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雪洞
2025-02-14 18:51:10
1869文字
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【マレ監♀】Berry Berry Chocolat mellow
バレンタインデーに妖精が食べると酔ってしまう材料の入ったチョコをそうと知らずあげた監とものの見事にぐいぐい迫っちゃうマレの話。
嗚呼、どうしてこうなっちゃったんだろう。
「つ、つのたろ
……
」
じりじり、端に追い詰められてストライプがギシリギシリと悲鳴を上げる。オンボロ寮の一番長いソファーもこの長い手足の前では無力すぎた。もはや肘掛けに乗り上げそうなわたしの目の前で、彼はその綺麗なくちびるで笑う。
「ああ、お前のツノ太郎だぞ」
さらりとそう言いながら、ライムグリーンのその奥がより妖しく揺らめいた。いつものご機嫌な眼差しよりずっとずっと蕩けたそれが注がれる。こんな状況なのに大好きなひとの綺麗な表情が間近にあって鼓動を騒がすわたしもわたし。
嗚呼、本当にどうしてこうなったんだっけ? 十四日の今日、故郷では恋人の日なんだよと伝えたら、二人で過ごそうと言ってくれて。わたしが贈ったチョコレートを手ずから食べさせてほしいという王子様の我儘を聞いてあげていたら。
突然、離れかけた指先に口づけて
「ああ
……
お前は本当に可愛いな」
そうして頬に柔く歯を立てる真似をして
「ひとくちで食べてしまえそうだ」
そのまま真っ赤になったわたしをよそに、なんてことありませんみたいな顔で微笑んで
「くれるのは、チョコレートだけか?」
戯れのようでいて真剣さの覗くその声が、洋酒のようにくらりとわたしを惑わせた。
チョコを食べさせてただけなのに。マレウスはどんなにわたしが愛しいか、どこがどう可愛らしいか口説き文句を呪文のように舌に乗せて、突然のことにたじろぐしかないわたしを追い詰めている。その言葉は嬉しいけれど、これでもかと与えられればもう顔が火照って茹だってしまいそう。
「ふふ
……
もう行き止まりだぞ。今日はやけに恥じらうんだな」
ずっと大きな身体が逃げ場をなくしたわたしを覆う。笑った拍子に牙が見えて、どうしてか肉食獣を前にしたうさぎの気分になった。どくどくと鳴る胸が熱い。
「ねえ、どうしたの急に
……
今日のツノ太郎、変
……
だよ?」
分からないけど、いつもと何かが違うはず。ようやっと口にできた問いかけを前にしても、彼はきょとんと瞳を丸くするだけ。
「変? それはおかしいことを言う」
どこかの鍵が外れてしまったような調子なのに、心から疑問に思っていない顔だった。
「僕の言葉には、何一つとして偽りはないぞ」
どこまでも安堵させるような囁きが鼓膜を震わせる。そうして、彼はわたしの耳にそっと触れた。指先が丸いかたちを確かめるように撫でて、ふっと優しく口づける。
――
うん、それは分かる。分かるよ。けどね。
「あ」
耳に柔く歯を立てられる。その口は、さっきまで甘酸っぱいフリーズドライのベリーがのったチョコレートを味わうだけだったのに。
――
思っちゃうの。このひと、本気でわたしを食べようとしているんじゃないかって。
触れられたところが熱い。
彼は添えた手のひらの下のわたしの頬が、赤く赤く染まりきったのを見てくすりと笑う。
「かわいいな
……
」
それは、チョコより蜜より甘ったるい。向けられる声も眼差しも拒むなんて選択端からなくて、ただわたしを愛でるこのひとを受け入れて全部あげてしまえと、わたしの中の何かが囁く。そわそわと震える本能すらそうせよと言っているようで。
恐る恐る、そっと眼差しを返せば見つめた先の瞳は蕩けたような色になって、縮こまるわたしの身体ごと、唇をいただきますの言葉もなしにひと思いに覆ってしまった。
重なる熱と、ほんの少し残った味。ベリーと、チョコと、ブランデー。
……
あれ?
――
ツノ太郎、酔って、る?
でも、そんな意識もキスとともにさようなら。熱が蕩けて溶け合うほど深く深く沈んでいって。
もう一度だけ、ソファーがギシリと鳴る音を聞いた。
後からリリア先輩に聞いたけれど、どうやらわたしがあげたチョコレートには、ベリーと一緒に摂取すると妖精に強い酩酊作用を与えてしまう材料が使われていたようで、さらに洋酒も手伝ってマレウスはあんな調子になったらしい。それを知った彼は「僕をこうも容易く酔わせるなんて」となぜかご満悦な様子だった。酔っていたときの言葉も行動も全部覚えてこれだから、ほんとにしょうがない王子様だなと思う。
違和感がありながらドキドキしちゃったわたしもわたしだけれども。ホワイトデーにはこっちが酔っちゃおうかな、なんて。首に残るベリーみたいな赤を見るたび、溺れるような甘さを思い出して欲しがりたくなってしまう。言葉と眼差し、それからキスとチョコレート。彼がくれる、とっておきの「お返し」を。
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