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ぎんちき
2025-02-13 21:09:46
1622文字
Public
ブン木手
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溶ける、感触
2025年バレンタインネタ①です。
「よ! 今って休憩中?」
「ええ」
コートの隅で休む木手の元に、丸井が駆け寄る。丸井はポケットを漁って、いつものガムを取り出した。
「やる」
「
……
どうも」
いくらか躊躇はしたが、それを受け取る。木手としては別段今欲しいものではなかった。ただ、ここで受け取らないと何度も同じやり取りを繰り返すことになる。だからすぐに口に入れた。でなければ、そうするまでの間は丸井にじっと見つめられるのだ。
グリーンアップルの香り。丸井が普段纏っているもの。ただし、今その本人は別の甘い香りを漂わせている。
「今日のおやつはチョコという訳ですか」
「そう! 昨日たじまで安く売ってたからまとめ買いしてさ。ん〜、一周回ってこういうのが一番のうまいのかも」
「良かったですね」
ニコニコ笑顔の丸井が頬張っているのはシンプルな板チョコレートだった。寒空の下の為か、硬さがあるようで、パキパキと耳心地の良い音が立っている。そのまま少ししてから丸井は木手に尋ねた。
「なぁ。キテレツってガム食ってる時にチョコ食ったことある?」
「ない
……
ですね。確かそうするとガムが溶けるとか、そんな感じでしたっけ」
「そうそう。俺はやっぱガム良く噛んでるしチョコも好きだしでたま〜にやっちまうんだよな。でもそれがまた結構面白い食感で
……
やってみる?」
食べかけのチョコを差し出された木手。ここまで丸井の言うことを比較的素直に聞いていた彼だが、この提案は拒否する。
「結構です」
そして丸井からこれ以上何かを言われるのを防ぐ為かのように、ガムを膨らませようとした。しかしその風船は大きくなる前にあえなく割れてしまう。2、3回それを繰り返してから木手は再び口を開いた。
「上手くいきませんねぇ」
その独り言を聞き漏らすことなく、丸井は木手の顔を見て言う。
「コツさえ掴めりゃすぐだぜ。キテレツならできんだろい」
丸井の顔を見返して木手が答える。
「でしょうね。私にできないことはないですから」
冗談などではなく、心底そう思っていそうな声音に丸井は軽く笑ってしまった。
「何笑ってるんですか。というか、コツがあるなら教えなさいよ」
「う〜ん。良いけどさ。俺って割と感覚派だから、多分お前には合わねぇと思う」
言い渋る丸井に、木手は「それでもいいですよ」と答えた。丸井はどう伝えるか悩む素振りを見せてから、ようやくしっくり来るものが見つかったらしい。人差し指を立てた。
「グッてやって、フニョニョ〜ンからのパーッとしたらプクーッてなるぜ!」
木手は丸井のことをただ見ていた。丸井も木手と目を合わせている。このまま数秒硬直するふたり。先に口を開いたのは木手の方だ。
「自力で掴むことにします」
「だーから言ったじゃん! 分かってくれる人は分かるんだけどなぁー」
「
……
」
ふたり並んだまま、前を向く。コートの中で往復するテニスボールを目で追った。そろそろ休憩も終わりにするか、と木手が準備をしようとした時。
「な。キテレツ! こっち向いて」
「?」
丸井により、唇に一粒のチョコレートを押し付けられていた。丸井と木手、ふたりの体温によってその小さな欠片は溶け始める。木手は思わず、そのままチョコを口に含んでしまう。すると、すぐにガムが変質するのがわかった。
チョコレートが溶けていくのと共に、どんどん柔らかくなるガム。ガムは完全に無くなりはしないものの、すっかりと先ほどまでとは別物のようになっている。普段味わうことのないその食感が、木手に不思議な感情を抱かせた。
「確かに
…………
面白いかもしれません。ですが、二度とやらないでください」
「え〜、いいじゃん!」
「良くないですよ。もう私は行きますから」
「お〜、分かった。俺もこれ食ったらすぐ行く!」
ラケットバッグを背負い、木手はひとりコートに向かう。その唇にはまだ、チョコレートの感触が残っていた。
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