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望月 鏡翠
2025-02-12 23:14:26
1039文字
Public
日課
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#1626 「昆布」「美容師」「ちくわ」
#毎日最低800文字のSSを書く/三題噺
鏡越しに目があって、美容師はにこやかに微笑んだ。
「子供のときにハマってたものって何かあります?」
その質問に、私は少し考えて、いくつかの候補の中から、この状況で相手に最も聞いてほしい答えをチョイスして引っ張りだした。
「昆布かな」
「昆布ぅ? 子供のときですよ。渋いですね。料理とかされてたんですか?」
「違う違う。迷信のせいだよ」
「迷信」
美容師は怪訝な顔をした。話がおかしな方向に行く前に、私は会話の主導権をしっかりと握りしめた。会話が上手い相手だとすぐに、相手のペースに飲まれてしまう。
「遺伝で禿げるかどうか決まるっていうじゃないですか」
「そうですね〜、いろんな要因はありと言いつつ、遺伝の影響は大きいですね。でも痛めつけたらやっぱ将来禿げますよ。俺もブリーチしまくってたから、将来はハゲですね」
「私の父親が禿げていたんだ。子供の頃に父がハゲいているのだから、子供も禿げると散々揶揄われたんです」
よくある冗談だ。本当にそうなったかどうかなんて、実際に追いかけて確かめている人なんていやしない。しかし思春期の子供の心に、禿げのレッテルは結構な傷を残した。それを慰めるために、私は禿げを回避する手段を探したのだ。
「あ、わかった。それで海藻ってわけですね」
「そう。育毛剤なんて、学生には高すぎるからね。まあ迷信だったから健康になるだけだったんだけど。だから一時期昆布を山のように食べていたってわけ」
「健康になったんなら、よかったじゃないすか」
「実際昆布ってどうなんでしょうね。効果あると思います?」
この話題の本題はこれだ。体が健康になるだけでなく、育毛の効果を少しでも 期待した私は愚かなのだろうか。もし可能性が少しでもあるのなら、再び昆布が食卓に返り咲くかもしれない。
「いやぁ、時代は昆布よりちくわっすよ」
美容師は自信満々にそう断言した。
「ちくわ? その心は」
全く想定しない答えに、私は戸惑った。しかし髪の毛のプロがそう断言するくらいなのだから、効果があるのかもしれない。
じっと返答を待っていると、美容師は吹き出した。
「ちょっとぉ、やだな。冗談ですよ。間に受けてちくわ毎日食べたりしないでくださいよ。あと詐欺にもご用心です」
けらけらと笑うと、美容師は彼の仕事に戻った。
やはり昆布が髪の毛にいいなんて、ただの迷信なのだ。子供のときの流行と言ったけど、実は今でも昆布を食べ続けている私は、人しれずがっかりした。
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