魔法のスクロール:魔法の術式のプログラム言語みたいなのがずら~~っと書いてあるイメージ。普通は見れませんが、特殊な魔法なのと、あんまり話聞いてないだろうな~と思った側近が用意しました。これを読むためにも勿論体を使っているので、出勤初日から彼は若干寝不足です。最悪すぎる
フィオナは昨日モフモフから聞いたことを思い出しながら、一つずつ丁寧にエリオットに説明した。時折、モフモフが彼の口を借りて注釈を挟む形で、ぎこちない会話が続く。
「……つまり、僕は事故でこんなことになったっていう事?しかも魔族に?」
冗談でしょう?そう言いたくてフィオナの顔を覗き込む。
しかし彼女の表情はそれを否定したように静かなままで――。エリオットの顔からさっと血の気が引いた。
自分の記憶がない間に、体を好き勝手に使われていた事実に衝撃と絶望を覚えた。
先ほどまで懸念していた事はもう起こっていた後だったなんて――…目を伏せ、頭を抱えた彼の肩はわずかに震えている。
「で、でもね。モフモフは別にエリオットの身体を悪い事には使ってなかったよ。」
フィオナは慌ててフォローするように言葉を重ねた。
「自分は人間の作法が分からないからって、食堂に行くのも控えていたの」
「人間の……作法?」
エリオットの頭に浮かんだのは、犬のように皿に首を突っ込んで食べる自分の姿だった。
想像するだけで血の気が引くが、同時にこの得体の知らない魔狼が意外と常識的だったことに少しだけ安堵してしまう。
フィオナは、そんなエリオットを静かに見つめていたが、やがて柔らかな声で言った。
「……多分、ここからはエリオットとモフモフで話し合う必要があると思う」
そう言いながら、彼女はエリオットの手を両手で包み込むように優しい力で握りしめた。
「心配な事が多いと思うけど、もし生活面で不自由があったら教えて。私もできることがあるなら何でも協力するから」
フィオナの優しい微笑みに、震えていた肩が少しだけ落ち着きを取り戻す。
「……ありがとう、フィオナ」
彼女の言葉には漠然とした不安の中に小さな光を灯していた。
エリオットは食堂で簡単に朝食を済ませると、今日から働くことになる駐在所へ足を向けた。まだ朝の空気は冷たく澄んでいて、道を歩く彼の足音が静かに響いている。
しかし、周囲に誰もいないことを確認した途端、彼の口が勝手に動き出した。
「……ここからはフィオナに伝えていないことだが」
低めの声で語り始める口の動きに、エリオットは眉を顰める。いつもの自分の声よりも少し低い響きが、余計に自分の体が自分以外の意思で動かされている感覚を強め、正直不快だった。
「昨日、この魔法のスクロールを確認した。俺の回復がこの魔法の目的になる。回復方法はお前の体内の魔力を用いて……――」
そこで、モフモフの言葉が一瞬途切れる。エリオットの体内に意識を向けたらしい。
「いや、ちょっと待て。お前剣士なんだよな?なんでこんな魔力貯まってんだよ?」
少し驚いたような声が、彼の口を通じて響いた。
「しかも質も良い……」
勝手に話し出す声に、エリオットは深く息を吐き、苛立ちを抑え込んだ。
「悪いけど、僕自身の事を話すつもりはないよ」
言葉少なに、彼は体内の存在に拒絶の意思を伝える。
たとえフィオナが信頼を示してくれたとしても、相手は魔族だ。この状況で信じ切れるはずがなかった。
「ふーん、ま、別にいいけどな」
つまらなそうに答える声が自分の口から出てくるのを聞いて、エリオットはさらに眉をしかめた。
「ともかく、スクロールをざっと確認したが、俺が回復したら、この魔法は効果が切れる。それまでこの状況が続くだろうな」
モフモフの言葉が終わり、しばらく二人の間に沈黙が訪れた。その沈黙を破ったのは自分の口から洩れた大きなため息。
それがどちらの意思によるものか、あるいは両方なのか。――わからない。
ただ、この奇妙な同居生活が続くことに彼は早くも嫌気を覚えていた。
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