蘇芳
2025-02-14 23:13:18
1832文字
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茉莉花の幽香

軌跡の小話
Ⅳ以降のどこかで当アカにおける、いつも通りクロリン。バレンタインのお話になります!!

 
 ミルクパンに牛乳をそそぎ、火にかける。牛乳の様子を見ながらクロウは用意しておいたチョコレートを取り出した包丁で細かく刻む。細かければ細かいほどいいだろう、と刻まれるチョコレートの細かさとは裏腹な大雑把な所感で包丁を振るうクロウは至極、楽しげだ。
 刻まれることで強くなったチョコレートの匂いは甘すぎず、買ったときの説明書きによると口にすればフルーティーなジャスミンのほのかな香りが鼻を抜けるのだという。なんとも今日という日にお誂え向きなチョコレートだと、クロウは口の端をつり上げて笑った。
 今日という日が、好きな相手に気持ちとチョコレートを贈る日になって久しい。なんだかんだと理由をつけた企業の戦略だ踊らされるなんて、と嘯く層もいるがクロウからすれば見事に踊って踊って、踊り上げてやろう、につきる。せっかく世間が用意してくれた大義名分、骨の髄まで使わなければ損というものだ。
 ふつふつと沸騰する寸前になった牛乳を見て火を止める。ミルクパンの中で優しく、どこか懐かしさを感じさせる匂いを立たせている牛乳に刻んだチョコレートをクロウは投入した。ミルクパンに見合った小さめのヘラでゆっくりとかき混ぜればチョコレートが溶けだして、真っ白だった牛乳にチョコレート色が混ざってマーブルに、最後にはとろりとしたチョコレート一色になった牛乳。ミルクパンの中をくるくるとヘラで混ぜ、チョコレートの溶け残りがないか確認したクロウはひとつ頷いた。
 再び、ミルクパンを火にかけ、最後の仕上げだとラム酒をひとさじ。花開くようにラム酒の香りが広がって、今日という日のクロウ特性のラム酒入りホットチョコレートの完成だ。
 渡して、飲ませる相手はただひとり。

「待たせたな、特性のラム酒入りホットチョコレートだ。受け取ってくれるか?」
「もちろんだ……嬉しい、ありがとう」
 
 頬をほのかに赤く染めて、はにかんで受け取るリィンを愛しく思う。今日はすでに、クロウはリィンからチョコレートを受け取っている。甘さ控えめのチョコレートを、熱でもあるんじゃないかと心配になるような真っ赤な顔で、直球ど真ん中の「好きだ、大好き。……愛してるよ、クロウ」の言葉と一緒に。チョコレートなんて目じゃない甘さに、クロウの目は眩んだ。その目はリィンを捉えて離さず、耳の中ではリィンの言葉が反響する。受け取ったチョコレートとリィン自身の清廉でクロウが好む香りが鼻を通って胸を満たす。
 クロウはたまらずリィンを引寄せ、腕の中に閉じこめてクロウに愛を零した唇を奪い耳元で「俺もだ」と返した。びくん、と肩を揺らして耳まで赤くしたリィンを更に強く閉じこめる。ホットチョコレートの準備を終えていたが、今この瞬間に返せないことを少し、悔しく思いながら。
 ゆっくりゆっくり、クロウが作ったホットチョコレートがソファにゆったりと座るリィンの喉を通ってその腹に落ちる。クロウの愛や欲が溶けだしたような、とろりと重い飲み物が。
 そんな様子を、突っ立ったまま見ていたクロウは引き込まれるようにソファに座るリィンの隣に腰をおろした。大の男ふたりが座っても余裕があるソファに指先が触れる近さで。
 こくり、と動いていたリィンの喉か止まりクロウに、向く。持ち上がったクロウの指先がリィンの喉に触れる。一瞬の震えを指先は感じ取ったが一瞬の震えだけで終わったそれに、クロウはくつりと喉を鳴らしてリィンの喉に触れた指先をつぅ、と滑らせた。先とは別の意味で震えた喉から指先を引っ込めたクロウはリィンか反応を返す前に、その喉に唇を寄せ、口づけた。

……っ! ぁ、ん」
「愛してるぜリィン。俺の、唯一ただひとり」
「! ひっ、んぅ」
 
 リィンの喉に唇を掠めさせたままクロウは言葉を放った。クロウの前では目まぐるしく色を変えるリィンの瞳に喜色が浮かび、クロウしか目にできない、目にすることを許さない色が滲む。
 ほとんど飲み終わっていたホットチョコレートが入ったカップをリィンの手から取り上げたクロウは蹴飛ばさなければいい、とソファの影に置いた。コップを片付けるのは随分と、後になることだろう。
 大の男ふたりが、同じ箇所に体重をかけても小揺るぎもしないソファで、クロウはリィンの唇を息もつかせない勢いで奪う。ホットチョコレートで甘くなった舌を重ねて、唾液を交歓して飲み下す。
 ほのかに鼻に抜けたジャスミンを感じながら。