harunokagiriwo
2025-02-14 23:11:44
1810文字
Public ダンソニ
 

Yell for you

人生で初めてsnaさんへの花束を買いに来たdndさんです。

お題:『眼力』


 その場所は、一般的な〝花屋〟という言葉がイメージさせる場所とはいささか趣が違っていた。
 フラワーボックスや雑貨などを取り扱う店の顔から一歩奥に進んだ部屋は、それ自体がフラワーキーパーを兼ねており、窓ひとつない室内はきっかり十七度に保たれている。花を引き立てるためだろうか、壁紙はオーキッドミストに統一されていた。照明は入り口から向かって右側の光度が高く、左側は少し抑えた白熱電球風となっている。
 幾人かの先客が、それぞれ隣に立つフローリストに相談しながら花を選んでいた。
 ダンデが自身に付けられたフローリストに促されるまま踏み出すと、花の管理をしているらしきハスブレロとパンプジン、フラエッテたちが興味深そうに視線を向けてくる。
「あのこたち、バトルはからっきしなんですが、観るのは好きなんですよ。特に、あなたのバトルは華がありましたから」
……光栄です」
 緊張を隠せないダンデを落ち着かせるよう、店主でもある初老のフローリストは穏やかな声で話を振りつつ、ゆるりと部屋の一角へと案内してくれた。
「さて、花束を贈られるお相手の方は黄色と紫がお好きだということでしたが」
「ああ。えと、たぶん、ですが……
「お持ちになられている小物やお部屋の内装に多い色となれば、お好きな色と考えて差し支えないかと存じます。ご希望の花はございますか」
「ううん……赤いバラくらいしか考えつかず……
 壁を埋め尽くし、いくつもの島をも作っている階段状の棚には所狭しとバケツが並び、色鮮やかな花々が競うように咲き誇っていた。それらがダンデを迷わせる。
 かの人は、何を喜んでくれるだろうか。
 どうすれば頷いてくれるだろうか。
……自分でも温室で花を育てている人なんです。だからどれを贈っても喜んでくれるとは思うんですが」
「それは悩ましいですね。では、その方にお伝えしたいことはございますか。ご存知でしょうが、花言葉というものがございます。メッセージカードも大変素敵ですが、花にも想いを込められてはどうでしょう」
「それこそ、十二本のバラしか考えていなかったんです。ただ、今まで彼女に花束を贈ったことはなく、初めてがそれは重いという助言をもらいまして」
 ぴくり。近くで花を選んでいた男たちが、僅かに肩を震わせた。だが、ダンデは己の大事に必死で気づかない。
「なるほど。確かにバラの花束は特別なものとお考えの方が多いですからね。それでしたら、こちらはいかかでしょうか」
 フローリストが手袋に包まれた手で取り上げたのは、細い花弁が放射状に広がり平たく咲いた花──ガーベラだった。
 赤、一本。
「限りない挑戦」
 オレンジ、三本。
「探究心」
 白、三本
「希望」
 ピンク、一本
「思いやり」
 そして、黄色、四本。
「優しさ、……究極の愛。
 ここに幸福や感謝を意味するカスミソウを添えます。ガーベラとバラは十二本で表す意味が同じですから、あなたのお気持ちを伝えることと、門出のお祝いにも合わせてみました」
 ダンデの目が驚きで見開かれる。フローリストはただ、好々爺然とした微笑みを崩さなかった。
……凄まじい眼力ですね。わかりやすかったですか、オレ」
「私も、あのこたちと同じくあなたのファンでして。もう十年以上になりますか。長く応援させていただいておりますから」
「それでも、慧眼だと思います」
 肌の色の濃さでわかりにくいが明らかに頬を染めたダンデに、フローリストは「お包みします」と一言置いて、少し離れた梱包資材の棚からフィルムと二色の包装紙を取り出した。透明なフィルムで花を守り、アイボリーと深いロイヤルパープルの薄紙が鮮やかな想いを際立たせる。
 仕上げにゴールドのリボンを掛けられたそれは、俯いていたダンデの腕の中にしっかりと収められた。そろりと近寄ってきたフラエッテが一撫でし、光が降る。
「ご健闘を」
 あたたかくも背を叩く声にダンデは顔を上げた。
「こんなにも、素晴らしいエールをもらったんです。無様は晒しません」
 それはこの店に入ってきた時の張り詰めた顔ではない。
 ガラル地方に長年君臨してきたチャンピオンのものでもない。
 その場の誰もが期待を寄せて頷いてしまう表情。弱冠十歳にして当時の王者に挑むことになった挑戦者を彷彿とさせる、キラキラとした笑顔だった。