しじみ
2025-02-13 17:50:54
2523文字
Public 🏀
 

2/9VRF 三花無配

バレンタイン三花小話です
※二月なのに三井が部活にぬるっといます

「あーーーもうすぐバレンタインだなー」
……
 桜木は胡乱な目を隣に向けた。
「オレ、チョコ好きなんだよなーっ」
……
 三井は誰に言うでもなく、前を向いたままそんなことを言う。しかしその目は時折チラッチラッと桜木を見る。
……おい、花道。そろそろアレなんとかしろよ」
 反対側から宮城が声をひそめて肘で突いてきた。
 二月の二週目に入ってからというもの、三井はずっとこの調子である。直接は口にしないのだが、チョコが欲しいのだとチラチラと匂わせてくるのだ、桜木に。
 最初は見ている宮城も言われている桜木も面白がっていたのだが、こう毎日続くと鬱陶しい。
「そもそもよぉ、万年金欠の花道にチョコ強請るの絶対間違ってんだろ」
「ふぬ……
 実は、そうでもないのだ。桜木は口をもごもごさせて誤魔化した。宮城は片眉をあげてこちらを見たが、「オレこっちだから」と桜木は三叉路で立ち止まる。
「おー、じゃあまた明日な。明日はバレンタインだからな!」
「気ぃ付けて帰れよー」
 二人に手を振って別れる。確かに桜木は大体いつも金欠だ。生活費がカツカツなので仕方がない。けれどこの年末年始、実は桜木はバイトをしたのだ。
 
 年末年始、部活もないし水戸たちも親類の集まりだなんだと忙しくしており桜木は暇だった。そんな中大家に話かけられたのだ。「年賀状配りのバイトをしないか」と。
 なんでも、大家の親類がする予定だったが怪我をしてしまったらしい。その代打を探しているとのことで、暇そうな桜木に白羽の矢が立ったのである。時給も年末年始価格ということで中々良かった。ちょうど暇していたし、桜木はその話を受けて小金を稼いだのである。連日日が昇るより早起きしなくてはならなかったが、朝に強い桜木にとっては特に苦でもない。
 最終日、現金で支給された給与袋を前にして、桜木は相好を崩した。思えば初めて自分で稼いだ金である。食費の足しにするか、それともこれで新しいバッシュを買うか。使い道を考えてワクワクする桜木の心に、チラチラとある人物の顔が浮かぶ。三井の顔だ。
 冬の本戦が始まる頃から、桜木と三井は付き合っている。付き合う前も三井は何くれと桜木に奢ってくれていたが、付き合ってからはまるで貢ぐかのように桜木に色々買ってくれるのだ。毎回遠慮なく好意を受け取っているのだが、この金をすこーしだけ、三井に使ったら喜んでくれるのではないか。そんな考えが桜木の中で頭をもたげ始めた。
 けれど桜木が頭を捻っても、三井が欲しそうなものは思い浮かばなかった。バスケ関係のものなんて桜木のものよりも余程いいものを使っているだろうし、いつも奢ってもらうラーメンを桜木が奢るのもなんとなく違う。どうしたものかとここひと月ほど考えてはいたのだ。
 
 そんな中でのこのバレンタイン主張である。三井の欲しいものは分かった。
 コンビニで手軽なチョコ菓子でも買ってあげれば三井はきっと大喜びしてくれるだろう。けれど今回桜木は背伸びしてちょっといいやつを買っていた。一人で催事場に行く勇気は出なくて晴子についてきてもらい、女性でごった返したチョコ売り場で財布と相談しながら三井が好みそうなものを物色したのだ。実に試練だった。
 毎日毎日あんなにチョコくれアピールをしていたのだ、明日渡せば三井はさぞかし喜んでくれるだろう。家に置いてある小さな箱を思い浮かべて桜木は口元が綻んだ。

「ミッチー、なんだその紙袋」
「うわっ三井サンなんだそれ」
 そしてバレンタイン当日。いつも通り部活に出ようと部室に向かった桜木は、現れた三井の出で立ちに目を丸くした。その両手には紙袋。中にはラッピングされたチョコのようなものが見え隠れしている。
「あ? んなもんチョコだよチョコ! すげーよ卒業マジックってやつか? 中学以来だぜこんなに貰ったの」
 どさどさと音を立てて三井は紙袋を床に置いた。チラリと見えた包装紙には先日の催事場で見た高級チョコの名前がある。桜木がロッカーに置いているチョコよりもずっと値段が高いだろう真っ赤な包装紙のそれを、思わずじっと見てしまう。急に自分の用意したチョコに価値を感じられなくなった。あんなにドキドキしながら買ったのに。
「はあ⁉︎ 自慢す、うおっ流川やべーなっ⁉︎」
「っす」
 三井に文句をつけていた宮城だったが、その後ろから現れた流川の姿に引き攣った顔をした。流川はとんでもない量のチョコを貰ったようである。常であれば、それを見て桜木は対抗心を燃やしただろうが今はそれどころではない。
 宮城の注意がそれた隙に、着替えた三井が桜木の元にススっと近付く。
「桜木は、ねえの。その、チョコとか」
……そんなにいっぱいあんだからオレのとかイランだろ」
 あるともないとも言わず、そんな憎まれ口を返す。
 拗ねてる気持ちもあったが本音である。そんな高級チョコに敵うようなもの、桜木には差し出せないのだから。
「やっぱねぇよなぁ。ほら、これ」
 そう言って三井が差し出してきたのは、先ほど桜木が見ていた真っ赤な包み紙の箱だ。なんだと首を傾げると、三井はそれを桜木の手に置いてきた。
……人からもらったもんを他の人にあげちゃいけねーんだぞ、ミッチー」
「はぁっ⁉︎ ばっかおまえ、オレが買ったチョコだっての! おまえのために!」
 女だらけの中買うのすげえ恥ずかしかったんだぞ! と三井は力説してきた。桜木はポカンと口を開けてそれを見ている。
「ったく。来年はちゃんとチョコくれよ! 恋人からチョコ貰えねえバレンタインなんてバレンタインじゃねえんだわ!」
 肩を怒らせて三井が体育館へと向かうのを見送った。
 手の中にちょこんと置かれた箱は赤い包装紙にツヤツヤの赤いリボンがかかっている。三井も自分と同じように、自分のことを考えながら選んでくれたのだろうか。じわじわと足元から喜びが湧き上がってくる。
 部活が終わったら、ロッカーにあるチョコを渡そう。渡したら、三井はどんな顔をするだろうか。期待に胸を膨らませながら、桜木は貰ったチョコをそっとロッカーに入れた。