夜の海。皆が寝静まった船は静かだ。
「うん、ここのクルーはいい子ばかりなようだ。是非ともうちの船に欲しい。」
ハッと振り返ると見知らぬ男が佇んでいた。この暗がりで顔はよく見えない。ただ背が高いこと、両手両足には鎖が繋がれそれが音をたてていること、...風貌からして海賊だということ。それは分かった。
まずい、と息を飲んだ。これはまずい。本能が真っ先にそう叫んでいる。
「あと眩いばかりの宝石がたくさん、女性物のドレスかぁ。それは売り飛ばすとして良さそうな紳士服もあるじゃないか。いいね。着たいな。」
そんなもの積んでいない。積んではいないのだ。
だが、それらを身にまとった人々はいる。
パーティを楽しんだ後の金持ちたちがこの船には大勢いるのだ。
「君はここのキャプテンだろう?いいのかい?皆を起こしに行かなくて。まあ私としてはやりやすくていいけれどね。」
違う。助けてくれ。私はただの警備員なんだ。
「だめだよ。キャプテンならばもっとしゃんとしなければ。」
悲鳴が口からこぼれる。これは幻だ。悪い夢だ。
震える手で懐中電灯をやつに向けた。
それが地獄が始まる合図になってしまったのだと思う。
「総員戦闘準備!!!!」
とてつもなく大きい鎖の擦れる音が響き渡る。
船が大きく揺れる。
人々の悲鳴が上がった。
暗闇の中確かに見えたのだ。この豪華客船を飲み込もうとしている巨大な鎖が。
大きく傾く船。
上下が分からなくなる視界。
冷たい海水が空から降ってくる。
あの男の笑い声と、ここにいないはずの誰か、大勢の荒っぽい男たちの声。
助けて。
助けてくれ。
何かで体を強く打ったのかそこで自分の意識は途絶えた。
今日も大きな獲物を見事に手に入れた。私の素晴らしいクルーたちのおかげだとも。
海賊船の船長になってから何年経ったのかもう分からないが、今も変わらず最大の海賊として名を馳せている。
何も無い海?いやいやあるじゃないか、まだ沢山の宝が隠れもせずに呑気にやってくる!
さあさあ略奪を続けようじゃないか!
海賊の時代はまだ終わらないのだから!!!
携帯を見た。どこかの豪華客船が突然消えたらしい。そんな映画みたいなことあるんだなぁとページをフリックで飛ばす。
海風が気持ち良いなぁと大きく伸びをして一息つく。
「おーい!こっち手伝ってくれ!」
船の整備士である私は軽く返事をして携帯を置いた。
ジャラ
ジャラ
「?」
....重い鎖を引きずるような音がした。
後編に続く
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