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shirajira
2025-02-14 20:45:53
7190文字
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今度はちゃんと受け取るから
現パロで毎年ビマにチョコを用意しては渡せずに終わるを繰り返してたヨダナのビマヨダ(ビマ視点)。ハッピーバレンタイン😘
バレンタインになると、ドゥリーヨダナがチョコを持ってやってくる。
ビーマに嫌がらせをするために。
小学校に上がった頃くらいから、毎年バレンタインの日に、従兄弟のドゥリーヨダナがビーマのところにやってきては、チョコを取り出して、これ見よがしに食べて見せてくるのだ。
「うまい! うまいなあ。甘くって、舌解けも滑らかで、いい材料を使っているなこれは! 作ったやつの心意気まで伝わってくるような味だな。はむはむ」
そういってうまそうに、チョコを食べて見せてくる。ビーマはいつも、それを黙って見ていた。ドゥリーヨダナ相手に一つくれというのは何だか悔しかったし、どうせ向こうは嫌がらせでやっているのだろうから、言ったって分けてはもらえないと思ったのだ。
ビーマとて、母やクラスメートから、義理にしろ本命にしろ、チョコをいくつかもらっている。けれども食いしん坊のビーマは、食べ物はどれもこれもおいしそうに見えるし、食べたいと思ってしまう。
他人がおいしそうに食べているものは。とりわけうまそうに見えるものである。ドゥリーヨダナが講釈を垂れながら口にしているチョコは、毎年おいしそうだった。
ドゥリーヨダナが手にしているチョコは、ビーマも知っている洋菓子店のものである時もあれば、いかにも手作りらしいもの時もあった。ここ数年はどこの店のものか知らないが、やたらに洒落た包装のものを手にしている。チョコ自体もトリュフ、ガトーショコラ、オランジェットと、毎年違うものを食べていた。
一体ドゥリーヨダナはあのチョコを誰からもらっているのだろう。どこの店のチョコだろう。尋ねたことはなかった。興味を示すこと自体が、負けを認めたことになるのではないかと
――
そんな風に、ビーマは思っていたのだ。
ドゥリーヨダナは同い年の従兄弟で、子供の頃から何かと競い合ってきた。はっきり口にしたことはないけれど、ライバルだとビーマは思っている。
さすがにもらったチョコの数で争うようなことはしないけれど。ドゥリーヨダナの食べているチョコをうまそうだと、欲しいと、そう認めてしまったら、きっとドゥリーヨダナは得意げな顔をして、ビーマにあれこれ言うに違いないのだ。だからビーマは毎年、黙ってドゥリーヨダナが自慢げにチョコを食べるのを、ただ黙って見ていた。やめろということさえ、意識していると認めるようで嫌だったから。
「今日はバレンタインか」
カレンダーを確認し、ビーマはよし、と気合を入れた。今年のバレンタインは例年とは違う。ビーマはただ一人のチョコ以外、義理だろうが本命だろうが、全てを断らないといけない。
一ヶ月ほど前、高校二年生のビーマは生まれて初めて彼女を作った。
告白されたこと自体は何度かあったが、あまりピンと来ず、今までは恋人を作ったことはなかった。たまたま家族で初詣に行った際、ばったり出会った同じ高校に通う少女に告白され
――
何でもおみくじで大吉を引き、そこにちょうどビーマが現れたものだから、今しかないと覚悟を決めて告白したらしい
――
一緒にいた母と兄が「あら、あなたにはもったいないくらい可愛い子じゃない」「付き合っちゃいなよ」だなんて言うし、頬を赤くし、キラキラした瞳でこちらを見つめるその顔は、確かに可愛らしかったので、そういうのもいいかと思い、告白を受け入れた。
ビーマくんはたくさんチョコもらうんだろうけど、今年は私以外のチョコはもらわないでほしい。ビーマくんが満足するくらい、たくさん作るから。お願い。
彼女からの初めてのお願いが、それだった。ビーマは可愛らしい願いを、迷うことなく受け入れた。
ビーマは食いしん坊で、甘いものも好きだ。何だってたくさん食べる。それはみんなが知っている。もらえる食べ物は何だってもらう。けれども、食べ物よりも恋人を優先するくらいには、ビーマは彼女のことが好きだった。
学校で、ビーマが彼女からの願いを理由にチョコを断れば、女子は皆一様にがっかりしたような顔をした。ビーマが「チョコは受け取れねえが、ホワイトデーには何か菓子を配るからよ」と言えば「そういうことじゃないけど、でも期待しておく」と笑ってくれたから、まあよしとしていいだろう。
例年はもらったチョコでいっぱいの鞄が、今年は軽い。今日は放課後、彼女の家に招かれている。何でも両親がそれぞれ出張でいないそうだ。だから腕によりをかけてたくさんご馳走を用意してくれるらしい。楽しみだ。
だが、その楽しみの前に、ビーマには迎え撃たないといけない男がいる。
学校が終わって、ビーマはとある公園へと向かった。毎年、バレンタインにはその公園の隅のベンチで、ドゥリーヨダナと顔を合わせていた。
中学までは同じ学校だったが、高校は別の学校に通っている。お陰で顔を合わせるのは親戚の集まりがある年末年始とお盆にお彼岸くらいで、二人きりで会うのはバレンタインデーくらいだった。
ビーマが目的地へとたどり着くと、向こうはもう既に来ていたらしい。鞄を脇に置いて、英単語帳に目を落としていた。ドゥリーヨダナのことだから、難関大学狙いで既に受験勉強を開始しているのだろう。学ランのビーマと違いブレザー姿のドゥリーヨダナは、何だかもうどこか遠い世界の住人のようだった。
数年前まで、同じ制服を着て、あんなに近くにいたのにな。思いながらビーマは、声を掛ける。
「よお、ドゥリーヨダナ。正月以来だな」
ドゥリーヨダナが顔を上げた。かと思えば、単語帳を鞄に突っ込んで、代わるように箱を取り出した。黒くて表面が蛇の鱗のような箱に、金のリボンがかかっている。今年のチョコレートだろう。
ビーマがドゥリーヨダナの隣に腰かけると、ドゥリーヨダナが膝の上に置いた箱のリボンを解いた。珍しくやけに静かな従兄弟
――
なんせ普段ドゥリーヨダナは声も顔も身動きも、何から何まで騒がしい
――
の手元をビーマは眺める。ビーマと遜色のない体躯の持ち主であるドゥリーヨダナの大きく骨張った手が、丁寧にリボンをつまみ、ほどく。そして箱を開けた。
中にはドーム状のチョコが八つほど、仕切りに区切られて整列していた。黒いチョコと白いチョコが交互に並び、それぞれ逆の色で線が走っている。いかにも店で売っていそうなチョコだった。
どこの店のやつだろうな。誰からもらってるんだろう。俺も知っている相手だろうか。
毎年思うことを、ビーマは今年も思う。思って、でも俺だって、今年は彼女がいて、彼女からの手作りチョコをこれからもらうんだぞと、何だか負けん気のようなものが出てくる。
確証はないが、ドゥリーヨダナのチョコは毎年同じ相手からのものだろうと、ビーマはそう思っていた。それが誰かはわからない。伯母や従姉妹からではないように思う。でも、きっと特別な相手からのチョコなのだろう。そうでなければ、ドゥリーヨダナが毎年自慢げに食べるはずがない。
そういや俺、こいつに彼女できたって話してねえな。こいつは彼女いるのかな。いてもおかしくねえし、いなくてもおかしくねえんだよな。いやいたら自慢してくるか。
ふと、そんなことを考え、意識がドゥリーヨダナから逸れた。
「ビーマ」
掛けられた声に、意識を戻す。唇に何かが触れた。押し込まれたそれを、そのまま口に招き入れてしまう。
感じたのはほろ苦さ。ついで、じゅわりと甘酸っぱさが広がる。何度か瞬きをして、マンゴーだ、と気付く。
けれども口の中に広がる味よりも、こちらを見つめる瞳に、気を取られていた。
ドゥリーヨダナとの付き合いはそれこそ就学前からで、はんこ注射の痕だって知っている。だというのに、こちらを見るその顔は、ビーマの知らない顔をしていた。
普段跳ね上がったり跳ね下がったり忙しい眉は、今は緩やかに垂れ下がり、奥底から燃え揺れる炎が見えるような瞳は細められている。口元は、何かに耐えるように、けれども綻びを隠せないとでもいうように、小さく引き結ばれていた。
どうして、そんな顔をするんだ。
胸が締め付けられるような痛みを感じて、ビーマがドゥリーヨダナの名を呼ぼうとするより先に、ドゥリーヨダナが相好を崩した。
「食べた。食べたな? わし様のチョコを、食べてしまったな? ビィィィマよ」
「
――
あ?」
キャラ作りなのかいつからか使い始めたトンチキな一人称。騒がしい声。先ほどまで見ていたのは幻かと思うほど、いつも通りのドゥリーヨダナが、そこにいた。
「お前、彼女に自分だけのチョコを受け取ってほしい! と言われていたそうだな。あーあ、お前の彼女は可哀想だなあ。そんなちっぽけな約束一つ守ってくれん彼氏を持って」
言われて、はっとする。吐きだそうにも、チョコはもう口の中ですっかり溶けて、唾液と共にビーマの喉の奥へと消えていた。
「ドゥリーヨダナ、てめえ!」
「おいおい、何怒ってるんだ? 口に入れてしまったのはビーマ、お前だろうに」
それは、だって。お前が。口をぱくぱくさせるビーマを見て、ドゥリーヨダナがにやりと笑い、蓋をした箱を鞄に突っ込んだ。そのまま鞄を持って立ち上がる。
「じゃ、お前と違ってわし様は多忙なんでな。さらばだ、ビーマ。精々彼女の前で罪悪感に震えるがいい」
「あっ、おい!」
呼び止める間もなく、ドゥリーヨダナはあっという間に走り去ってしまった。
ビーマは頭を抱えた。不可抗力とは言え、彼女以外のチョコを食べてしまった。黙っていれば彼女にはバレないだろうが、それも何だか不誠実な気もする。かと言って正直に話して楽になりたいというのも、彼女の気持ちを考えていないように思う。
ドゥリーヨダナめ。こんなことをするだなんて、なんてやつだ。あいつは昔から、悪知恵がよく働いた。そういうところは好きじゃない。
来年は絶対この手には乗らないぞ。思って、ビーマは小首を傾げた。
何であいつ、自分に彼女がいたことを、そしてその彼女との約束を知っていたのだろう。ビーマは話した覚えはないし、学校だって違うのに。誰かから、聞いたんだろうか。
なんてこともあったな。
片付け途中らしい催事場を尻目に、ビーマは十年以上前のことを思い出していた。唯一ドゥリーヨダナがチョコをビーマに分けてくれた、最初で最後のバレンタイン。
結局ビーマはあの後、彼女には伝えないことを選んだ。自分一人が黙っていれば、彼女の笑顔は守れるのだ。そんな彼女とは結局半年ももたずに破局した。
翌年のバレンタイン、ドゥリーヨダナはいつもの公園に来なかった。受験が忙しかったのかもしれない。そう思ってその年は過ぎたが、翌年も、その翌年もドゥリーヨダナは現れなかった。親戚の集まりで顔を合わせることはあったが、話しかけようとしてもふらりとどこかへ行ってしまうか、他の者と話しているかで、どうも避けられているようだった。
そうしているうちに、大人になって、社会人になって。仕事が忙しくて親戚の集まりも欠席するようになって。
ドゥリーヨダナの名前を聞くことはおろか、思い出すことさえなくなった、そんな日々の中。
職場でばったり、再会した。あの時の、かつてと同じ声音でビーマの名を呼ぶ声を聞いた、その瞬間を。ビーマはたまに、夢に見る。本人には言わないけど。
「ただいま」
「ん、おかえり」
家に帰ると、同棲相手はソファーに座って寛いでいるところだった。互いに不規則な生活で、家で顔を合わせないことも多い。その代わりに職場で顔を合わせたりもするのだが。今日も仕事だったビーマと違って、休みを取っていた恋人は、どこかそわそわと落ち着きがない。
その膝の上に置かれた箱を見て、ビーマは手洗いも早々に荷物を置いて、今や恋人となった従兄弟の隣に腰かけた。白くシンプルな箱には、紺色に金の刺繍が入ったリボンが結ばれている。
今日はドゥリーヨダナと再会し、付き合ってから、初めてのバレンタインだった。といっても、特段何か期待していたわけではない。ビーマもドゥリーヨダナもとうに大人で、おまけにテレビ業界に身を置いているものだから、仕事のために行事のことを考えることはあっても、自分のために考えることはほとんどなかった。なんせクリスマスも正月も仕事をしていたくらいだ。
ビーマはドゥリーヨダナの横顔を眺めた。かつてと違い張りを失った頬や、代わりのように蓄えられた顎髭、そして昔と変わらぬままの、雄弁な瞳。昔はドゥリーヨダナのことなら何でも知っていると思っていた。
でも、そんなことは、なかったのかもしれない。初めて一線を越えた夜から、ビーマは何度か昔を振り返った。あの頃は幼くて見えなかったものが、今は見えてくるような気がする。もしかしたら、忘れてしまった部分を都合よく脳が補完しているだけかもしれないけれど。
「昔よ、お前バレンタインの度に俺の前でうまそうにチョコ食ってたよな」
リボンの端を撫でていたドゥリーヨダナの指がひくりと震えるのを見ながら、ビーマは続けた。
「あの頃は俺もガキだったから、少しでも興味ある素振り見せたらお前が何かムカつくこと言うんじゃねえかって
――
いやこれは今も変わらねえんだが
――
ま、あんまり素直にはなれなかった」
出所不明の、毎年違うチョコレート。最初の頃は明らかに既製品だった。次は手作り。それからしばらくしてまた既製品と思われるものになったが、しかしビーマは今に至るまで、ドゥリーヨダナが毎年持っていたチョコと似たものが売っているのを、見たことがない。
ドゥリーヨダナは昔から負けず嫌いで、要領が良かった。手先も随分器用だったように思う。小遣いも随分もらっていたようだし、その気になれば道具でも何でも揃っただろう。誰かに師事することだって可能だったに違いない。
毎年毎年目の前で自慢されるチョコレート。何故ドゥリーヨダナはそんなことをしてきたのか。ビーマを羨ましがらせるためだ。多分その推測は、子供の頃思っていた通り、外れていない。
では、何故そんなことをしたのか。そこを多分、子供の頃の自分は、読み違えていた。
「なあ、あのチョコレート、毎年誰かからもらってたのか? それとも
――
お前が用意してたのか」
ドゥリーヨダナは答えない。ただ無言で、リボンの端をいじっている。ビーマは続けた。
「ありゃあどこかで買ってたのか? それとも、誰かに作らせたのか? 教えてくれよ」
肩が触れ合うほどに体を寄せれば、ドゥリーヨダナはそっぽを向いて「何で今更、そんなことを聞く」と呟いた。
「いちいち覚えとらんわ、そんな昔のことなんて」
「そいつは困るな。俺はあのチョコの味が、今でも忘れられねえんだ。多分今まで食った中で、一番おいしいチョコだった。バレンタインの度に思い出しちまう」
ドゥリーヨダナがこちらを見た。その瞳の奥で揺れる歓喜と疑念を、ビーマは本当にわかりやすいやつだなあと愛しく思う。
「ふ、ふーん? そこまで言うなら、まあ、思い出してやっても、いい
……
」
「頼むぜ。ガキの頃は言えなかったが
……
お前が食べてるチョコは、毎年うまそうだった。羨ましかったよ、俺は。俺にもくれって言うのを、どれだけ我慢したことか」
更に身を寄せ肩を抱く。ドゥリーヨダナが嬉しげに擦り寄ってきた。ビーマは「で」とドゥリーヨダナの膝の上の箱に視線を落とす。
「その箱は何だ? 毎年恒例のチョコレート、か?」
ドゥリーヨダナが無言でリボンをほどいた。箱を開ける。
中にはチョコが八つ、入っていた。トリュフもあればボンボンもある。隅の方には真っ赤なハートのチョコだ。色も形も様々で、目に楽しい。
いかにも店で売っているような、バレンタイン用のチョコの詰め合わせ。けれどもこの世のどこにも売っていない、そんなチョコレート。
「うまそうだな」
ビーマは素直にそう言った。ドゥリーヨダナが囁く。
「
……
欲しいか?」
「ああ。すげえ欲しい」
「そうか」
そうかあ。呟いて、ドゥリーヨダナがへにゃりと崩れるように笑った。その指が、無難なトリュフを摘まもうとしているのを、ビーマは止める。
「おい、ハートにしろ」
「は?」
「俺にくれるんだろ? ハートがいい。赤くてうまそうだ」
ほんのり色付いた頬を眺めながらビーマが言うと、ドゥリーヨダナが唇を尖らせた。
「まだ、お前にやるとは言っておらん」
「くれないのか?」
「
……
やらんとも言っておらん」
ビーマはドゥリーヨダナに向かって、あ、と口を開けて見せた。素直な雛鳥のように。ドゥリーヨダナが呻く。
「いいか、特別だぞ? ちゃんとありがたみを感じろよ?」
「ああ、よくわかってるぜ。特別だってことも、そのありがたみも。今の俺には、よくわかる」
ドゥリーヨダナが一瞬、泣きそうな顔をした。けれどもすぐに「お前もようやく、わし様の恋人である自覚が芽生えてきたようだなあ」と偉そうに胸を張りながら、ハートのチョコを摘まむ。
「
……
ほら」
「ん」
そっと差し出されたチョコを食む。食紅か何かで染めていたのだろうチョコは、ホワイトチョコだったらしい。噛めば中から苺のジュレが溢れてくる。
「どうだ?」
「うん、うまい。作ってくれたやつの心意気まで感じ取れる気がするぜ」
「何だそれは。
……
もう一つ、くれてやる」
「おっ、いいのか」
差し出されたチョコを再び口に招き入れながら、ビーマはそっと、ドゥリーヨダナの肩を撫でた。今度はチョコをくれてありがとうと、伝える前に逃げられることはなさそうだと思いながら。
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