跪き、ベッドに腰かけた恋人の靴のベルトを緩める。パーシヴァルの時代には伴侶か、召し変えを手伝う侍女でもなければ許されなかった行いをあえて今、サーヴァントの身でなぞらえることの心地よさ――恥を捨て、悦楽と呼んでもよかった。
今やすっかり傅づかれることに慣れてくれたバーソロミューは、先に身軽になっていた左のつまさきを子どもっぽく揺らしている。滲むような幸福を噛みしめながら、パーシヴァルはバーソロミューの右足を捧げ持ち、重いブーツをそっと引き抜いた。
「だからね、今度、私の船に乗せる約束もしたんだ」
ぷらぷら揺れるつまさきに合わせて間延びした呟きが、パーシヴァルのつむじへ春雨のように降る。恋仲といえど四六時中共に過ごしているわけではない。ただ、夜だけは望めばふたりのものにと柔らかな約束をしている。こんなことがあった、あんなひとと出会った、そんな一日の振り返りを共有する時間は家族の食卓をも思わせ、いっそうパーシヴァルの心を和らげた。
今日はレクリエーション室で対戦ゲーム観戦ののち、新たな友人が出来たという。鼻歌交じりに報告するバーソロミューに、パーシヴァルの顔もおのずと綻ぶ。
「そのようなことが。高杉殿の人となりは、私も詳しくは存じ上げないが――何とも気風の良い方のようだ」
「うん、そして良いメカクレだ」
人物評価の軸にメカクレがあることにも慣れて随分経つ。良いメカクレがいるならば悪いメカクレもいるのだろうか――と益体もないことを考えそうになって、パーシヴァルは靴下を脱がすしぐさに紛れて俯き笑った。
クラスも異なればスキルや宝具の性能も噛み合わない高杉とパーシヴァルは、バーソロミュー以上に接点がない。時折食堂などで見かけはするが、武人だというのに随分と線が細い――という印象で止まっている。
「彼、細いけれど……細いのを気にしてもいるようだったけど、盛るんじゃないぞ」
「はは、は……それは、弁えているよ」
思考を見透かしたかのような忠告は冗談めいてはいたが、紛れもない本気を感じ取ってパーシヴァルは苦笑する。ほとんど見ず知らずの相手に飯を盛るほど無分別ではない。高杉は病で夭折し、霊基もその影響を受けていると聞けばなおさらだった。
喉を鳴らして笑うバーソロミューの素足が床に着かないよう、自身の膝へと乗せた。ブーツを床に置き、捲れ上がったズボンの裾を整える――その間にも、硬く厚いはずの足裏の皮膚が奇妙なやわらかさをもってパーシヴァルの腿を摩るのを、そこから体温ばかりでない熱が腹の底へと這い上がってくるのを、じっと、ただ、耐える。
恋人の脛に、膝に、パーシヴァルは恭しく口づけた。バーソロミューはされるがまま恍惚の息をつく。剥き出しの足首を支えながらベッドへと乗せる間もただパーシヴァルに身を任せ、その代わりに滔滔と、高杉がいかに興味深く、愉快で、破天荒な若者であるかを聞かせてくれる。
「しかし、何を要求されるかと思えば、なあ……さすがに肝を冷やしたよ」
「それこそ、主の御加護があったのでは」
「まさか。だったら、これが私のもとにあること自体がおかしい」
半ば寝台に押し込まれる形で仰向けに寝転びながら、バーソロミューはちっとも堪えてない口調で宣う。件のロザリオはいまだ彼の胸で輝いていた。いたずらにくちづけようとそれを捧げ持った指先に、覆いかぶさるようにしてパーシヴァルも顔を寄せる。
「……”貴方”が欠けてしまうようなことがなくて、よかった」
啄むように、口づける。手袋に包まれていない、乾いた節々と爪の感触がいばらの棘のように唇に引っ掛かる――呼吸の温度に、日に焼けた指先がふるえる――これほど肌の下の血潮を感じるのに、かの御仁はそれを吐いて苦しむのに、サーヴァントの身が損なわれるという時、それは肉体を示す言葉ではないのだ。
「私は負けるような賭けはしないよ」
「ああ、知っている、知っています。貴方は強い人だから、案じることを許してくれる」
十字架を挟んだ愚直で遠回しな接吻をやめられず、これまでもこれからも繰り返しロザリオを握る指先を唇で慈しむ。それを黙って受け入れるバーソロミューは、ただくすぐったそうに微笑んでいた。その笑みが軽薄なごまかしなどではないことを知っているから、パーシヴァルもつられるままに微笑むしかなくなってしまう。
伸びてきた腕に引かれ、彼の隣に身を横たえる。室内灯の白いまぶしさに瞬く海色の瞳を庇うように、パーシヴァルは額同士を寄せ合った。ふたつの体の間でちゃり、と場違いに清らかな音を立てて鎖が揺れる。小さく開いた唇に誘われるまま重ねようとして――パーシヴァル、と蕩けるような声音に呼び止められた。
「なぁに」
「わたしときたら、大事なことを聞きそびれていたよ」
「なんだろうか」
「つけたままと、外すのと――どっちが好きだい」
十字架を手放し、金の鎖に指を絡めてバーソロミューは囁く。あまりにも正直に跳ね上がった心臓を恥じて目を伏せたパーシヴァルを見つめる瞳は、きっとうっとりと光っている。新たな友、そして彼がもたらした恋人のやさしい唇と情欲、自身が得た全てを愛でるよろこびに――静かに、狡猾に、底なしに甘く潤んでいる。
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