつつある母が、笑ってこちらを見ていた。
「カイルスくん、ティアをよろしくね」
「
……
ッ、はい、この命にかえてもお守りします!」
その答えに、さらに満足げに口角を上げると、黒い竜と対峙する。
「来て、『シルヴェストル(風精霊)』
……
彼の者を包め『纏いし風(ヴィント・トラーゲン)』」
風のエーテルが黒い竜を切り刻まんとまとわりついた。それも致命的なダメージにならないけれど、足止めには十分。
通路の壁が動き、閉じ始める。わたくしはあらん限りの声で叫んだ。
「嫌!お母様!」
最後に見た母は、変わらず笑っていた。
お母様やお父様を置いては行けない、戻ろうとするもカイルスに手を引かれ阻まれる。
「姫様
……
!きっとあのお二人なら大丈夫です、まずはあなたの安全を確保しなければ。だから
……
」
「
……
」
カイルスの言いたいことは分かっている。ここで待っていても、ましてや戻ろうとしても無意味なのだと。
頷いたわたくしの手を握ったまま、カイルスと二人、階段を転げ落ちそうになりながらも疾く降りた。城と王都の外、隣接する森に出て初めて城の全貌を見たが、それはとても、信じられない光景が広がっていた。
「あれは
……
」
空を覆い尽くしてしまいそうなほどの大きな翼、それに比例するような黒い巨躯。まさしく、『竜』の姿そのものだった。
炎を吐き、白亜の壁を黒く焦がしていく。集う他の竜もまた、街を攻撃していた。
聞こえる音が、その混乱を脳裏に浮かばせる。逃げろ、逃げろと声が響き、拍車をかけるように街を赤く染めあげていた。
そんな光景がすぐ側にあるというのに、わたくしはただ恐怖に身を竦ませるだけ。溢れだしそうな感情に歯をかみ締め、同じように苦悶の顔をした少年の手を握って、昏い森へ
……
。
幸せは、呆気ないほどに崩れる。まるで運命が仇を成すように。
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