スサ
2025-02-12 19:26:19
2171文字
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【鬼水】挑戦

★追記:最後まで書いた話はpixivにあります→https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24068399
潮吹きを考えていて、最初は違うの考えてたのでこれはボツかもしれないんですけど、この導入でやってもアリか…?と…潮吹きに挑戦しよう!みたいな話の出だしです。愛されてる自信で自己肯定感カンスト息子と中身は時代のせいでちょっと幼い養父です。

 聞くにたえない猥談を右から左に聞き流し、鬼太郎は黙々と手を動かしていた。雑音をものともしない運針に心の強さと慣れが垣間見える。
ってオイ、聞いてんのか?」
「聞いてない」
 取り付く島もない様子の即答に、ネズミ男はこれ見よがしに盛大なため息をついた。
「ったくニィさんはいったいこの無愛想な小僧のどこがいいんだか! アバタもエクボってやつかねぇ」
 一瞬、鬼太郎は手を止めた。だが怒っている気配はなく、むしろ哀れみをこめた目を向けてくる。
「水木は僕のことを誠実でいい男だと言ってくれる」
 ネズミ男がげんなりの見本のような顔をする。しかし鬼太郎はさっぱり意に介さない様子で針仕事に戻った。
それ、何縫ってんだ」
「水木の背広。裾がほつれてしまっているのを直している」
 淡々と答えたあと、よし、と手をとめ鬼太郎は繕ったばかりの所をしげしげと検分する。上出来だ。
「なんでぇ、新調する甲斐性もなしか」
 遠慮のないネズミ男だったが、鬼太郎が挑発にのることはなかった。
「わかってないな」
「なにがだよ」
「これは思い出の品なんだ。だからあの人は大事にしてる。それをきちんと保つのも、立派に伴侶のつとめだろう」
 心なし得意げな台詞に、ネズミ男はケッと悪態をついた。
「ヒモの務めってんなら、オメェそりゃ髪結いの亭主よ。アッチの方で満足させてやらにゃ
 ニヤニヤと笑うネズミ男の髭を不意に鬼太郎は引っ張った。
「おまえは仏の顔も三度までというのを聞いたことがないようだな」
 低い声に、ネズミ男は逃げ時を逸したことを悟った。手遅れだった。

 ほうほうのていで逃げ出すネズミ男にお約束のように「もう来るな」と投げつけて(絶対にまた来るが)、鬼太郎はため息をついた。眉がやや悩ましげになっている。
 水木から不満を聞いたことはないけれど、あったとしても隠し通す気がするし、そもそも頷いてくれただけで奇跡のような所があるので、彼がいわゆる夜の営みについてどう感じているか、正直なところはわからない。
 わからないというか、最初の頃大丈夫か、良かったかと聞きすぎた時に、顔を真っ赤にして怒られたので、それ以来何となく聞いたことはない。声や表情から注意深く察するのが限度だ。
………
 鬼太郎は軽く顎を抑えて考える。
 何も言ってくれないとひどいことをしていないか、いやいや応えてくれているのか不安になります、と言ったことはあって、その時の水木は耳まで赤くして固まっていたのだけれど、わかった、と蚊の鳴くような声で答え、それから少なくとも最中に嫌とは言わなくなった。(ただし、ダメだは言うし、反射で出ることはある)
 何しろ鬼太郎のおねだりには甘い人だ。
 まじめな顔で、少年の見た目にそぐわない様子で、鬼太郎はぼそりとひとりごちた。
 潮吹きか、と。

 基本的に聞き流していたネズミ男の話だが(他人の閨房を覗き見する趣味はないので)、鯨もビックリってくらいビシャビシャに吹いて、えらい気持ち良さそうだったぜ、というのは記憶に残った。
 水木にはうんと気持ちよくなってほしいと鬼太郎は真面目に考えている。身体のつながりだけが愛情ではないことは百も承知だけれども、それはそれとして、愛する人に愛しているからこそ快楽を与えたいと思うのだって、混じり気のない愛情では?という話で。
 初めて枕を交わす前、水木は視線をウロウロさせながら教えてくれた。鬼太郎が伴侶となる養父の手をギュッと握っていたのはけして逃さないという意思の現れだったけれど、水木が握り返してくれたのは不安や甘えからだった気がする。
 抱かれるのは初めてだし、恥ずかしながら、引き揚げてきてからは女を抱こうとすると苦しくなり、吐き気がして、そちらの経験もほとんどないと。
「おまえは望んでくれるが、俺があんまり無様で、よくできなかったら、全部忘れてくれ」
 それまでそんな弱いところを見せてくれたことはなかった。思わず、握った手に力を込めて、忘れません、と鬼太郎は言った。水木は困ったように笑って、ほんのすこし首を傾げた。捕まえた手は微かに震えていて、今言葉にしなかった分も含めて様々な葛藤が彼の中にあることを教えてくれた。
 その夜は性器による挿入までは行わず、ゆっくりあちこちに触れて、舐めて、蕩かした。気持ち悪くなっていませんか、と聞いた鬼太郎に、うん、と小さく頷いてくれたのが幼気で可愛くて、それを思い出すだけでも──
 鬼太郎はごく真面目な顔で頷いた。最近は素直に気持ちがいいと言ってくれることが増えた、気がする。鬼太郎だって水木以外知らないのだが(知る気もない)、見ていればわかる。
 ゆっくり揺さぶられながら鬼太郎の名を呼んで、頭を撫でるのが水木は好きらしいのだけれど、その顔はたまらないものがある。
 繕った背広をきれいに畳んで風呂敷に包み、鬼太郎は普段通り淡々とした顔で立ち上がった。奇しくも明日は休日で、水木も今夜は宴席などもなく、どころか早く帰ってくると言っていた。だから泊まりに来いと言う顔は以前の通り、明るい養父のそれだったけれど
 すごく濡れるなら、布団と畳の間に何か敷いた方がいいのかな、鬼太郎は静かにやる気に満ちていた。