もちこ
2025-02-12 11:02:59
3013文字
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いつかの聖杯戦争

バソvsパ。それぞれにマスターがいます。
マスター視点のお話になります。バソはヴィランっぽい。
少しホラーテイスト。どこかのいつかの聖杯戦争のお話。
これは自分のエゴでなければならないお話。


ある一軒家から家族が消えた。
家の中は水浸しだった。
ニュースを見て駆けつけた時もうそこかしこにテープが貼られていて、私は友の名前を泣きながら叫んだ。

気づいてあげられなかった。分かってあげられなかった。私はあの子の全てを知っていて、分かりあっていると勝手に思っていた。
人に阻まれながらあの子の名前を叫ぶ。
その時聞こえたのだ。


「この海水はどこからきたんだ」




電車の音。

通知の音。

人の声。

通知の音。

私の小さなため息。

通知の音。

つらつらと更新されていくメッセージを私はただ眺めていた。
このまま電車に乗っていればどこにでも行けるはずなのにどこにも行けなかった。
勇気がないだけだ、何も失いたくないから。
傷つきたくないから。
後悔したくないから。
だから変われないのだと誰かに言われたことがある。


私はこの小さな町で生きて、このちいさな町で、




「しぬのかい?」




がたんごとん。
がたんごとん。

誰もいない車内。
鳴らない通知。

「自分のことをよく分かっている。よく弁えている。いいね。」

「...あなたはどうなの」

「自分なりに自分の限界は分かっているつもりだよ。言い切るのは少し不安が残るが。」

彼は愛想良く笑っているが、目は笑っていなかった。
....値踏みをされている。そんな感じだ。

「自分のことをよく分かっている。そんな君は海に行けるだろうね。」

「海?」

「船乗りに向いている。」

「...思っていないでしょう。」

「思っているさ。」

夕方の物悲しい光が車内に差し込んでいる。
ギリギリ動く型落ちの携帯と、力なく揺れている薄汚いキーホルダー。
誰かが昔にくれたやつだ。思い出せないけど。

「海はすき。小さい頃に1度行ったことがある。」

「それはいい。」

「あれから行けていないけれど、写真集を買ってよく眺めてるの。」

「...そうかい」

彼は揺れる薄汚いキーホルダーに目をやりながら少し笑っている。


「望めば行けると言ったら?」

「いいわ。そういうの。期待してやっぱりダメでしたはもう飽きたから。」

「君のお友達と違って私は叶えられるけどね。」

「....」

「特に思い入れもないんだろう?」

キーホルダーを触る。ぐったりしていて、いつから付けているのか思い出せないキーホルダー。

「思い入れ...」

「君が望むのなら始めよう。望むと言ってくれればね。」

「...私は海に行ける?」

「実は私は優秀な船乗りなんだよ。」

ダメな事だと分かっている。危険だと手を取るなと頭の中で警報が鳴り響いている。
でも、その警報を鳴らしているヤツらが何をしてくれるんだ。今まで何をしてくれたというのだ。


「さあ、応えてほしい。君が私のマスターかい?」

全てが馬鹿馬鹿しく思えた。
もうどうでも良かった。
捨てる勇気も傷つく覚悟もない。
でもどうでも良かった。
もう、この町で私はしにたくなかった。

暗く冷たい海が、全てを飲み込んだ。







あの子の家の前でどれくらい泣いていたのか分からない。もう帰りなさいと声をかけられた頃、日は暮れ始めていた。
泣いたってどうにもならないことは分かっている。自分に酔っているんじゃないかと言われてしまったら反論できない。
ゆっくりと自分の家へと歩き出した。明日のことも分からない。数分先のことさえ分からない。あの子はどこにいて、何を思っていたのか、私はひとつも分からなかった。
あの子の一番の理解者だと胸を張っていた愚かな自分を殴りたい。

ぽとん

足元に何かが落ちてきた。薄暗い道に落ちた何かを拾い上げる。
それは数年前に私があの子にあげたキーホルダーだった。
キーホルダーは湿っていて、海の匂いがした。どうしてここに。

「もう分からないみたいだからね。返しておこうと思って。」

突然の声に驚き顔をあげると目の前に大きな影があった。よく目を凝らすと古めかしい海賊の格好をした男がこちらを見て笑っている。

「嫌な奴だと思うかい?親切心だよ。他のものは海に飲み込ませたくせにそれは残していたからね。彼女。」

「あの子のこと知ってるの?」
「もう会うことは無いだろうね。」
「あんたのせい?!」
「何も知らなかっただろう?君は。」

かっと頭に血が上る。言い返してやりたいのに目の前の冷ややかな眼差しに体が震えて何も話せない。

「もう探さない方がいい。これは親切で言ってるんだ。」

「...っ!」

「おやおや君もいい目をする。だが私との相性は悪そうだね。」

イタズラに笑う男についに掴みかかろうとした時

「やめておきましょう。今は。」

背後から穏やかな男性の声がした。

「貴女が探しているご友人も何処にいるのか分かりません。一度引き返しましょう。」

後ろを振り向くと真っ白な騎士が槍を構えていた。

「これは、厄介だな。」

海賊姿の男は顔をしかめる。

騎士と海賊は互いに無言で睨み合い、しばらくすると海賊は両手を降参だと言いながら上げ、後ろに下がる。

「力の差くらい分かるとも。サシでなんて冗談じゃない。」

「貴方のマスターはこの方のご友人です。巻き込まないでください。」

「あの子が望んだんだ。望んだから船に乗せた。君たちの意見なんて知らないね。」

「敵対することになってしまいます。」

「願う権利は皆平等にあるだろう?たとえ海賊でもね。違うかい?騎士様。」

「貴方はっ」

「そろそろ黙りたまえ。ランサー。」

「私は今機嫌が悪いんだ。紳士なままでいさせてくれ。」

鋭くなった目付きに私は呼吸が浅くなる。

「....失礼。ライダー。どうか、あなたのマスターの身の安全だけは」

「私はクルーをとても大切にしているとも。掟を守るかぎり。」

「それって」

「彼女は私のマスターだけれど、キャプテンは私。それだけのこと。...さあて、私はそろそろ帰って見たい番組があってねえ!君たちの相手をしてられないんだ!キーホルダーは届けたからいいだろう?では!」


彼はにぱっと笑い、あっという間に暗闇に姿を消した。

「あの子はね、私の幼なじみなの。」

「ええ。」

「私はあの子のことを全て分かっていると思い込んでいた。愚かだった。間に合わなかったの。」

「...はい。」

「だから、仕方ないことだってそう思う。でも、」

「...」

「また会いたいと思うのはダメな事かな。今度こそちゃんと話をしたいと願うのは。」

「....願っていいのです。」

「これは私の自己満足かなぁ」

「たとえそうでも、会いに行きましょう」

真っ白な騎士はぼろぼろと泣く私に優しく微笑んだ。

「貴女たちは、またきっと話が出来る。行きましょう。酷く険しい道だとしても。その先に望んだものがなかったとしても、」

「それでも、歩みを進めなければ。」


この決意があの子を傷つけるだろう。
きっとこれはわたし自身のためだ。そうでなければ。
あの子のためだなんて言い訳をしたくない。

私は、身勝手な私は、愚かな私は、私自身のためにあの子に会いに行く。

「これは、私のわがままなんだよ」

そうでなければならない。

おわり