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倉木
2025-02-13 19:18:42
3366文字
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IDW
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ラフレオ
IDW with ジェニカ
バレンタインもどき
家の中で一番賑わう場所は昔から決まってキッチンだった。
リビングも何かと騒がしいが、狭いキッチンに腹をすかせた兄弟が集まると狭い空間に詰まって喧嘩に発展しやすい。
今レオナルドが住んでいる家のキッチンはテーブルも置けるように広々とした空間にはなった。
しかし人数が増えたとてやはり手狭に感じることが多く、きっとそういうものなのだと思う。
「ジェニカ、ガラスじゃない花瓶はどこかにあっただろうか」
夜も更けてきた時間故に訪れたキッチンにはひとりだけ。
彼女の前に置かれていたカップは二人分、香る甘い匂いからホットチョコレートの類なのだろう。
指が5本から3本に減り、最初は力の加減になれず何個もグラスを割っていたものなのに随分と慣れたものだ。
切れ長の目がレオナルドを見た、レオナルドの手元にある花束に視線を移動する。
「随分と綺麗なもの持ってるじゃない。もう咲いたの?」
「いや、」
最近育てている植物たちはまだ緑色に茂ったままだ。
気長に地道な世話が必要で、早熟らしい野菜もまだ蕾すらない。
それに赤を基調とした花束は差し込まれた白い雪のような花も、レオナルドが育てている花壇には存在しないものだ。
レオナルドはそこまで花に詳しくないから名前まで判別できないが、丁寧に作られた花束であることは想像できた。
「もらったんだ、ラフから」
目線を合わさず押し付けられた後、ラファエロ自身は忘れ物としたとかなんとか言い訳をしてすぐにどこかに行ってしまった。
呆気に取られている間にいなくなってしまったので、何なのかと問いかける暇すらない。
繊細な贈り物を前にレオナルドはどうしたものかと考え、前にエイプリルがケイシーから花束を贈られてとても喜んでいたのを思い出した。
「みんな好きかと思って」
ジェニカは口を開けたままレオナルドを見た、両手に持っていたグラスをキッチンのテーブルに戻す。
シンクに手をかけ、首を振る様はまるで出来の悪い弟に対して呆れたかのように溜息を吐いた。
「アンタさぁ、
……
いや、レオナルドのそう言うところが良いんだろうしアタシが言うことじゃないか」
「??どういう、」
「アタシだったら大事な人からのプレゼントは誰かに見せず隠しておくかなってだけ」
レオナルドの血液を通して変異した彼女はそれでも人間として生きてきた歴史がある。
一般人とするには特殊過ぎる環境下だが、それでも地下に籠っていたレオナルドに比べればずっと経験豊富だ。
まるで姉が出来たようだとミケランジェロが零したことがあるくらいに、彼女は自分の変異に馴染むのが早かった。
一緒に暮らすようになって彼女が案外面倒見が良いという部分が見えるようになったのも大きいのかもしれない。
それを口に出すにはレオナルドには長男としての矜持があることは、正直否めない。
「花瓶は此処にはないけど誰か持ってるんじゃない?本当に必要ならモナにも相談してあげるよ、それじゃおやすみ」
そう言って再度グラスを持ったジェニカが横を通り抜けていった。
途中肘でレオナルドを小突いていく。
レオナルドは無人のキッチンで立ちすくんだまま手の中の花束を見つめる。
少し考え、レオナルドはそのままキッチンから離れることにした。
賑わう部屋の喧噪を越え、向かう先は家の屋上だ。
扉を開くとすっと冷気が肺に入りこんでくる。
どこか脳をすっきりさせるような感覚とともに吹きつけた風が花弁を1つ浚っていた。
咄嗟に胸元に隠して小さなハウスに足を向ける。
簡単な園芸用具と温室用の植物がそこに並んでいた。
水の入ったボウルを取り出し、そこに遊び紙を解いた花をそっと差し入れる。
瑞々しい花びらに一粒浮いた水滴はぷるぷると震えていた。
慣れないものをずっと持ち運んでいたことで存外緊張していたらしい、レオナルドは小さく息をついた。
夜の下でも風にそよぐ緑はレオナルドの目にしっかりと見えている。
盆栽を嗜む父の影響によるところは大きいのかもしれないが、体裁を整えるよりも少しずつ芽吹き成長する様を観察するのは案外レオナルドの性に合っていた。
言葉を必要としないのもまた良いのかもしれない。
いつもより近く浮かんだ月に触れると、どことなく世間から離れたような気持ちになる。
そんな折、意図的な葉の擦れ音が響き、レオナルドは振り向く。
警戒したレオナルドの目に映ったのは、先ほどと同じ上着を着たラファエロがった。
暗がりのせいではみ出した草が掠めたようだ。
ラファエロは何か言い淀みながら目線を泳がせていた。
そしてそれがある一点で止まる。
「なんだ、捨てたかどこかに飾ったと思ったのに」
テーブルに置かれた花束を一瞥したラファエロはそんなことを言った。
「まさか、もらったものと捨てるわけないだろう」
そんな当たり前のことなのにラファエロはふいと顔を背けた、照れたようだけどその理由はさっぱりわからない。
レオナルドが身じろぎをしただけで足が一歩引く、拒絶というよりは怯えを感じ取りレオナルドは眉を潜めた。
一時の間ラファエロと兄弟の間に起こっていたすれ違い、レオナルドは既に解消したものと思っていたのだがラファエロの中にはまだ深い影となって落ちているようだ。
恋人らしい触れ合いの中で時折痛そうな顔をするラファエロに言葉で、仕草で、時には舌を使って慰めてみてもそうなったラファエロはそこからの表情を変えることはなかった。
そうした時は時間が解決してくれるものだから程よく見守ってあげるべきだと教えてくれたのは、他でもないジェニカだったと思い出す。
手負いの獣のようなラファエロとのどことなく走った緊張感の中で、レオナルドはどうしようかと迷った。
そして何かないかと視線を動かした時、ふと先ほどの花束が目に入る。
ひときわ大きな花弁の白い花、机に散らばる花びらがいつの間にかできていた。
あまり乱暴に扱った記憶はないのだが、取れやすい種類のものだったのか。
思わずひとつ拾い上げる。
ざらつく花弁の表面はまだ瑞々しく、切り離されてもなお美しさを保っていた。
それがむしろ儚さすら感じられる。
不意に花弁に触れる手に重なる手。
それは強引に花弁から引き離され、気が付けばラファエロの胸板に飛び込んでいた。
「なんて顔してんだよ、嫌だったなら嫌だって言え」
頬を掠める寸前、苦々しい顔をしているラファエロに先程の怯えはなかった。
背の甲羅をぽんぽんと叩かれる感触はまるであやされているよう。
革製のジャケットはごわごわと顎を擽って、いつもなら抱き締めている時に直に感じる少し早い心臓の早鐘も朧気にしか聞こえない。
「
……
そういえば、なんで花束なんてくれたんだ?」
どことなく流れる居心地の悪さに、声を発したのはレオナルドの方だった。
単純な疑問と話題逸らしが半々なところだが、頭上で聞こえる溜息は随分と大きいもの。
「やっぱり気付いてなかったのか
…
ジェニカが言ってたのは本当だったぜ」
身を離して頭をかくラファエロに、レオナルドは首を傾げた。
何か大事な記念日でも逃しただろうか?
「レオ、バレンタインデーって知ってるか」
「ああ、知ってる
………
あ」
「やっとかよ」
ホリデーやイースター等家族で祝ってきた記念日はたくさんある。
しかし2月14日と言う日はレオナルドにとってまだ馴染みがない。
最古の記憶はミケランジェロが嬉しそうに話してくれた街の話だった。
現実味を帯びたのは慣れない白いスーツに赤い薔薇の花束を持ってエイプリルの家に訪れた時だ。
2月14日はそう言う日なのだと、レオナルドはようやく知った。
それが1年前の今日、レオナルドは再びバケツに浮かんだ花束に目を向ける。
「
…
おい、今更照れんな」
顔を伏せたレオナルドにはラファエロがどんな表情をしているのかわからない。
しかしどうとでもなく同じような顔をしているのだとわかった。
バレンタインのプレゼントを自慢して回ったかのような自分の行動を顧みた。
明日ジェニカはどんな顔でレオナルドに挨拶するのだろうか、そう考えるのも一種の現実逃避なのだと本当は気付いていた。
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