tknyoko11
2025-02-14 00:09:03
3199文字
Public
 

2025 leokumiweek Day5 歌詞

白夜流の歌詞に悪戦苦闘してるレオンの話 Japanese only
たまにはタクミを怒らせちゃうレオンが見たかった。その分後でしっかり埋め合わせするのがレオンだと思う。

レオンは暗夜城の自室で軽くため息をついていた。目の前の机にはタクミが貸してくれた白夜の様々な歌が綴られた本にちらばった羊皮紙と飲みかけの紅茶が2杯。つい今しがたまで誰かいたような気配の残る部屋には、ほんの数分前までタクミがいた。彼はすっかりへそを曲げてゲストルームの方に戻ってしまい、しかもその原因が自分なのだからレオンにとっては頭の痛いところだ。床に転がっている万年筆を拾い、レオンは先ほどのタクミとのやり取りを思い出していた。

ねぇ、どの歌もずいぶんと回りくどいんだね。もうちょっと直球で愛を歌ってるものはないの?

もうレオンはさっきからそればっかりだな。本の行間を読むのと変わらないと思うけど。

それはタクミ王子がこの表現に慣れてるからだろう? 僕からしてみたら表現は違うのに全部言ってることが愛してるだから余計にややこしいんだよ。

 つい口をついて出た言葉はどちらかというと焦りから来たものだと今なら思う。タクミが持ってきた白夜の歌の本はそれこそ子供の絵本程度の厚さだったから、白夜の文化についてもある程度学んだ今なら彼に歌詞の意味を教えてもらいながら読んでいけば、それなりに理解はできるだろうとレオンは考えていた。けれど、実際には2時間ほどでようやく4曲目に入ったところで、さっきまでの曲と違う文脈なのにまた愛を語る内容だったものだから、思わず不満が飛び出したのだ。タクミはこのオブラートに包んだような白夜の表現からくる奥ゆかしさが好きだと語ってくれたが、初めて習うレオンにはそこに想いを馳せて浸る余裕がなかった。それでもレオンに一生懸命説明しようとしていたタクミとちょっばかり口論になってしまい、結局タクミはすねたような表情のまま部屋を出て行ってしまった。……元々、白夜の文化について教えてほしいと言ったのは自分の方で、タクミはそんなレオンの希望通り色々な資料を持ってきてくれては丁寧に教えてくれていたのに悪いことをした自覚はある。

(でも……だからって、わざわざこんな歌詞にする必要ってある? 内容はたいして変わらないのに……

 タクミが白夜の文脈についてまとめた羊皮紙をレオンは手に取り、先ほどの白夜の歌の本を開く。そうして羊皮紙と最初に教えてもらった曲の歌詞を見比べれば、この曲が1番、2番、3番に渡って書かれる歌詞は結局のところ『ずっと昔から貴方が好きで、でもこの地を離れた貴方が変わってしまったことが寂しい』そんな幼馴染への想いだけなのだ。正直、最初に聞いた時も三行で書いてしまえばいいと一瞬思ってしまった。言ったら絶対タクミは怒るだろうけれど。

本の行間と同じだよ。意味の全てが分からなくても、そこにある人の想いを想像すれば感じられるものだってあるはずだろ。

 口論の最中にそう言い返してきたタクミの様子を思い出す。強い意志を秘めた目でこちらをじっと見てきたタクミは拳をぎゅっと握っていた。そういう時、タクミは何かしらの感情を強く高ぶらせているのをレオンは知っている。怒りだったり悲しみだったり……それにしても単純に歌詞について意見を言っただけなのにどうして、と考えかけたレオンの頭でふと何かが引っかかった。

(いや、そうだ……なんでこんなことに気付かなかったのかな)

 身分の差が違うもの同士の恋。戦争に向かう者へ向かって伝えること自体がはばかられた言葉。暗夜ではそんな時代に暗号で愛の言葉をやり取りしていた事例が歴史書に書かれている。それを白夜の民は美しい言葉に落とし込むことを考えたのだろう。内容が似てるといった表面的なことより、もっと文化的背景を考えればよかったのだ。自分の焦りから文化を否定されたように感じたタクミが怒ったとしても無理はない……軽く頭を押さえながらレオンは借りていた白夜の歌のページを数ページめくる。『貴方という海があまりにも綺麗で このまま息も時も止まってしまえばよかったのに』という歌詞が目に付く。まだ全容を聞いていないその曲をタクミが残した文脈表と照らし合わせると『貴方への強い想いに溺れている このままその想いに溺れ死ねるなら幸せだったろうに』……といったところだろうか。でもこれはあくまでも自分の想像の域を出ていない。きっとタクミならこの歌詞に隠された細かい行間を説明してくれるのだろう。それに、これはどのような気持ちで書かれたのだろうか。ここだけ見ると叶わぬ恋に身を焦がしているとも、もう終わってしまった恋を思い返しているようにも考えられて……

「全く、愚かだよね」

 自分のやったことがあまりにも馬鹿馬鹿しく思えて、レオンは羊皮紙と本を机に置きなおすと部屋を後にする。あの2行だけでこれだけ想像を膨らませることのできる白夜の言葉選びについて真剣に向かい合っていなかったことを反省し、途中ですれ違ったメイドにタクミの所在を確認する。タクミはゲストルームに戻ってから外には出ていないようだ。逸る気持ちを抑えつつ、足早にゲストルームの前に向かうとレオンはノックを3回した。明らかに中から人の気配は感じるのだが返事はない。これはかなりご機嫌斜めといったところだろう。まずは謝りたいのだが、扉さえ開けてもらえなかったらそれすら不可能だ。どうしたものかと考えていたレオンは先ほどタクミが羊皮紙に書いていた一文を思い出し、扉にできるだけ顔を寄せると一縷の望みをかけて部屋の中へ声をかけた。

「夕日が綺麗だね」

 しばらくの静寂の後、扉がタクミの顔が少しのぞくほど開けられた。目じりが赤いのはもしかして泣いていたからだろうかと胸が痛くなった。

……何か用」

 ぶっきらぼうだけれどタクミが返事をしてくれたことにほっとする。「後まだ昼だし」とわざわざ捻くれた言い回しで付け加えられた言葉はタクミがレオンが言ったことの本質を理解してくれてるからこその反応だろう。それは彼と仲の悪い時からずっと付き合ってきたからこそ分かることだった。

「タクミ王子に謝りたかったんだ。キミの国の文化を否定するようなことを言ってごめん。今許してくれなくてもいいから、また僕に白夜の歌詞のことや他の文化のことも教えてほしい」

……

 レオンの言葉を聞いたタクミは何も言わずに俯いている。今はこれ以上何か言わない方がいいだろうと自室に戻ろうと踵を返したところで扉が開く音がした。振り返ると少し涙目のタクミがこちらを見上げていた。

……僕こそ、途中で急に出て行ってごめん。うまくレオン王子に歌詞のこととか文脈とか説明できなくて、僕のせいでレオン王子を困らせてるって思ったら頭がこんがらがって……

 どうやらタクミの方も自分が思っていたのとは全く別のことで責任を感じていたらしい。僕なんかじゃ教えるのに力不足だとぐずぐずし始めたタクミを落ち着かせようと、レオンはゲストルームに足を踏み入れ、タクミを抱きしめて髪を優しく撫でていく。自分はタクミが丁寧に説明してくれたから歌詞が愛の歌だと理解できたこと、タクミは何も悪くないと伝えるうちにようやくタクミの涙は引っ込んだようだ。

「なんだよ、余計な心配させないでくれる?」

 まだ目じりは赤いけどいつもの調子が戻ってきたタクミの様子にほっとしながら、レオンはたぶんタクミに対して自分も甘えていた部分があるのだろうと思った。迷惑をかけたお詫びをしたいとレオンが言えば、タクミはチョコレートのお菓子が食べたいと急に子供っぽく目を輝かせる。ご希望にこたえてタクミのためにガトーショコラを作った後、それを美味しそうに食べてくれるタクミの姿にレオンはこの上ない幸せを感じていた。その後再開した白夜の歌詞についての勉強は先ほどより二人にとってずっと楽しい時間になったのだった。