まきわ
2025-02-14 12:08:23
6699文字
Public クロリン
 

伝えたい想い

バレンタインなクロリンです
付き合って何年か経ってる設定
ちょっと他のななくみメンバーが出てきます

「つーわけで、お前のお題は『紅茶』だ」
「紅茶
クロウの言葉を繰り返しつつ、リィンは突き付けられた人差し指を「人を指差さない」と一言添えながらそっと下げさせた。
クロウはさりげなく膝の上でそのままリィンの手を握ってしまった。
リィンがクロウと過ごすべくリーヴスに借りている一軒家のリビング、そのソファに二人は並んで座っていた。

帝国でいつの頃からか流行り始めた2月14日のイベントがある。
どこかの辺境の村に伝わっていたというその日の名前は「愛の日」。
恋人や伴侶に日頃の感謝や愛を改めて伝えてチョコを渡すというイベントで、それが帝都で話題になりあっという間に広まった。
付き合い始めたクロウとリィンもその流行りに乗っかって何度もチョコを、チョコに限らずお菓子を交換し合ってきた。
そして今年も愛の日が近付いてきた為、何をするか話し合っていたのだ。
クロウは現在自由都市圏のタスレム市で仕事をしているが、わざわざこの話をしにリーヴスまで戻ってくるのだから本当にイベント好きだとリィンは思う。
もちろんそれだけでなくリィンのことを大切に想っているからでもあるのだろうが。
「お題はどう捉えても構わないぜ。紅茶味のチョコでもいいし、紅茶に合うチョコとかでもいい。なんなら紅茶屋で売ってるチョコでもいいし、考え方はお前の自由。腕の見せ所ってわけだ」
「ううこういうの、クロウに勝てる自信はないが、それでも最初から負けるつもりは当然ないぞ。何か考えてみる」
負けん気を発動して勝気に笑ったリィンにクロウは満足そうに頷いた。
「その意気だぜ」
「クロウの方のお題はなんなんだ?秘密か?」
「オレだけお前のを知ってるのもなんだし秘密にするようなことじゃねぇからな。オレのお題は『コーヒー』にしようと思う」
クロウの答えにリィンは顎に手を当てて頷いた。
「なるほど。紅茶とコーヒーか、いいな」
「愛の日当日にまた来るから、それまでにお互い準備するってことで。当日を楽しみにしてるぜ」
「俺もだ。お手並み拝見、だな」

その日からリィンは「紅茶」というテーマに沿って何をクロウにプレゼントするか悩みに悩んだ。
帝都に出向いて流行りを調べたり、紅茶について勉強したりもした。
当然メジャーなものだから取れる選択肢は無限にあった。
だがどれもいまいちしっくりと来ず、なかなか「これだ!」と思えるものには出会えない。
(いい加減行き詰ってきたなぁ
数日悩んだある日、リィンは分校の屋上で夕焼けを見上げながらため息をついた。
(クロウはもう決めたかな?)
こういう企画力に関しては抜きんでた才能を持っているクロウのことだ。
すでに準備に取り掛かっているかもしれないと思うと少し焦る。
(一人で悩んでても埒が明かないな。誰かに意見を求めてみよう。紅茶といえばやっぱり
リィンはARCUSを取り出してじっと見つめる。
忙しいだろうから出られるかはわからないがダメ元でかけてみようと、ある仲間の番号に通信を繋げる。
数回のコール音の後、ぱっと画面に金髪碧眼の貴公子が現れた。
『リィンか。どうした、珍しいな』
「ユーシス!久しぶり、今大丈夫か?」
『ああ、問題ない。何かあったか?』
さすがというべきかリィンの様子から重大事が発生したわけではないのを即座に読み取ったらしく、返ってきた声は穏やかだ。
リィンは頬を緩めると経緯を話し始めた。
全て話し終えるとユーシスは何故か額に手を当ててため息をついた。
まったく、お前たちらしいというか。どうしてそこで勝負という発想になるんだ』
「いやこれまで何回もやり取りしてるから、たまには趣向を変えようってことになったんだ。別に初回からこうってわけじゃないぞ」
慌てて言い添えるとユーシスは苦笑を浮かべてから、考え込むように顎に手を当てた。
『お前の言う通り紅茶とチョコというだけならいくらでもやりようはある。バリアハートにも有名な紅茶風味のチョコレートはあるし、そもそも各州ごとの名産茶葉に合うよう作られたチョコレートなどというものもある』
「そういえば、ノルティア州のそういうのは母さんから聞いたことがあるな」
ユーシスは頷くと画面越しだが真っすぐにリィンを見た。
『各州の茶葉とそれに合ったチョコ全てを取り寄せてセットを作ることだってお前の伝手なら可能だろう。だがそういうことではないのだろう?』
それは確かに見た目には豪華だろうし、希少価値もありそうだ。
だがやはり何かがしっくり来なかった。
リィンは申し訳なさそうに頷いて返した。
ユーシスは何か言いたげに少しの間リィンを見つめた後、小さく息をついた。
まずは主軸を定めることだ。紅茶を軸にしてチョコを選ぶのか、チョコを軸にして紅茶を添えるのか。それとも別の何かを軸にするのか』
ユーシスは言い聞かせるな口調でそう言った。
何か、含みを持たせるようなユーシスの言葉を胸の中で反芻してリィンは頷いた。
確かに軸を決めないと何も定まらないかもな。ありがとうユーシス。もう少し考えてみる」
まぁ、何をどうしたってあいつはお前からもらったものなら喜ぶだろう。あまり気負いすぎないことだ』
それがなんとなくわかるから、悩むんだけどな」
何をしても喜んでくれるなら、その中でもとっておきの、リィンにしか与えられない喜びと幸せを与えてあげたい。
それは思いやりのようでいて、ある種のわがままだとも感じていた。
微笑ましげな苦笑を浮かべるユーシスに謝意を告げて通信を切る。
主軸、か
視点を変えてもう一度考え直してみよう。
そう思いながらリィンはもう一度夕焼け空を見上げた。

それから二日。
リィンは仕事以外の時間はひたすら「主軸」について悩み続けたか、いまだに答えが出なかった。
その日も放課後になると図書室が無人だったのをいいことに何かインスピレーションは得られないかとあちこちの本を手に取っては戻しを30分ほど繰り返した末に机で頭を抱えていた。
(まさかここまで難しいなんてな
いっそクロウ自身にヒントを求めるか。
だができればそれはしたくない。
勝ち負けの問題もあるが、対等でいるためには自分自身でクロウを喜ばせられる答えを導き出したい。
その末の、クロウの笑顔が見たい。
(主軸主軸そういえばユーシスは何か言いたげだったけど
「あら」
かちゃ、と扉が開かれる音ともに聞き覚えのある声が届く。
顔を上げると、ミント色の髪をした少女が微笑んで立っていた。
「久しぶりにお顔を見られたと思ったら悩み顔なんて、本当に教官は罪な方ですね♪」
「ミュゼ?!どうしてここに」
彼女は数年前に卒業して、以降はラマール州を統括する若き公爵として辣腕を振るっている。
ミュゼはにっこりと在学中と変わらない笑顔を見せるとリィンの横に歩み寄ってきた。
「久しぶりに母校の空気を吸いたくなったというのもありますけど、実は分校長に少し直接お伝えしないといけないことができまして」
何かあったのか?」
無意識にすっと表情を引き締めたリィンにミュゼはあくまで明るい微笑みを返した。
「内輪の事ですから大丈夫ですよ」
「内輪の事であっても力になれることがあったら言ってくれ。俺だけじゃなく、皆助けになりたいといつでも思っている」
真摯なリィンの言葉にミュゼは一瞬目を瞠った後、年相応の少女の顔をして頬を緩ませた。
「はい、教官。でも今回は本当に大したことじゃありませんから。それにここを訪ねる口実が欲しかったというのも事実なんです。ちょうどよかったみたいですし悩める教官のお力になれそうで♪」
「え」
ミュゼはまるで進路相談でもするようにリィンの向かいの席に腰を下ろした。
「この時期に恋に生きる者が悩む議題なんて一つですから」
「こ、恋に生きるって
「違うんですか?」
「生きてるかはともかくまぁ悩んでるのは、その、その通りだ」
気まずそうに答えるとミュゼは得たりとばかりに微笑んで、促すように首を傾げた。
リィンは諦めのため息をついてから、経緯を語って聞かせた。
うーん、なんというか、勝負にするところが教官達らしいというか相変わらずのようで安心します」
「どういう意味だだから、何回も渡し合っててそろそろ変わった趣向が欲しくなっただけだって」
「わかります。たまにはちょっと違ったプレイを楽しみたいんですよね♪」
「ミュゼ
頭を抱えたリィンに楽しそうに笑ってからミュゼは咳払いを一つして居住まいを正した。
私からはっきり言うのはどうかと思いますが、このままだと教官は永遠に悩まれそうなので。そもそも、愛の日ってどういう日でしたっけ」
打って変わって真面目さを含んだ元教え子の口調にリィンも背筋を伸ばしつつ考える。
「どうって大切な人に日々の感謝と愛を伝える日、だよな。……あ」
リィンが言いたいことに気付いたのを察してミュゼは嬉しそうに微笑んだ。
「はい、そもそもの目的はそれです。もちろんサプライズも、お互いを楽しませる企画も大事ですけど、一番の目的は忘れないようにしたいですよね」
リィンは何かが腑に落ちたような気がして、胸に手を当てた。
形になり始めた何かを探るように目を閉じて、そして微笑んでミュゼを見た。
「ありがとうミュゼ。凝ろうとする余りそもそもの本質を見失いかけてたみたいだ」
「教官ならいずれ気付かれるとも思いますが期限もあることですし。お力になれたならよかったです」
そう言うとミュゼは優雅な所作で椅子から立ち上がった。
それを見ながらリィンは小さくため息をついた。
「ユーシスも何か言いたそうにしていたのはこれか
「ふふ、直接指摘をするのは違うと思われたんでしょう。在学中のご恩を少しでもお返しできたなら何よりです」
それこそ在学中だって、君達から教わることも多かった気がするけどな」
特にあの黄昏を共に駆け抜けた新Ⅶ組には教官である自分もたくさん教わって、たくさん支えられた。
それを思い出して胸が温かくなるのを感じながらリィンも立ち上がった。
「久しぶりの母校、楽しんでいってくれ。仕事も大変だと思うけどたまにはゆっくりするように」
「はい、ありがとうございます教官」
ミュゼはスカートを持ち上げて貴族らしい礼をすると図書室を出て行った。
それを見送った後リィンは窓の向こうへ視線を向けた。
日頃の感謝と想い、か)
どうするか、大枠は定まった。
あとは準備を進めるだけだろう。
想い人を連想させる色をした空を見上げて、リィンは頬を緩めた。

愛の日当日。
翌日が自由行動日であることもあって、リィンはその日の授業を終えると必要な雑務だけを片付けてすぐに学院を出た。
駅でクロウを出迎え、一緒に家に戻ると示し合わせたようにキッチンへ向かった。
「さて、どっちから披露する?」
挑むような笑みと共にクロウに言われて、リィンは照れくさそうにはにかんだ。
「じゃあ俺から。俺はこれしかないって思ってるけど正直派手なものじゃないから」
「別にオレの方も派手ってわけじゃねぇぞ?まぁでもいいぜ、お前から頼む」
リィンが頷くと同時にちょうど出掛けに準備しておいた湯が沸いた音が鳴った。
これまた準備しておいた紅茶ポットに沸き立てのお湯をそそぐと、オーブンで焼いてあったものを取り出して皿に並べ、空のティーカップ、ポットと合わせてテーブルに並べた。
それをじっと見つめるクロウにやや緊張しながらリィンは説明を始めた。
「えっと、紅茶は如水庵で買ったものだ。この時期お菓子が売れるから、甘いものに合うような茶葉を仕入れたってラドー翁が言っていたからそれを。あとこっちはできれば紅茶のチョコを作りたかったんだけど、俺にはちょっと難しくて確実にできる紅茶マフィンにした」
深い色の瞳でリィンを見つめるクロウの手を取って見つめ返す。
「買ってくれば、いくらでも美味しい紅茶のチョコはあると思う。でもどうしても俺が作ったものを渡したかったんだ。当たり前になるくらいずっと俺を想って支えてくれているクロウへの感謝を表すのに、俺の身近にあるもの、日常に近いものを使いたかった。特別なものもすごく良いと思うけど、今日この日に気持ちを表すなら俺の日常に近い、俺の当たり前を形作っているものがいいかなって」
言葉で伝えきれるかわからなくて、リィンは想いを流し込もうとするかのようにぎゅっとクロウの手を握った。
クロウは真摯な真顔でじっとしばらくリィンを見つめていたが、やがて大きく息を吐いた。
……まさか、発想が丸被りするとはなぁ」
えっ」
クロウは微笑んで握るリィンの手をぽんと優しく叩いて離すと鞄から一つの缶を取り出して、リィンが紅茶を淹れた残りのお湯の元へ向かった。
「こいつはあらかじめ挽いといたコーヒー豆だ」
缶を示して見せた後、コーヒーメーカーに流れるような仕草で豆とお湯を注いで準備を始める。
「んでこっちはトースターで軽く温めるか」
もう一つ鞄から取り出した箱から濃茶色の菓子を出してトースターに並べる。
一連の動作をただ見守っていたリィンに向き直って、クロウは少し気恥ずかしそうに笑った。
「豆はタスレムでオレが良く行く、飯もコーヒーも美味いカフェで使ってるおススメのを分けてもらってな。挽き方まで指導してもらった。んでこっちはチョコブラウニーだ。コーヒーに合う味付けのレシピを近所のばあさんに教えてもらった」
その説明で、リィンはクロウの先ほどの「丸被り」の意味を察して目を瞠った。
「実を言うと提案しといて情けねぇ話だがぜんっぜん良い案が浮かばなくてよ」
クロウは照れくさそうに頭を掻いてリィンを見つめた。
「いや、正確には面白そうなアイデアならいくらでも浮かんだけどよ、どれもしっくりこねぇっつーか。何も決まらねぇまま日だけが過ぎて頭抱えてたら、近所の連中や良く絡む仕事仲間に本質見失ってねーかって指摘されてな」
クロウは一つ息をつくと、先程までリィンがしていたようにそっとリィンの手を取って握った。
「すげぇこと考えて驚かせるってのは楽しい事だが今回は違うだろってな。日頃の感謝を表すって日なんじゃねーのかよって言われてすとんと胸に落ちた。離れてるのに変わらず想って支えてくれるお前に感謝を示すなら、今オレの周りにある当たり前を知ってほしい、それを使って感謝を表したいってそう思った」
告げられた想いにリィンは潤む目を見開いてから、ふわりと微笑んだ。
なんだ。流れまで全く一緒じゃないか」
「え」
「俺も何も決まらなくて皆に相談したんだ。それで主軸がずれてないかって指摘されて、気付いた。一番今日伝えたいのは当たり前なくらい寄り添ってくれているクロウへの感謝と想いだって」
クロウは苦笑してリィンを抱き寄せるとため息をついた。
「しっかしオレだけが悩んだんじゃなくてよかったって言うべきか、揃って情けねぇと言うべきか」
「どちらも良い友人達に恵まれていて幸せだって言うべきだろう」
「そりゃそーだ」
抱き締め返しながらリィンはふと笑みを零した。
「それにしてもクロウが近所のおばあさんからお菓子作りを習っているところを想像するとなんだか可愛いな」
「可愛いってゆーな。普段から何くれとなく世話焼いてくれてるじいさんとばあさんが居てな。恋人に渡す菓子のレシピ教えてほしいって言ったらめちゃくちゃ張り切って教えてくれたぜ。いつか遊びに来いよ。お前のこと紹介したいしな」
少し体を離してクロウを見つめ返してリィンははにかんだ。
「ああ、必ず行くよ。俺も会ってみたいし、ご挨拶しておきたいからな」
「なんか親みてーだな
そう言ったところでトースターがチン、と軽い音を鳴らしてコーヒーの香ばしい匂いが漂ってきた。
「お、良さそうだな」
「それじゃ、お互いいただこうか」
「おう、お前の手作り楽しみだぜーっと、そうだ忘れてた」
「ん?」
首を傾げた瞬間、再びぐっと抱き寄せられて額に口付けられる。
「いつもありがとな。愛してるぜリィン」
体いっぱいに感じる温もりと額のくすぐったい感触にリィンはいっぱいの笑顔を浮かべた。
「俺も、愛してるよクロウ」
言葉以上のものを伝え合うように、二人はそっと唇を重ねた。