真冬のランニングは寒い。そんなことは当たり前なのだが、松本は秋田の冬を甘く見ていた。このあたりは雪はあまり積もらないと聞いていた。確かに積雪は少ないが、それは風が強いから雪が降っても積もらずに飛んでいくせいだとは聞いていない。
日本海から吹く風が、坊主頭からどんどん熱を奪っていく。ウインドブレーカーの袖を引っ張って伸ばしても隠しきれない指先は、もう感覚がない。
ひときわ冷たい風がびゅんと吹き抜けて、松本はずびっと鼻をすすった。
「えっ松本泣いてる?」
少し後ろから声をかけられて、松本は寒さに凝り固まった首をめぐらせた。一之倉がニット帽の下で細い目をいっぱいに見開いている。
「ちがう、寒くて」
松本が吐き出した言葉も白く凍りついて、あっという間に風に飛ばされていく。それでも一之倉の耳にはなんとか届いたようで、ああ、と吐息のような返事があった。
「一回、バンザイして。それで手ブラブラして」
一之倉が自らもバンザイして見せたので、松本は見様見真似でやってみた。
「で、一気に下ろす」
「おお」
腕を下ろした瞬間に血の巡りが良くなって、松本は感嘆の声を漏らした。いきなり温かい血が通った指先に感覚が戻って、じんとしびれる。
「じゃあ、これ」
一之倉は仕上げとばかりに自らの軍手を脱いで、松本に差し出した。
「手は大事にしろよ。シューターだろ」
「いやでも、一之倉は」
「いいから」
一之倉は軍手を押しつけると、ピッチを上げてあっという間に松本を抜き去っていった。松本はなんとかペースを落とさないようにするのが精一杯だというのに。
残された軍手に指を通すと、それはまだ一之倉の体温を残していた。
「クソ、負けらんねぇ」
松本はランニングコース最後の直線で巻き返すべく、ストライドを広げた。ぐっと握りしめた両手から全身へ、力が満ちていく。
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