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ゆうな
2025-02-14 23:45:09
4034文字
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【本命】
プロヒ爆轟。爆豪の押せ押せバレンタイン
#爆轟版深夜の真剣60分一本勝負
◆Pixiv:ログ2に格納済み
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24418260
「俺は本命しか受け取らねえ」
二月に入ると世間の話題はより一層バレンタイン一色となる。
緑谷にアーマードスーツを贈り終えた冬、この時期特有の野暮な質問に対して毎年適当にあしらっていたはずの男が突然先の宣言をした。そのドスの効いた声に轟が、いや、その場にいた全員が街頭ビジョンを見上げる。画面の中ではピンクと茶色のテロップで彼の発言が文字起こしされていて、その字面の強さに街中の人々が一気に色めき立つ。
雑踏の真ん中でぼうっとその姿を眺めながら、ふと聞こえてきた会話に耳を傾ける。
「これって普段寄付に回してるプレゼントを、今回は本命なら受け取ってもらえるってことだよね!?」
「チャンスじゃん。あーでも食品はやっぱダメなんだ、ねえどうする?」
花が咲くような浮かれた声に、果たしてあの爆豪がそんな事をするのだろうか、と轟は帽子を深く被り直す。あの発言の真意について思考を巡らすもヒントも無い状況では答えが導き出せない。こういう謎解きは苦手なのだ。
轟はロック画面の野良猫の写真を撫で上げる。一旦今は爆豪から届いていた食事の誘いに承諾の返事をしておくとしよう。
この六年半、緑谷に渡すスーツのこともあり、進捗と相談の名目で元クラスメイトの中でも一番顔を合わせる機会が多かったのは爆豪だ。それは彼も同じはずで、だからその目的を完遂してからは現場で会えればラッキーくらいの感覚でいたというのに、まさか今は爆豪とばかり食事や家の行き来をしているだなんて誰が想像しただろうか。
正直一番驚いているのは轟自身だ。だって爆豪が信じられないくらいの高頻度で誘って来る。最初は多少の困惑もあったが、それでもやっぱりテンポの良い会話は楽しいし、家で振る舞われる料理は料亭にように美味い。血肉となるそれを二人で共有しているという事実は、体中を幸せがずっと巡っているみたいで、すっかり癖になってしまった。ほぼ毎日何かにつけてメッセージをポンポンと送って来るお陰で常にアプリの一番上に鎮座している名前をタップして、今日も轟は約束の日を待ち遠しく思うのだ。
「一個も貰ってねえけど」
「やっぱそうか」
「やっぱってなんだ、おい」
インタビューを見た日から一週間。あの後どうなんだと訊ねればやはり爆豪はまだ「本命」を貰っていないらしい。ヒーロー事務所の殆どはバレンタイン関連の贈り物は二月に入ってからの二週間を受取期間としている。しかしその半分を過ぎた今もまだ本命はゼロだと言うのだ。そんなことあり得ない。あの発言にはやはり裏があるに違いなかった。
「
……
もしかして条件付きか?」
「ほぉ? よく分かったな。あれは『俺にとっての』本命しか受け取らねえっつー意味だ。日本語って難しーよなァ?」
なんだその屁理屈は。それならば『好きな人からだけバレンタインを貰いたいのでどうか他の方はご遠慮ください』と事務所に看板でも打ちつけておけば良いではないか。いや、そんなことあのダイナマイトが言うはずが無いし、そんなものを目撃してしまった日には直ぐに他のヒーロー達とチームアップを組んで、たとえ空から槍が降ってきたとしても市民を守れるように準備を進めなくてはならなくなる。
二人揃って「いつもの」と言っても通じるくらいには通い詰めている個室居酒屋で、そのいつもの角煮を頬張りながら、爆豪は上目に轟を見た。
「伝わる奴にだけ伝わりゃいーの」
というかお前好きな人とか居たのか、と思ったのは退店後だった。
そんな相手をいつの間に、とも思ったが、心地良い助手席で寝こけてしまい気付いたら自宅に送り届けられてしまったのでそれを聞くことは叶わなかった。こういうの、好きな奴にやってやれば爆豪の言う「本命」も貰えそうなものなのに。車から降りる時にくしゃくしゃと髪の毛を混ぜられて、轟は余計にそう思って目を細めた。
結局、轟の見ている限り大・爆・殺・神ダイナマイトはこの二週間「本命」とやらを貰っている様子も、その相手との熱い夜を撮られることも無かった。そもそも後者は一度も見たことが無いから分からないが、ここ数日間はほぼ轟と夕飯を共にしていたからそんな余裕は無かったのではないかと思案する。あのタフネスならあり得るのかもしれないが、友人のそういったところにまで思考が及んでしまうのは流石に申し訳なさが勝つためこれ以上は控えておくことにする。
ところであの宣言以降、当たり前だが言葉の意味そのままに受け取ったファンが、俺は私は本命ですというプレゼントを山のように送っているらしい。そのせいで余計に事務所の倉庫がパンクしそうだと事務員が嘆いていることに爆豪が気付いていないはずが無いだろうに、一体誰からの贈り物を待ち続けているというのか。その想い人も気付いているのなら早く爆豪に渡してやれば良いのに、いつまであの男を焦らしているのだろう。いやまあ、気付いていないのだろうな、この様子だと。それなのに、当日である今日の夜になってまで轟を誘うなんて、爆豪は一体何を考えているのか。アプローチはきちんとしないと伝わらないと漫画で読んだから知っている。轟はフンと鼻を鳴らした。
まさか。爆豪はもう本命に貰うことを諦めたのか。諦めたのなら、轟はいっそのこと俺が渡してやろうかとも思った。しかし生憎プレゼントを用意する時間も無ければ、自分が渡せば受け取ってもらえると思っている自身のその傲慢さに耐えられる自信も無かった。轟は胸の奥にちりりと初めての痛みを感じた。
ああそうか、渡したかったのだ。爆豪に世界で一人だけ渡すことができる本命になりたかったのだ。その枠がぽっかりと空いてしまったのなら、轟はそこに収まってみたかった。でもその感情がぐちゃぐちゃに乱れて溢れて痛みとなるから、その気持ちが何なのかわからなくて、ただただ苦しいだけだった。
いけない、今からその爆豪に会うというのに、アイツは優しいから、きっといつもと様子が違うことにすぐに気付いて──
「轟」
「お
……
爆豪、どうした」
突然、後ろから声を掛けられて心臓が跳ねる。事務所の裏口を施錠した瞬間だった。
「待ち合わせは店だろ?」
振り向くと鼻の頭を赤くした爆豪が突っ立っていた。こんな寒い日にいつから待っていたのか。早く向かおう、と左の個性を使いながら一歩踏み出すも「待て」遮るように爆豪が声を上げた。
「いつまで経っても渡しに来ねえから、こっちから貰いにきた」
──どういうことだ。あれだけ俺のところに持って来いと豪語していたくせに、結局貰えなかったのか。やっぱり諦めたのか? ここ数日こっちは爆豪のことで頭が一杯だったのに、突然やって来て、なにを。
「なに言ってんだ? 例の本命に振られたって話か?」
寒くもないくせに声が震えそうだった。ギリギリ、多分ちゃんと発音出来ていたと思うけれど、それでもちょっと上擦ってしまったかもしれない。マフラーに口元を埋めていた爆豪がその様子をじっと見つめて、それから轟の右手を優しく握る。
「俺は、おまえが本命だって言ってんだけど」
もうその相手のことなんて考えてほしくなくて、聞きたくなくて、掴まれた手に意識を飛ばしていたのに。あまりに真っ直ぐ届いてきた言葉に、オッドアイが見開かれる。
それは最初っから、轟のためだけに空けていた枠だった。
「好きだ」
「
……
は」
「いいかげん気付けよ、轟」
指先に白い顔が近付いていくのを見て、反射的に「待て」と声を上げる。その先は友達にすることではないことくらい、轟にだって分かる。
爪先を握ったまま素直に停止する爆豪の姿が、まるで子犬のようだと思った。バクバクと心臓が暴れ回って、ぐるぐると思考が巡る。全然考えがまとまらないのに何か答えないと、この手すら離してくれないかもしれないのに。
「いや
……
え? 俺のこと、か?」
「ここにてめェ以外の誰がいんだよ。好きじゃなきゃこんな日に誘ったりしねえ。つーか家行き来して飯作んのも、毎回車で送り届けんのも、おまえにしかしてねえ」
親指が焦れったく轟の指先を行き来する。たまにささくれに引っかかって、それをまた撫で付けてくるのが擽ったい。ベリーみたいな赤い瞳がつやりと煌めいて、轟がごきゅ、と喉を鳴らす。
「ぁ、え、と、俺、」
「こんなにわかりやすくアピってんのに、やっぱ気付かなかったんか。いや、今やっと気付いたところか?」
く、っと少しだけ手を引かれる。無意識だと思う。ドクドクととんでもない速さで脈打つ鼓動が、触れ合ったところからきっともう伝わっている。爆豪の手はもしかしたら少しだけ熱さに鈍感かもしれないけど、轟の右手は暖かいと呼べる温度をとっくに通り過ぎていて、左側みたいに熱かった。それだけはどうか、伝わらないでほしかった。
「ちょっと、待ってくれ、俺おまえのことどう思ってるとか、まだ」
「いーや、おまえ、俺のこと好きだろ」
「
……
すげえ、自信」
「好きじゃねえの」
「いや、好き、ではあるけど」
「うん、知ってる。轟の好きが全方向に向いてることなんて分かりきってんだよ。だから、ゆっくりでいい、俺のことだけ、意識しててほしい」
「
…………
うん、」
風船の紐を握る子どもみたいに、今度こそぎゅっと握られた指を、もうずっとそうしててほしいと願った。指先に唇を落とされ、もう一度「好きだ」と言われれば、爆豪の想いが指先から全身に巡るみたいに伝わってくる。胸の奥で小さな花火が次々と咲いては散っていく。
「爆豪、気付けなくて、悪かった。あと
……
バレンタインは何も用意してねえ
……
」
「てめェが俺のことしかか考えてねえって顔が見れただけで、もうじゅーぶん」
来年は渡してしまうかもしれないと呟けば、来年じゃねえ、もっと早いうちにおまえは、と再び唇を指先に落とされるのだった。
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